呪霊に寄生された人間が死んだ場合どうなるか。
例えば五条悟と戦うことになった伏黒と宿儺。
伏黒の呪力は恐らく宿儺に奪われるか上書きされただろ。
例えば、呪胎九相図。元々の人間は死んで肉体は完全に変化していた。
あるいは受肉した術師、生前の状態と言ってもいいだろ。
リコちゃんのケースに近いのは天使と呼ばれるプレイヤーの共生関係だろ。
つまり、共生、主導権の奪取、完全な上書きのどれかというわけだ。
ここで、例えば宿主が死んだ場合どうなるか。
死という負荷は、一般人である米兵から呪力を発生させるほどのものだ。
あるいは、脳を変化させる程の負荷とも言える。
「美味しいねぇ、のらりくらり適当にやってりゃいいんだから」
「フフフ、ボーナスになるんだから呪詛師様々だね」
「失せろ、僕の1秒のほうが勝ってる」
宿主が死んだら共生関係であるリコちゃんはどうなるのか。
答えは簡単、強力な呪力を得て生存する。
それは宿儺の指を取り込んだ呪霊のように、あるいは肉体や意識を殺して奪う呪胎九相図や受肉タイプの術師のようにだ。
「時間ノヨウダネ」
「何?」
「夏油ハ目的ヲ達成シタ。終ワリだ」
「逃がすとでも?」
五条悟の前で、戦っていた異人が逃げの姿勢に入る。
十中八九、高専にいる夏油のところだ。
此方にもいるが、アレはダミー。
六眼が、偽物だと断定している。
「な、何だこりゃ!」
「ぬぅ……何たる呪力」
周りから驚く声がする。
楽巌寺や日下部の声だ。
見れば、呪詛師や受肉した呪霊の動きが止まっている。
ただ、ただ真っ直ぐと空に向かって手を伸ばして止まっていた。
「呪力、あの方向は!?」
だが、そんな光景も六眼は正確に情報を、呪力の流れを捉える。
死体から、生きている呪詛師から、呪霊から、呪力が空へと迸るように登っている。
「乙骨が……狙いじゃない?」
悟は、眼の前の異人を捨て置き。
高専へと術式を用いて向かった。
一方、五条悟が術式による移動を行う少し前。
高専の地下にて、天元と夏油傑が会話をしていた。
「天元、今のお前はそこにいてそこにいない。偏在する上位存在だ」
「灰原から聞いている。お前の目的は日本国民の同化。だが、それならば大掛かりな儀式が」
「あぁ、それカバーストーリーだから」
身動きの取れない天元、その首に手首を同化させながら言う。
リコちゃんとの完全同化、皮肉だな。
取り込むお前が取り込まれ掛けるなんて。
「本当の目的はリコちゃんの強化さ」
「馬鹿な、呪霊操術で取り込んだ呪霊は成長しない」
「呪力で出来ている存在。そして、それを呪力で再構成する。呪霊操術と何年一緒だと思っているんだ、そんなことは分かっている」
だが、受肉した支配下にある呪霊はどうか?
限られた呪力で再現された存在と、生物として生きており劣化も向上もする。
そして呪力の元になる感情を持っている。
「完全に呪霊ではない、不完全であるが故に俺の想像を超えていく。それが受肉体」
「では、お前の目的は」
「日本人だけではない。リコちゃんという存在と共生し、選別された悪人達の同化だ」
独断と偏見はある。
だが、今より多くのクズがいなくなる。
人を殺した者、死ぬと分かって薬や武器を売った者、悪意を持って人を陥れた者。
金を騙したり、嘘をついたり、罪を犯したという自覚のある者。
「時間はあった。多くはリコちゃんによる選別を行った。しかし、判断の難しい存在は私が選別した」
「憐れだな。その行いの中には、貴様の邪魔だからと殺された善人もいる」
「そうだな。悪人だけを殺すなんてのも、所詮は自己満足でエゴだ。自己保身で犠牲にしたものもいる。大義というクソみたいな名分でな」
それでも俺は死にたくない。
正確には満足して死にたいのだ。
何なら、転生なんてしなくてよかった。
知らん間に気付かないうちに、死にたかった。
「天元、貴様の結界と存在を利用して同化を行う。元から呪力のない存在ではない、大本は同じ一人の存在だ」
リコちゃんに、周囲から呪力が集まってくる。
