【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
朝日が星霊神社を照らし出すのを霊感で感じ取り、深い眠りから意識が浮上する。
日の出直後でまだ薄暗い室内に衣擦れの音がこぼれ落ち、一緒に寝ていた久遠が動き出すのを感じ取る。
「おはよう、瑞樹。と言っても朝としてはだいぶ早い時間だが」
「おはよう久遠。これでもゆっくり眠るようになったんですよ?前は日が昇る前に起きてジョギングとか行ってたし、んっ」
寝起きの挨拶とは別におはようの
「ふぅ、体が熱くなるな。今日は修行場異界とやらで私のレベル上げなのだな?」
「その予定だね、久遠のレベルを上げて私と同じレベル帯で戦える様にするのが一つ、ペルソナを召喚しての動きや召喚速度を実戦で使える様に馴染ませるためってのが一つ、神主に修行付けて貰う予定の異界管理だと、要石とか楔の役割となる悪魔を括る必要が有るらしいから、それ用の悪魔捕獲が余裕あればって所かな」
「わかった。では朝食を作ってくる」
久遠と今日の予定を確認し終わったところで、就寝中の読書や鍛錬に回していた分身を回収、フィードバックされた情報を自身の中で確りと統合させたら再度分身を作成して、今度は修行場異界へ入る前に日課の畑仕事や生産作業を終わらせられるよう分身を割り振って送り出す。
次いで、ショタおじの修行と指導を受け何とか合格を貰った【神道系召喚術】で使う封魔管の状態を確認し、術式などの綻びがないことを確かめてからポーチにしまい込む。
ちなみにこの技術、所謂ライドウスタイルが出来るって事で挑戦する覚醒者〝俺ら〟は結構居るんだけど、神主的には余りお勧めしたくない技術だとかで、習得のための修行は厳しい内容のみという鬼畜仕様。
更に言えば〝野良の悪魔との契約は色々と危険〟ってことで、悪魔契約に関連するあれこれも同時に叩き込まれるため、脱落者はかなり多いのが実状。
私と美波さんは後々に絶対必要になってくるだろうって事で、割と初期から時間を作っては修行を付けて貰って、美波さんは式神のコア製作をするようになった頃ぐらい、私も二週間前辺りにようやく合格貰えたばかりだったりする。
「瑞樹、朝食出来たぞ」
「ありがと、こっちの準備は終わったから、朝食終わったら久遠の武器用意しに行きましょうか。頂きます」
「頂きます」
手を合わせて感謝を捧げて食事を頂く、派手さはないが心の落ち着く朝食を平らげ、片付けたら向かうのは技術班の根城である。
まずは現在の在庫状況を確認し、私の納品物による収益分から持ち出せる素材を見繕う。
「フォルマ関連は手持ちがあるから良いとして、物理側の素材で良いのがあるかなんですよね……」
「瑞樹がイメージしているのは青龍偃月刀なのだろう?なら普通に鉄で良いのではないか?」
「まあ普通に鉄でも良いんですけど、手持ちのフォルマに【邪鬼 イッポンダタラ】のカナヅチがあるので、砂鉄でもあれば色々概念強化出来ると思って、お、珍しく在庫ありますね」
「そう言うものなのだな」
私の売却益から引き落としで砂鉄と柄用に鉄や霊木なども購入申請出して、許可が出たので申請分の持ち出し記録を残して作業場へ移動する。
それにしても、この辺のシステム回りを担当してくれたエンジニア系俺たちには感謝ですね、どうしても事務作業に専念したい人って早々いないですし。
「さて、青龍偃月刀を作っていくわけですが、持ち運びや戦闘場所が常に広いわけじゃない事を考えると、柄の長さぐらいは可変にしておきたいところ、とは言え以前スライムニキに渡した組み立て式は、シャドウ異界なら兎も角普通の異界だと強度の問題がありますし……」
「場所により持ち替える。で問題無いと思うのだが、【武芸百般】スキルのおかげで格闘戦になっても十全に戦えるぞ」
「まあ……それもそうですね。外部依頼を受けるとしても、銃刀法があるから刃物とか持ち歩くわけに行かないですし」
使用する本人からの申告もあったので今回は普通に作るとして、刃の部分はイッポンダタラがたたら製鉄に関連する伝承と、
そこから更に邪鬼のカナヅチを投入しながら玉鋼を偃月刀の形へと【アギ】や【サイ】の魔法を応用して鍛造していく、まあ正直重さで叩き切る肉厚な刃が特徴な偃月刀に何処まで相性が良いのかは分からないけど、悪魔を相手に使う場合は、物理的な特性よりも概念的にどういった力が込められた物かって所の方が影響も大きいしね。
メインの刀身が終わったら次は石突き部分を刺突武器の形状で作り、柄となる部分を通常の鉄と霊木炭から作った鋼で形作り、青龍を模した飾り部分も作って組み合わせれば一先ず完了と言ったところかな。
