【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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103:巌戸台の日常 五

 軽く説明する程度のつもりが思いのほか長くなったけど、一応最低限の説明は出来たと思う辺りで話を切り上げ、とりあえず動き出す事にしてから少し。

 この空間に引き込まれた直後に聞こえた声から、忘却の回廊と呼ぶ事にした通路を当てもなく歩いていると、全体的に白い回廊の中では一際目立つシャドウの黒い姿を発見する。

 

「あ、やっぱりシャドウは出てくるのか」

「あの黒いのがシャドウって奴?何か余り強そうには見えないけど……」

「拙者には野犬や猪ぐらいには強そうに思うで御座るが?」

「んー多分だけど、忘却の回廊自体が初めて造られたから、シャドウも余り強いのは出てこれない感じかな?何度も儀式をされて認識が強固になると、もっと強いシャドウが出る様になるかも」

「なるほど、つまりシャドウとしては与しやすい相手と言う事で御座るな!しからば、一番槍は武士の誉れに御座る!」

 

《我は汝、汝は我 我が名はホンダタダカツ!東国無双の侍なり!》

 

 戦うべき敵と相対した事がトリガーとなったのか、普段から持ち歩いてるねじ込み式の模擬槍を組み立てた二代が、実に良い笑顔を浮かべて槍を手に踏み出すのに併せて湧き上がる様にペルソナが出現し、一切の躊躇い無くシャドウへ駆け寄り間合いに捉えると、槍を突き入れる。

 流石に覚醒直後のペルソナの一撃で倒せる程では無かったみたいだけど、直後に二代が突き出した模擬槍が刺さり、シャドウが倒れ伏す。

 

「ふぅ……って、なんで御座るかこれ?!」

「猪武者かな?視た感じアルカナは【戦車】みたいだし、一直線に突き進む感じなのは間違い無いね。これは」

「私の方が先に覚醒してたのに、何かする間もなく終わったんだけど……?」

「まあ二代らしいっちゃらしいんじゃない?二代!それがさっき話したペルソナって奴だね」

「おお!これが――って、ああぁ?!消えたで御座る……」

「一度出せたなら大丈夫、ペルソナ発動用の補助具渡すから、次からはそれ持ってペルソナを纏う様に意識すれば出せるよ。後は発動して動かすと霊力も消耗するから、ペルソナ以外での攻撃も重要なんだけど、二代は槍があるから大丈夫か」

「うぇ、そう言えばペルソナ出すと凄く疲れてたけど、アレって霊力ってのを消費してたんだ……。武器なんて持ち歩いてないし、私だと殴ったり蹴ったりする必要があるって事か」

「あ、そう言えば裕奈も何か武器はあった方がいいよね。何か使ってみたいのって有る?色々と集めてるから、大体の武器は持ってるけど」

 

 とりあえずペルソナ使いに覚醒したばかりの二代には、ペルソナ発動の補助道具を渡して発動感覚を確かめさせて置くとして、唐突に巻き込まれた関係で忘れてた裕奈の武器に関して何を使うか聞いてみる。

 

「武器を持ってるってのは今更だから置いとくけど、なんで持ち歩いてんの?貸してくれるなら助かるけど」

「何時何があるか分からないからね~。例えば木製の武器じゃないとダメージが通らない法則が設定された異界、なんてのも有ったりするからさ。一点特化型なら極めた一つで強引に突破する事も出来るけど、私は万能型だから色々と用意してるんだよね」

「もう何度目か忘れたけど、覚える事多すぎない?」

「本人の資質によって変わるけど、ぶっちゃけかなり多いよ。特化の度合いが高いとそれを基点に組み立てられるから、覚える範囲を限定出来るけどね」

「私、出来れば何かに特化してて欲しいかなぁ……。それにしても武器か~、剣とかの近付いてどうこうってのは経験無いんだよねぇ。子供の頃にハワイでお母さんから拳銃の撃ち方は習ったけど、流石に銃は無いだろうし――」

自動拳銃(オートマチック)なら有名どころでグロックにトカレフ、ワルサーP38やベレッタM92、大口径ならコルトガバメントやデザート・イーグルにヘッケラー&コッホのUSP辺りは有るよ。リボルバーだとコンバットマグナムにコルト・パイソン、ピースメーカー辺りかな」

