【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
過去のあれこれを思い出していると、荷物などを置いてきたキノネキが戻ってくる気配に気付く。
「何やら考え込んでたみたいだけど、どうかした?」
「いえ、キノネキと再会した頃のことをちょっと思い出してただけですよ」
「あれからもう五年近く経つっけ、【食没】の習得時はだいぶお世話になりました。探求ネキ居なかったら習得までどれだけ掛かってたことか……」
「銃を用いた戦闘技能なら何でも器用に熟すのに、他が不器用なのは難儀な霊質してますよねぇ。料理とか霊能を絡めないなら普通に出来てますから、元から不器用って訳でも無いですし」
「その辺はもう割り切ってるよ。あの頃セツニキ先生に貰った矢立みたいに補助道具が有れば何とかなるし、その手の道具も種類が増えたからね」
そう言って有り難いことだとしみじみ頷くキノネキ。
まあ黒札的には、その辺の苦手分野への対処用に専用式神を複数持つなんて場合が多いんだけど、ショタおじ謹製とまで行かずとも高額な上に順番待ちも長く、そもそもとして相棒は一人だけって拘りを持つタイプもいるため、案外補助道具を利用する黒札も多かったりする。
そんな訳で需要があるなら作るのが技術部や私の様な個人研究勢と言う事で、戦闘時やギミックへの対応から探索中などの補助に、日常での便利な道具まで色々と試作しては、相互互助の名目で試供品として配ってデータを集め、有用そうなら製造部や購買部に投げると言った事が繰り返されて来た話。
「キャンプ道具型の補助具とか色々作りましたね、そう言えば」
「【エストマ】とかの結界機能付き固定金具に、【浄化の火】で周辺を清める事も出来るMAGバッテリー式小型コンロとかね。まああの頃で特に印象に残ってるのは、苦労して許可とってフィリピンまで銃弾確保*1に行ったら、帰国後に銃弾のなる木が出来てた事だけどね!」
「実銃愛好部の銃弾製造工場はキノネキの目標と違ったみたいでしたからね。改めて通常弾的なものを作れないか調べて、ある程度目処が立ってから話そうかと思っていたんですけど、まさか海外まで直接買い付けに行くとは思いませんでしたよ。あ、弾薬ドングリの種を使ったドングリ珈琲ありますけど、飲みます?」
「頂くよ。最初は驚いたけど結構美味しいからね」
深煎りにした弾薬ドングリの種を取り出し、【ガル】で中挽きぐらいの多少粗めで粉にしたら、【アクア】と【アギ】を組み合わせて作りだした水球を沸騰程度まで加熱し粉を投入、数十秒ほど抽出したら粉を取り出しカップへと注いでいく。
出来上がった弾薬ドングリ珈琲からは、キャラメル化反応による苦味と甘さを感じさせる芳香が立ち上り、一口含めば、焙煎によって甘酸っぱい種の酸味が抑えられ、苦味の中に確かな甘味と微かな酸味が広がる、柔らかな口当たりのドングリ珈琲が出来上がる。
「探求ネキってそう言う術だけで色々済ませるの、器用だよね」
「霊力操作の基礎鍛練って意味を除けば、器具を用意したりが面倒でものぐさしてるだけですよ。専用に器具を用意して、手順と時間を掛ければ味や効果の向上だったり、幅を広げたりも出来ますからね」
「ふーん、その辺何処までも追求してそうな気がしたんだけど、そうでも無いんだね」
「そう言った拘りは終末後の楽しみにって所です。まあ、ショタおじやセツニキに私なんかもそうですけど、
「それで好き勝手食材増やしてるから、トリコネキなんて言われるんだよ」
「まあ全体に関係するのは食料の方ってのも分かりますが、食材以外も結構作ってるはずなんですけどねぇ。そうだ、食料関連と言えば、ズボラ飯食材を研究してるグループから新作の情報が出てましたよ」
「おー、新作出るんだ。ちょっと調べて見よ、アレって旅先でキャンプする時にも一手間で食事が豪華になるから良いよね。最初に出て来たのはロースカツバナナとメンチポテトの二つだっけ?」
「私がトリコ食材を再現してから研究始めてましたから、その二つが最初ですね。確か開発で二年ぐらい掛かってましたから、購買部に並ぶ様になったのは1998年の夏祭りでお披露目した後からでしたね」
