【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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108:食欲を満たす世界へ

「イズナさん達にメロウコーラ採取の課題、ですか?」

「うむ、確か年一から収穫時期を変更したと言っていただろう? 時期的に丁度良いだろうから、ウチの補習授業部に課外授業として行かせようと思ってな」

「当初の想定以上にメロウコーラの需要と要望が多くて、六月頃の収穫から三ヶ月に一度収穫出来る様に調整しましたし、既に収穫した個体も居ますがまだ未収穫な個体も何頭か残ってますね」

 

 幼女ネキからのそんな頼み事の連絡が入ったのは、三月に入って一週間程過ぎた頃。

 内容としては、娘さんであるイズナさんを初めとした補習授業部の面々――色々な事情で一般教養レベルの水準に届いていない子達に、教育を施す目的で発足した集まりらしい――に、蓬莱島での課外授業としてメロウコーラの採取課題を出したいから、協力して欲しいとの事。

 

「まあ学びに来ると言うのであれば歓迎しますし、未収穫のサラマンダースフィンクスは残しておく様にしますけど、幼女ネキが直接連れてこないってのは珍しいですね?」

「あー、メシア教の連中が私に面会したいとかでレン子ニキに何度も要請してたらしい*1

「なるほど、課外授業期間を一週間程としてたのは、情操教育に悪い連中と万一にも遭遇しない様にですか」

「そう言う事だな。メロウコーラ採取ぐらいの難易度なら直ぐに終わらせて戻ってくるって事も無いだろう」

「では上手く課題が進んで早めに終わった場合も、そちらの用事が終わるまでは適当に引き留めておきますよ」

「助かる。さて、こちらから頼み事してる訳だし、報酬の方はどうするか……」

「こちらとしては手間と言う程でもないですけど、ロハでってのは良くないですし、適当にマッカでも良いですよ?」

「そうだ、この間脳缶ニキとカス子ネキとコラボ配信した時に偶然出来たアレ*2が微妙に残ってたな。大部分は脳缶ニキが確保していったから数グラム程度だが、それでも探求ネキならマッカなどより価値があるだろ」

「あの闇鍋錬金で生まれた負の想念を正に転換させる性質の新素材ですか。第三次αのディス・レヴ*3とほぼ同じ原理の、数グラムでも十分以上の報酬ですね」

 

 報酬として提示された素材に関しては、未だ正式な名称を付けられていないダークマターみたいな物質だけど、その性質は私が進めているいくつかの研究で大いに役立つだろうと思われる代物。

 一応再現手順自体は判明しており、研究用に生成しようと素材集めを進めていた所のため、極少量ではあっても得られるなら渡りに船な話。

 そんな訳で正式に依頼として受領し、島へ出入りするための転移陣を宮城支部に設置したり、学びの園(アカデミー)の見学や利用したりもあるだろうと言う事で、一時滞在用の許可証として修学タグを作成したりと、受け入れ体勢などの準備を進める傍ら、巌戸台支部の方でN案件に遭遇して対処するなどのイベントも有りつつ、補習授業部の課外授業当日を迎える事となる。

 

 蓬莱島と外部の出入りは転移での移動を基本としている事から、そのための転移陣やターミナルなどをまとめた入島管理棟。

 外部解放区画の将来目標が〝あらゆる学びの実践場所〟である事から、基本的には入居を希望する者達に町造りから行って貰う方針で受け入れてる訳だけど、文字通りの玄関口で有る事から、開拓の橋頭堡として必要だろうと解放前にいくつか用意した施設の一つ。

 当初は入り口専用と出口専用に別けていくつか設置した程度の建物が一棟だけだったため、入島管理棟の呼び名だったけど、人の出入りが増えれば一棟だけでは不便だったり問題なども多々発生する訳で……。

 そうした問題解決のために色々と設備を増やしたり、施設自体の増改築なんかも何度か行った結果、外部解放区画への受け入れを開始してから半年程が経過した現在では、素材迷宮(マテリアルダンジョン)や食欲界への転移も含めた転移管理局として、探索ギルドと一体化した施設となっていた。