「へ?いやなんで銃が有るの??うわっ、マジで本物だし……」

「霊能的に銃と相性が良い場合も有るから、ガイア連合でもそう言う人向けに取り扱ってるんだよね」

 

 一先ずテーブルを出して、普段使用の収納バッグに入れてる拳銃を取り出し並べていくと、表情は困惑しながらドン引きしてる様な声が聞こえてくる。

 まあ私は瑞樹経由で手に入れたから詳しくは無いんだけど、昔は実銃愛好部が伝手を辿って集めた物を一部で取引してた感じで、自衛隊と協力する事になった後は、ガイアグループの方でライセンス生産なんかもする様になって、割と色々な種類の銃器を入手可能になってる。

 そんな訳で、基本的には古いモデルの銃器が多いんだけど、なんか半終末になる少し前には占術で良くない結果が出たとかで、海外の銃器メーカーから金で買ったり潜入して設計図などの情報を戴い(保護し)てきたりしたらしく、核ミサイルで消し飛んだメーカーの技術が失われずに済んだとか何とか。

 

「まあオカルト組織なんて裏社会みたいな感じがするし、そう言う物と考えた方が良いか……。それは兎も角、使うならやっぱりグロックかな。リボルバーも格好いいけど、戦いで使うと考えると弾数は多い方が良いだろうし、ちなみにマガジンとかはどの程度あるの?」

「弾丸だけなら9パラとマグナム弾合わせて万単位で入れてるけど、弾込めしてあるマガジンはそれぞれ2個ずつかな」

「……マガジン数は兎も角、弾丸の単位が可笑しくない?」

「消耗品系は溜め込む癖が付いちゃってね。まあ大量に持ち運べる収納バッグが有るからって話もあるけど、おかげで今困らない訳だしねぇ。そんじゃマガジンポーチも渡しとく、マガジンの方には術式の細工がしてあって、空になったのをポーチに入れるだけで自動で弾込めしてくれるから、使い終わったらポーチに戻す様にね」

「何その便利機能」

「リボルバーの方だと、排莢してシリンダーを戻せば自動装填される術式を施してるから、リロードも楽だよ」

「それってリロードの手間が殆ど無くなってるじゃん……。一応コンバットマグナムも持っておくかな」

「そっちの話は終わった様で御座るな。琴音、ペルソナを発動する感覚は掴めたのだが、消耗した霊力とやらはどうすれば回復するので御座るか?」

「あ、覚醒したばかりならペルソナ発動の練習するだけでも結構消耗するか。方法は色々有るけど、簡単なのは回復薬か食事かな」

「専用の薬は分かるが、食事で御座るか?」

 

 食事で霊力を回復するって事に疑問を浮かべる二人だけど、理屈としてはそう難しい話では無くて、食材に含まれている霊力を取り込むってのと、美味しい料理を食べる事で生じる高揚が霊力を生み出す素になるからと言う物。

 まあ霊力や魔力、精神力だったり気力に生体マグネタイトなど、色々と呼び方は有るけど感情の高ぶりによって増幅されるエネルギーってのは共通していて、悪魔が恐怖や苦痛を与えたり快楽などに堕とすってのも、わかり易い感情に誘導する事でエネルギーを増幅させて、食料にしたり何かに利用してる訳だしね。

 

「――っと、そんな訳でペルソナ使いだと精神力と呼んだりもするけど、本質的には同じエネルギーを呼び分けてるだけだから、霊能力者の組織って事で基本は霊力と呼んでるね。まあその辺の呼び方は兎も角、霊力回復を兼ねた食料は色々有るよ」

「なるほど、では団子は有るで御座るか?」

「いくつか種類有るけど、お腹に貯まりすぎるのもアレだし三色団子辺りが良いかな?」

 

 ヒノエ米を製粉した上新粉とヒノト米*1を製粉した白玉粉を混ぜ合わせた物に、樒の霊木化技術から派生した霊的植物の強化栽培技術*2を用いて栽培された素材を使い、桃の果肉を使った桃餡を、乾燥させ粉末にした桃の皮を混ぜて練り上げた皮で包んだ桃餡団子、胡麻の餡子をプレーンな白玉の皮で包んだ胡麻餡団子、基本的な小豆餡を(よもぎ)の若葉を加えて練り上げた皮で包んだ蓬団子の三つを串に刺した三色団子(個包装)を取り出して渡す。

