【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「師匠! 魔力の香出来たぜ!」
「こちらも速の香を作れましたわ!」
そう言ってマリッサとペリーヌが、レベル30以下なら十分効果の有るお香を持ってきたのは、二人に仙丹作りの指導をしてから数日後の事。
教えた日は予想通りお香の完成までは行かなかったものの、数日の間に二人揃って完成させてきたのは、視点の違う二人だからこそだろうか。
隙間時間に二人で意見を交わし合いながら、マリッサに渡したミニ八卦炉で作成に挑戦していた姿もよく見かけましたし。
「思っていたよりは早いですが、リストから外していた霊薬にも気付いた見たいですし、次の段階に進みましょうか」
「あ、やっぱり態とだったのですね……」
「だよなー。リストを見返して調べて見たら、いくつか霊薬の難易度が一段飛ばしになってるとこ有ったもんな」
「技術的に中間を穴埋めする様な霊薬ですから、一足飛びに作れるならそれはそれで問題無いですからね。上手く行かない時に〝何故〟を考えて、調べ解析する思考を付けるのは大事です。元々ある程度下地が有りましたから、今回はお香に挑戦するところまで引っ掛かる事は無かった見たいですけどね」
二人が納得の表情を浮かべている辺り意図には気付いていた様で、先日教えた際に渡した難易度毎に作り方と素材を用意したリストには、躓きやすい難易度の一部を敢えて載せておらず、基礎や知識が足りないと失敗し易くなる様になっていた。
結局の所、一時的に能力値を上昇させるブースト系統の霊薬――永続的に上昇させるお香の前段階に当たる物以外は、既に知識なり基礎技術なりで突破出来る段階にあったため躓く事は無かった訳ですが、逆に言えばそれだけの基礎や知識が有ると証明出来た訳ですから十分な成果ですね。
「さて、お香の製造が可能になったのなら、次は自作したお香を使って魂魄と肉体に影響を与える感覚を体感して貰います」
「使っても良いのか? 購買部で調べたら素材の費用、結構な額になってたんだが……」
「乳香樹はそれなりの数育ててますし、素材迷宮の一部に御魂が湧く場所も作ってますから、多少の手間は有りますが、素材の費用も含めて気にする程では無いですね」
「瑞樹様的には、問題にする様な物でも額でも無い訳ですわね。それで自作したお香を自分で試すとなると、限界を超えるための霊薬……金丹とか言う名前でしたか、それによる肉体の変化に耐えられる様に、お香で慣れさせる感じですか?」
「主目的はそれですね。お香だと魂魄に与える影響の方が大きいですが、肉体的にも多少の変化は起きますし、人の限界を超える場合、一度に全身を作り変える事になりますから、肉体が変化する感覚に慣れておく必要が有ります」
「それって段階的に分けて変化させるんじゃ駄目なのか?」
「段階的な変化と言うのも可能ではありますけど、曖昧な状態の肉体は魂魄が不安定になりますから、一歩間違えれば
「うげ、それは嫌だな……」
「つまり、金丹を使う本番でも変化の途中で動揺しない様に、と言う事ですのね」
「そう言う訳ですね。過去の文献では、一時的に肉体を不安定にさせる霊薬を使って事前準備をしていたみたいですが、肉体の変化を感じ取り慣れさせるなら、序でに能力を上昇出来るお香を使う方がプラスになって良いですからね」
「それ、普通はお香をそんな簡単に用意出来ないから、現実的に可能な方法として創り出された霊薬なんじゃないのか……?」
マリッサがボソリと呟いたのが多分正しい所で、今のガイア連合みたいに、突出した技術と修羅勢などによる素材収集で、大概の事を成し得る状況が異常なのは、否定する要素も無いですかね……。
まあそんな事は横に置いておいて、二人には早速自作したお香を使わせるため、結界を展開してそれぞれに入ってもらう。
「そろそろ、多少会話しても作業が乱れない程度には慣れてきましたかね?」
「んー、まあ慣れたって言や慣れたか? 香の匂いとか、取り込んだMAGを魂魄と肉体で循環させるのに、まだ違和感が有るが……」
「良い香りなのでそちらは問題無いですが、いつもの霊力操作にお香のMAGが混ざっている感覚は、まだしばらく慣れそうに有りませんわね。定着作業自体はこうして話していても続けられる感じにはなりましたが」
「話をしながらでも途切れないなら十分ですね。どの道、後数時間は定着作業が続きますから、その間に次ぎにやる事の説明でもしておきましょうか」
火を付けたお香のMAGだけが外に出ない様に調整した結界の中で、二人が多少苦労しつつも定着作業に慣れてきた頃合いを見計らい、本番に当たる金丹作りに関しての話を進めていく。
と言っても、使う素材は霊地などから採取した霊力を多く含む鉱石類と、生命樹を中心に据えた農産用異界で栽培している霊草各種なので、どんな物でどう処理していくかを話すだけだけども。
後々は島民達でも入手や製作が可能になる様に、素材迷宮や食欲界でも入手可能にする予定な事なども序でに話しつつ、実演で一つ作り上げる。
「金丹の製作難易度的にはお香と同等ぐらいになりますね。まあ肉体と魂魄に影響を与える霊薬と言う点では近しい物ですから、お香の作成が安定していれば失敗はまず無いでしょう」
「確かに言われた通り、作るのは何とかなりそうな気もしますけれども……」
