随分と懐かしい人が訪ねてきた。
噂を聞きつけ、盤星教が名を変えて活動していると知り、そしてどういう手段を用いてやって来たのか、俺の目の前には黒井さんが立っていた。
ただ、俺の内心は動揺しまくっていた。
だって運命は絶対、死んでるはずの人物が立っているからだ。
……馬鹿な、なら俺は灰原や両親を救えたっていうのか?
いや、よく考えたら原作では生死不明。
多分死んだんじゃないのか程度、もしや明確な死亡の描写がないから生きていたのか?
「どうして……ここにいる!」
「それはこちらの台詞ですよ。メイド服じゃないから分からなかった。黒井さんじゃないですか」
「どうしてお前がそこに居る!理子様を殺した奴らだぞ!」
「あっ……」
滅茶苦茶ブチ切れていた。
やっべぇ、黒井さんのこと忘れてたよ。
そうだよ、原作と違って逃がしてたから生きてたんだこの人。
多分ダメだと思って、殺されてたと思ってたからな。
マスケット銃片手に突っ込んで来そうなスゴみがある。
誤魔化さなくては……
「身を隠すのに必要だったからさ」
「何……何を言っている!」
「貴方の怒りは正当だ。だから俺は成し遂げた、彼女の復活を!」
リコちゃんを影から呼び出す。
ヌルっと影から出てきたリコちゃんは首を傾げて周囲を見渡し、えっ……みたいな顔で黒井さんを見た。
「……はぁ?」
「今は呪霊となってしまってね、高専にバレたら祓われてしまうんだ」
「理子……様……嘘だ、嘘だ!理子様は死んだ、死んだんだ!」
「えぇ……」
えっ、なんで錯乱してるの?
ここは感動して受け入れるところじゃないの?
リコちゃんもオロオロこっちと黒井さんの顔を見ている。
見ている場合か!はよ、なんとかせい!お前のメイドだろ。
「…………!」
「来るな!よくも理子様を弄びやがって!」
「…………?」
「あっ……えっ、なんで……どうして……」
リコちゃんが駆け寄り、暴れる黒井さん。
しかし、いきなり膝から崩れ落ちて抱き締められながら泣いていた。
うーん、一時的に同化して記憶でも見せたんだろうか。
とにかく分からんが、ヨシッ!結界もなんか通ってきたし、悪意もなくなったから、ヨシッ!信者達も祝福してるから、ヨシッ!
「理子様!」
「…………!」
ガシッと抱き合う二人、なんだコレ。
もうすぐ、美々子と菜々子達が小学生を卒業する頃合いだった。
あと一年したら12歳、大人になるのが早く感じる。
そろそろスマホを買い与えるかと思って、ふと術式についてや呪力について教えなくてはと思いたった。
以前から呪術は使えることもあり、自分自身で色々とやっていたみたいだが、菜々子に関しては自分自身の術式がどういうものか理解出来ていなかった。
村でも美々子の術式に頼っており、自分自身の術式に気付くきっかけがなかったようだ。
伏黒恵のように、成長に伴い自覚していくこともあるため、菜々子自身も何かが必要なことは理解していた。
「いいかいミミナナ、呪術の世界において双子とは凶兆とされているんだ。一般的には、まぁ王族が争ったり動物みたいだったりするところから、争いの元や気持ち悪いという考えもあるんだが」
「ミミナナ……略されてる」
「最近、扱いが雑なのでは?」
そんなことはない、今からする話と関係する。
「呪術の世界では、一卵性双生児は一人の人間として扱うんだ。魂を二人で共有しているという考えで、縛りや術式効果も中途半端になるから凶兆扱いされている。まぁ、2人で1つってわけだ」
「2人で1つ」
「であるなら、美々子の術式。人形の状態を反映すると似たような物になる。菜々子の術式は被写体の状態を反映する物になるんだ」
術式としては芻霊呪法に近い。
芻霊呪法は相手に関わるものに影響を与えると、相手に伝わるという感染呪術がベースにあると思われる。
ミミナナの術式は、似ている物は相互に影響を与えるという類感呪術がベースだろう。