 

「琴音の鞄はドラ○もんの四次元ポケットか何かなの?」

「それは瑞樹の方かな?私のは収納用の空間構築と時間停止機能を付けた奴で、他の取り出し口とか無いし、ひみつ道具も入れてないからね」

「時間停止機能付きの大容量バッグってだけで十分四次元ポケットじゃない?」

「おお、桃餡とは珍しいが、桃を直接囓ってるかの様な瑞々しさと、餡子としてのしっとり滑らかな風味が合わさって美味いで御座るな!それにしても、琴音の口ぶりだとひみつ道具自体は有ったりするので御座るか?あむっ、今度は胡麻餡で御座るか!」

「うわ、美味そう……ってか、そうじゃん。入れてないってだけで、ひみつ道具自体が無いとは言ってない!」

「ガイア連合の一部技術者にはひみつ道具の再現を目指してるのも居るから、それっぽいのも有ったりはするね。まあ私は持ってないから、気になるなら後で瑞樹に聞く方が良いよ」

「その瑞樹と言う御仁はどなたで御座るか?うむ、最後の蓬団子も香り高く良い団子で御座った。疲れた体に染み渡る様で、これなら直ぐにでも戦えるで御座る。シャドウとやらもあの様子なら問題は御座らんな」

「琴音が所属してるガイア連合の、巌戸台周辺を管轄してる支部長、で良いんだよね?」

「うん、二代も無事ペルソナ使いに覚醒した訳だし、今後を考えると裕奈と同じくガイア連合に所属して貰う事になるから、ここを脱出したら紹介するね」

「序でに言うと、琴音のいい人なんだってさ」

「なんと!男より女子からの人気が高い琴音に男の影が有るとは……。琴音より拙者の方が先だろうと思って御座ったが」

「おい」

 

 二代の失礼な物言いに思わず低い声が出てしまったが、ある意味いつもの学校でのノリと言う事も有って、サクッとスルーされる。

 

「琴音に相手が居るってのは驚きだよね~。まあ相手の人女性なんだけど」

「なるほど、男に見切りを付けて同性愛に向かった訳で御座るな。しかしそうなると、同じ気の有る裕奈の矛先を逸らす先が無くなってしまうで御座るな。拙者は道場の後継ぎを産まねばならぬ故、共感は出来ぬのだが……」

「いや私レズじゃないんだけど?!」

「え、違うの?着替え中とか頻繁に胸揉んできたりするから、まだその気は無くても裕奈も興味はあるんだと思ってたけど」

「おい」

 

 今度は私の言葉に裕奈がツッコミを入れてくるが、まあいつもの事だしさっきのお返しと言う事でスルーする。

 

「やはりこの中でまともなのは拙者だけで御座るな」

「まとも?ラブレターを果たし状と勘違いして、話も聞かずに叩きのめした脳筋娘な二代が?」

「男子がいても平然と着替えるせいで、男子共のメインおかずとか言われてる二代が?」

「はは、言ってくれるで御座るな!その喧嘩買うで御座るよ!」

「ちょっ、二代?!」

「まあ覚醒したてならこんな感じかな?ほい〝縛鎖掌*3〟」

「ぬぁ?!」

 

 覚醒したては暴走しがちって事で、普段のノリに合わせて呷ってみたら、案の定力で解決すると言う普段ならいくら二代でもしない行動に出て来たため、認知異界の中だからって訳で多少荒療治的に対処する事に。

 二代自身体育会系のノリが多分に有る事から、威力をほぼゼロまで抑えた【浸透勁】による相性貫通効果で装備の耐性をすり抜け、緊縛の状態異常を付与する攻撃で鎮圧し、力の差をわかり易く示す事で話を受け入れやすくする下地を作っておく。

 

「覚醒直後の全能感で気が大きくなってる感じがしたから多少呷ってみたけど、基本的には普段通りだったし、二代自身槍術の鍛練などで精神修養もしてるみたいだから、一度負けて落ち着けば大丈夫かな?」

