莫大な呪力が、手足に注がれる。
まるで炎のように揺らめく呪力が互いの手足に灯っていた。
違う点があるとしたら、俺の呪力は焔のように荒々しく、悟の呪力は清流のように澄んでいて滑らかだ。
「奇しくも同じ構えか……」
「掛かってこいよ、坊や」
「悟!テメェの煽り癖は昔から気に喰わねぇ!」
「煽り耐性なさ過ぎだろ」
構える悟へと踏み込み一つで迫る。
拳を握り、地面に亀裂を作るほどの踏み込み後、一気に解き放つ。
「ハッ、結界の応用か!甘ぇよ、俺天才だから」
悟は、見えていた。
領域展延、簡易領域の発展とも領域展開の劣化版とも言えるそれ。
術式のない領域を体表に纏い、衝突する際に術式を流し込み中和する技術。
それはまるで絵の具を水槽の中に入れると濁るように、術式が流出して薄まる技術だ。
学生時代、無下限を攻略したことのある相手。
何かあるという確信が、いつかの未来で使われる技術の逆輸入に対応させた。
迫りくる拳に優しく触るように見える動きで、力の方向を流す絶技は精密動作なくして出来ない。
遺憾なく発揮される特級呪術師の近接戦闘力は、暴風のように荒々しく迫る拳を全て弾いていく。
「うぉぉぉぉ!」
「…………」
あらゆる角度から迫る拳。
まるで腕が複数あるような錯覚をするほどの速さで叩き込まれるそれ。
呪力による強化された拳は一撃でも入ればダメージは確実に身体を蝕む。
しかし、五条悟を中心に間合いに入った拳は叩き落とされ、弾かれ、防がれる。
六眼という呪力を見通す目、培われた戦闘経験、そして見てから対応を可能とする戦闘センス。
「うおらぁぁぁ!」
「チッ!」
それを、上回る。
そのために、目にも止まらぬ、目にも捉えられない速度を必要とする。
故に、何も呪力で強化されてない拳を叩き込む。
フェイント、何も込められてないどころか呪力の抑えられた隠蔽された一撃が迫る。
呪力を追っていた意識の外、六眼では見えにくく、肉眼では見えている攻撃。
防ぐ、弾く、掴む、その選択肢の中に受けるが入る。
受けても問題ない、ダメージは0、なんの意味もない。
一瞬の思考のノイズは隙となった。
瞬時にフェイントだと理解して気付き対応する悟。
だが、その一瞬は致命的だ。
「しゃおらぁぁぁ!」
「ぐっ!」
ここに来て初めて悟に攻撃が当たる。
拳に使われていた分の呪力の乗った蹴り、呪力で強化してガードをしてもなおダメージは通る。
フェイントに釣られていなければ、十全な強化でダメージは入らなかった事だろう。
だが一瞬の隙はタイムラグを生み、当たっても通さない筈の威力を防ぐ呪力による強化は間に合わず、筋肉の断裂と骨へのヒビを入れる結果となった。
互いに距離を取りながら、悟は反転術式を使用する。
悟は全開状態に、俺は一撃を入れたことにより、同じくらいの呪力を消費した。
ジリ貧、だが六眼による呪力の視認とセンスによるロスの少なさなら長期戦は不利だろう。
「領域展開ィィィ!」
「領域展開」
左手は親指を折り手刀のような形、右手は軽く握ったような形。
相手は人差し指を絡みつかせ立たせるように掌印を作る。
考えていることは同じ、一撃での決着を付ける。
「
「
世界が真っ暗な闇に包まれる。
あらゆる情報が押し寄せ、体表面で止まる。
領域の押し合い、今や理子ちゃんとの縛りはなく、リコちゃんの協力もない。
だが問題ない。
押し合いに関しては上回るからだ。
暗闇は一瞬。
押し合いに勝てないと判断した悟が解除する。
「フハハハハ!」
「防げたくらいで嬉しいかよ」
タネを明かせば簡単だ。
必中必殺の悟に対して、こちらは当たりもしないし無害な領域を展開していた。
更に効果範囲を体表面まで絞り、内側からは脆く外殻は硬くなるように生み出す。
そして、解除されるまで動けないという縛り。
それらの情報を一瞬で読み取り、不利を悟ったが故に解除した。
互いに術式は焼ききれている。
ならば後は術式なし、呪力を使うだけの殴り合い。
距離を詰め、連続で殴り掛かる。
力の向きを変えようが、弾こうが、防ぐのには集中力がいる。
