小学5年生の夏、遂に俺は黒閃を達成した。
その日のうちにやると連続で出来るというが、所詮は最強がいる時代に生まれただけの凡夫。
俺は一回しか出来なかった。
時代は2001年、ITバブルの崩壊や同時多発テロが起きた年。
まだ夏だから起きてないが、また強い呪霊が生まれそうで嫌になる。
その日は、初めて帳を見ることが出来た日だった。
帳は建設現場のような場所にあった。
今は工事してないのか、重機はあれど解体途中のビルがあるだけの空き地だった。
まぁ、狭い生活圏内と言えど10年以上生きていれば帳を目撃することもあるのだろう。
むしろ、今まで見たことなかったことのほうが珍しいのかもしれない。
まぁ、高校生になるまで虎杖も見たことないし、人手不足だから見る機会はないのかもしれない。
あるいは、帳の効果として非術師には見えないという特徴から、呪力をコントロール出来ないと見れないと思えば、残穢が見えるようになった状態じゃないと気付けないのかもしれない。
よせばいいのに、興味本位で俺は帳の中に入った。
あわよくば、呪術高専にスカウトされるのも期待したかもしれない。
呪霊のレベルは、サポートなしに出会える奴らでは頭打ちになってきたからだ。
「すごいな、夜みたいに暗い」
あと、普段より心なしか呪霊も多く感じていた俺はそこらにいる呪霊を飴玉のようにしてたくさん集めては一気に飲み込むのを繰り返していた。
なお、この時まではブドウ味で悪くなかった。
帳の中では戦闘を行っているであろう、騒音が絶えず聞こえていた。
まるで解体現場のような、でっかい音がたまにするのだ。
距離は近く、帳っていうのはそれほど大きい訳じゃないんだと思った。
そして、そんな音が聞こえなくなったから俺は戦闘が終わったんだなと楽観的に考えていた。
帳が消えていないにも関わらずだ。
「がッ!?」
それは突然だった。
何かが腹に向かってぶつかって、俺の体が吹っ飛ぶ。
焼けるように激痛が走っており、痛くて立てなくなったくらいだ。
頭は当然パニックで、呪霊に決まってるのに何が起きたと混乱していた。
「いってぇぇぇぇぇ!」
激痛に耐えながら、何があったか俺は周囲を見渡す。
そして、俺は激痛の原因を見た。
それは、俺から離れたところでピカピカと光り輝いている。
大きさは二リットルのペットボトル程度、それがピカピカと光っている。
「……イカ?」
ピカピカ光っているイカだった。
いや、なんで光ってるんだよ。
イカがピカピカと光っている、いや謎過ぎる。
「うおっ!?」
イカは、俺のほうに頭を向けると一瞬で加速する。
まるでバッティングセンターで玉が出た瞬間のようだった。
それほど早くないが、来た瞬間に動かないと直撃する程度には早い。
「ピギャ!」
「あぶね!?」
それが、俺の真横。
街中の家にぶつかって、鳴き声を上げていた。
こいつ……なんか、見たことあるかもしれない。
どこかで見た気がする。
だが、とにかく今は身の安全が大事。
降伏せずに呪力玉にして取り込もうと、術式を発動する。
「…………」
「取り込めない!?」
つまり、階級差は2級以上ない手合い。
俺が今まで取り込めるようになった呪霊がどのくらいの強さ分からんが、バットで余裕で倒せる4級やそれ以下の蠅頭よりは強いってことだ。
見た感じ、拳銃で安心できる3級の呪霊の範囲には収まる、
だってイカだし、銃で殺せそうだ。
でも、バッドで余裕って感じじゃないのかもしれない。
普段、俺が降伏を省いて取り込める呪霊以上、3級未満と言ったところか。
「来い」
なら、弱らせてから取り込むまでだ。
そう思い、俺は複数の呪霊を片っ端から出していく。
夏油傑はすべての呪霊を把握していたとか、相手に合わせて色々出していたが、俺はまったく覚えてない。
自分が取り込んだ呪霊ってどんなのかとか知らん。
あと、術式を持ってる呪霊なんて強すぎて手に入れたことはない。
なので、とにかく物量で戦っている。
「よし、行け!」
俺の周囲に、大小さまざまな呪霊が現れてとぐろを巻く。
百鬼夜行とか、たぶんこんな感じだなと思うくらい大量だ。
まぁ、100以上はいるのだからそりゃそうである。
それを出したそばからイカに殺到させる。
「圧殺だ!やったか」
流石に倒せただろうと、俺はイカを呪霊玉にして取り込もうとした。
光っていたイカも、俺の手のひらに向かって光の粒子になって集まってくる。
よし、呪霊で見えてなかったけど弱らせていたようだと、そのときは思っていた。
「ハハハ!雑魚、がッ!?」
俺が勝利を確信した瞬間、背中を強打される。
顔面から地面に向かって倒れこみ、擦り傷だらけになったのが分かった。
急いで立ち上がり、そして振り返るとそこには……
「イカ、またお前か!」
そこには光るイカがいた。
それも、2匹いた。
「おいおい、嘘だろ」
2匹いると思ったイカだったが、それは間違いだった。
誰もいない、もしくはいても気付いてないと思った街並みの中に灯りがついた。
否、それは家の灯りじゃなかった。
それは、屋根や外壁に張り付いたイカの輝きだった。
道路にいるのは2匹だったが、その背後の景色の中に大量の光るイカがいた。
「おいおいおいおい!」
俺が気付いた瞬間、1匹、また1匹とイカが飛んでくる。
突撃するイカの大群だ、俺の呪霊とぶつかりながら飛んできた。
「うわぁぁぁぁ!」
俺は一目散に、解体途中のビルに駆け込む。
背後ではゲリラ豪雨のような音がする、呪霊とイカのぶつかる音だ。
物量で攻められるって、面倒くせぇな!