「そういや私の時も最初確認してたっけ、若干普段より二代への煽りが強い気がしたけど、それでもいきなり攻撃してきたのは二代らしく無いよね」

「裕奈の時は安全な拠点で時間も掛けられたし、覚醒した状況も違うからね。二代はシャドウとの戦いで覚醒した上に、一方的に攻撃して倒せたからってのが大きいと思う。成功体験は気を緩ませるからねぇ」

「ぬぐぐ、拙者もまだまだ修行が足りぬで御座るな……。それにしても手足が全く動かぬのだが、どうなっているで御座るか?」

「さっき二代の攻撃を避けながら、【シバブー(金縛りの術)】を乗せた【浸透勁】を打ち込んで、緊縛(BIND)状態にした感じだね。今の二代みたいに状態異常を受けただけで詰みになる事も多いから、さっき渡した大和の首飾りみたいな状態異常対策装備は可能な限り揃えるべきなんだよね」

「状態異常が怖い物と言うのは理解したで御座るが、首飾りを付けていても拙者が今掛かっているのはどう言う事で御座る?」

「【浸透勁】で装備の耐性を貫通させて術を掛けたってだけだね。まあここの認知異界ぐらいの敵レベルなら早々耐性貫通なんてしてこないから大丈夫だろうけど――っと、色々やってる内にシャドウが湧いてきたね。次は裕奈の初実戦と行こっか」

「オッケー、銃使うのも久しぶりだし、確り狙って……」

 

 緊縛(BIND)状態で転がってる二代を回復した所で、シャドウが一体近付いてくるのを感じ取り、さっきは二代だけで終わったため、次は裕奈に戦う機会を譲る。

 一歩前にでた裕奈は、正式に習った事があると言うだけあって、手順などを思い出しながらのゆっくりでは有るけど、もたつく事無く銃を構えて慎重に狙いを付けると、一発目からシャドウに命中させて撃破に成功する。

 

「昔は一発撃つ度に凄い衝撃を感じたんだけど、これも成長って事かな~」

「この様子だと銃の適性は高そうだね」

「そう?まあしっくりきてるのは確かだけど」

「50メートルぐらいの距離で一発目から当てられるなら十分以上でしょ。慣れてなかったり適性が低いと10メートル先でも普通に外すし」

 

 そんな感じで裕奈の初戦も恙なく終わり、本格的に忘却の回廊を進み始めると、ポツポツとシャドウが現れ出す。

 

「作られたばかりだからか、それとも入り口付近なのかは分からないけど、出てくるシャドウが弱いのは二人のレベル上げに丁度よさそうかな?」

「レベルで御座るか?」

「琴音が所属してるガイア連合って組織だと、霊格とか言うのを数値化した物でレベルってのがあるらしいよ」

「霊力を保有出来る最大量とか霊力の出力とかが判断の基準になってるから、技量を含めた純粋な強さの指標では無いけど、それでもどの程度のスペックが有るかは分かるしね」

「そのレベルが上がる事でどの程度強くなるのかが分からぬと、実感も湧かぬで御座るな」

「まあそれもそうか、んー覚醒直後をレベル1として、達人と呼ばれる辺りがレベル16以上、レベル31以上になったら人間の限界を超えたって事で超人と呼んだりもするね」

「あ、そんな分類もあるんだ。ちなみに琴音はどの辺り?」

「超人以降のレベルはあるよ」

「……マジで?」

「かすりもせずに鎮圧されたのは当然で御座ったか」

「だからまあ、シャドウが弱い内は二人のレベル上げをメインにして、手に余るシャドウが出てくる様になったら私が対処するって感じかな?本当なら色々と説明して訓練とかを挟むんだけど、巻き込まれた以上はその中でどうにかしないとね」

 

 現れるシャドウを裕奈と二代にそれぞれ倒させてレベル上げを行いつつ、必要になりそうな知識や情報などを話ながら進んでいると、長い一本道だった忘却の回廊に初めての変化が現れる。

 

