【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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110:いつものと品種改良とちょっとした贈り物

 超大型異界〝カムイコタン〟、それは北海道の霊地の一つ〝神居古潭〟にあり、メシア教によってアイヌの神が封じられていた場所で、その特徴は唯々広大な面積と極寒の気候と言う自然の猛威。*1

 そんな極限環境異界な場所だからこそ出来る事もあると言う訳で、普段は山梨支部などで活動しているガイア連合農業部の一部を引き連れて、一部作物の栽培実験や増産試験など、いくつかのデータ取りにやって来たのが三月の下旬、一般的には春休み頃の事。

 まあカムイコタンから南に行けば、二月に魔人決戦(ネフィリモマキア)*2と呼ばれる一大決戦が行われた道南支部があり、更にはその決戦中に魔界への門が開かれたりで、急上昇したGPによってあちこちに異界が出来たり悪魔が出現したりの、デスマ環境になってる事でも連合内では有名な地域だったりしますが……。

 

「やはり環境再現区画より、元からの極限環境の方が得られるデータが良いですね」

「整えた環境は正確なデータが取れるッスけど、偶然の結果や突然変異の可能性は低いッスからねぇ」

「探求ネキ、甘露の木*3は良い感じに育ってるぞ。環境再現した場合より確実に品質も上がってるし、やはり異界その物が適した環境で有る事の意味は大きいな」

「私の食欲界ぐらいまで食に特化すれば、複数の環境を混ぜても同じぐらいまで行けそうですが、特殊環境で育つ品種については、適性環境異界とのセットが基本になりそうですね。漆黒米*4の方は特に手間を掛けなくてもかなりの品質に育ってますし」

 

 いくつか収穫した漆黒米のデータを確認すれば、KSJ研究所のベジタブルスカイで栽培している物に勝るとも劣らない品質の漆黒米になっているし、寒冷地ならって事で用意してみた銀シャリ草*5なんかも元気に繁茂して、大量生産も出来そうな程。

 甘露の木も複数の果実を実らせる原種から、挿し木苗で増やした物の定着に品質の向上が確認出来たし、甘露の木に実った林檎タルトの様な果実の種から成長させた木から、より美味しくなった林檎タルトの実も収穫出来ましたし、今回北海道まで遠征しに来たのは正解でしたね。

 

「しかし探求ネキ、甘露の木にカカオポッドが実るのは生命樹をベースにしてるって話だからまだ納得するんだが、食べてみたらパイの実なのはどうなんだ? いや、カカオ系っちゃカカオ系なんだけどさ」

「甘露の木を創り出す過程で、生命樹に破魔ネキが創り出した菓子の木*6も混ぜたからでしょうね。見た目はそれぞれの味に応じた果物の見た目になりますけど、味自体はお菓子系になってるのもその性ですから」

「あー確かに、苺ケーキっぽいのとか、柿のムースっぽいのとか、一手間掛かったお菓子っぽいのが多いッスね」

「幹自体もスポンジケーキみたいな物ですからねぇ。まあそれは兎も角、この辺のデータ取りは終わりで良さそうですね。農業ニキ*7の方はどうです?」

「こっちも良いデータを得られたよ。時間加速して一気にってのは俺じゃ無理だからな。ただまあ、年間通してって訳じゃ無いから、参考程度だけどな」

「そこは仕方無い部分ですね。終末が来てからどれだけ状況が変わるか、と言った予想はされてますがまだ不確定な部分も多いですし、実時間掛けての実験はどうしても数を絞らないといけませんからねぇ……」

 

 今回は極寒環境であるカムイコタンでのデータ収集と言う事で、豪雪地帯であり支部のトップが氷結系に特化した魚沼支部の所属である農業ニキを初めとして、ガイア連合農業部の中でも寒冷地向けの植物を研究している面々に声を掛けて来た訳ですが、それぞれに十分な成果を得られた様で、企画した甲斐が有りましたね。

 最近は発生したら対応仕切れない終末案件の事前対処も進んで、何とか被害を抑えて乗り越えられるだろう終末要因も見えてきたところ。

 まあ全国各地で未だに大量の爆弾が埋まってる様な状況ですけど、現状では東京にメシア教の核ミサイルが落ちて、地球全体が魔界に落ちる感じの終末到来が最有力。

 そうなると豪雪地帯との認識が強い地域などは、常に極寒状態なんて事になる可能性も考えられる訳で、植物の生育に適さない環境でも育つ品種の需要は確実にあるだろうってのも、こうして人員が集まった理由ですよね。

