首をもがれ、内臓を掻き出される巨大な男の死体が見える。
その前には、化け物が手についた血液を見て喜んでいる。
「これが特級過呪怨霊の全容か、素晴らしいね」
やはり、膨大な呪力というのは魅力的だ。
しかし、用意した男も死ぬ予定とはいえ簡単に死んでしまったな。
「さぁ、約束の時だ悟。今度こそ救ってみせるよ」
新しい駒を準備しないとな。
クラスメイトが入院した。
反転術式を使えばすぐにでも治るので滅多にないが、検査入院ということは想定外のレベルの仕事だったことを意味する。
基本的に格下の呪霊なために有り得ないことだし、相性のいい術師が派遣されるから起きることもないはずだった。
窓の調査不足、というには少し可笑しい。
「へい、マキマキ!お見舞に来てやったぞ!」
「見てこれ、フラワーロック。音楽で動き出す」
「うるせぇぞ、ミミナナ!病院で爆音で音楽流すな!あと、お見舞いなら鉢植えのついたもん持ってくんな!」
「クソ元気なんですけど、ウケる」
「ウケねぇーわ!」
「分かってる、照れなくていい」
「照れてねぇーわ!」
足を吊るされてる癖に騒ぐクラスメイトがいた。
反転術式で治せばいいのに、家入先生は忙しいらしい。
「高菜」
「なんで無言でおにぎり渡して来やがる!腹減ってキレてんじゃねぇーぞ!」
不機嫌ではあるものの、超元気だった。
「あっ、真希さん!意識が戻ったんだね」
「……チッ」
「なんでぇー!?」
病室に入ってきた乙骨君に、真希が舌打ちしながらそっぽを向く。
これは……匂うな。
「ほぉ……」
「ふむっ……」
「しゃけ」
さてはオメー、恋しちゃってんなぁ!
分かってる分かってる。
「ッだよ!何見てんだよ!」
「ウェーイ、らびゅーー!」
「うがぁぁぁ!出てけよ!」
「二人きりになりたいと、大胆なの」
照れちゃって、マジで草だった。
男子組は集まって何やらコソコソしている。
チラチラ胸見て、おいおい猥談か?ふーん、えっちじゃん。
「ここは。若いお二人に」
「お見合いかって!お前ら残れ、大事な話だ」
「何ぃ?カップルチャンネルでも作んの?」
「んっっっ!話が、話が長い!進まねぇんだよ、マジで一回黙ってくれよ、頼むからよォ」
ギギギと病院のベッドが軋む。
コイツ……握力だけで……マジで切れる五秒前。
それにしても、改まってなんだろう。
「ハァ……憂太のことだ」
「やっぱり?」
「茶化すなァ!違げぇ、呪詛師のことだ」
呪詛師、その単語に病室のみんなの顔ぶれが真剣になる。
それは今回の原因、敵の話だ。
「呪詛師の野郎は、憂太を知っていやがった。そんで、憂太を狙ってやがった」
「真希、どういうことだ?」
「だから、リカのことも知ってて、その上で殺そうとしてきてた。ありゃ、偶然じゃなくて来ることも分かってやがった」
誰かが憂太を狙っている。
そう、真希が言った言葉に皆が息を呑む。
まず呪術師としての情報を掴まれていること、任務先を先回りされているなら呪術界との繋がりもあること、そして命を狙っている物がいること。
裏で狙っている奴が……あっ。
「どうした、菜々子」
「な、内通者がいるってことでしょ!ヤバ谷園」
「いや、裏で呪術師が繋がってるなんてありそうなことだ。上は腐ってるからな、やっても可笑しくない」
そうなん?焦って損した。
でも、やっぱり夏油様っぽいんだよね。
「な、なんで僕が」
「やはり、憂太は特別。監視しなくてはいけない」
「ど、どういうこと!ち、近いよ」
『ゆ゛う゛た゛ァァァ』
「リカちゃん!ステイ、ステイ!」
五条先生が来るまでに、病室が半壊した。
訓練、仕事、訓練、仕事、その繰り返し。
地方に行っては呪霊狩り、この平成の世の中で未だに過去の因習に囚われてる人達がいる。
そういう人達がいる場所ほど、強い呪霊がいるのだ。
そこは深夜の山中、熊が出ると封鎖された場所。
発電機のエンジン音、そして周囲を見やすくする照明。
最後に広範囲を覆う帳。
呪霊は2級相当に格上げされた。
地方の3級程度の呪霊であったはずが、実は山神への信仰も合わさった土地神案件だった。
まぁ、土地神と言っても大した呪霊ではない。
熊のような見た目をした呪霊が、女子高生に追いかけ回されていた。
「菜々子!そっち!」
「映写呪法、拡張術式!逆巻し!」
撮影した動画を指でスライドして逆再生する。