 そんな探索ギルドの一角、一階の少し奥まった場所にある団体での転移が可能な一室に、補習授業部の面々とそのサポートで同行した文さん、ラプンツェルさん、日向さんの幼女ネキの妻三人が転移してくる。

 

「ようこそ蓬莱島外部解放区画へ、歓迎しますよ」

「お久しぶりです探求ネキ殿!」

「本日からしばらくの間よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします!」」

「さて、この部屋は使う事が少ないですけど、転移室で長々と話すのは他の利用者の邪魔になりますし、まずは課外授業の目的地である食欲界へと移動しましょうか」

 

 元気良く返事してくれたイズナさんに続き、それぞれ挨拶を返してくれた面々を連れて部屋を出ると、食欲界への転移門へと案内する。

 まあ案内と言っても、基本的に転移してくる者達の目的が食欲界に潜る事な関係で、転移室から一分も掛からず到着可能な、探索ギルドの一階ロビーに設置してる訳ですが。

 

「ここが食欲界探索の手続きを行う場所になります」

「こ、これは集会所?! (ちち)上と何度も狩りに行った時に見たのと印象が似てます!」

「リアルハンターが一杯……!」

「モンハン階層が有る関係で要望も多かったですからね。まあ依頼を受注する形で目標付近へ転送するのと、指定対象討伐などの条件達成で送還する方式を採用してますから、目当ての獲物と確実に戦えると好評ですね。後は容量的にさほど大きくはないですが、食欲界内だけで使える収納ポーチも貸し出しています」

 

 ちなみに、この方式自体はトリコ階層の方でも採用しているため、トリコ系依頼とモンハン系依頼でカウンターを別けて配置してある。

 それは兎も角、食欲界で活動する場合は、受け付けで事故防止用の登録証――食欲界内で依頼を受けた全員が瀕死(DYING)状態となった際に、回収して蘇生するための物――を作成する事になっていて、依頼書での転送と送還のシステムにも組み込まれているため、基本的には登録証無しでの利用は不可となっている。

 なお、蘇生措置を受ける状況になった場合は、蘇生費用を払い終わるまで受注可能な依頼の種類が制限されるなどの仕組みも有り、それに併せて依頼のランク分けなどを進めている所だったりする。

 と言う訳で、全員分の登録証をささっと作っていく。

 

「見た感じはモンハンのギルドカードみたいですね」

「……でも材質が謎、木製っぽいけど金属みたいに硬い」

「これ自分のレベルとかも見れるんだ」

「ミチル、レベル表示とかは隠す事も出来るみたいですよ」

 

 全員に登録証が行き渡った所で説明の続きに移る。

 この登録証、イズナさんが言う様に利用者間ではギルドカードの通称で呼ばれており、カード作成時に血を一滴使っているため、登録した使用者の情報を表示する事が可能になっている。

 表示されるレベルは、ガイア連合基準になってるCOMPなどで表示される方式の物で、使用可能なスキル*4や現在の耐性など、自身のアナライズ情報に加えて、食欲界で受注した依頼の履歴なども閲覧可能になっている。

 トリコ階層やモンハン階層へ移動するには、場所や狙う獲物などに応じて用意している依頼を選択し、受注する事で奥の出発口から転移可能になる訳だけど、受注方法は依頼情報をダウンロードしたボードにギルドカードを翳して、カードに表示している自身の名前がボードに表示されたら受注完了となる。

 今回はまずトリコ階層と言うか、食欲界自体で行動する際に気を付けるべき事を説明している段階のため、チュートリアルとして用意した〝食欲界・トリコ階層の歩き方〟の依頼を受注して貰い、希望者には収納ポーチも渡していく。

 

「あ、あのー」

「どうしました? 日向さん」

「依頼情報の〝出現する穢教鳥はモンスター達の餌なので、襲われた場合以外は積極的に攻撃しない事〟って記載はいったい……」

「ああそれですか、この食欲界を作成したそもそもの理由でも有りますが、太平洋を通って日本へと向かうメシア教汚染された地脈を濾過してる関係で、食欲界ではメシア教系のぺ天使――穢教鳥が湧くんですよね。それを延々と対処し続けるのは面倒なので、穢教鳥を餌としてより強くより美味しくなる生き物達を創り出して繁殖させたのが、食欲界となる訳です」