キノネキが調べてるズボラ飯食材の新作は、爆裂米と名付けられた米で、購買部のページなどに掲載されてる情報としてはこんな感じ。
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・爆裂米
レンチンや炒めるなどで熱を加えると、爆裂米同士が干渉して急速に高温となり、ポップコーンの様な膨化に必要な高温高圧状態となって弾け、10倍程度まで体積が膨らむズボラ飯食材。
甘味系の調味料などを入れて加熱すればお手軽なポン菓子に、食材を一緒に混ぜ入れた状態で加熱すると、膨化する前に周囲の食材へ熱が伝わり、絶妙なパラパラ感の炒飯となる。
なお、弾ける際には多少の衝撃が生じるため、頑丈な容器などの使用を推奨。
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「ほー、新作は爆裂米か――って、ドラえもんのひみつ道具、畑のレストラン再現の共同開発に探求ネキの名前があるんだけど?やっぱりトリコネキでは?」
「食料系ですけど、ドラえもんのひみつ道具再現であって、トリコ食材では無いからセーフでは?」
「結局トンデモ食料な分類は変わらないから、認識が変わることは無いと思うよ」
「うーむ……そうなると、いっそのこと開き直ってトリコの技も再現に挑戦してみますかねぇ。【ナイフ】や【フォーク】は霊力の形状変化と概念付与で良いとして、【釘パンチ】はどうするか……」
「名実ともにトリコネキになるのは良いとして、このひみつ道具再現品。栽培必須なのも含めてズボラ飯とは系統が違う気がするんだけどさ、その辺どうなの?」
「まあどちらかと言うとレトルト食品の分類ですから、疑問も当然ですよね。と言っても何か大きな理由が有る訳でも無く、アイディア出しをしていたところでドラえもんのひみつ道具の話が出て、植物改造エキスⅠ*2の再現が可能かとなって、試して見たら普通に出来たので、次は同系統の畑のレストランを私以外でも作れる様にしてみようって話になった結果ですね」
「つまり、ノリと勢い」
「そう言う事です」
何とも言い難いジト目で見てくるキノネキの視線を、ドングリ珈琲を飲みつつ遣り過ごして、ご機嫌取りと言う訳では無いけど弾丸ドングリを使ったクッキーをテーブルに追加する。
なお、粉末にした弾丸ドングリの実に、牛豚鳥のバターを混ぜ合わせて焼き上げただけのシンプルなクッキーだけど、外はカリッと香り立ち、中はしっとりホクホクとスイートポテトの様な甘味と旨味が広がり、弾薬ドングリの珈琲と合わせると森林浴をした様なゆったりとした気持ちになれる効果があったりする。
「はぁ、まあボクがどうこう言う事でもないから良いんだけどね。……モグモグ、んー美味しい」
「畑のレストランの方は、普通に栽培して保存食にするのが基本的な想定ですけど、一応栄養剤と促成栽培の霊符を合わせれば、数分程度で収穫出来る様にはなってますから、普段使いが出来ないって程ではないですね。まあ収納バッグなどに成熟後のを入れて持ち運ぶ方が楽ですが」
ちなみに、購買部のページなどに出してる畑のレストランの情報はこんな感じ。
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・畑のレストラン
ドラえもんのひみつ道具を参考にして、ズボラ飯食材の研究グループと共同開発した幻想植物。
基本は料理の絵柄を描いた袋に入れて販売しているが、COMPなどのアナライズを使えば、どの種がどんな料理かを確認可能。
地面に植えると桜島大根のような巨大な大根になり、蓋を開けるつもりで引っ張ると、引いた部分付近が程好く切り離され、中には調理済みの食べ物が最適な状態で完成している。
ちなみに、大根部分も普通に美味しく食べられるため、別途食材にする事も可能。
一度大根の状態まで成熟すれば、いつでも食べられる上に長期保存も可能だが、種から栽培する必要があるため、収穫までには相応の時間が掛かる。
なお、元ネタと同様に、育てる土地が痩せていると実が小さくなり味も悪くなるのは注意点。