手数の多さで、薄くなっていくガードを撃ち破る。
「ゴリ押しで勝てるほど俺は甘くねぇよ!」
「チッ、んなこたぁ分かってんだよぉぉぉ!」
崩しに掛かった攻勢を、悟は先読みした動きで上回り、既に攻撃を終えた状態へと至る。
待ち構えるように配置された手に、自ら殴りかかり、そしてそのまま掴まれた。
途中から此方の攻撃が、先んじて置かれた悟の手に向かって吸い込まれるように防がれる。
攻撃する箇所を読まれたか。
掴まれた腕の拘束を、力を入れることで無理矢理だが外そうとする。
しかし、しっかりと握られた腕は簡単には外せない。
どころか、その腕を起点に技を掛けられる。
回転する身体は背負われ、地面へと叩きつけられる。
ならば、それを利用するまでのこと。
「チェストォォォ!」
「ッ!?往生際が!」
叩きつけられると同時に両足を地面へと叩きつけ、陥没させ、めり込ませ、地面に刺さった状態から上半身を起き上がらせて頭突きをお見舞いする。
こちらの動きに気付いた悟の額に、頭突きは激突。
今まで余裕そうにしていた悟が仰け反り、そのまま後方へと首から身体ごと飛んでいく。
「悪いってか!」
「言ってねぇよ!」
追撃、すぐさま地面から足を出した俺は、その倒れた悟へ目掛けて跳び膝蹴りを実行する。
隙を与えれば、負けるのは此方。
そして視界に写る、黒い極小の点……否、砂だ!
目潰し!?
「ぐあぁ!?おま、ガハッ!?」
途絶える視界、そして何かが此方の肋骨を折っていく。
激痛の中、見えない視界で痛みの原因を掴み、肘打ちで落とす。
「ハハハ、ザマァ!あぐぅぅぅ!」
確実に折った感触、そのまま押し倒してマウントポジションから殴り掛かる。
いけ好かねぇ、整った顔に1発、2発、拳が入る。
鼻血も出て良い面になったじゃねぇか。
「殴りすぎ、なんだよ!」
「ぐっ、離せぇぇぇ!うがぁぁぁ!!」
「黙ってろ!」
髪が掴まれ、引き千切られながら引っ張られ、地面に叩きつけられる。
腕を極められ、お返しとばかりに左腕を折られた。
だが、だからどうしたってんだ。
「うおぉぉぉ!」
「はぁ!?お前、まさか」
折られた腕に呪力を送り込む。
対象は、腕付近に発生させた呪霊。
術式の焼き切れは使用困難になるだけ、故に雑で大雑把な使い方なら簡単に出来る。
うずまきの跡は見てるはず、なら数匹残しているのは予想出来てないだろ。
悟と俺を巻き込み、腕ごと呪霊である蝿頭が爆ぜる。
「腕ごと行くなんて、イカレてる」
「真人間が勝てるかよ!」
互いに吹っ飛び、満身創痍。
悟は骨は折れているも、五体満足。
こちらは半身欠損状態で、何とか生きてる。
だが、手元には武器庫呪霊が残っている。
「術式の焼き切れたお前はもう、術式が使えない。終わりだ」
「そんな物……」
俺は武器庫呪霊から銃を取り出し、悟へと向ける。
無下限術式では防げるそれ、だが今なら通る。
命までは奪わないが、勝ちは貰う。
「俺の勝ちだ、悟」
「お前の負けだよ、傑」
リボルバーが、発砲される。
複数の発砲、だが銃弾はどれも空中で静止し転がり落ちる。
「何だと……領域展開で焼きれなかったのか?」
「企業秘密だよ」
可能性の1つに、自分の呪力で焼き切れを起こしている部分を破壊し、反転術式で治したのかと考える。
どこに術式があるのかも、リコちゃんを使って生きてる人間の脳の活動を観測したならまだしも、通常は出来ないはずだ。
それに負担だって大きい。
「六眼か……まさか、そこまで」
「傑、何か言い残すことがあるか」
呪力の流れが見えるなんてチート野郎が、だがまだ決着はついてない。
「1つ問いたい、お前は今でも俺を親友だと思ってくれるか」
「馬鹿野郎、たった一人の親友だよ」
「ハハハ、そうかそうか……最後くらい呪いの言葉を吐けよお前」
銃を再び構える。
「傑、無駄だ。ただの銃じゃ無下限を破れないのは知ってるだろ」
「あぁ、だからこれは」
それを、自分のこめかみに当てる。
「ッ、やめろ!」
「お前の勝ちだ」
そして、引き金を引いた。