「よし、一応の形になったから振ってみて」
「わかった。ふむ、こうして、こうか、ハッ!」
久遠に青龍偃月刀を渡して重心などを確認して貰ったけど、特に問題は無さそうで、多少広いとは言え室内で随分と滑らかに振り回している。
「既に十分手に馴染むな、重心も特に不満は感じない」
「なら基本はこれで良いとして、青龍の飾り付けてるしその辺で何か概念でも付与するかな?と言っても汎用装備を属性武器にするのも……」
簡単な概念で行けば青龍の守護方角である東の木行から電撃辺りの属性を付けたりだけど、戦う相手を決め打ちした専用装備なら兎も角、汎用装備に属性あると耐性持ちに当たった時ちょっと面倒になるのがネックだよね。
「属性弱点の悪魔には有利になるのだし、悪くないのではないか?」
「んー、属性特化なら将来的に属性貫通スキルとか習得する可能性もあるから、それでも良いんだろうけど、久遠はそうじゃ無いからねぇ。木行が司る性質だと肉体の筋も該当するし、物理全般に広く浅くでも効果ある方が使い回すなら良いかな」
「そうか、属性関係は瑞樹が全般使えるから特化するなら物理属性としての方が良いのだな」
「私の守護が目的だからねー、得意よりも苦手を無くしてどんな相手とも戦えるのが理想だよねっと、よしこれでいこう」
木行の青龍から肉体の筋、つまりステータス的には〝力〟とか〝体〟に該当する部分を強化する感じとして、私が習得しているスキルだと【初段の賢魔】が近いかな。
まあ私のはペルソナ覚醒時に取得した影響なのか、魔や知に該当するステータスの成長力が上がるとか言う大器晩成型スキルになってるけど、メガテンに詳しい人に聞いたら、本来だと魔のステータスを5上昇させるってスキルらしいですし、参考にして概念付与したら力と体のステータス上昇ぐらいに落ち着きそうですかね。
「私の【初段の賢魔】が干渉している方式を確認して、繋がる場所を筋力や耐久力の方に変えて、木行の青龍による加護という概念で偃月刀を装備した者へ与える感じにしてっと、こんな感じかな?【アナライズ】……ん?」
「順調に作業していた様に見えたが、何か想定外でもあったのか?」
「いえ、結果的にはより良い感じになったと思いますけど、概念付与の触媒に私の髪を使ったからですかね、想定していた【初段の剛力】とかじゃなく、【初段の剛体*1】と言うスキルに変質してますね」
「良い結果なら、何故悩み顔しているのだ?」
「良し悪し関係無く、想定外の結果ならどうしてそうなったか調べるべきですからね。えっと、スキルとして装備者への干渉は想定通り、干渉方法が……ああここか。と言うかこの仕組みだと
そもそも私の変質してるスキルを参考にして付与しても、元々の固定値上昇系スキルになるわけなかったと言う話ですが、結果的に成長力向上系スキルとして成立出来たのでプラスですかね。
こうなると速度や運のステ関連も何とかしたいところですけど、速度は肉体や認識以外にも時間系統が関連してるから難しいんですよね、運勢なんて運命神系列の領分だから更にですし。
スキルの構成に干渉して装備から与えられる加護の〝特定能力が他より上がりやすくなる〟と言う強制力部分を、〝特定能力が上昇する時にプラス補正される〟感じに変更、序でに私のスキル側も確認して、同様の仕様だった所に干渉して変更していたら【初段の剛体】まで合わせて構築されたのは、まあ武器へ付与出来る程度に術式として成立出来てたので、不思議でもないですか。
「よし!なんか序でに新しいスキルを生やすことになったけど、久遠の武器はこれで完成かな。今後持ち替えるなり、強化するなりするだろうし、名前をあまり凝ったのにするのもアレだから、守護の天部から肖って〝守天〟にしようか」
「ああ、この名に恥じぬ守護者となって見せよう」
「それじゃ、片付けたら異界へ向かおうか」
剥き身のまま持ち歩くのは危険なので、刀身部分を覆うカバーまで用意してから、片付けも終わってることを確認して作業場を後にし、余った素材などは個人用の保管庫にしまって探索前の準備は完了。
早速修行場異界へ向かうと、準備に多少時間掛けたのもあって日が高くなり、入り口前の人数もチラホラと数える程度しかおらず、だからか普段見かけない人物が直ぐに目に留まる。
「銀時ニキと膝ニキがここ来るの珍しいですね」
「お、探求ネキか。まあ前回の依頼であんまマッカ稼げなくてな、膝ニキの療養兼ねて山梨支部で多少稼いでから次ぎ行くかってな」