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一応のんびり育つのを待てないって人向けに、どんな土地でも最大サイズに出来るだけの栄養をまとめた霊薬と、収穫可能まで成長させる霊符も購買では関連品として紹介しているし、成熟後の物も別途販売していたりする。
後は畑のレストランの料理数も今後増やしていく予定だそうだけど、現在有るのはこう言う場合の定番になってるガイアカレーに、チーズラビットを使ったラビカツ丼、【フード 神戸黒毛和牛鬼】*3のバラ肉を使った牛丼と足肉を使った天津飯、それから牛豚鳥の合い挽き肉を使ったミートソース・スパゲッティの五種類と言ったところ。
「この【フード 神戸黒毛和牛鬼】って、日本神解放作戦時に脳缶ニキが攻略した異界を改造して、出現する様になったフード悪魔だっけ?よく使おうと思ったね」
「畑のレストラン自体、性質上覚醒者向けの商品で、未覚醒者が食べる事は想定してないですからね。それにフード悪魔は食料としての概念情報を元から持ってる分、組み込むのが楽だったのもありますし、美味しければ良いんですよ。ただまあ、流石に【フード 神戸黒毛和牛鬼】の鬼タンを使った鬼ネギタン塩丼は却下されましたけどね、美味しいんですが……」
「え゛っ?!あれ食べたの?」
「薄切りにしても牛タンより歯応えは硬いですが、覚醒者ならそこまで気になりませんし、水辺の伝承が多くて水行の力が強いからか、噛むほどに肉汁が波の様に押し寄せてきて、ご飯やネギに塩と鬼タン特有の毒が合わさり刺激的な味でしたね」
「それ却下な理由って毒持ちだからだよね?どう考えても」
「毒と言ってもせいぜい風邪*4の状態異常が入るぐらいですから、ディスポイズンか【ポズムディ】使うなり、肉体系状態異常耐性で弾けば問題無いですよ」
「それを問題無いと言うのは、極一部だとボクは思うんだ……」
「ですかねぇ……。毒の中には旨味成分が多く含まれてるのも多いですし、毒も含めて味わえると幅が広がると思うんですが、まあこの手のは無理強いする物でも無いですからこの辺で切り上げましょうか。畑のレストランで話題が流れましたけど、もう一つの爆裂米は結構な自信作みたいでしたよ?」
何だか変な方向に話が流れそうだったので、ちょっと強引に話題転換。
私のトリコネキ呼びで話題に上げる前に流された、ズボラ飯食材の新作に話を戻す。
「んと、これか。なるほど、パフ系のお菓子にする事も、炒飯として主食にも出来るのは便利そう」
「ちなみに、パラッとしたのが良いなら乾燥状態でそのまま、しっとりさせたければ水分量の多い材料か水を足す感じで調節出来ますし、チキンライスやピラフにリゾットなんかも手軽に出来ます。何なら一度表面を水で濡らして加熱すれば、普通の白米として短時間に炊き上げる事も可能ですね」
「うーむ、飯盒なんかでゆっくり炊き上がるのを待つのも風情が有って良いんだけど、時短出来るのは魅力的だし、悩ましい……」
改めて、ズボラ飯食材を研究してるグループが発表した新作の爆裂米だけど、販売時はトウモロコシの爆裂種みたいに硬い表面をした白米で、研ぎ洗いなどは不要で乾燥状態のまま使用可能。
一袋には大体標準的な茶碗一杯分ぐらいの量が入っていて、購買部で売られているガイアカレーキット*5と合わせれば、簡単にカレーピラフを作ることも可能になってたりする。
後は出来上がり時に軽く破裂して、具材とかをかき混ぜ味を均質化する性質が有るため、加熱時には蓋付きの容器で行う必要があるのは注意点ですね。
「まあ選択肢の一つに入るぐらいが丁度良いと思いますよ。定番も良いですが、固定化すると驚きや発見が減っていって、感情の動きが鈍くなりますからね」
「あーセツニキ先生も意識して馬鹿やってないと、人間性が薄れて解脱しそうとか言ってたっけ」
「セツニキの霊的起源はまず間違い無く【魔人 ダイソウジョウ】でしょうからねぇ」
「じゃあお試しって事で、今回のツーリングに二つともいくつか買って行こうかな。他に何かお勧めは有る?」
「そうですね……、緋秘色スカーフとかどうです?最近習得した緋秘色ベスト*6の製法で作った物で、効果は同じくダメージを四分の一にしてくれますよ」