帳が、解体途中のビルを中心に降ろされているとしたら、半球状に展開されているのではないだろうか。
その半球状の中にイカの大群がいた。
「バカかよ、町中にいすぎだろ!雑魚ほど群れるって、群れすぎだろ!」
コンクリの壁を背に叫んでいたら、窓ガラスを割りながらイカが廊下に入ってくる。
それも、1匹、2匹、3匹と窓から続々だ。
壁にぶつかってネチョって音を立てて落ちては、ゆっくりと立ち上がってこちらを見る。
それに向けて、俺は急いで手を向けてその前から呪霊を出す。
「ま、守れ!」
「い、イ……」
「……アぁ」
「ピギャァァァ!」
なんか言いながらイカが飛んだ。
侵入経路を見つけたと思った奴らは、群れで窓から入ってきて俺を追い詰める。
俺は逃げながらどんどん屋内にはいるのだが、それこそが奴らの罠だった。
「どコにイくの~」
イカの大群を呪霊達に倒させながら、壁の多い屋内に逃げていた俺はビルの3階の中心に来た。
逃げるように階段を登った俺は、両サイドに窓があるフロアに来ていた。
そのフロアは学校の教室程度の広さ、部屋の奥には机や椅子が積みあがっている。
そんなフロアの中心に、寝転ぶ人と呪霊がいた。
巨大な、成人男性ほどのイカだ。
「イカせないヨォ~」
「イカが喋ってるんじゃねぇよ……」
倒れている人間は、学生のようだった。
残念なことに、首より先が無くなっていた。
イカの足が真っ赤なことから、食事中だったようだ。
もしかしなくても、呪術高専の生徒か。
「嫌な部屋の構造だな、両サイドの窓からイカが入ってくるじゃねぇか」
俺は窓に向かって呪霊を出しながら、そう呟く。
呪霊操術で呪霊を壁にしていなかったら、巨大なイカと戦いながら、小さいイカの大群が両サイドからリンチしてくる状況が出来上がっていたわけだ。
この術式じゃなかったら、詰みだろ。
「イカ、イキャァァァ!」
巨大なイカが叫んでいた。
こちらに足を向けながら、立ち上がるようにして震えながら、奇声を発する。
そして、一礼するようにその体を折り曲げ、頭をこちらに向けてくる。
小さいイカで何度も見た、突撃の大勢だ。
「イく、イくノォォォォ!」
「来んなよ……」
俺の祈りは虚しくも、圧し折られる。
巨大な質量が、自動車並みの速度で迫ってくるからだ。
呪霊を出す?そんなのは間に合う時間じゃない。
逃げる?今から逃げても避けれるかは怪しい。
迫ってくるイカ、まるでゆっくりと動いてるように当たるまでが長く感じた。
その間、俺はどうにか出来ないか頭を使ってあれこれ考える。
色々思い出しながら、あーでもこーでもないと考えた。
そして咄嗟に出てきたアイデアは、殴って衝撃を和らげるという物だった。
俺の脳みそ貧弱すぎるだろ。
今考えると、あの時間の伸びる感覚や色々思い出したりしたのは、走馬灯と呼ばれるものなんじゃないだろうか。
殴って勢いを弱めようと思った渾身の一撃は、イカとぶつかった瞬間に黒い光を放つ。
「えっ?」
黒閃、それが決まった瞬間だった。
その後の話。
巨大イカは黒閃で爆散した。
呆然とする俺が再起動したのは、誰かの足音がビルの下のほうから聞こえたからだった。
何を思ったか、呪詛師認定されると死体の横で思った俺は、自分の周りを呪霊で固めて窓から飛び降りて逃走。
ちゃっかり、弱った他の小さいイカも何匹か手に入れて逃げ切った。
よく思い出すと威力は違うが、アニメで夏油が使ってたイカだった。