死ぬ予定の夏油傑になった凡人   作:nyasu

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受肉していたら負の感情から呪力を生み出せるから成長したんじゃね?

ハピナ商店街。

現在はシャッター商店街となっており、自治体の融資によって大型ショッピングモールを誘致する計画がある場所。

低級の呪霊が窓に確認されており、乙骨憂太と狗巻棘が祓いに来る場所だ。

 

「来たね」

 

歩いてくる青年が2人、商店街の路地裏には魚のような呪霊が大量にいる。

いつかのイカを思い出すが、弱い小型の呪霊はよく群れたりするのだ。

 

「爆ぜろ!」

 

呪霊が呪力を暴発させ、自らの肉体を内側から飛散させているのを確認する。

呪言、声に呪力を乗せる特殊な呪術か。

 

俺は、そんな2人を商店街の路地裏から観察していた。

 

「あれが乙骨憂太と狗巻棘だ。ああやって術式を行使してくる、さて君はちゃんとやり遂げられるかい、岡崎正」

「ごちゃごちゃうるせーんだよさっきから、邪魔しやがって」

「…………私のことかい?」

「…………」

 

乙骨の術式を見るために用意した駒は、無免許運転で子供を引いたどうしようもないクズだった。

クズだし、別に死んでもいい駒である。

 

「まぁいい、お手並み拝見といこうか」

「最初からそうしてろってんだ」

 

そう言って岡崎正は路地裏から出ていく。

やれやれ、たまたま術式を与えられたからと言っても、随分と調子に乗ってるじゃないか?

 

「ゾんば!」

「えっ、棘くん!?」

 

背を向けて帰ろうとする学生に向けて、背後から岡崎は手印を向けて詠唱する。

すると、商店街の上空からサーチライトのような強烈な光が真下に向かって落ちてくる。

一瞬の静寂、その後には強烈な圧力が発生する術式だ。

 

「チッ!」

 

だが、その術式も狙いが甘く避けられる。

両者の間に放たれた予備動作のような、何かあると思わされる光に気付いた狗巻棘が乙骨憂太を押し出したからだ。

 

「捻れろ!ゲホッ……ゲホッ!」

「ぐっ、ぐげぇぇ!?痛ッてェ!テメェ、やりやがったな!俺の右腕を!」

「狗巻くん!こっちだ」

 

しかも、手痛い反撃に片腕を粉砕骨折されてしまっていた。

やれやれ、だから油断するなと言ったのに全く。

彼らには逃げられてるじゃないか。

 

「狙いが甘かったんじゃないか?私が君なら、そんな安易な奇襲は仕掛けない」

「うるせぇな、テメェはどっちの味方なんだよ!痛てぇぇ!殺す、絶対殺す!」

 

そう思うなら片腕を捻られても反撃すれば良かったじゃないか。

 

「時間を与えてしまったね。彼らに時間を与えれば、確実に何らかの策を打ってくる。確実に1人を仕留められなかったのは障害になるぞ」

「よォ、坊さんよォ……俺は今、負けてるのか?負けてねェ、勝ってんだよォ!与える与える、確実確実、うるせぇ!」

「だが事実だ。おっと、私は隠れさせてもらうよ」

 

長々と話していたら、何やら覚悟を決めたような顔の乙骨憂太が立っていた。

その手には刀が抜かれており、なるほど術式頼りの呪詛師と見て近接戦を仕掛けるつもりか。

 

「憂太、憂太憂太、ゆうたぁ……」

「だ、誰ですか……どうして僕を狙うんですか!」

「決まってんだろダボハゼ野郎!テメェがよォ、俺の腕を捻ったからだァァァ!」

「い、いや、それは棘くんが……」

「ゾんば!ゾんば!ゾんばゾんば!」

 

極短いながらも詠唱と掌印を行うことによる縛りによって、威力を底上げされた術式が発動する。

光の柱が滅茶苦茶に、四方八方に向かって構築された。

結果、商店街の店舗や天井やタイル張りの舗装道路が押し潰されたように破壊されるていく。

連鎖的に、基礎が壊れた建物が崩れたのだった。

これは、呪霊であったなら出来ない……というかやらない変化だ。

 

「なっ、建物が!」

「お前のせいだぞ、乙骨憂太!おいおい、仲間が助けてくれるとでも思ったのかァ!」

「狗巻君!」

「甘いんだよ、ボケナスがァ!」

 

爆ぜる、そう評するのが適切なように岡崎正が瞬時に移動する。

足腰を呪力で強化し、身体能力を向上させたのだ。

そして、向かう先は店舗の2階で身を隠していた狗巻棘。

眼前に、岡崎正が詰め寄る。

 

「動――」

「遅いんだよォォォ!」

 

拳が入る、アレはアバラが逝ったかな?

