【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「試作した精神回収術式の動作は問題無しですね。異界の主をしているだろうアレに気取られない様、一旦精神は異界に戻しておいて、生身の利用客の退避が終われば一斉に回収出来る様マーキングする感じで行きますか」
心療娯楽施設アムネジアの認知異界から、突入班が生身の利用客を連れ出す作業を進める横で、私の方も木分身と瑠璃の電霊を連携させ、囚われた精神の回収準備を進めていく。
通信画面越しに見るだけだと流石に分からなかったけど、現実で動いて居る精神だけが取り込まれてる利用客を、認知異界内の精神側と併せて調べて見ると、肉体側の精神全てがネガティブマインドに染まっているのでは無く、巧妙に隠されていたけど極僅かにポジティブマインドが残っていて、それを経路としてアムネジアの認知異界と繋がっているのが判明する。
終末思想信者とかの行動をどう統制取っているのかと思っていたけど、どうやら直接指示出して操れる手駒にしていたからって事の様子。
まあ主導権をニャルのペルソナが持ってる訳だし、手駒として動かすのも楽って事なんでしょうね。
「アレのペルソナ自体は、人間の持つ根源的な破壊衝動みたいな物ですし、ポジティブマインドを戻す際に破壊衝動を抑える様な思考誘導でも併せておけばとりあえず大丈夫でしょう。一度落ち着いた後、それでも衝動に呑まれるならどの道でしょうし」
こちらの準備は大分進み、とりあえず最初のエリアに居た利用客分のマーキングは完了、次ぎはそれ以外のより深く精神を囚われている利用客の処置に取りかかろうかと言った所で、突入班による運び出し作業が終わり、精神が囚われている様子も無いとの事から、一先ず精神回収の実行に移る。
術式を起動させれば、一分程でマークして置いた利用者の肉体に精神が戻っていくのを確認し、通信先の突入班へと連絡を入れる。
「突入班、第一エリア内の精神回収は終わりましたが変化はありますか?」
「はいはいこちら突入班、地下三階に下り階段が出現したから、これから確認していくよ~」
「新規エリアに伴いサーチを実行、マップの更新を行います」
ネコ覚ネキが元気な声で返答しながらも慎重に階段を降りていくのと、それに併せて瑠璃がサポートを開始するのを眺めつつ、私の方は必要になるだろう他利用者へのマーク作業を並行して進めていく。
「サーチに敵対反応有り」
「ふむ、ようやくシャドウのお出ましかな?」
「いえ、反応パターンは認知異界に囚われた利用者の精神と酷似しています」
「それはまさか……」
「救助対象が洗脳されて敵に回るってのは、メシア教の施設で何度も見てきたけど、認知異界で同じ状況に遭遇するとは思わなかったわね」
突入班が階段を降りて、施設的に言えば地下四階にでも当たる第二エリアへ踏み込むと、そこには体育館ほどの大きさの部屋が広がっており、更には人の要素を最低限だけ残したマネキンや棒人間の様な、人の形をした何かが手に銃を持って待ち構えている光景が広がっていた。
通信画面にその状景が映し出された次の瞬間、それらの持つ銃火器が一斉に火を噴き、明確な殺意を持って銃弾が放たれる。
「戦闘は吾輩の魅せ所、その攻撃防がせて貰おう」
銃撃が行われる直前、チームの先頭へ進み出たネコカオスニキが一枚の霊符を取り出し、装甲護符の術式で即席の壁を作り出す。
壁が展開された直後、降り注ぐ銃弾の雨が轟音を立てて壁に叩き付けられるが、展開された装甲護符の壁は小揺るぎもせず銃弾を防ぎきる。
「音はうるさいけど、攻撃自体はそこまででも無さそう?」
「うむ、この程度ならしばらくは問題にゃいな」
「ならその間に攻撃してきてる敵を調べたいところだけどね……。探求ネキ、あれに攻撃したらどうなるか予想は付く?」
