【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
黎明期の挫折シリーズこと、古参生産組を中心とした再挑戦企画や、蓬莱島の一区画を使用したセキュリティ実地試験と言う名の、泥棒・怪盗を迎え撃つ撃退トラップイベントなんかで盛り上がった二月が終わり、年度末として一部では色々と忙しくなる三月。
巌戸台支部としての体裁と、万一のシェルターとしての機能を構築してある葦原荘においても、住人の入退去だったり一時の宿として借りに来る者など、程々に忙しい日々。
そんな日常の中、そよぐ風に多少の肌寒さは感じるものの、食堂から続くテラス席には抜ける様な春空から陽射しが差し込み、香り立つ紅茶と茶菓子に用意したシュークリームに舌鼓を打ちながら、積み上げた新刊の読破に勤しむ春の陽気を感じる昼下がり。
今現在も各地で動き回る木分身達を【
「やあ探求ネキ、部屋は開いてるかい?」
「こんにちはキノネキ*1、車庫付きの部屋を借りる人は少ないですからね、いつもの部屋が開いてますよ」
声を掛けて来たのは、黒髪のショートヘアで中性的な美少女の言葉がよく似合う小柄な人物で、ガイア連合山梨支部でも割と古参の部類に入る黒札の一人。
ちなみに、半終末となった昨今でも、相棒のバイク型専用式神エミールと共に、各地をツーリングして旅する趣味勢であり、それと同時にレベル60を超える修羅勢でもあったりする。
「なら一晩頼むよ」
「一晩だけと言う事は、これからツーリングですか」
「うん、温かくなって来たからね。冬の名残を追いかけながら、軽く回ってみようかなって」
「以前の北海道みたいな事*2にならなければ良いんですけどねぇ……」
「あそこまでの事件はそう何度も遭遇しないでしょ――っと、葦原来たしまた後でね」
宿泊手続きと案内役に九十九式自動人形*3の葦原を呼ぶ間、軽く雑談のネタとして聞いてみると、予想通りバイク旅へ向かう前に一度寄ってくれた感じらしい。
葦原に案内されて行く後ろ姿を眺め、ふと思い出したのは星霊神社でキノネキと
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あれは確か、最初のオフ会から足掛け三年程経過して、BBコーンの再現に挑戦してた四月頃でしたっけ。
当時の時点でも既に図書館と呼べる規模になってた気がする星霊神社の書庫で、現在でも続けてる習慣の一つ、分身を使った知識の収集や技術書の執筆をしてた時に、話掛けられたのが互いを認識した最初だった気がする。
まああの頃は式神を使った分身だった事も有って、本体でも定期的に作業して経験を馴染ませるローテーションを組んでいたため、再会した日が丁度本体で作業していた時だったのは幸いだったかな?当時の分身だと過去の記憶を正確に思い出すってのは難しかっただろうし。
でも、今にして思えばキノネキの第一声が「うわっ、カワイイ娘」では無く、「ウホッ!いい女……」だったら「やらないか」と返してアレな関係になってたかもしれないですね。
見た目まんまなくそみそニキと同じネタ*4やった経験から、反射的に言う可能性も高いですし……。
くそみそニキの方は完全にコントでしたけど、キノネキは普通に好みの範疇ですから望まれたなら答えてたでしょうし、美波さんと一緒に【房中術】関係を鍛えてましたから、どちら側でも対応は出来ましたからね……。
まあキノネキがTS勢と知ったのは後日の事だったけども。
ちょっとあれな考えは置いといて、声を掛けられた際の既視感から、【過去視】で自分の記憶を探って見つけ出したのが、養護施設を抜け出した日よりも前、まだ小学校に通っていた頃に八王子の市営図書館で話した記憶。
念のため名前を確認したら記憶通りだったのもあって、小学生時代にキノキノ先輩と呼んでいた二学年上の先輩と判明したのがこの時。
そう言えばキノネキに「もしかして、吉子ちゃん?*5」と尋ね返された時は、既に捨てた名前だけど少し懐かしい気持ちになりましたっけ。
あと再会した日に有った他の出来事としては、キノネキが私の執筆した建体飽食技典を読んで鍛練しているとの話から、解説したり一緒に鍛練したりした事辺りでしたかね?