「は、はぁ……」

 

 そう話したところ、純正の天使が式神ボディに入った存在なラプンツェルさんや、メシア教から足を洗って回心し、現在は一神教調和派に所属している日向さんが微妙な表情を浮かべているのは、まあ分からないでも無い話。

 とは言え一神教の聖書を考えれば、穢教鳥はそれこそコリント人への第二の手紙に記されている〝サタンも光の天使に擬装する〟の一節そのままに、人を家畜へと堕落させようとする悪魔その物な訳ですから、一神教的にも討滅すべき邪悪が処理されているだけだと思うんですけどねぇ。

 それとも穢教鳥の近くで死亡した際に、魂を持ち逃げをされる危険性についてですかね? その辺の対策も兼ねての事故防止用として、蘇生措置付きの登録証を用意しているって理由もあったりはしますが……、いくら穢教鳥の事とは言っても一神教徒相手に深掘りするものでも無いですね。

 

「まあそう言った疑問に関しても、実際にトリコ階層へ移動して色々と見て回ってから、改めて質疑応答の時間を設けますので、疑問に思った事などは忘れないうちにメモなり書いておいて下さいね。では受注も完了したみたいですので、イズナさんは依頼ボードを出発口横のケースに入れて下さい。受注した全員が出発口近くに集まったら転送が開始されます」

「わかりました!」

 

 元気良く走り出すイズナさんとアズサさんに補習授業部の面々が続き、保護者枠な三人も駆け寄り全員が揃った所で転送開始されるのを見届けて、チュートリアルの転送先である〝黒草の草原(ブラック・カーペット)〟へと私も転移する。

 ここは一面を黒草――蓬莱島の個人的な牧場区画で牧草に使っているトリコ食材が覆っている事からも分かる様に、草食動物系が多い比較的安全なエリアになっている。

 ただ気を付ける点として、比較的弱い草食動物が多い事から、他エリアで湧いた穢教鳥が逃げてきたり、その穢教鳥を追って強い肉食動物が来る事もあるため、比較的安全ではあっても異界の中である事を忘れてはいけないって所ですね。

 

「おおぉ、ここがトリコ階層なんですね! 黒い草原なんて始めて見ました!」

「所々に不思議な形の木も生えてるな……動物も変なのが多いし」

「この黒い草、凄く美味しいですよ!」

「ああっ、ツクヨが兎の本能に負けてる?!」

「凄い……」

「文ちゃんでもやっぱ驚く程なんだ」

「私でもリンちゃんと出会ってからまだ一年ぐらいですから、色々有って多少は慣れましたけど、ここみたいな大規模異界に来た事は流石に無かったですし――」

「驚いてくれてるのは嬉しいですが、チュートリアルを始めますよ~」

 

 手を叩いて意識をこちらへと向けさせて、本来は九十九式自動人形に行わせているチュートリアル〝食欲界・トリコ階層の歩き方〟の進行を始める。

 この依頼では、黒草の草原(ブラック・カーペット)で動植物を三種類以上収集した後、隣接する肉食生物が増えるエリアに移動して、一体以上狩猟すると依頼完了となり、いつでも帰還が可能になると言う流れ。

 なお帰還に関しては、その時点での受注者の生き残り全員が帰還を望む事で実行され、帰還時に依頼条件を達成していない場合は、次回以降の受注に制限などが発生する感じのシステムになっている。

 

「――と言う訳で、まずは採取に関してです。それぞれCOMPなりで【アナライズ】が可能なら、動植物を視る事で採取方法などを調べられますし、集会所や学びの園(アカデミー)にはより詳しい資料も置いてますので、一度見てみるのも良いでしょう。採取の条件を達成したら、進む隣接エリアは自由に決めて頂いて構いません」

「「はい!」」

 

