「叩き直してやるよ、私の好みになァ!」
恐ろしい形相で九十九が、距離を詰める。
瞬き一つ、それで半歩の距離まで詰められる。
「不用意に近付くなんて」
「うおらァ!」
莫大な呪力と見た目以上に重い一撃で右腕が吹き飛ぶ。
同化ごと殴ってぶっ飛ばしやがった。
だが、その拳にはリコちゃんの細胞が……ハハッ!
「さぁ、次は両足だ」
九十九はそう言いながら、凰輪で手首から先を切り落とし、反転術式で回復させる。
最善手だとしても躊躇しろよ、イカレ女。
「爆!」
遠隔で同化し捨てられた九十九の腕を呪力の過剰強化によって爆発させる。
呪霊の過剰強化、ここで拡張術式が生きるとは思わなかった。
さぁ、今のうちに反転術式で腕を回復させてもらう。
「ッ!?」
「甘ぇ!」
肉片が真っ赤な霧状になってる程の爆発の中、軽症の九十九が突っ込んでくる。
コイツ、俺の行動を読んで……灰原か!
「そう来るか!」
飛んでくるのはボールのように丸まった式神である凰輪。
呪力を滾らせ、恐らく仮想の質量を孕んでいる。
受けるか、避けるか、蹴り飛ばした体勢の九十九を見てから避ける選択。
「ッ!」
「分かっていたさ!」
飛んで避けた俺の頭上で、I字開脚のように踵を上げる九十九が叩き落とすように攻撃してくる。
対空狙いの飛び道具、牽制にしては避けられることが前提、見え見えの罠。
踵が、肩に触れて静止する。
あべこべ術式、衝撃は吸収した。
「しゃぁぁ!」
九十九は身体を捻った。
真横になる肉体、デカいケツが顔に迫り、そのまま、脹脛と太腿に挟まれて背中から体勢を崩される。
踵落としではない、本命は背中から落とすこと。
何だその動き、意味わからん!
「カハッ!?」
背中と後頭部を強打する。
間違いなく首が折れた、だが九十九は待たない。
反転術式を首に、同時に腕を腹に向かって突き刺す。
第二の腕だ。
「ッ!?ぐぁぁぁ!」
「ゲホッ……ゲホッ……ゼェゼェ……」
肋骨を折って身体の内側をグチャグチャにした状態で飛び退く。
骨と内蔵を両方の脇腹から溢しながら九十九が睨みつける。
「痩せろよ、重いんだよ」
「減らせよ、キモいんだよ」
反転術式で肩から肘と回復していく腕の真下、俺の脇腹からはリコちゃんの腕が2本飛び出していた。
その手には骨と内臓が握られている。
ボトッとそれを落として、腕は体内に収納されるように戻っていく。
「ドレミファソラシド、奏でるのかよ」
「サンタテレサだろ、古いんだよ」
戦場は五分五分、呪力は乙骨と灰原と九十九のせいでギリギリの不利。
あちらも何度か反転術式を使ってるが、フィジカルゴリラの覚悟と生命力は侮れない。
「教えてやるよ、私の術式は」
「仮想の質量だろ、術式開示などと狡い真似をする」
「チッ、知ってたか」
考えは同じ、いまさら開示して優位性を取ろうという所か。
恐らく、術式行使中はもう一つの術式を使うのに集中力がいるのはバレている。
同時使用は出来ない、とバレてるだろ。
「天元を使っての日本国民の同化、狂ってるぞ夏油」
「羂索、その男のプランだよ。真の敵はソイツさ」
「ハッ、ならお前はソイツの手先って訳か」
「天元はよく知ってるさ、天元を信用するなよ」
「端から私は嫌いなんだよ!」
九十九が駆け寄ろうとして、後ろに飛び退く。
その足元には、硬質化して千本のようになった髪があった。
「髪を操る術式か」
「式髪使いのやつがいてね、俺と敵対するなら手札を見てから考えるんだな」
俺は顔を髪で覆う。
顔を隠すことが発動条件だからだ。
俺の周りに俺が5人現れる。
「分身術式、実体と分身の入れ替えができる。」
俺の周りに大小様々な呪力を纏った刀剣が空中を揺蕩う。
だが、その刀剣のどれもが悲鳴や鳴き声を上げる刀身の付いた生きた呪霊だ。
「刀剣操術。まぁ、刃物全般を自由自在に操れる術式、そして操るのは錬金術式という、素材から物を作る術式。素材の呪力や術式を内包した武器を作れる術式だ」
「同時行使はできない筈」
その通り、集中力のいる作業。
故に戦闘となったら分身か武器の操作のどちらかしか出来ない。
つまり、ブラフ。俺の目的は領域展開までの時間稼ぎ。
「確信があるなら来るがいい。俺としてはお前の自爆で心中はしたくないがな」
「弱気じゃないか、やはりブラフか!」
九十九が攻撃のために歩いて近付いてくる。
馬鹿が、動かないなら何とでもなる。
全部の武器を九十九に殺到させるのだが、武器が逸れていく。
何故……弾かれている?ッ!?身体が、何かに押されている。
「まさか、術式反転!」
ブラックホールを作れる女だ。その逆なら悟のように中心に集めるのではなく、中心から遠ざけるようなことも出来るという事か!