その時の印象としては理論より感覚派と言った感じで、順序立てて説明するより、実際に見せたり体感させてから実践させた方が理解が早く、あの頃だと私も修行途中だった【圏境】の途上段階を見せたところ、ほぼ同じぐらいの気配隠蔽まで一足飛びに成長したのは驚いた記憶がある。
キノネキが言うには元から
再会した日辺りの印象的な記憶としてはこの辺ですかねぇ、まさか小学校時代の先輩と星霊神社で遭遇するとは思わなかったし、世間は意外と狭いなんて言葉を実感する事になるとはって感じだったけど。
ああそう言えば、実銃愛好部*6が結成されたのは、キノネキと再会した翌月の事でしたっけ。
確かあの頃は、メシアンや大陸系マフィアにメシア教系外国人、銃火器の仕入れルートを持ってるヤクザなどと、地方依頼でかち合う事が何度かあったのと、他にもキノネキみたいに僅かばかりでも実銃と実弾を仕入れるルートが有ったりして、満足に使える程では無くても入手出来る機会が出て来たって事で、銃を研究してるグループが張り切ってた所に、キノネキがショタおじから異界内限定での銃弾使用と、ガイア連合山梨支部内での製造許可を貰ってきたのもあって、銃を扱いたい連中が集まっての会合となった感じ。
私自身はマグネタイトカートリッジ式
会合に参加した面子で、キノネキ以外にあの頃の時点で銃器使いとして有名だったのは、偽ティーニキ*8や野比ニキ*9、この時点ではまだ天使部も無く、天使系を仲魔にしてなかったニコニキ*10辺りですかね?
まあ参加者についてはさておき、会合で最初に出て来た話題は現状の確認として、当時は星霊神社の外でもサバゲー用と言って誤魔化せることから、メインで研究が進められていたエアソフトガン*11に関する話。
私自身としては前世を含めても、サバゲーなどに興味があった訳でも無いため知らなかった事だけど、一般的な玩具の模造品的なイメージに反して、リアルに作られたエアソフトガンは軍や警察の訓練用銃として用いられる事もあるとの事で、研究グループの方でも部品の構造から実銃に出来るだけ近付ける感じに開発を進めてるらしい。
実際、より実銃に近い構造とする事で威力の向上が確認出来てるらしく、銃刀法に触れるため金属部品を使えないとの点以外は、順調に研究が進んでいた様子だった。
とは言え、目立った問題も無い様に思えるエアソフトガンだけど、何処までも本物そっくりだったとしても、圧縮空気やガスの圧力で発射する遊戯銃で有ることに代わりは無く、火薬を用いた実銃と比べれば効果が落ちると言う問題点はそのまま。
更に言えば、使う側も実銃か遊戯銃かの違いで差異が出る上に、その差異自体にも個人差が有るとの調査結果が出ている話。
その顕著な例がキノネキらしく、例えば同じガンスリンガー特化な野比ニキと比較した場合、同じぐらいのレベルの時に野比ニキなら何処を撃っても一発当てれば倒せる相手に、キノネキだと五発ぐらい当てないと倒せないなんて事も有ったらしい。
前々から研究していたグループとしては、実銃がある程度入手出来た事により、軍の訓練に使えるレベルのエアソフトガンに近付けられるのではないかと言うのと、実銃とは違うものの本職が用いる銃器としての認識や概念により、個人差による性能のブレを減らせるのではと期待しているとの事でしたっけ。
後、私が以前に作成したマグカートリッジ式ABCライフルも結構研究がされていて、エアソフトガンの部品と組み合わせる事でより実銃に近い性能にアップグレードされていたり、属性を付与したカートリッジがあればMAGの補充だけで済む事から、数を用意するのが難しい属性弾の代わりに使用すると言った運用がされているとの話しもされましたけど、取り回しならエアソフトガン、威力なら実銃が上と言う事で、サブウェポンの域を出ることは無さそうと言ったところでしたね。
なお、当時人気が高かったのは追加効果で睡眠が入る事に着目し、睡眠付与をベースに相性無視でダメージを与える神経弾*12を再現したカートリッジらしいけど、威力や付与率はお察しなレベルのため、現地民が相手を選ばず使える武器として配布するのに丁度良い、と言うのが人気の理由だったけども。
まあ、有ると多少便利程度のサブウェポンの話は置いといて、会合をする事になった本題のキノネキがもぎ取ってきた銃弾製造許可に関してだけど、いずれ終末が来れば銃刀法なんて意味無くなるだろうからと、その時を見据えてガイア連合山梨支部でも製造可能な様に研究していく予定はあったらしい。