 ……終末関連で思い出しましたが、ショタおじから聞いてる話的に、終末到来で地脈関連もどうなるか分からないですし、現状最有力な終末要因を実行に移す場合、メシア教の思惑通り地球全体の地脈がLaw側に染まっている必要が有るみたいですから、私もそろそろ蓬莱島を地脈から切り離す作業に取りかかるべきですかね。

 

「ま、今は出来る事をやってくだけか。とりあえず今日でカムイコタン(ここ)での作業も終わりなのは良いとして、最後に確認なんだが、作物は収穫せずこのまま置いていくんで良いんだよな?」

「それぞれで確保したい出来の良い種苗は持って行っても良いですけど、基本的にはこのままカムイコタンに残して、自然繁殖させていく予定ですね。後々に改めてデータを取りに来るのも予定してますが、メインは周辺の異界発生の抑制と、道南支部などの人員が食料確保出来る場所を増やすのが、カムイコタン(ここ)を利用する条件ですので」

「あいよ。確保したいのが有る奴はもう集め終わってるだろうし、撤収準備もそろそろ――」

「撤収準備は完了したッスよ~」

「丁度終わったみたいですね。では、一度道南支部に戻って各種報告が終わったら、それぞれの拠点まで送っていきますよ」

 

 諸々の作業を終えた農業部員が集合した所で、まとめて道南支部へと転移。

 部員それぞれが二週間の滞在期間で使用していた部屋へ荷物をまとめに行く間に、支部長室へ報告に向かう。

 

「こんにちは魔人ネキ*8、カムイコタンでのデータ取りが終わったので、諸々の報告に来ましたよ」

「お疲れ様です探求ネキ、拝見させて貰いますね」

「おー、乙~探求ネキ、途中経過は良さそうだったけど、どんな感じ?」

 

 魔人ネキにカムイコタンで得られた各種成果報告を渡した所で、現状では出動が掛かっていないらしいカス子ネキから、ざっくりとした質問が飛んでくる。

 室内を見るにどうやら邪視ネキは出動中の様で、掲示板でのやり取り序での雑談って所ですかね。

 

「概ね目処は立ったと言ったところですね。終末による環境変化で、常にマイナス50度以下になる様な事態でも栽培可能な品種は出来ましたし、極寒環境に適応してより美味しくなった品種も有りますよ」

「ほほぅ、そりゃ良いね。探求ネキの弟子って子達も二週間でいくつか異界潰してくれたし、大分助かったよね」

「蓬莱島や巌戸台周辺だと、野良の異界は有りませんからね。琴音達の北海道旅行も兼ねてですが、こっちも良い経験になったと思いますよ」

 

 カス子ネキの言う弟子については、先月から私の弟子になったマリッサとペリーヌ、それから琴音の弟子枠になってる裕奈と二代の四人の事。

 絶賛デスマ中の道南支部に、手間を掛けさせるだけと言うのは如何な物かって事で、カムイコタンを利用させて貰う間、道南支部で出されてる依頼の処理にペルソナのレベル上げを兼ねた瑠璃をサポートに加えた五人で、異界や悪魔の対処をして貰っていたと言う話。

 まあとは言っても無理せずに対応可能な範囲で依頼を熟すぐらいで、基本的には琴音も含めての北海道旅行みたいな物だけども。

 

「その旅行ついでにハム子ネキがどんだけ潰してたって話よね。別件経由で分かってるだけでも、六件は時間が経てばそれなりに被害が出ただろう悪魔やオカルト犯罪の芽が潰されてたし」

「持ち前の運命力なのか、他人の因縁に関わらないタイプの事件だと、そもそも事件として発生する前に遭遇して処理する事も多いですからねぇ」

「なんか他人事みたいに言ってるけど、探求ネキの分身も一緒に行動してるんだから同じでは?」

「私は運命愛され勢では無いですからねぇ。琴音が巻き込まれた騒動の手助けがせいぜいですよ」

「それでも探求ネキ達のおかげで楽になった部分も多いですから、こちらとしては有り難い限りですね」

「お、読み終わったん?」

「カムイコタンで穀物や葉物野菜に甘味類など、色々と採取可能になったのは良い話ですが、気軽に採取依頼とは言えない場所なのが難点ですね。まあそれよりも、極寒での栽培も可能な品種がいくつも出来た事の方が朗報です。担当部署に種苗とデータは渡しておきましょう」