「四国でのアレは妻帯者にとって厳しいよ。まあ他の地方でも
「いや、あれは妻帯者云々以前に誰だって社会的に死ぬだろ、マジで鳥肌立ったぞ、アレ」
なんか自分たちで話していて前回の仕事関連を思い出したのか、微妙に嫌なと言うか引きつった表情を浮かべる銀時ニキと頭が痛そうな表情の膝ニキ。
「え?なんか問題が発生したって話、事務関連では聞いてないですけど、報酬代わりに女体盛りでも出されました?」
「何でそんな発想が10歳の少女から出てくるの??」
「いや、見た目10歳でも前世男で含めれば普通にアラフォー越えますし、それで実際の所は?」
「地方引き留めのために全裸で土下座なんてされてね、ははっ……」
「仕事の方はパパッと終わる程度の簡単な内容だったからな、報酬の方は運営の窓口に送っとく様言ってさっさと逃げ帰ってきたんだよ。つーわけで、依頼料たんまり貰える様な仕事でもなかったんでこれから稼ぎ直しってな」
「あー、こっちから強要したわけでもないですし、証拠残されてる訳でもないから一応問題にはされてないけど要注意って所ですか、大変でしたね」
「じゃあ僕らは行くよ。探求ネキも気を付けて」
そう言って歩いて行く二人の背中からは、なんだか哀愁が漂っている様にも感じた。
「なんというか、大変な目に遭ったのだろうな」
「まあ暴れたくなる気持ちの時が来たという事でしょう。稼ぐ序でにストレス発散するなら特に問題も無いでしょうし、まあ事務の方にはちょっと連絡入れて確認はしておいた方が良いかもですけど」
外部依頼というか、地方組織の闇を垣間見た気がするけども、今日の目的とは関係ない話なので一端横に置き、修行場異界へと足を進める。
まずは久遠のレベル上げなので、最近常連と回っているレベル10以上の階層ではなく、レベル一桁前半の階層へと向かう。
「【会心波】!っと、装備の性能もあってこれでは戦闘と言えんな」
「数がある程度いても開幕スキルで一掃出来てしまうとなると、一桁後半の辺りまではさっさと通り過ぎますか。早足ぐらいで周囲警戒しつつ進む程度しないと鍛錬にもなりそうに無いですね」
「了解した。では早足目で奥へ向かうとしよう」
式神としての身体能力に戦闘知識に技術が詰まったスキルが合わされば然もあらんというか、特に問題も無く見敵必殺しながら進み、程なくレベル5以上の悪魔が出現する辺りに到着し、そこからは多少の戦闘になりつつ探索を進める。
「さて、レベル帯的にこの辺りから増援や奇襲も増えてきますし、私も異界管理に使う悪魔確保も兼ねて殴りに行くとしますか」
「何というか、瑞樹の行動を見ていると、護衛が必要なのかと言う疑問も出てくるな」
「この辺りがレベル的に格下というのはありますけど、久遠に求めている一番は矢面に立つって所なんですよね。私自身近接戦闘訓練はしてますし、奇襲程度捌けない方が問題ですから。なので久遠は、最も敵の多い場所で私の前に立ち、受け止め跳ね返すこと、そして久遠自身も生き抜いて私の元へ戻ってくること。それを出来る様になって下さいね」
「そうなのだな、承知した。その期待に応えて見せるとも」
そう言って安堵した様な、進むべき道がそこにあるのだと見つけた様な表情を浮かべる久遠は、見た目は大人の女性でペルソナと言う確りとした自我がある様に見えても、生まれたばかりという事に変わりはないのだと感じさせられる。
私を守る者であれと望まれて生まれ、そして〝守る〟という言葉の曖昧さに悩み揺らぐ、集合的無意識との繋がりを意図して強くした影響がこの辺に出ているのかも知れない。
「でもそれは、私自身にとっても良いことですね」
「ん?瑞樹、何かあったか?」
「久遠が育っていることがわかって嬉しいという事です」
「スキルとして【パワースラッシュ】が新しく使える様になったりと、レベルが上がっているのは確かだが、育っていると実感出来る程では無いのだがな」
「小さな事を積み重ねてこその成長ですよ。さ、次の敵も近付いてきましたし、増援に来そうな位置にもいますから、気を引き締めて掛かりますよ」
「では、先制も兼ねてスキルの試しをさせて貰う」
小さくも確実に育っている事を確認した嬉しさを表現するのは部屋に戻るまで我慢するとして、増援で突っ込んできた悪魔や奇襲のつもりで通路の角や岩の下などに隠れている悪魔を文字通り殴り倒したり、久遠が先制して倒したりしながら進み、そろそろ正午になるだろうかと言う頃合いに、レベル10前後がでる階層付近にショタおじが設置した帰還ポイントを発見する。
「おや、もうここまで進みましたか、今日の構造は割と素直でしたね」