ただまあそこに、連合内での秘密裏にと言う条件ではあれ、弾薬製造工場建設の話が降って湧いた訳で、銃弾が確保出来なくて不遇を強いられてた面子が、ここぞとばかりに資産を注ぎ込んだのは然もありなんと言った話。
それでまあ、私の方はキノネキのアイディアにより、火栗の木*13を改造して
それから工場が正式稼働するまでは、集まった素材での銃弾の試作を繰り返し、、霊的素材を組み合わせて実弾と同様に扱える退魔弾の完成まで漕ぎ着け、火多栗の木を含めた霊草なりフォルマなりの各種素材の増産も完了する事になった。
実銃愛好部としては満足いく結果と、待ちに待った製造工場の稼働になったみたいでしたけど、どうやらキノネキの想定とは異なる結果になってしまった様で、「なんでこうなった!?」と、一人嘆いていましたね……。。
キノネキの実銃特化の性質とこれまで聞いた話からして、退魔弾みたいに霊的な属性や効果の籠もっている銃弾だと上から付与したり、スキルで一時的に上書きして放つと言った事が出来ないため、多分霊的素材を使いつつも白紙状態の、ゲーム的に言えば通常弾みたいな銃弾の完成を目指していたのかと思われる。
そう推測は出来るのですが、そもそもとして火栗は火炎属性の強い霊的素材で、それを改造して創り出した素材から火薬を精製するなら、それもまた強い火炎属性を持つ事になる訳で、そうなると必然的に真っ新な銃弾とはならないのですが、その辺の認識が抜け落ちてたのでは?とも思うところ。
まあそんな訳で、これが銃弾の密造や銃の研究にも多少関わる事になった切っ掛けのエピソードなんだけど、後に自衛隊と協力関係を結んで銃火器関連の研究を大々的に進める事になった際、これらの経験が基礎技術などの編纂をする時に役立ったし、この時の退魔弾が改良されて後のガイア弾*15なんかに繋がる訳で、人生何がどう繋がるか分からない話。
で、これで話が終わると言うのは技術者としての名折れというもの。
元々の発端は、キノネキが十全に力を発揮出来る、霊的な属性や効果が付与されていない通常弾の確保が目的と言う事で、作れるかどうかも含めてまずは色々と調べた訳だけど、現代の銃弾に使用される無煙火薬――
主な材料は綿のような植物繊維のセルロース、油脂に多く含まれるグリセリンに、肥料や農薬に使われる白色石灰窒素を加水分解や化合して精製するグアニジン、そしてこれらを化合する硝酸や硫酸などが、発射薬の製造だけで必要になる。
ここから更に、銃用雷管と呼ばれる起爆用の火薬だったり、薬莢に弾頭、使用する銃に合わせた口径の規格だったりと、銃弾一つとっても必要な要素は多く、工業的な大量生産でもないと運用出来ない理由が良く分かる話で、キノネキが製造工場の許可を取り付ける事にしたのも、まあ普通はそうするだろうと言う話。
目標とする通常弾を製造するなら、これらの材料や薬品に設備などを、外部に頼らず恒常的に確保出来る環境が必要という事。
まあそのための一歩としては、目的に適う発射薬を作れるかと言うのが重要な点だけど、作れたとして掛かりきりにならない程度の作業量に落とし込めるか、と言う点も個人的には重要な所だった。
と言うのも、確か1998年の五月辺りに行われた会合での事で、そろそろ修行場異界の下層試験を受けようかと思っていた頃ですし、常時動かしてる分身式神の数は少しずつ増やしていたものの、銃弾製造にずっと一体振り分けられる程のリソースは無かった、と言うのが当時の実状。
あの年は【神足通】へのアプローチとして量子力学からの考察に重点を置いてましたし、物理量の最小単位である量子から、錬金術的な分解と再構築――年末にアトリエ式錬金釜を作る前段階――の研究なんかもしていたと言う事も有って、分子構造や分子配列が分かれば直接組み替えて物質を構築する事も可能になっていたため、個人技能のゴリ押しでなら銃弾の作成自体は出来てたんですよね、流石にその辺はキノネキにも言ってませんが。
今にして思えば、アトリエ式錬金釜で大量生産も可能にしたのは、この時の経験による所も有るかもですねぇ……。
なのでまあ、分身式神を一体割り振れば、当面凌ぐ程度の銃弾を密造するのは可能だったりしたんですけど、個人技能頼りで代替え方法が無く、大量生産が求められる物の担当になったりすると地獄を見るのは、ガイア連合山梨支部発足当初から、式神コア作成のデスマーチを続けてるショタおじを見れば分かる話。