「正確なところは瑠璃の【情報解析】待ちですが、基本的には第一エリアで精神だけ囚われた状態の利用者と同じでしょうね。下手に攻撃して致死量のダメージを与えると、最低でも生身ごと死ぬか、或いは無気力症辺りの状態ですね。ただ、より深度が深い場所で攻撃してきたのを考えると――」
「マスター、解析結果が出ました。第一エリアの精神体よりポジティブマインドの比率が高いみたいです」
第一エリアの精神体を解析していたおかげか、軽く予想を話している間に結果が出た様で、瑠璃が表示させた情報と現実側に居る利用客とを併せて確認したところ、仕掛けられたギミックについても色々と見えてくる。
「N案件だけあって、やはり最悪のパターンになりますか……」
「それってさっき言いかけてた奴?」
「ええ、まず現在このエリアに居る利用客の肉体はアレの手駒として使用されていますが、ここに居る精神が死んだ場合、肉体はアレの端末として自由行動が可能となりそうです」
「うわっ面倒な事を……」
「ふむ……それだけならば眠らせるにゃりすれば良いだけだろう。まず、と前置きしたと言う事は、まだ何かあるのだな?」
「そうですね。今日の日中に過去三ヶ月の利用客――利用頻度が高く、精神を囚われている可能性が高い人物の所在を調べて貰いましたけど、どうやら想定する規模が足りていなかった様です」
「調べたのは確か三百人ぐらいだったはずだけど、もっと該当者が居たって事かしら?」
「該当者もそうですが、範囲も都内どころではなかったって事ですね。今攻撃してきているマネキンか棒人間みたいな者達――とりあえずヒトガタとでも呼びますが、あれら一体一体が数十から数百人程の意識の集合体で、アムネジアの施設を使用した事の有る人物を媒介に、利用者の周辺で眠ると夢の中でアムネジアの認知異界に接続される仕組みが見つかりました。それも夢経由でも精神が囚われると、新たな感染源となる仕組み付きで」
「「はぁ?!」」
銀鈴ネキとネコ覚ネキが驚きの声を上げるが、まあ無理も無い話。
現在通路の先から銃撃してきているヒトガタの数は軽く見て二十体ほど、マップに映っているエネミー反応が続々と集まって来ているのを見ても、ここに囚われている人数は最低でも万単位。
更には、今回の調査依頼が出た経緯であるここ三ヶ月の犯罪者増加が、表出した氷山の一角でしか無く、アムネジア利用者と言う感染源を媒介として、夢の中で認知異界に繋がった者達が精神を囚われる事で新たな感染源となり、そうした
私が調べた際の〝利用者の共通認識によって構築されている認知異界〟との認識自体は間違いでは無かったけど、アムネジアの施設自体の利用者だけと誤認させられ、夢経由で認知異界を利用した者達に気付けない様に細工されていた辺り、
「それだけの人が囚われ、操られているのか……」
「このエリアにいる利用者は望んで異界に囚われてますし、自主的に外敵の排除に動いているので、洗脳などで操られていたりはしてないですね」
「む?認識を歪められていたりと言った訳でも無いのか?」
「解析した情報からの判断ですが、あのヒトガタに理性や意思などは無いみたいですからね。有ってもせいぜい深層意識程度ですし、ここに囚われていると言う事は、イコールで全てを投げ出して遊ぶ事を選んだ者達ですから、楽園を壊そうとする相手を本能的に攻撃していると言うのが一番近いかと」
「このままだと死ぬってのに、救助を拒むってのも良く分からないわね……」
「死ぬって事を理解してないのもあるんじゃない?後は何時までも遊んでいたいとかの、ピーターパン症候群みたいな連中ってことでしょ。それよりこっからどうするか、だよね~」
明石教授の疑問に答えている内に、銀鈴ネキやネコ覚ネキも通常思考に戻った様で、表示されてるエネミー数が百を超えてそろそろ二百に届きそうなマップを見て、ネコ覚ネキがぼやきを溢す。
「壁での防御は問題無いが……吾輩、小難しい事は専門外なので、何をどうすれば良いか端的に説明して欲しいにゃ」