「日によって通路の構造が変わる仕組みだったか?適正レベル帯でも帰還ポイントまでの距離が変わると、探索の印象が大きく変わりそうだな」
「実際にそれできつい距離に当たって、次回以降の探索をためらう人はそれなりに居るみたいですね。まあここは神主が管理している異界なので、万が一の場合でも救助して貰える安心がありますけど、外部の依頼を受けて異界の攻略をすることになった場合を考えると、探索での怖さってのを知れただけその人は幸運だったと思いますよ」
「今日の様子を見る限り、瑞樹に探索の怖さを感じている節は見えなかった気がするのだが?」
「予想外のことが起きるかも知れないと言う覚悟は常にしてますけど、それで緊張して堅くなると余計に危険だという事を何度か体感したからですね。この修行場異界の大まかな整備がされて、実際に運用開始されるまでの間は初見対応可能な人員で立候補して、難易度調整のテストを繰り返してましたから、探索中に発動したトラップで階層全体がダークゾーン化したり、悪魔がトラップに引っかかった影響で変質して、戦闘中にいきなり全体攻撃使える様になって連打されたりとか」
今の不思議なダンジョン形式だって、最初の頃は組み替えによって壁や地面に取り込まれていた悪魔による奇襲をされたり、悪魔側が意図的にトラップを利用してくるから低レベル帯の階層ではトラップの数を減らす調整をしたり、地味な苦労はそれなりにしてきた経験があるからこそ、警戒はしても萎縮はしないし異界探索に恐怖することを笑ったりもしない。
「まあ苦労話を始めると長くなりますから、今は丁度良いので帰還して昼食にしましょう」
「何というか大変な苦労を重ねてきているのだな、瑞樹は」
久遠からの労りの言葉と感情にこそばゆくなりながら修行場異界から脱出し、昼食のために食堂へと向かう。
ちなみにこの食堂は、宿舎が出来た後も地味に続いている拡張工事の中で建てられた場所で、元々は宿舎に入る人数で十分だろうと思われていたのだが、修行場異界が整備された事や星霊神社の周辺に引っ越してきた俺らの存在など、今のガイア連合にいたる一連の流れの中で調理場含めて規模が足りないとの見解から、急遽建設が決まって先頃完成した建物だったりする。
後、ここの名物料理としては大量に作り置き出来るのと、スパイスの配合などで薬膳としての効果を高められて尚且つ美味しいって事で、〝ガイアカレー〟と命名された料理があり、使用している具材や味、或いは霊薬としての効能で選んで食券を発行する方式になってる。
まあ元々は大量生産出来るから材料代程度の料金を徴収して、後はバイキング形式で好きなだけってしてた*2んだけど、暴食系異能に目覚めた俺らが食い尽くしそうになったり、何を思ったのかタッパーに入れて持ち出そうとしたケースもあったりしたため、現在はちょっと手間だけど、連合員用のカードでIDを管理して、食堂の発券機から一日三食分まで購入可能な食券を購入して注文内容を厨房に送る方式になった経緯があったり。
「随分とキッチリした仕組みが作られていると思ったが、そんな事もあったのだな」
「後は余り大っぴらに言われてない話ですが、食い尽くす勢いで食べる暴食系俺らを前にした⑨ニキ*3が、カレー食べるのを遠慮しつつ、ちょっと残念そうな表情してたのを見た回りが流石にどうよと行動したってのもありますね」
昼飯時という事で混雑する食堂内を見渡せば、窓際の席で⑨ニキと大妖精ネキが楽しそうに話ながらカレーを食べている姿が見える。
ちなみに、周囲ではその様子を眺めてほっこりしているニキネキが大量にいるのがここ最近の日常だったりする。
「ちなみにその時の瑞樹は?」
「エンジニア系のニキネキと一緒に、食券システムと連合員カードの基礎を作ったりしましたね。普段から私の分身式神の一体は厨房で働いてますし」
まあ節度持たず好き勝手するなら相応の扱いをされるって話だね。
「その辺の話は兎も角、午前中だけで目標レベルを越えましたし、異界構築のための悪魔も捕獲しましたから、午後は神主の予定を聞いて可能なら修行、無理そうなら再度レベル上げとなりますね」
「了解した。では私達も味わうとしようか」
「「頂きます」」
そうしてガイアカレーを堪能した後、ショタおじの予定を確認して修行を付けて貰える日取りを決め、その後は結局異界へ潜らず、近接戦の動き確認を兼ねた模擬戦や事前課題として渡された術式の習得で日が暮れることになった。
まあ夜には久遠と深く繋がった事で更にレベルが上がることになったのは、別の話。