後半から、撮影当初に映像を戻す。
それだけで逃げ出した呪霊は瞬間移動するように、最初の地点へ逃亡した地点から戻ってくる。
写した対象に影響を与える術式を、写真ではなく動画も含めて解釈した術式の拡張。
一時停止、スキップ、簡単な時間遡行もできる。
「辻切(つなはり)呪法!」
人形を吊るし、その人形と対象を同一視する。
そして、人形に対する厄を祓い、厄を移し替える。
ここで言う厄とは人形に対する影響だ。
半透明の縄が、呪霊の首周りを締め上げるように浮かび上がる。
美々子が縄を引っ張れば、人形の首が絞まり、そして呪霊の首が絞まる。
何処かに縄の先は伸び、それは近くの木に巻き付いた。
「縛れ!」
縄が実体化し、呪霊絞め上げる。
数回目の縛首、それは呪霊を弱らせていた。
『グォォォン!』
「むむむ、手強い。私の辻切呪法は人形の厄を移す呪法。人形や縄がなければ、媒体がなくなり発動条件を満たせなくなるから使えなくなる。そして、厄を祓うことから拘束した相手の呪力を散らし、また元は私の呪力だから半径10m圏内ならば遠隔で縄は補強できる」
術式開示による強化、言葉が通じるとは思えぬがやはり弱点を増やすということでバフが掛かる。
じわじわと呪力が放出されてるのか呪霊が弱っていく。
最初は何度か拘束を解かれたが、弱ってきている今なら倒せる。
『グルァァァ!』
「やっば、菜々子!」
「映写呪法、打切り!」
呪霊の身体がブレる。
ノイズが走るように、一瞬だけ揺らめく。
約1秒の一時停止、だがその1秒でぬいぐるみに縄を巻き付けて美々子は遠くに投げた。
「辻切呪法!」
胴体に巨大な縄が発生し、それが後方へと引っ張っていく。
自身を対象にした術式の行使、縄は人形に連動して美々子を後方に退避させた。
「映写呪法!」
動きが止まったことにより、勢いを殺せず体勢を崩した呪霊を撮影。
そして加工機能で、線を引く。
瞬間、呪霊の身体に同じように黒い線が引かれる。
切断、呪霊の腕が飛ぶ。
『グォォォ!?』
切断、切断、切断。
加工するたびに四股が飛ぶ。
だが油断は出来ない、等級が高ければ高いほど悪意の塊であり、呪霊は狡猾だからだ。
『グラァァァ!』
「見えてるっての!映写呪法」
切断された腕が飛んでくる。
だが、それも呪霊ならあり得なくもないと想定して、動く。
自分の、呪霊討伐前に取った自撮り画像を使う。
その対象状態を参照し、照応の要領で自分に術式を行使する。
瞬間、消費した体力が戻る。
つまり、呪力を使う前の状態に戻ったのだ。
『グラァァァ!』
胴体と首だけで蛇のように蛇行しながら襲い掛かる呪霊。
周りからは切断された四股が飛び跳ねるようにして空中にある。
それを、全身に呪力を漲らせて対応した。
「ハァァァ!」
回し蹴りで飛んでくる腕を蹴り落とし、蹴り足が着地したと同時に回転を残しながら軸足を使って、逆の足でまた回し蹴り、踵でもう片方の腕を蹴り落とす。
残り3つ!
「シャァァ!」
ローキック、ハイキック、飛んでくる足部分を2つ蹴り落とす。
ラスト!
「何とかなれー!」
垂直に上げた足を、斧のように振り落とす。
踵が頭蓋にメリ込み、呪霊の頭を粉砕する。
踵落としによるカウンター、相手は死ぬ。
びちゃびちゃに、呪霊の血で制服が汚れる。
元は呪力、ほっとけば消えるとはいえ気分は最悪だ。
だから任務前のツーショットを使って、ふたりとも身奇麗な格好にした。
「終わった……」
「もう朝だよ……」
五条悟への嫌がらせ、そのためだけに命を狙ってきた腐ったミカン共にうんざりする。
田舎は嫌いだ。
翌朝、旅館で寝泊まりして一泊してから学校に帰った。
なんとか様の祟りだとか言ってた老人達に、任務の達成を報告する。
ホントかどうかは分かりもしないだろうけど、騒ぎもなければ祓われたと勝手に思うだろ。
「ありがとうねぇ」
「これ、よかったら食べてくれ」
「また来てくれよ」
田舎の人は信心深いのか、呪霊とかは知らなくてもオカルトを信じてる人が一定数いる。
田舎は嫌い、昔を思い出すから。
でも、猿は……嫌いなはず。
「いいとこだったね」
「……ん、でも田舎は嫌い」
「でも、いい人達だった。あと、ご飯も美味しい」
「そう……だね」
少し、揺らぐ自分がいた。
乙骨達の方は、無事に終わっただろうか。