喋る前に、呪言を使う前にやりにいった訳だ。

建物を壊したのは身を隠す場所を壊したり、足場を不安定にさせて炙り出させるためか。

人間の悪意と呪霊の術式が組み合わさったとも言えるな。

 

「だが、どうする気だい?岡崎正、君の行いは乙骨憂太を罪悪感で弱らせるどころか正義感による強い怒りをもたらしたぞ」

「うるせぇ!コソコソ隠れてるネズミ野郎が!戦いもしないやつが、俺の戦場でピーチクパーチク囀るんじゃぁねぇぜ!」

「…………誰が術式を与えたと思っている」

「ひひひ、ゾゾ、何を偉そ、んん、やがるんだァ、ばばば、事実、ゾん、が!」

 

路地裏に隠れながら話し掛けていた岡崎正の肉体が膨張し、顔の半分が爛れていく。

否、顔の半分が変色し別の物に変わっていく。

鼻が伸び、象のように形が変わったそれは、岡崎正に入れられた呪霊そのもの。

 

「呪、呪霊……」

「人間ダァ!オレハ人間だぞ!俺だってなぁ、幸せになるゾんば」

「えっ?」

「……ゾんば!」

 

全身を発光させる。

奴の体から発せられた光が照射された所は、圧力が掛かったのか押し潰される。

全方位への無差別攻撃。

 

「自我がない?呪霊にでも乗っ取られたのか?外国の呪霊だから日本語通じないんだよなぁ」

「ゾんばぁぁぁぁぁ!」

「どうやら君の負けのようだ、岡崎正」

 

奴を中心に光が大きくなっていく。

馬鹿が、巻き込みながら自殺でもするつもりか?

イカれてやがる、暴走でもしてるのか?

 

「なんだこれは、俺は失敗してないのに!何も失敗してないのに、ゾんばァァァァ!」

「リ、リカちゃん!」

 

肉体を内側から破くように、二足歩行の象が発生する。

アレは、元になった呪霊だ。

奴に埋め込んだ呪霊だった。

 

「やれ、リカちゃん!」

「フゥ……マジでムカつくぜ!ゾんば!」

『ユ゛ウぅゥタぁをイジメるなァ゛ァ゛ァ゛!』

 

光が岡崎正だった人型の象の背中と特級過呪怨霊リカの頭上に光が発生する。

まるでジェットの推進力のように、光に押し出されて人型の象が高速で動く。

そして、リカは拘束されるように光に押し潰されながら乙骨を守っている。

おかしい、元の呪霊の出現位置から動かない性質と違う、それどころか思考能力の向上も見られる。

乙骨を攻撃することで、リカが身動きできないようにするということまでしているなんて、どういうことだ。

 

「ハハハ、思考がクリアって奴だぜコイツァ!イライラしたがよぉ、何っていうか生まれ変わった気分だぜ!」

 

そう言って喋る呪霊、いや受肉した存在とでも言えばいいか。

だが、記憶や意識は岡崎正の物である。

素晴らしい、死ぬはずであった運命を呪霊と一体化するという違った死の形で乗り越えたのか。

 

「ど、どうしてこんなことをするんだ!」

「まだ生きてたのか乙骨?理由なんかねぇよ!お前を殺せって言われたからなぁ!」

「だからって、だからってこんなことが出来るのか!」

「出来るからやっただけだ!あの時も、乗れるから許可なんていらなかっただけだ!」

 

乙骨の呪力が跳ね上がる。

アレは怒りや恐怖から負の感情、呪力が上がったのか?

あぁ、そうか、岡崎正も負の感情から呪力を跳ね上げたのか。

そして、それが呪霊の主導権を強めた……といった所か。

 

「だが、私の求めた運命ではない」

「……えっ?」

「邪魔ァ、すんじゃねェ!クソ、坊主がぁぁ!」

 

手印を作ろうとする前に、その体に触れる。

後は、リコちゃんの同化で呪霊を動けなくした。

 

「だ、誰……」

「初めまして、乙骨憂太君。そして、さようなら」

 

俺の体から重なるように出てきたリコちゃんに、受肉した象の人型呪霊が同化して収容されていく。

まるで肉体に沈むように、リコちゃんの中に溶けていった。

 

「ま、待て!」

「また会おう、次に会うときに自己紹介をしてあげるよ」

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