「ヒトガタは基本的にストレス耐性が低いみたいなので、ダメージを含まない状態異常でヒトガタにストレスを与えて下さい。発生したネガティブマインドが肉体側へ流れる経路を辿って本体を特定し、精神を肉体へ強制送還します」
「さっきは現実側の目印が必要だったみたいだけど、こっちは無しでもいけるんだ」
「第一エリアの方で得たデータがあったのと、こっちは異界の主が手駒にするための経路があるからですね。まあ私だけだと、経路を割り出して現実側の生身を探知する作業にかなりの時間を取られたでしょうけど、電霊使役に特化させた瑠璃を用意したのが功を奏しました」
「OK、それなら暴徒鎮圧と行きましょうか!」
「いつもよりアグレッシヴであるな。では吾輩も続くとしよう【バインドボイス*1】!」
方針が決まった所で、早速とばかりに銀鈴ネキが収納バッグからスタングレネードを取り出し壁の向こうへと投げ込み、非殺傷目的で訓練用のイメージを補強するつもりなのか、軍の訓練でも使えそうなレベルで精巧に作られたエアソフトガンを持ち出して、壁に身を隠しながら的確に敵を撃ち倒していく。
それに一拍遅れて、ネコカオスニキも状態異常をバラ撒き、ワラワラと集まるヒトガタを一網打尽にして行く。
「弱っ!?状態異常の耐性は無いし、銀鈴ネキの訓練仕様なエアガンでほぼ瀕死とか、下手に攻撃するだけで消滅するじゃん!」
「それが狙いなんでしょうねぇ。ここに精神を囚われていると言っても、当人は覚醒もしていない一般人ですし……。とりあえず、通常の緊縛状態だとそれだけでも死にかねませんし【メパトラ】掛けておきますね。ネコカオスニキはもう少し弱めで範囲を広げる感じにお願いします」
「うむ承った。そう言えば、未覚醒だと状態異常どころか【タルンダ】などのデバフでも命を落としかねんのだったか」
「異界の先に進んで強い敵が出るかと思えば、未覚醒者による人間の盾とか、まさにアレのやりそうな事よね。――っと、マップだとまだ敵反応は残ってるけど、見える範囲は鎮圧完了ね」
「制圧済みのエネミーとそれ以外のマップ表示を変更します。続いて、並行して行っていたエリア全体のサーチが完了しました。エリア全体マップとエネミー配置を表示します」
第二エリアに入って直ぐの広間で行われた戦闘が一段落した所で、エリア解析を続けていた瑠璃から情報の更新が行われる。
表示されたマップを見た限りだと残りのヒトガタはまだ百体以上、施設を調べて見つけた細工がメインかと思っていましたけど、始点が施設との事実は同じでも、本命は楽な方向に流れ易く自主性の乏しい
今後同様の手口を許さないためにも考察は続けつつ、一先ずは現状の対処と言う事で、弱めの状態異常(緊縛)で転がっているヒトガタを対象に、肉体と繋がっている経路を通して精神を叩き返す術式を発動。
その経路から割り出した生身が居る座標へと木分身が転移して、精神が戻ってニャルのペルソナが沈静化しているかの確認を行っていく。
「術式の方は問題無い様ですね。ヒトガタは意識集合体ですし、構成している人数全員を戻せば消えるのも予想通りですね」
「対処としてはネコカオスニキの【バインドボイス】なりで行動不能にして、探求ネキが遠隔で術を行使する感じで良いわね。となると、まずはマップの残りを行動不能にして、探求ネキが一括で処理可能な状態にした方が良さそうね」
「ふむ、見つけた端から順に送り返すでも良さそうに思えるが、一括での処理を提案する理由でも?」
「あ、N案件」
「おk把握、気付かれずに動くなら行動は一気に行くべきだにゃ」
「そう言う事ね。探求ネキの方から何か意見はあるかしら?」
「順に処理していくのは余り良い結果にならなそうな気配がしてますから、こちらも方針には賛成ですね。ああそれと、瑠璃のマップで制圧済み表示になっていればまとめて処理可能ですから、一カ所に集める必要は無いですよ」
「それは楽で良いね。それじゃ残りを無力化しにしゅっぱーつ!」