お勧めと言う事で、つい先月に星霊神社の図書館で見つけた、ショタおじによる著書と思われる魔導書*7から習得した装備を紹介してみる。
なお、その魔導書と言うのは、ここ最近ショタおじの分身が籠もって色々と書き記している知識の一部で、薄々気付いてる面子も多いけど、ショタおじが自身の中に封印している悪魔――デジタル技術部の安心院さんがおそらくルシファーの分霊辺りだろうと思われる事から、ルシファー本体の可能性有り――の知識ではないか?と思うところ。
その辺の真偽はどうであれ、記憶に引っ掛かる物があったため、図書館の一角にある前世のメガテン関連知識を集めた書架で確認したところ、今回見つけた魔導書はラストバイブル、或いは新約ラストバイブルシリーズと呼ばれる作品群に登場する術技やアイテムに類似しており、物品の作成技術や術技に関する知識が記された物と判明したと言う話。
緋秘色ベストはその魔導書で見つけた技術から作成した物の一つで、ヒヒイロカネを金属糸にする工程と布にする工程で術式を組み込み、特殊な防護概念を構築すると言う製法で織り上げた緋秘色布を使用した服になる。
服の状態での効果では無く、緋秘色布自体に被ダメを軽減する効果があるため、近いうちに防具関連を一度見直そうかと思ってるけど、まあ今は置いておこう。
「技術部の方で話題になってた、ラストバイブル系のアイテムだっけ?」
「ええ、ショタおじの書き記した魔導書の知識に寄るものですけど、製造関係は総じてレベル50以上が必要でしたし、術技も基本的にレベル30以上は無いと習得が難しい知識ばかりでしたね」
「まあ被ダメ四分の一とか言ってるなら、然もありなんって所だね。高そうだけど、属性関係無く軽減出来るのは有り難いし、買っとくかな」
「もう少し魔導書の読み込みと研究が進めば、全属性の耐性値を75%にする装備なんかも作れそうなんですけどねぇ……」
「ん?耐性値を75%ってどんな意味がある感じ?態々言うって事は悪い意味じゃ無さそうだけど」
「私もガイア連合山梨支部として集まって、メガテン知識の共有って事で本にまとめる中で知った事なんですけど、メガテン系の属性耐性って弱点・耐性無し・耐性・無効・反射・吸収が基本ですが、シリーズによってはパーセント表示だけされてるのもあるらしいんですね。で、パーセント表示の場合、耐性無しが100%で耐性が50%、逆に弱点だと150%や200%と言った感じに表記されるらしくて、耐性値を75%にする装備の場合、スキルなどでの耐性とは別に、素の耐性値を100%から75%に変更する事になります。なので仮に耐性貫通技をされた場合でも、装備の効果が維持されているなら、本来のダメージの75%になると言う事だそうですよ」
「うわっ面倒!でもその耐性値を変更する奴なら、地味にダメージを四分の一程減らせるのか。同格以上の敵と戦うなら、確かに有ると嬉しい装備だね」
「私達黒札だと霊的起源の影響もあってか、元から耐性や無効を持ってる人も居ますし、その場合貫通技を受けても元の耐性値が80%や25%などだったりする事がありますので、雑に75%で統一するのが良いとは言えないんですけどね。装備より数値が低いなら上書きしない感じに出来れば一番ですが、現状は基準品を作れる様になる所からって段階ですね」
「今でも十分凄い装備だと思うんだけど、まだまだ上を目指すのか……。ま、生産はからっきしなボクは、出来上がった物が良さそうなら買わせて貰うってだけだけどね」
「なら序でに、最近食欲界のトリコ層に追加したミルクジラ*8のミルクが採取出来ましたけど、買って行きます?」
「やっぱりトリコネキじゃないか」
そう言って笑うキノネキのコップに追加の珈琲を注ぎながら、穏やかな午後の一時が過ぎていく。
蓋を開けるつもりで果実を引っ張ると、引いた部分付近が程好く切り離され、中には薬液に付与された料理の概念情報を素に、調理済みの食べ物が最適な状態で完成している。
潮吹きするミルクは、通常の牛の1,000倍に届く程の脂肪分を含んでおり、暴食系黒札も満足できるぐらいに濃厚で栄養が豊富に含まれている。
なお、ストレスが掛かるとミルクの出が悪くなる上、自然死以外では著しく素材の味が落ちる性質があるため注意が必要。