「ほんじゃ万一の備えとしては十分ってとこか、この間人魚ネキから圧縮睡眠子守歌のCDも差し入れして貰った*9し、異界などの対処でバチクソ忙しい以外は何とかなりそうやね」

「油断は出来ませんが目処は立ったと言ったところですね。あ、そう言えば人魚ネキで思い出しましたけど、誕生日が近いとの事ですから、差し入れのお礼も兼ねて何かプレゼントを用意して置きたいですね」

「マジで? あー誕生日パーティーするかも行く余裕が有るかもわからんけど、プレゼントぐらいは用意せんとやね。つっても何が良いやら」

 

 どうやらカムイコタンでの農業部の仕事には満足して貰えた様で、忙しい中に手間を掛けて貰っただけの成果は出せた感じですね。

 こっちは普通にギブ&テイクなので、満足いく結果になったならそれで良いとして、人魚ネキに個人的な支援を貰って誕生日が近いとなれば、プレゼントの一つでも贈ろうとなるのは普通の話。

 ただまあ、何を贈るのが良いのかってのは、この手の話では尽きない悩みですよねぇ……。

 

「近いと言っても来月の話ですから、ゆっくり考えても良いと思いますよ」

「あ、五月なんだ。まあ時間あるのは良いけど、方向性ぐらいはさっさと決めときたいんよね。いざ決まっても用意までの時間が足りなきゃだし、ちなみに探求ネキはどんなもん贈ってんの?」

「私の場合はトリコ食材か手作りしたお菓子類、後は洗髪料や化粧水なんかの美容関係で新作出来た時に併せてと言った感じで、基本的には消え物系ですね。戦闘関連は自分で選んでスタイル組むタイプみたいですし、貰って喜んでいたのは、大体食べ物系か終末後に役立ちそうな道具類*10でしたね」

「なるほど、良い物思い付かんかったら、北海道の美味いもん贈るってのでも良さそうやね」

「その辺はシオリさんが戻ってきてから改めて考えましょうか」

「話の切りも良いですし、私はそろそろ農業部員拾って帰りますね」

「あいよ。私が出張らんでもいいのは楽出来て助かる。またいつでも手伝いに来てくれて良いからね~」

「弟子組の対処力向上に良さそうな案件でも有ればって所ですかね。ではまた」

 

 まあ必要ならいつでも来れるって事で、軽く挨拶して支部長室を後にしたら、農業部員と合流してそれぞれの地元へと送り届けて行く。

 ちなみに北海道旅行している方は、春休み終了まで観光して戻る予定のため、今しばらくは遊び回りつつ遭遇した事件を解決したりしているけど、それはまた別の話。

 

「さて、いつもは適当に消え物まとめて贈ってますけど、そろそろ終末も近いですから何か形に残る役立つ物辺り贈るのも良いですかねぇ」

 

 拠点の工房に戻ってきた所で、思い浮かべるのは来月誕生日の人魚ネキに贈るプレゼントの事。

 これまでは心理的な負担も考えて、さっさと消費出来る消え物で済ませていた訳だけど、人魚ネキのスタンス的に終末後も安心して暮らせる事が一番だろうと思うところ。

 

「ちょこちょこ聞く話的に、拠点の山が有って結界や警備員としての式神なども居て、自給自足可能な農園とかの用意も十分進めているみたいですし……そもそも敵対者から拠点を認識されない様にする物が有ると良いですかね? 修羅勢に近いメンタルしてますけど、人魚ネキ自身は戦う事や強くなる事自体が好きって訳でも無いですから」

 

 思い付いたのは、私の仙境・蓬莱島の結界にも使用している、認識自体を出来なくする隠蔽結界を展開可能にする道具。

 この結界の元になっているのは、以前に霊視ニキやセツニキと一緒にショタおじからの依頼で赴き、黒死ネキ*11をガイア連合に連れ帰る事になった際の、ショタおじですら遠隔だと不自然さを感じ取れなかったニャルラトホテプ謹製の異界*12

 あの件の後異界の解析をさせて貰い、盛り込まれていた変化・擬態・隠蔽・偽装・閉鎖・循環などの概念の理解が深まった事で、蓬莱島の結界がより強固になったと言える。

 そんな訳で隠蔽・偽装・閉鎖・循環を強化して、存在を知らないモノや敵対者から見つからない様にする結界と道具の製作に取りかかる。

 