遠隔での術行使も、瑠璃のサポート込みで問題無く目的通りの結果となったのを確認し、行動方針を決定したら早速残りのエネミーを無力化しに向かう。
まあ道中の通路に色々と罠が仕掛けられていたりもしたけど、その辺はネコ覚ネキや瑠璃の探査に銀鈴ネキの罠解除で問題無く対処し、手早く制圧が進んで行く。
「では、隠れていたヒトガタも含めて無力化が完了しましたので、送還を始めて行きますね」
「ほいほい、そんじゃ次ぎエリア突入の準備をしつつ小休止だね~」
「それは良いが、敵が弱すぎて疲れるほどの事もにゃかったがな。うむ、鮭握りが美味い」
「トラップはえげつないのも多くて、解除には割と神経使ったんだけど?」
「ははは、お疲れ様杏奈、僕も何か出来れば良いんだけどね。渡されたバッグに有った物だけど、疲れた時にはコレと書いてあったクッキーでもどうだい?」
「ありがと秋雄さん。紅茶の茶葉を練り込んだクッキーなのね……ん、香りも味も良いわね」
「蓬莱島で作ってる
「あー最近でも地方依頼だと霊力回復はレトルトのガイアカレーが主流だもんねぇ……。支部や派出所が近くにあれば別だけど、依頼先の好意で食事を用意されていたりで、その後に追加でカレーはきついって話も聞くよね」
「それなら吾輩も一枚……うむ、微かに燻製特有の香りも有り、しかしにゃがら紅茶の風味を損なう事無く舌と鼻を楽しませる……なかなかに良いクッキーだ。して、作業の方はそろそろ終わりそうなのかな?」
「今はヒトガタの形状を維持出来る最低人数を残しながら作業してますから、およそ三割ぐらいですね。本題は次のエリアを少し覗ける様になったので、ボス戦準備と併せて裕奈さんへのサポートをもう少し強めておこうかと思いまして」
「「裕奈が見つかったの!?/ですか!?」」
慌てる二人を宥めてから、精神体の送還を行う事で少しずつ見える様になった次のエリアについて、情報共有を行っていく。
まずは次のエリアに認知異界の主らしきボス個体(ニャル)が居る事、それから裕奈さんと本多二代と思われる少女の二人が、ギミックか何かによって気を失っている状態と思われる事、そして琴音が二人を守りながら無限再生しているらしいヒトガタと戦っている事を伝える。
「遠隔な上に瑠璃の情報解析越しなので、正確な情報はまだもう少し時間が掛かりますが、お二人の縁を経由してのサポートならギミックの影響を受けていても通せますから、念のためしておこうかと」
「それならお願いするわ、探求ネキ」
「僕からもお願い致します!」
「お二人のその気持ちと無事を願う祈りが有れば大丈夫ですよ。想いは力となって裕奈さんの運命を切り開いてくれます」
銀鈴ネキと明石教授の二人と裕奈さんの縁から、因果の流れが良き流れとなる様、二人の想いを触媒とした
この次ぎが認知異界の最奥でボス戦が確定した事から、先程までより一層余念無く準備を行う事しばらく、琴音の方も気を失っていた二人が起きてとりあえずは無事な事を確認出来た頃、ようやく送還作業が終わりを迎える。
「何とか気付かれる前に作業を完了出来そうですね。次のエリアとの壁が大分薄くなりましたし、現実側に侵食していた入り口も何とか閉じられそうです」
「それ、入り口は閉じちゃって大丈夫なの?」
「普通の認知異界と同じになるだけなので問題無いですよ。現実化しかけた入り口が閉じたら私も侵入可能になりますし、脱出もどうとでもなりますから」
「そりゃ楽が出来そうで良いね。っと、階段が出現した――」
「裕奈、今行くわ!【至高の魔弾】!」
「では一番槍は吾輩が頂くとしよう!」
「あ、こら待ちなさい!」
最奥に繋がる階段が出現した瞬間、床を叩き割る様に銀鈴ネキがスキルを放ち、見事に砕け開いた穴にネコカオスニキが飛び込んでいく。
その様子に慌てて、ネコ覚ネキと明石教授が階段を駆け下りて行くのを通信画面越しに見つつ、私も参戦可能にするための最後の作業に取りかかる。
それでは