呪力、それは謎のエネルギー。
電波や光と同じならば高速で移動する事もありえなくない。
海外で死んだ外国人、そこから発生するリコちゃんの呪力を天元を操り結界を通過出来るようにする。
日本に呼び寄せた外国人、百鬼夜行に参加させたクソ信者、呪詛師や呪霊も纏めて対象だ。
「自害しろ、リコちゃん」
リコちゃんが己の呪力で心臓を破壊する。
爆発、胸元に穴の空いたリコちゃん。
呪霊故に死ぬことはない。
しかし、肉体は死ぬ。
手首ごと天元との同化した部分を切り落とし、倒れるリコちゃんを抱えて地上へと向かう。
その身体には、その死骸には、恐ろしく感じるほどの呪力が集まっていた。
「何をする気だ、まさかお前は」
「黙ってろ天元、お前は用済みだ」
天元を操った時点で、リコちゃんのみしか使わないという縛りは破棄された。
ダメージはリコちゃんのみだし、自由意志もない。
本来の呪霊操術、その代わり領域展開は使えない。
だが、天元を黙らせることくらい簡単だ。
リコちゃんを抱えて地上に戻ると、男が立っていた。
刀と強い目と強大な呪霊を携えた男、乙骨だ。
「リベンジマッチか、乙骨」
「アンタ、何がしたいんだ!訳が分からないよ!」
「なら黙って隠れてろ、俺を止められる奴はお前じゃない」
「でも、だとしても、止めるって約束したんだ!」
乙骨の呪力が跳ね上がる。
コイツ、自分の命を賭けて呪力の制限を解除したのか。
「他の女との約束のために、元カノを利用するか。女誑しめ」
「失礼だな、純愛だよ」
「ならば、此方は大義だ!」
縛りを解除した本来のうずまき。
総数約6000体、新宿や京都に放っていたのは殆どがリコちゃん。
原作よりも総数は多い。
「リカちゃん!」
「うおぉぉぉ!」
リカから放たれる、ドス黒い呪力の奔流。
此方は不定形の人のように呪力となった呪霊がぶつかる。
互いにぶつかっているエネルギー、それは膨れ上がっていく。
押し負ける、いや互角か、凄まじいな乙骨。
だが、俺は死なない。
ここで死ぬ訳には、行かないからだ。
「リコちゃん!」
片手で抱えていたリコちゃんが目を覚ます。
そして、うずまきを放つ俺に手を添える。
それだけで、その一瞬で、うずまきで抽出した呪力が倍近く増幅する。
「くっ、ぐっ……うっ……!?」
エネルギー同士の衝突は爆発となって終わりを迎えた。
突風が、俺と乙骨を吹き飛ばしていく。
倒れて動けなくなる乙骨、何とか耐えきった俺。
半身はズタズタでまたしてもボロボロだ。
だが、何とか五体満足で立っていられる。
「良かったな乙骨、本当に俺が敵ならお前の命は亡かった」
倒れた乙骨に、いつか拾った学生証を投げ落として踵を返す。
あぁ、懐かしいな。
お前の呪力を俺が間違える訳が無い。
帳を突き破って、何かが地面にクレーターを作る。
それは、その正体は、迸る呪力が教えてくれる。
「遅かったじゃねぇか、悟!」
「天内を使えよ!喧嘩しようぜ、傑!」
呪術界最強の男が、俺の運命が目の前にいた。
俺を殺せる唯一の存在、俺を殺していい唯一の存在。
「ハッ、殺し合いじゃなくてか?まだそんな言葉を掛けてくるとは」
「お前がどんなに強くとも、俺は最強だから。洗いざらいボコして吐かせてやるよ」
構える悟。
その横には佇むリコちゃんと俺。
だが、リコちゃんは使わない。
だって、リコちゃんは俺と悟を見守るために今まで支えてくれたからだ。
「リコちゃんは誰かを犠牲にすることが出来ない優しい子だ」
「何?」
だからこうする。
「領域展開」
「ッ!?虚式・茈」
放たれる、五条悟の虚式・茈。
その前に、俺の領域展開が発動する。
0.2秒の不完全発動。
領域展開、孤毒形影相弔。
「ここは……出現位置を変えたのか!」
入れ替わり、離れた悟と俺。
そして、俺の手には光となって消えかかるリコちゃんの姿がある。
「俺の真の目的は、弔いさ」
術式反転による呪力の奪取、その効果は呪力を奪い取り、支配下からの開放。
「さぁ、やろうか悟!」
「来いよ、傑!」