一応、初期頃に式神作成依頼がいい加減多過ぎるって事で、ショタおじと共同で素材とMAGを用意すれば式神コアを製作出来る端末*16を作り、掛かる負担を減らしはしたんだけど、まあショタおじ謹製の物とは比べものにならないため、最初の専用式神は相変わらずショタおじが手ずから作成しているし、何度かアップデートを繰り返して作成される式神コアの性能も上がっているとは言っても、降霊術系の適性が高くレベルも高い人員が作った物の方が出来が良いのも共通する訳で。
結局の所、程々の性能で妥協出来る運用の式神を作る時に使用されるぐらいで、専用クラスの妥協したくないレベルの式神については、ショタおじや式神製造部への依頼が止まない状態が現在まで続いていると言う話なのだけども……。
まあ超越者でもどうしようも無かった現実の話は置いておいて、個人技能頼りの方法しか無い状態で知られるとデスマーチ案件になりかねないため、それは回避したいと言う訳で、当時BBコーンの再現が終わった後に創り出した特殊農産物が、弾丸ドングリとそれを隠れ蓑にして実銃愛好部だけで共有していた弾薬ドングリの二種。
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・弾丸ドングリ
トリコの食材再現シリーズの一つで、振動を感じると鉄のように硬い殻の実が、弾丸と同じスピードで発射される木の実を付ける椎の木の一種。
地面に落ちるとすぐ毒性の芽を出すため、接地させずにキャッチする必要がある。
なお、銃弾を撃ち込まれる様なもののため、不用意に未覚醒者が近寄ると、最悪即死する事も有る危険なドングリ。
硬い殻の中には、ホクホクの栗とスイートポテトを合わせた様な優しい味の柔らかい身が詰まっている。
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・弾薬ドングリ
弾丸ドングリを隠れ蓑にして創り出した銃弾用に栽培している火薬植物。
霊木としての格は持つものの、結実する実は所謂白紙の状態で、付与による属性弾への加工がし易くなっている。
ドングリが発射される仕組みの構築にトリプルベースの
弾薬ドングリの方は、弾頭部分に柔軟性の高いゴム質の殻に包まれた種があり、そのままでもゴム弾として使用可能で、取り外して弾頭を入れ替えれば別の弾丸として利用可能。
完熟すれば自然と落果するが、弾丸ドングリとは異なり振動に反応しての発射や接地での発芽などはせず、発芽させる場合は弾頭部分が確りと地面に埋まる必要がある。
なお、発芽させる際に実弾と一緒に埋める事で、発射薬の量や配合・口径などが、埋めた弾丸と同じドングリを実らせる。
ゴム質の殻を剥いた中には、甘酸っぱくカリッとした堅めの種が入っている。
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概要としてはこんな感じの植物になっていて、周囲には銃関係の会合に出席して、また妙な思い付きでもしてトリコ食材を再現したのかと、掲示板で話題に上がってましたっけ。
まあ弾薬ドングリを使った実弾は、一応霊的素材を使っていない実弾よりは威力が高く、退魔弾と同等ぐらいなのを確認しましたが、自衛隊と協力して以降に生産されたガイア弾よりは普通に弱いですから、最近だとゴム弾として使うことの方が多いみたいですけども……。
っと、あれこれ思い返していたらキノネキが戻ってきましたか、過去のエピソードを振り返るのはこの辺にして、今とこれからの事に意識を向けましょうか。
キノネキの出身が八王子市と言う事で、同じ八王子市の養護施設出身の探求ネキと小学校時代に知り合いだった事にした結果、瑞樹と名乗り始める前の名前を設定してなかった事を思い出し、急遽設定した。
MAGを貯蔵可能なバッテリーに属性変換術式を付与する事で、一属性に偏らせたMAGカートリッジと、小銃側にカートリッジのMAGを使用した弾丸作製術式と射出術式を付与したライフル銃の模造品。
元が【マハラギ】~【アギラオ】と同程度の威力を発揮する火栗のため、精製される発射薬も強い火炎属性を持つ霊的素材となっている。
ある程度独自設定しようかと思ってた所、作者様の方で明示して貰ったため、1998年の4月頃に再会した知り合いという形で、その他は拙作世界線での時系列に合わせて設定させて頂いてます。
つまり、拙作世界線でのキノネキは今年21歳の合法ロr ターン∴・・(゚A゚ ) -=y_(▼ [壁
あった事になった過去話をつらつら書いてたら、一万二千文字超えてたので分割。
可笑しい、キノネキとの再会時エピソードを軽く入れるぐらいのつもりだったのに……。