 幼女ネキが課外授業と言っていたのもあるのか、補習授業部の面々が揃って返事した後、早速レベルの高いイズナさんを軸に隊列を組み、周囲警戒をしながらの採取物探索へと入って行く。

 補習授業部が探索を開始したところで、これが通常のチュートリアル依頼なら、後は受注者の判断に任せる形で案内人は帰還する訳ですが、今回は課外授業として見守る義務が有るため、事前の取り決め通りに気付かれない様気配を隠して付いて行く事に。

 ちなみに文さん、ラプンツェルさん、日向さんの三人に関しても、付き添いのお目付役で来ている事から、基本的には私が護衛する形で補習授業部の活動を見守る事になっているため、【圏境】を応用した結界で三人を包み、音や姿に気配などを認識されない様にしている。

 

「まずは直ぐ目に付いた物って事で、不思議な形の木のとこまで来ましたけど、何ですかね? これ……」

「えっと、アプリで見るとココマヨの樹*5って出てるね。垂れ下がってる木の実を収穫する感じだって」

「ありがと一二三、ならこれで条件の内一つ達成だな……動植物の収集と書いてるから狩猟でも良いのか」

「ここから見える範囲だと……あっ、ベーコンの葉がありましたよ!」

「えっ? ベーコンなのに葉っぱなの??」

「あれ、コハルさんは食べた事有りませんでしたっけ?」

「じゃあ取ってきて、この後食べてみましょう! とても美味しいですよ!」

「イズナ、何か赤いのが来る!」

 

 早速チュートリアルでの恒例にもなってるココマヨの実を収穫して、次ぎに黒草をかき分ける様に群生しているベーコンの葉を見つけた所で、遠くから走ってくるブタの存在に気付き構える。

 

「何か余り強そうには感じませんね?」

「そりゃチュートリアルで送られて来た場所だし、イズナが強そうに感じるレベルの相手が出る方が問題じゃない?」

「でも見た目は凶悪」

「うわっ、すっごい牙!」

「えっと確認確認っと、あれは赤毛ブタ*6だって。未覚醒だと危険だけど、覚醒してレベルが1でも有れば対処出来る程度で、直線的な動きしかしないから、横に避けて一撃入れれば良いみたい」

「それならこれで十分かな」

 

 アズサさんがスッと投げたクナイがスコンと赤毛ブタの眉間に突き刺さり、猛進してきた勢いを落としながら滑り転がってくる。

 実に鮮やかな手際に、他の面々からの拍手が巻き起こる。

 

「おおっ実に忍者っぽいのですよアズサ!」

「くっ、これは忍者を目指す者として負けてられませんよミチル!」

「いやいや、ツクヨは少し落ち着きなって」

「あ、また赤いのが走ってるね」

「次は私が行きます!」

「ん? でもあれ……赤毛ブタとはちょっと違う気が――」

 

 そんな仲間の成果に触発されてツクヨさん――人に変化可能になった覚醒兎らしい――が飛び出して行くが……。

 

「ちょっ?! これちが――」

「ツクヨっ!?」「ツクヨちゃん!?」

「見事に弾き飛ばされましたが、重傷って程では無いですね」

「うわっ、速っ! あ、でもギリギリアプリのアナライズが間に合ったよ。蟹ブタだって、速さはさっき見た通りで、足が六本有るみたい。お肉が蟹みたいな味わいだからこの名前になったって書いてあるね」

「なるほどあれが……前食べさせてもらった時のは凄く美味しかったな」

「ですね! あの様な姿をしていたとは知りませんでしたが、是非とも仕留めましょう!」

 

 どうやら似た様な赤色って所で、赤毛ブタと蟹ブタを見間違えたみたいだけど、そこは曲がりなりにも悪路王異界で地獄を超えてきた*7だけあって、派手に跳ね飛ばされてはいますが、確りと防御も受け身も行ってダメージは軽減出来ていますから、問題は無いでしょう。

 