「結界の範囲や効果対象の設定なども必要ですし、その辺の変更も可能にするならコアはブルーウォーター……いえ、飛行石の方が良さそうですね」

 

 そこそこの大きさの飛行石を用意して、外部から認識されない様にする隠蔽・偽装の結界と、現在想定されている終末要因から考えて、地脈からの影響を防ぐために結界内を閉鎖する事で外部と遮断する機能と、内部での様々な循環効率を増幅する様に術式を組み込んでいく。

 続いて浮遊させた飛行石の回転をマニ車式反復詠唱術式に利用して、結界維持に必要なコストを下げつつ強度を向上、後は設定変更などのインターフェースを用意したら一先ず完了。

 

「後は見た目を整えれば完成ですね。インテリアに見える感じで台座とアクリル樹脂の球体を作って中に浮かせますか」

 

 飛行石を包む様にアクリルガラスの球体で覆って台座の上に載せ、台座の方には飛行石へアクセスして設定変更などの画面を空間投影するボタンを付けて、投影中は思考操作と動作補助で感覚的に操作可能にして完成。

 見た目は大理石の台座に透明な球体が固定され、球体内部に正八面体の蒼い結晶が浮かび回転している感じの置物で、名前を付けるなら〝隠者の庵〟*13ですかね。

 

「よし、これなら人魚ネキの役にも立ちそうですし、個人シェルター持ちなら需要も有りそうですから、プレゼントした後にでも技術部のデータベースに上げて、購買部にも二十ぐらいは納品しますかね」

 

 出来上がった物のチェックも終わらせて、プレゼント包装したら倉庫にしまって思い付きの物作りは終了。

 購買に卸す予定分を適当に製作しつつ、次は何を作ろうかと思いを馳せる。

 年度が変わって、まだ正式な話は出ていないが、おそらく今年度中には終末が来るだろうと思われる中で、後どれだけの事が出来るのだろうか。

 

「まあ、なる様にしかなりませんか……。あ、それより地脈からの切り離し準備を進めておきましょう。食欲界の餌についてもちょっと考えておかないとですね」

*1
『【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー』様より、〝25話:日本神解放作戦XX号【北方神域 カムイコタン】〟で攻略された場所。

*2
『【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー』様より、カス子ネキ・邪視ネキ・魔人ネキの三人が様々な因縁に決着を付けた決戦。

*3
トリコの食材再現シリーズの一つで、マイナス100度以下の地域でのみ生育し、幹や葉などの全てが食べられるアニメオリジナルの食材を再現した幻想植物。

甘い樹液が流れる幹は、上質のスポンジケーキの様にしっとりとして柔らかく、葉は飴細工のように美しく舌の上ですっと溶ける程。

生命樹をベースにして創り出された事から、古今東西の様々な果物が実る点は同様だが、例えば見た目が桃なら、桃のプリンや桃のムースみたいな食感や味の果実と言った感じで、通常の果物とは異なる果実が実る。

*4
拙作〝057:農園の完成?と技術者の性〟で登場したトリコ食材。

*5
モンハンの食材再現シリーズの一つであり、寒冷地に生息し雪の中でも育つ強靱な生命力を持つ植物。

イネ科の植物の様な性質を持つ米粒の様に小さな実を大量に付けるのと、サラリとした食感が特徴で、米と同様に食べる事が可能。

*6
『【カオ転三次】終末が約束された世界で生き抜きたい』様の〝第27話〟より、トリコのアニメオリジナル食材で、億を超える程の多種多様なお菓子を実らせる樹木。

*7
『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』様の〝魚沼TSV ~転生者バリエーション~ 01〟より、普段は新潟の魚沼支部で農園を経営している農学者。

*8
『【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー』様より、道南支部の支部長を務める女傑。

*9
『【カオ転三次】 終末に向けての準備するとある転生者の話』様の〝69話:お届け物です〟より

*10
『【カオ転三次】 終末に向けての準備するとある転生者の話』様の感想返しより参照。

*11
『【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~』様の主人公。

*12
黒死ネキこと四条灯が生まれ落ち、ガイア連合山梨支部に合流するまで暮らしていた高性能異界。

*13
隠れ里的な概念も込めた隠遁結界を展開する設置型魔導具。

結界に設定した対象以外から認識されない様にする隠蔽・偽装概念と、外部からの影響を遮断し閉じこもる事も可能にする。

また、結界内部での循環効率を向上させる事で、長期間籠もる事も可能にする世捨て人向けのアイテム。

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