【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
扉を越えて何かの体内の様な通路を進む事しばらく、脱出に至る経路はおそらく一つだろうと予想されているが、脱出口までの道中が一本道とは限らない訳で、そこかしこにある十字路やY字路に逆向きの三叉路など、COMPのオートマッピングで記録しているからこそ、まだ何とかなっているレベルの迷路を進んで行く。
最も、別れ道の正解などわかる訳も無いため、行き当たる毎に運気関連のスキルを持つと言うカズマニキの勘に任せ、とりあえずマップを埋めるぐらいのつもりで進んでるだけとも言うが。
「前方ちょっと注意してくれ、嫌な感じがした」
「ん?またトラップが
「解除可能な罠でしたら練習になって良いのですが……」
「うーんと……あ、見つけました!何か埋まってるみたいです」
「あれか、見た感じ解除方法自体は有るっぽいな」
「次の挑戦はゆんゆんだったか?」
「は、はい!頑張ります!」
「なに、失敗した時は私が【カバー】するから大丈夫だ。思い切ってやると良い!」
「ワクワクしながら言ってんじゃねーよ!」
悲観的に備え、楽観的に行動って訳でも無いが、案の定通路全体に施されていた、微弱な魅了を積み込むギミックは結界術式で防ぐ事が出来ており、道行き自体には神経を使わないで済む一方、この通路のもう一つのギミックらしき周囲にランダム出現するトラップには、多少苦労させられていた。
と言うのも、別れ道付近や所々にある小部屋など、意図して設置されている分には予想も付けられて警戒出来るが、既に確認した後の所に罠が生えてくるのを予想しろと言うのは無理な話。
なお、そんなランダム生成もカズマニキの直感である程度察知出来た事により、警告も間に合わない様なタイミング――床に足がつく直前に生えてくるなど――でも無ければ、発動前に見つけ出して解除の練習台となってる訳だが、一周回って学生のノリみたいなってしまってるのは、良いことなのかどうなのか……。
兎も角、私らでは欠片も兆候に気付けないトラップの出現を感じ取れる辺り、カズマニキも黒札なのだと思うところだが、本人としては運が良いだけと言って憚らない。
正直な話、運だけでトラップを回避出来るなら、そっちの方がよほど恐ろしいと思うのは、私だけじゃ無いだろう。
ともあれ、運気を上昇させると言うカズマニキの特性もあって、マップの方は順調に埋まって行っている訳だが、何もかも順調かと言うとそんな訳も無い話で……。
「ちょ、どこ触って……んっ、止めっ……!」
ぬちゃぬちゃとした粘性の音に合わせて、拒絶の声音に確かな艶を滲ませた声が響く。
美しい青髪は粘液が絡みより一層妖しい輝きを放ち、女神と言われて納得するしかない美貌と肢体には、赤黒い肉の触手が絡み付き、退廃と冒涜を湛えた淫靡さを感じさせる。
今まさに、一柱の神が零落させられようとしているかの如き光景に、契約者たるカズマニキは心底白けた様な視線を向けていた。
「何も無いところで躓いて転んで、出現した直後のトラップに突っ込んで、跳ね飛ばされたら天井に出現したトラップで粘液まみれになった上、落ちたところで触手責めとか、どんなピタゴラスだよ」
「そんな事言ってないで助げでよぉ~カズマざぁ~ん!」
「うーむ、アクアのあの運の悪さは、一体何処から来るのだろうな?」
「依頼中に1回は、何かしらトラブルに遭遇してますからねぇ【ガル】」
「わっ、ちょっ?!もっと優し――ふべっ」
事は少し前に遡るが、順調に進んでいたからか、それとも変わり映えしない肉の通路に飽きてきたのか、一応は女神で弁才天なアクアが遊びだしたのが事の始まり。
扇子を取り出して水芸しながらカズマニキに絡み出していた所、別段トラップも何も無いところでコケたんだが、そこまでならまあ此処までにも何度か見かけた事だけど、まあ何度もコケてれば受け身の一つも取るだろうって訳で、ドヤ顔しながら転がった先で出現直後のトラップを踏み抜き、後はカズマニキが呆れ混じりに言った通り、流れる様にトラップが連鎖して、粘液まみれで触手に絡め取られた卑猥なオブジェと化した女神の出来上がりである。
まあ、アクアのある意味芸術的な連鎖ほどでは無いが、トラップがランダム出現する関係から、どうしてもカズマニキの警告が間に合わないタイミングなんかも有る訳で、私やペリーヌも粘液まみれにされて発情解除の術式が発動する場面もあったし、ゆんゆんに至っては、アクアほどでは無いけど装備解除で全裸にされた直後、驚いて身をすくめた所に触手トラップが発動して卑猥な形で宙吊りにされてたりもしたが……。