「あ、イズナちゃんが駆け寄って仕留めました!」

「多少速くても、レベル的にはどうとでもなりますね。問題は何か変な事を思い付いてやらかさないかです」

「そうですね。あの二人はまだ一般的な感覚の共感性が足りてないですし……」

 

 何と言うか幼女ネキの妻としての立場があるからか、三人からはお目付役と言うより、保護者参観みたいな感じがしてきますね。

 まあ見守り組がそんなこんな話している内に、どうやらココマヨの実・ベーコンの葉・赤毛ブタ・蟹ブタの確保により条件を達成した事で、補習授業部は次のエリアへと向かう様子。

 

「ふむ……、進行方向的に次ぎに向かうエリアは〝肉食の森〟になりそうですね」

「森に名前が付くって事は、そんなに肉食動物が多いんですね」

「いえ、肉食動物はほぼ居ませんね。黒草の草原(ブラック・カーペット)に隣接する中では一番推奨レベルの高い、植物獣類が多く生息する森です」

「植物獣類……ですか?」

「動物みたいにある程度動き回り、動物も栄養源の一つとして吸収する能力を持つ植物の分類ですね。推奨レベルは大体25~35ぐらいなので、イズナさん達だと一二三さんが若干厳しい感じですかね」

「森が肉食なんですか……」

 

 さて、意気揚々と肉食の森へと向かう一行を追いかける事しばらく、外からは特に変わった木々の姿も無い森に到着すると、一般動物から覚醒した関係か、ミチルさんとツクヨさんが特に強く警戒感を露わにする。

 

「イズナ、この森ヤバいって……」

「そうです。あの、悪路王異界に連れて行かれた時と同じ感じがしますです」

「ん~、私も注意する必要があるのは感じますが、無理って程でも無いと思いますよ?」

「私もそう思うかな……ただ、ミチルとツクヨがそう感じるなら、一二三にはちょっと厳しいかも?」

「あっ……そうでした。私やアズサの大丈夫と、ミチル達の大丈夫は違うって話でしたね!」

「え、そんなに危険な場所なの? この森」

「時にはあえて危険に踏み込む勇気も大事ですが、不必要な危険を冒すのは蛮勇と言われる物でしょう」

「むむ、ハナコ殿の意見はその通りなのですが……、(ちち)上から渡された課題はメロウコーラの採取なのですよ? 特定の手順でサラマンダースフィンクスから採取する必要があるとの事ですし、それを考えるとこの森を探索出来ない程度だと逆に危険だと感じるのですよ」

「それ言われると、この森の危険さは変わらないけど、まだ何とかなると言うか、何とか出来る程度にはなった方が良さそう?」

「うぅっ……、それってつまりサラマンダースフィンクスの方がこの森より危険って事では?!」

「ここは一応チュートリアルの初期地点から行ける範囲……態々課題として出されたメロウコーラの採取より難易度が高いとは思えない」

「つまり、私には危険だし厳しいだろう場所だけど、乗り越えられる様にならないと行けないって訳だね」

 

 どうやら危険が有る事を確りと認識した上で、それに対処出来る様になる事を選んだのか、草原を歩いていた時の半ばピクニック感覚から、異界を探索する真剣さがぐっと増した様に感じられる。

 

「あの様子ならトレント系の不意打ちは大丈夫そうですね」

「トレントですか? ゲームとかに出てくる木のモンスターの」

「ええ、普通の木に擬態して奇襲する定番のですね。まあこの森が特に集まる環境になってるだけで、トリコ階層の植物は全てトレント化する可能性も有りますが」

「それはトレントと言う個別の種では無く、元々そこらで成長している植物が変化するって事でしょうか?」

「そうですね。食欲界の生物にはメシア汚染――Light-Lawに偏った地脈を中和する事でより強く、より美味しくなる術式を組み込んでいて、その工程が吸収した分と同じだけアライメントをDark-Chaosに偏らせて、陰陽のバランスを取る事で中和すると言う物なんですが、どうやら根から吸収し続ける植物だと偏りが強くなり過ぎるみたいで、攻撃性の強さから積極的に襲う性質を獲得して動き出すまでになったため、植物獣類の分類と、動く植物としてイメージし易いトレント化と呼ぶ事にしてる訳です。体積や質量の関係で樹木の方が変化し易いのも理由ですが」