「双子というのは例が少ないが、縛りを用いたとしても片方は守ってないとされて成立しなかったり、バフ効果の対象が2人で割られてしまって弱くなったりするんだ」
「ダメじゃん」
「いいや、そうでもない。例えば同じ縛りを2人が行う場合……内容としては特定の媒体を使うなどだ。相手に似せた物なら何でもいいのではなく人形や写真のみ、影響も特定行為であるロープで吊るすか写真加工のみとか、今やってる縛りをした場合」
「確かにちょっと不便」
「そっか決めた人形とロープないと使えないし、自分のスマホのみを使うなら壊れたり電池次第で写真取れなくなるんだ」
「そうそう、そういう縛りを二人が守るとだ。双子なので1人扱いになるので、通常より倍の縛りを行ったとして倍のバフ効果が掛かる。しかしバフ効果を受けるのは一人であり、双子であるため、それぞれになるんだ」
言葉で説明すると混乱するだろうから、図に書きながら説明する事にした。
ううん?と首を傾げていたからだ。
俺の説明が下手なせいもある。
例えば、天与呪縛のように呪力を捨てる代わりに身体能力を上げる縛りがあったとする。
双子の場合、まず呪力を捨てる対象は2人になる。
捨てた結果、片方は呪霊が見えず、片方は本来よりも術式効果が弱くなる。
そして、身体能力が与えられるバフ効果があるとする。
片方しか縛りを守れていないので、半分達成とした場合。
片方は縛りの成立で身体能力が本来の効果よりも半分だけ上がり、もう片方は成立しないので何もない状態になる。
1の縛りで1の強化があるとして、半分だけの成立なので0.5の強化になる。
2人で1つなので両方に強化が入るが、片方が0.5の強化を受け、もう片方は0.5の強化を受けるも、縛り不成立のため、なかったことにされ0というバグみたいな状態になる。
「はいはい!夏油様、2倍の強化を受けても2人で割るなら1じゃないの?」
「いい質問だ」
ミミナナの場合で考えよう。
まず、特定条件をクリアすることで術式効果を強化するとする。
双子の場合、特定条件を守る対象は2人になる。
守った結果、片方は特定の人形とロープが必要になり、片方は自分の物であるスマホで撮影するという必要が出てくる。
そして、縛りによる術式効果の強化があるとする。
両方が守っているので、達成した場合。
双子は1人として呪術的に扱われるので、互いの縛りは1人の人間の縛りと見なされ、1+1=2の縛りと2の強化になる。
片方は縛りの成立により本来の2倍の強化が入り、もう片方も成立していることから2倍の強化が入る。
本来なら1の縛りに1の強化を受け、美々子+1と菜々子+1となるとしたらだ。
双子だから、美々子+2と菜々子+2になる訳だ。
通常よりも倍になる、そういうバグみたいな状態になる。
「芻霊呪法のように相手の一部を手に入れる、手に入れた相手のみに効果を与える術式と違い、ミミナナの類感呪術は人形にロープを巻く、写真を撮るという緩い条件で複数の対象を選択できるという上位互換になってる訳だ」
「つまり、二人で最強……って、コト!?」
「最強の二人って訳」
「二人で最強か……あぁ、そうだな」
二人なら、何でも出来るって思えるよな。
楽しそうに笑っている2人の時間が、ずっと続けばいいなと願わずにはいられなかった。
もしかしたら、黒井さんのように原作の描写がないことに関しては変えられるのかもしれない。
なら2人を呪詛師ではなく、高専に入れて呪術師として死ぬまでは楽しい学生生活を送らせることができるかもしれない。
だって、どんな高校に行ってたかは描写されてないからだ。
「ところで夏油様、私達二人分の最強である五条悟って何者なの?」
「ミゲルが日本のヤベー奴って言ってた」
「んー、親友だったんだ。喧嘩して、それっきり」
「そっか……仲直り出来るといいね」
「美々子も、協力しますよ?」
「菜々子も!菜々子手伝う!」
そうだな。
いつか、そんな時が来るかもしれないな。