そんなこんな大小様々なトラブルがありつつも、何とか対処可能な範囲で、消耗も抑えながら進んでいた所、これまでより硬い声でカズマニキの警告が響く。
「げっ、全員警戒しろ!」
「っ!HAHAHAそう言う事か、通路全体対象のトラップが生えてきたら、流石にどうしようもないな!」
「パターン的に
「敵反応!通路自体が敵です!」
カズマニキが警告した直後には周辺の通路が変化を始め、通路の前後が肉をねじった様に閉じられた所で、ウィズの言葉が響く。
その言葉に反応したかの様に通路を構成する肉が盛り上がり、ローパーかイソギンチャクかとでも言った姿の何かが、そこかしこから粘液音を立てて出現してくる。
「カズマさん!COMPのアナライズには登録無しです!」
「ってことは、十中八九スケベ部謹製の造魔か魔界生物ってとこか。
「ぼやいても無い袖は振れないってな。ノックして情報集めつつ、状態異常積み込まれない様に気を付けるってぐらいだろ」
「だな、つーこって戦闘開始だ!【マハラツクジャオート*1】【麻痺針】!」
「まずは事故防止ですね。【結界*2】」
「様子見なら防御固めておきましょ。【マハラクカジャ】」
「さあお前達の攻撃は全て私が受け止めてやろう!【仁王立ち*3】【硬気功*4】【覚悟の挑発*5】!」
「個体毎に耐性が異なる何て事は流石に無いですわよね。【ジオ】」
「え、そんな可能性もあったりするんですか?あっと、とりあえず【アギ】!」
「悪魔もGPによるレベルの変化や地域の伝承、一般的なイメージだったりで耐性が変わったりするらしいからな。同じ場所にって事は珍しいが、有り得ないって程じゃないって聞いたな。【ブフ】」
情報不足で大技なんぞ使えないって事で、ダクネスが意気揚々と盾になってる間にノック――最悪反射されても大丈夫な程度に抑えた攻撃で耐性を確認する作業から戦闘開始。
一通りノックした結果は、氷結弱点の物理・衝撃・疾風耐性、火炎無効の電撃・水撃吸収と言った具合で、状態異常系も耐性があるのか効いた様子は無く、物理耐性は斬撃とか銃撃とかを区別しない物理全般に強いタイプと判明。
そんな訳でローパー的な連中に群がられてるダクネス諸共、範囲氷結で一掃する事になった訳だが、聞いたところによると、全属性に耐性を得る【真・全門耐性】と【仁王立ち】、発動した【硬気功】と【覚悟の挑発】で、巻き込みしても対してダメージは受けてないらしく、壁役に特化した式神と言う物の恐ろしさが感じられる。
まあ、こうして味方に居る分には頼もしい限りではあるんだし、敵対する理由も無いんだから気にするもんでも無いがな。
そんなどうでも良い考えは兎も角、見える範囲に出現したローパーらしき奴らを殲滅し終わった辺りで、通路となっていた肉がMAGに分解され始め、それが終わった後には、石造りの壁と天井に植物の根っこらしき物が這う、廃墟の様な空間が広がっていた。
「マップの情報自体に変化は無し、か……。脱出経路の段階が進んだとみるべきか、或いは――」
「単純に難易度が上がっただけって可能性も有るな。鍵を持ってる事が条件ってのも考えられるしな」
「少なくとも魅了の蓄積は増えてるみたいですわね。結界に掛かる負担が増えてますわ」
「フィールドギミックも強化されたっぽいか、となると……ウィズ、【結界】はしばらく維持しといてくれ、通路の様子が変わって、魅了以外の状態異常が追加される可能性もある」
「わかりました。魅了以外の状態異常が確認出来たら伝えますね」
先程までの肉の通路よりは広い道幅から、今見えてる廃墟の様な通路が元の構造で、そこに肉を追加する感じで構成していたんだろう。
まずは移動よりも変化した状況の確認を優先する事にして、周辺を調べた所、トラップのランダム生成と魅了の状態異常が蓄積されるギミックは継続、ただしトラップの解除難易度や被害規模、魅了の蓄積量の増加と言った強化を確認。
続いてウィズからの報告で、幻惑系の状態異常も追加されているのも判明し、難易度を上げてきた感じがする。
「強度が上がった魅了積み込み対策は、マリッサとペリーヌで結界を張って負担を分散するとして、追加の状態異常が他にも出るかもしれんから、ウィズの【結界】もこれからは張り続けるか。霊力の方は適宜アイテムでも使って回復を忘れん様にな」
「トラップの解除に関しても、こっからはちょい慎重にした方が良さそうだな。前までの魅了毒や麻痺毒などが仕込まれた毒矢だったり装備強制解除程度なら、解除に失敗しても対して被害は無かったが、装備だけ溶かす