何であいつは歩ける!自分に効果はないってことか!
「ぐっ、だが使う呪力は2乗!長くは保つまい!」
「保たせる必要なんて、ない!」
ダン!とも、ドカッ!とも、聞こえる音と一緒に九十九が距離を詰める。
結果、押し出される肉体。
だが、距離を離したところで……なっ、斥力が増している!?
「しまっ、凰輪か!」
「正解ッ!」
急激に引っ張られる肉体。
背後には丸まった状態で浮いている式神の姿がある。
どうしてアイツが浮いてるのか、それは術式反転による効果なのか?
いや、引っ張られているなら仮想の質量が引力を、重力を発生させるほど増している証拠。
言うなれば術式順転!コイツ、反転と順転を遠隔で同時行使してるのか!
分身体すべてが凰輪へと吹っ飛んでいく。
一点に集めて、このままでは殴られる。
「終わりだ夏油!」
「いいや、この攻撃は通る!」
吹っ飛ばされる身体の状態で、両腕を九十九に向ける。
そして、両指が爆ぜた。
指先だけに同化させたリコちゃんの一部に呪力の過剰強化。
それは拡張術式とも思えるが、単純な過剰強化に留まらず、指先で呪力を巡らせる。
単純な内側から外側へではなく、螺旋を描き呪力を圧縮し、発射する。
試練だ、死への恐怖が俺を進化させる。
九十九に向かって10の黒い呪力がレーザーのように放たれる。
身体を咄嗟に傾ける九十九、だが幾つかが腹部を貫きそのまま倒れて転がっていく。
「ぐぅ、うぅぅ……」
「ハァハァ……止まった?」
九十九の攻撃が止んだ。
極小のうずまき、それを指で再現した。
使われた呪霊は一体、どころか一部。
だが、莫大な呪力を圧縮して放つなら原理は一緒だ。
それは、うずまきに腹を貫かれるという結果に結びつく。
「来ると思っていた、天元」
「夏油傑、君は何を目的としてこんなことをしている」
「お前と同じ、不死だ。俺は死ぬのが怖い」
「そんなことのために……」
分かっているさ、お前が現れたことは時間稼ぎだってこと。
眼の前には、結界の一部を解除して天元として姿を作った存在が立っていた。
本体はもっと下にいることは分かっている。
そして、お前が自爆しようとしている事もだ。
「私は術式の効果を受けない。ある一定の質量まではな!」
「ブラックホール、だろ。だが、無意味だ」
「どうかな、同化される前に発動できる!」
「もう終わってるのさ」
何故なら、既に同化されているからだ。
故に、九十九の動きが止まり顔が怒りに染まる。
「何故、何をしたぁぁぁ!」
「まさか、領域展開か!?」
天元が驚きの顔をする。
そうだ、悟すら出来ない術式の焼き切れの修復だ。
脳のどこに術式があるのかは不明だが、リコちゃんによって調べられた脳の状態に反転術式で復元する。
バックアップに書き換えるような物だ、俺の奥の手だよ。
「術式は焼き切れたはず、それに掌印だって」
「通常では呪力で同化は押し切られるからね、不意打ちさせて貰った」
その言葉と共に背中からリコちゃんが出てくる。
独特の掌印を作った状態でだ。
「背後で作ってた訳か」
「さっさと直せ、あぁ何も出来ないのか」
今なら俺自身のようなもの、同化してる状態だから自分に反転術式を使う要領で、上半身と下半身をくっつけて、頭を思い切り蹴った。
ふぅ……意識を失ったか。
「何故、九十九を生かす」
「言っただろ、真の敵は羂索だと。お前も分かってるはずだ」
「だとしても、お前が何をしようとしてるのか分からない。何がしたいんだお前」
「言っただろ、不死になるんだよ」
呪力で強化した足で結界でもある地面を割り砕いて、そのまま天元本体のとこまで落ちていく。
「さぁ、次への準備ができた。共に新しい夜明けを迎えよう、リコちゃん」
俺は天元とリコちゃんの腕を接続した。