「最後まで一本道なら楽だったんだけどねぇ」

「別れ道で御座るか、どちらが正解かなどは分からぬで御座るな」

「だね~、どうする?適当に決める?」

「ぶっちゃけ適当に決めるしか無いのは事実だし、私は右かな」

「私も賛成、二代は?」

「この手の選択は外す事が多い故、拙者は権利を放棄して二人の判断に任せるで御座る」

「了解、そんじゃ基本は私と裕奈で決めるとして、二代も何か気になったら言ってね」

 

 覚醒直後の鼻っ柱を早々に折ったのも良い方向に作用した様で、いきなり実戦に突っ込む事になった二人にアドバイスしたり、適宜回復なりでサポートしつつ積極的に会話を続けた事も合わせて、三人で遊びに行った時の様な雰囲気に落ち着いたのは良い感じ。

 そうして別れ道の変化が出て来てからしばらく、一応COMPでマップを記録しながら、霊感頼りで進む道を選択する事十数回、相変わらず回廊の見た目には何の変化も見られないまま進んでいると、不意に何かの違和感を覚える。

 

「ん?何かあったかな……」

「どうしたの琴音?またシャドウ?」

「それらしき姿は見えぬで御座るが……」

「や、シャドウとは別。違和感というか何と言うか、モヤッとした感覚がね。…………うん、多分の推測だけど、ここに引きずり込まれた直後に聞こえた様に、目的地へ近付くほどに現実世界の記憶を忘れさせられてるっぽい感じだね」

「路地裏で儀式してた連中が現世を忘れて~とか言ってた奴の事?」

「そそ、忘却関係だと記憶を封印したりする術とかも有るからね。流石に忘却防止に特化した装備までは常備してないから大和の首飾りを渡した訳なんだけど、認知異界構築の根幹に据えられてるだけあって、装備だと緩和は出来ても完全に防ぐのは無理っぽいね」

「記憶を消されると言うのは、ぞっとしない話で御座るな……」

「まあ記憶の完全消去って訳では無いはずだし、ここを脱出すれば取り戻せるから大丈夫だとは思うけどね。兎も角、進むほどに忘却の力が強まるのが分かったし、ここに居る時間が長くなるとその分消される割合も増えるだろうから、ここからはもう少しペースを上げていくよ」

 

 確証は無いし、私自身も二人にしても、何かを忘れてるとは思えない所だけど、そもそも()()()()()()()()()()()()()()可能性も有る。

 忘却が表面化するってのは、覚えていて当たり前と無意識に感じる物事すら思い出せない状況だろうし、その状態まで陥った時に、忘却の回廊やその先にある認知異界を脱出する考えが残っているかも怪しい話。

 そんな詰みに繋がりかねない状況の推測も思い付く範囲で共有しつつ、出現数や強さを増してくるシャドウを裕奈の先制攻撃と二代の追撃で薙ぎ倒しながら足早に進み、また何度か別れ道を進むと今度は三つに道が分かれた場所へと辿り着く。

 

「今度は十字路で御座るか……」

「ゲーム的なら正解ルートで先に進めてるって感じだけど、どうなんだろ」

「状況は変化してるし、進んでると考えて良いと思うよ。とりあえずどの道行くか決めよっか」

「オッケー、そんじゃせーのっ」

「真ん中!」「右!」

「おや、裕奈が真ん中で琴音が右とは、初めて意見が分かれたで御座るな」

「んーいや、ここは真ん中の方に行こう」

「いいの?私より琴音の方がレベル高いって事は、霊感ってのも強いんじゃ無い?」

「裕奈が真ん中を選んだ後、もう一度どの道に行くべきか確認し直したら真ん中の方が良さそうに感じたからね」

「ふむ、拙者には良く分からぬで御座るが、意見が一致したのであれば進むべきで御座ろう」

「それもそっか。でもここまで同じだった選択が分かれるってのも何かありそう?」

「何か理由がある可能性は十分にあるだろうけど、それを調べる方法は今のところ思い付かないかな」

 

 まあ思い付かないからと言って考えるのを止める訳にはいかないんだけど、ゲームと違って必ずしも答えが有るとは限らないし、頭の片隅にでもおいとくぐらいかな。

 ともあれ選んだ道を進んで行けば、シャドウもまた一段強くなり数も増えてきたけど、ここまで戦ってきた事で二人共少なからずレベルアップしており、戦闘自体は危なげなく進んでいく。

 