「コンセプト的に捕らえて逃がさないって感じがしますね……」
「徹底して無力化するつもりと言うのはそうですわね。装備強制解除からの毒矢などは、わかり易く危険ですし、空間自体に掛かってる魅了の蓄積が加速してる中で、装備転移などでの消失は最悪の部類ですわ」
今のところは対処しきれているとは言え、通路が変化する前でもちょいちょい解除に失敗して、ダクネスがカバーに入る事も有ったのを考えると、解体よりも影響範囲外から作動させたり、破壊する方面での解除に切り替える事になるだろうな。
上手く解体出来れば素材としてだったり、トラップの機構ごと回収出来て、良い値段で売れそう何だがなぁ……。
まあ技量不足の嘆きは置いとくとして、今重要なのは無事に会場外まで脱出する事な訳で、改めて気を引き締め通路を進んで行く。
しばらく通路を進んでは、途中にある小部屋を調べて隠しアイテムをゲットしたり、トラップ解除したり、トラップ解除した場所に隠されたアイテムを見つけたり、二重トラップを爆破したりして、体感時間だとそろそろ夜明けになりそうな頃に、一つの小部屋とその奥に装飾が施された両開きの大扉を見つける。
「うーむ、いかにもボス部屋チックな扉だな。手前の小部屋は休憩用だろうし、案の定な張り紙もされてるが」
「やっぱスタート地点の自販機に有った鍵が脱出用で確定か。後、この小部屋にも隠し宝箱があったな」
「小部屋毎にあの手この手で隠してあるのは、確実に遊んでますわよね……」
「二重構造でアイテム二つの場合も、トラップが二つ仕掛けられてた事も有りましたし、今回の依頼だけで探すのと解除はだいぶ腕が上がった気がします……」
一通り小部屋を調べてトラップが無い事を確認し、明らかに脱出前の関門だろう扉を前に、先へ進む前の小休憩に入る。
ちなみに、小部屋の壁には脱出用の鍵を所持していないと脱出口が開かない旨と、鍵は安全地帯に隠されてる旨が書かれた張り紙がされており、張り紙されてた壁を調べたらカード状のアイテムが隠されていたりもしたが。
「一見すると、カードキーのようにも見えますわねぇ……」
「表面の絵柄的に、ミスリード目的でソレっぽい形状にしてるんだろうな」
「脱出用では無くても、何かしらの鍵っぽくは見えるが、何か心当たりでも有るのか?」
「私とペリーヌがCOMPとして使ってるCキューブだろうな」
カード状のそれを持って起動のイメージを送ると、予想通りCキューブだった様で、初期設定用のウィンドウが浮かび上がるのを確認してカズマニキへと受け渡す。
「形状や模様などのデザインは好きに変更可能だから、態々カードキーっぽい感じに設定して隠したんだろうさ」
「この形状設定って奴か、腕輪やブローチなんかにも出来るんだな。まあ確かに、ボス部屋前は安全地帯ってイメージもあるからな。そこでカードキーっぽい隠されたアイテム見つけたら、脱出用の鍵と考えもするか」
「それでボスを倒して脱出出来なかったとしても、スタート地点まで戻って見つけてくれば良いだけじゃないですか?」
「その場合、ボス戦もう一回だろうな。まず間違い無く、セキュリティなんだし」
「ええっ?!」
「カズマニキが言う様にセキュリティなんだし、侵入されてしまったなら、次の段階はいかに逃がさない様にするかだろう。クリアされるのが前提のゲームじゃないんだしな。で、Cキューブはどうする?私とペリーヌは自前のが有るから優先度は低いが」
「最終的には脱出成功した時点で、此処から持ち出せた物から相談って感じだが、それならCキューブはこっち預かりにするかね。ゆんゆんはCOMP持ってねぇし、とりあえず契約呪法アプリでも入れて、持ってない属性を使える様にすれば戦力強化になるだろ」
「では、推定ボス戦に向けて準備時間と致しましょう」
そんな訳で、契約呪法アプリのウィンドウを出してあれこれ術を弄ったり、新しい属性を使える様にデビオク経由で契約したりする事しばらく、確りと準備を整えてから多少の休息を挟んだ後、気持ちを切り替えて装飾の施された大扉に手を掛ける。
扉を開いた先には、どこぞの倉庫かと思う程の面積と高さを持つ部屋が広がっており、入り口から見える正面には大きな機械の様な物が鎮座していて、室内へと踏み入れるのに反応してか、警戒音の様な音を響かせて動き出す。
それは折り畳まれた多脚を床に突き立て、重厚な金属音を響かせながら機構を展開し、起動完了を示す様な機械音声と共にフェイス部分がせり出してくる。