 

 ちなみに余談だけど、モンハン階層の方でトレント化が発生しない様に、取り込んだ地脈はまずトリコ階層の方へ先に流れて、ある程度汚染が軽減されたところでモンハン階層に流れる形を取っていて、逆に湧き出す穢教鳥は全体の七割ぐらいがモンハン階層に振り分けられる仕組みになっていたりする。

 まあモンハンのモンスターも大概変な生態をしてたりしますが、植物が動き回っているのは流石に違和感がありますからねぇ……。

 そんな話をしているこちらは兎も角、気を引き締め直した補習授業部の面々が慎重に森へ入って行くと、数分と経たずに足を止め周囲を伺う様子を見せる。

 

「ここはもしかして、気配を察知する訓練に丁度良い場所なのでは?」

「ぬぅ……悔しいけど否定しきれない。私だと居る事は分かっても何処に居るのかまでは分からないし……」

「危険察知で負けるのは流石に悔しいですね。レベル差ってのは残酷なのです」

「霊力を含めた気配を感じ取ってるんだから仕方無い」

「ペルソナ! ……うーん、何となく見られてるって言うか意識されてる様な感じがする、気がする? コハルちゃんはどう?」

「私も一応そう遠くない場所に隠れてるっぽい感じが分かるぐらいで、明確な位置までは……」

「相手は擬態して動かないみたいですし、皆がある程度見当を付けたら答え合わせするですよ!」

 

 何やら修業場所に丁度良いと思った様で、探索よりも気配察知の修業に移行したみたいですが、この森を進むなら気配を感じ取る能力は必須ですし、修業方法自体も穏当な内容みたいですから、今のところはまだ様子見で良さそうですかね。

 

「あ、イズナちゃんがまた何か思い付いたみたいです」

「擬態している相手の気配を探るだけなら大丈夫かと思います」

「ラプンツェルさんも大丈夫と感じてるなら、見守りは続行ですね」

 

 お目付役の三人も大丈夫と感じた様で、しばらくは修業風景を見守る事に。

 一行が最初に遭遇したのは擬態中のトレント化した火栗の木で、気配を察知して奇襲を防げなければ、旨味と糖度が増した事で【マハラギオン】級の火炎を撒き散らす火栗を投擲してくると言う、一般的にはかなり危険な植物獣類となっている訳ですが、居場所を把握出来てるイズナさんなら【ぷくぷくの術】*8で一発ですね。

 その後もトレント化した魚樫(うおがし)*9や弾丸ドングリ*10などと遭遇しては気配察知の修業をしながら進み、新たに遭遇したトレントを補習授業部の面々が探っていたところ、不意に隠しもしていない霊力の気配が湧き上がるのを感じ取り、瞬時に臨戦態勢へと移る。

 

「これは……!」

「まあ穢教鳥がポップする時に気配を隠したりはしないですからね」

「気配的に問題は無い相手だけど……」

「位置的に一直線に向かってきたらトレントに奇襲を受けるでしょうから、問題は無いですね」

「……えっと、まさか直線上の位置にトレントがいるんですか?」

「あの首領ドングリの木――なんですが、丁度良い感じに入りましたね」

 

 まあそんな話をしてる間に、湧き出てきた穢教鳥が近くに居る補習授業部へ向かって飛んで来た所へ、擬態を解いたトレントが最大まで育った首領ドングリを振り回し、奇襲の一撃が穢教鳥のボディと言うかほぼ下半身に突き刺さる。

 見事なクリティカルが入って錐揉みしながら地面へ墜落した所へ、透かさずトレントが追撃の首領ドングリを振り下ろし、ほぼ死に体となった穢教鳥へと根を突き刺し捕食していく。

 実に手慣れた鮮やかな屠殺と食事が終わると、まるで何事も無かったかの様に、再び普通の首領ドングリの木に擬態し、森の一部へと紛れる姿がそこには在った。

*1
『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』様の〝転生ようじょ、メシアンと話す。〟より、メシアンと鉢合わせしない様に、蓬莱島へ課外授業しに向かわせた。