「よっと、うん。マグナム弾の反動にも慣れてきたし、威力的にもこっからはコンバットマグナムをメインにしてくかな~」

「裕奈の方は銃弾の変更で対処出来そうだけど、二代の方は流石に模擬槍だと厳しくなってきたね」

「うむ、確かに手応えは鈍くなってきたで御座るな。ペルソナでの攻撃なら問題は御座らんが……」

「遠距離の私と違って毎回発動してるから、ちょくちょくお団子食べてるもんね~。その分ペルソナの発動速度とかもガンガン成長してるみたいだけど」

「霊力回復アイテムはまだまだ余裕は有るけど、問題は摂取カロリーかな?」

「ぬぐぅ、いや!普段から槍術の鍛練で動いているで御座る!団子の十や二十を食べたところで!」

「二代の場合、腹じゃなくて胸に行ってるだけじゃない?去年より更に大きくなってるでしょ」

「確かに冬頃測ったら大きくなって御座ったが……ふむ?いくつで御座ったか?」

「自分の胸のサイズをピンポイントで忘れるって、忘却の回廊のせいなのか、二代の素なのかわからんね」

「二代だと素で忘れてそうなのがねぇ~」

「いやいや、いくら拙者でも下着サイズの問題もある故、忘れたりしないで御座るが?」

 

 なんか不意に脱線した先で、忘却の回廊による影響らしき物を実感する事になったけど、二代のバストサイズなんて計り直せば良いだけの情報だし、忘れたところで問題も無いから良いとして、問題なのは推測した通り、肉体系・精神系状態異常無効の効果付き装備でも防げない忘却のギミック。

 今発覚した様な忘れたところで問題にもならない記憶なら兎も角、現実世界への未練――過去の思い出や現実に執着する理由となる何かを忘れる段階まで至ると、その時点で脱出する意思すら消えてしまう可能性が有ると言う事。

 地味に焦りが出てくる状況だけど、だからと言って二人のレベル上げをしないのも、良くない結末に繋がりそうな予感がするんだよね……。

 

「二代は時々うっかりで忘れてる事も有るからねぇ。まあそれは兎も角、槍も何本か持ってるから使えそうなの選んでね」

「あ、大体の武器持ってるって言ってたのマジなんだ……」

「…………ふむ、ではこの中では一番手に馴染む笹穂槍にするで御座るよ」

「オッケ、低レベル向けの武器だし、最悪使い潰すぐらいのつもりで良いからね」

 

 私がガイア連合に入った初期の頃、メイン武器を選ぶ過程で色々試してた武器の中から槍分類のを並べると、一つ一つ試し振りして二代が選んだのは、自前の模擬槍と同じく穂先が笹穂の様な形状をしている槍。

 一応は霊鉄や霊木を使ってはいるけど、他には目立った効果も付与されていない物で、武器としては大体レベル10~20後半の間で使えるぐらいのだったかな?

 まあ、今となっては手加減する時ぐらいしか使う事も無い装備だし、ここを出るまでの一時しのぎになれば十分ってところだね。

 

「それじゃ二代の武器も更新したし、またガンガン進んで行こっか」

「オッケー!」「うむ」

 

 出現するシャドウ自体は問題無いとして、問題は霊格(レベル)の低い二人が認知異界の影響――忘却のギミックを強く受けるだろう事かな……。

 さっきの十字路が出てきた時の通路選択、私が感じたのは真ん中と右のどちらかが正解だろうと言う物で、裕奈が真ん中を選んだ直後に私の霊感も真ん中に収束したのを考えるに、どう言う理由かまでは不明だけど、この忘却の回廊を進むための鍵は多分、裕奈だ――

*1
拙作の〝029:三年目の年末と新年の恒例〟にて登場させた、ヒノエ米と同様にサクナヒメの異界で栽培されている餅米。独自設定。

*2
『【カオ転三次】『俺たち』閑話集』様の〝とある転生者と『真実の愛』の顛末〟の薬師ネキが家業として継承していた樒を霊木化する技術が、『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』様の〝見た目無惨様の何か色々開発記 初期編〟にて、元から霊木や霊草になってる植物も、副作用無しで効力を高める事が可能な技術と判明した物。

*3
【浸透勁】+【シバブー】

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