*2
『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』様の〝転生ようじょ、闇鍋す。〟より、第一回のコラボ配信で闇鍋錬金して誕生した新素材の事。

*3
悪霊や怨霊、死霊などの集合体を吸収し、生命が輪廻転生する際の狭間の力を取り出し用いる動力炉。

吸収した負のエネルギーは触媒であり、死と生の狭間にある無限力を使用する仕組みと推測されている。

*4
レベル上昇による覚醒習得などの、魂魄に刻まれる程に扱える段階となった技術の事。拙作での独自解釈。

*5
トリコの食材再現シリーズの一つで、ウルシ科の落葉高木の一種。

熟した実には脂分が豊富に蓄えられており、完熟した実を搾る事で半固体状の油脂調味料を得られる。

ココアの苦味とマヨネーズの酸味が混ざった様な味で有る事から、ココアマヨネーズと呼称されるが、卵は使用されていないため、厳密にはマヨネーズとは別種の調味料。

*6
トリコの食材再現シリーズの一つで、赤い毛並みを持ち、体長3.5m体高2.5m体重4t程まで育つ巨大な豚の一種。

獲物を見つけると俊敏な動きで突進してくる猪の様な習性を持つが、直線的な動きしかしないため対処は簡単。

大きな牙と凶暴さで一般人には危険な生物だが、覚醒者なら楽に仕留められて大きく育つため、食肉も多く得られる事から家畜としての適性も高い。

*7
『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』様の〝転生ようじょ、運命を感じる。〟にて語られた、イズナやアズサの善意により、ミチルとツクヨが悪路王異界に連れ込まれ地獄のパワーレベリングが行われた件。

*8
『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』様の〝転生ようじょ、誘致する。〟にて、掲示板で語られたアクア系魔法の泡で高圧MAGを包み相手にぶつけると言う、イズナが開発した術。

*9
鰹節の硬さ(鉄と同じ硬度)で殴ってくる。

*10
通常種より硬く速く数も多い弾丸(木の実)が飛んでくる。




 補習授業部の課外授業との事から、お目付役とは別けて探索する感じに。
 以降も食欲界を探索する際は、この組み分けで万一に備えつつ授業参観する事になります。

>蓬莱島へ入島するための条件関連
 蓬莱島は島周辺の海域含めた仙境として結界に覆われているため、結界を越えるには許可証が必要となっており、ガイア連合の中でもターミナルなどの転移設備がある支部でのみ、下記許可証の発行申請が行える様になっている。
・探索タグ
食欲界や素材迷宮の利用を主目的として、学びの園以外の外部解放区画を利用可能な滞在許可証。
このタグを所持する事で、ターミナルなどにより蓬莱島への転移が可能となる。
なお、宿泊施設の利用や滞在可能期間内で部屋を借りるのは可能だが、家や土地の購入などは出来ない。

・学徒証
学びの園を含めた外部解放区画全体を利用可能な滞在許可証。
このカードを所持する事で、ターミナルなどにより蓬莱島への転移が可能となる。
実質的な居住許可証でも有り、家の購入も可能となるが、土地の購入は出来ない。

・修学タグ
学びの園を含めた外部解放区画全体を利用可能な一時滞在者用の許可証。
このタグを所持する事で、ターミナルなどにより蓬莱島への転移が可能となる。
イメージは修学旅行で短期間利用する団体向けの物で、許可申請時に提出した方法での宿泊のみ可能。

・割り符
転移以外の方法で蓬莱島へ入るための許可証。
基本的に探求ネキ自身が渡す以外で入手する方法は無く、探求ネキが渡したと認識した相手以外が所持していても効果を発揮しない。
所持者の変更や追加を探求ネキへ連絡し許可した場合は、その相手が所持した状態でも効果を発揮する。
なお、蓬莱島を覆う結界を通り抜けるための許可証であり、外部解放区画の利用には上記いずれかの許可証が別途必要となる。
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