「使う素材が辰砂や金とか、服用すると毒になるのばっかだな……」
「毒も薬も目的の作用と害になる副作用の多寡でしか無いですからね。それに物性のみで言えば確かにただの毒ですが、人の限界を超えるためには一度肉体を破壊するために強い毒性が必要になりますし、破壊した肉体を順に造り変えるための霊的薬効を整えて、効果を増幅させるための術式を込めておけば正しい仙丹となる訳です」
一般的な歴史において、水銀などの有毒物質が美容や不老長寿の薬として記述されており、表の考古学では歴史上の人物が短命だった理由の一つとされている。
まあ実際、性質から見ればただの有毒物質なのは事実ですし、物理的な側面と影響だけを考慮するなら正しい解釈になる所ですが、前世については恐らく、今世ではほぼ確実な推測となりますけど、古代の王族などの一部特権階級と言う点から、まず間違い無く覚醒者だったはず。
そうなると【ディア】や【ポズムディ】に【パトラ】など、回復手段はいくらでも用意出来ただろう立場で、それでも死んだり神として祀られたりした事を考えると、人の限界を超えるための儀式の一つとして水銀などを使用した霊薬を使い、耐えきれずに死んだか、存在格の上昇に成功して神と呼ばれる様になったのではないか? と想像出来るところ。
私が今回作成した金丹も、そうした僅かに残る過去の文献と、それらを【過去視】して得た情報を基に、研究して完成させた霊薬の一つになる。
「さて、金丹の説明は終わりましたが、定着作業にはまだ掛かりそうですし、もう少し何か話しましょうかね」
「あ、それなら私らから頼みたい事有るんだが……」
「何でもとは言いませんが、大概の事なら大丈夫ですから、とりあえず言ってみて下さい」
「でしたらその……切り札になる様な術技をお教え頂けませんでしょうか?」
「ふむ、切り札ですか」
「今は
「なるほど、確かに劣勢を切り返せたり、有利を決定付ける様な切り札の一枚や二枚持っておきたいと言うのは分かりますね。そうなると…………そうですね、複合属性術式辺りが汎用性も高くて良いかもしれません」
「複合属性術式……ですか?」
複合属性術式の考え方の基本となるのは、二つ以上の魔法を組み合わせて発動する合体魔法。
霊力の操作や制御能力が高ければ、独りで複数の異なる術を発動し、合体魔法を扱う事も出来たりはするけど、二つの異なる魔法を発動する事自体が難しいのも確かな話。
そんな訳で、初めから複数の魔法を組み合わせた魔法を作ろうと研究した結果が、複合属性術式となる。
術式の特徴としては、威力が術者の得意とする属性の物となり、与えるダメージは相手に取って一番ダメージの出る属性になると言う物。
具体的に言えば、火炎適性の高い術者が、火炎無効・電撃弱点な相手に火炎と電撃の複合属性術式を使用した場合、魔法の威力は火炎属性基準で、ダメージは電撃弱点を基準とした物となり、相手が無効属性を持っていたとしても、二つともが無効でなければダメージを通せると言う事。
「――軽く説明するとこんな感じですね」
「使えれば確かに切り札になりそうだが、聞く限りだと何か概念的と言うか、ファジーな感じがするんだが……私らに扱えるのか?」
「その感覚は良いですね、マリッサの言う様に複合属性術式の大部分は概念を扱うための物になります。二人はレベル30手前まで上がって居ますから、適性が低くても概念域の感覚は多少なり感じ取れるはずですので、何とかなると思いますよ? まあ一人で合体魔法を発動するほどでは無いですが、高い制御力を要求する技術ですので、一朝一夕にとは行かないでしょうけども」
「瑞樹様がそう仰るのであれば可能性は十分に有るのでしょうし、私としては是非にとお願いしたいところですわね」
「それは確かにな」
「その信頼も嬉しいですね。それでは基礎理論から話していきましょうか」
と言う事で、お香の定着作業が終わるまでの間に、複合属性術式の理論周りを説明して行く。
まあ概念的な〝こう言う物〟と言った感覚部分も多いため、口頭で伝えられる部分はそこまで多く無いんだけど、大事な部分は属性を複合させた後を何処まで想像出来るかと言うところ。
例えば一見混ざらない様に思える火炎と氷結も、燃やす様に凍らせる蒼白い炎だったり、触れたモノを燃やす雪を降らすなども可能になるし、実際の現象に即した形で無くても、結果のイメージが確りとしていれば、属性を色分けした光線の様にするなんてのも出来たりする。
重要な部分がフワッとしてるのは概念的な所だから仕方無いとして、それ以外の制御面で注意するところなどを話し終わった辺りで、重要部分を伝えるために使う道具の用意へ取りかかる。
「基礎部分の説明はこんな所ですかね。後は複合属性術式を込めた呪符を用意しますから、実際に扱って感覚を掴んで貰いましょうか。定着作業もそろそろ終わる頃合いですし」
「確かに少し力が増した感覚が有りますわね。未覚醒の状態から覚醒を果たした時ほどでは無いですが、気分が向上する感じも致しますわ」
「ああ覚醒した時の万能感か、明確に力が増えるってのがそう感じさせる所なんだろうな。こっちも確り力が増えた感覚が有るし、定着作業は完了出来たみたいだな」
「では結界を解除しましょうか。呪符の用意は終わりましたし、
「「はい!」」
元気に返事を返してくれる二人に渡すのは、練習用にわかり易く調整した火炎・氷結属性の【凍える炎】。
見た目は蒼白と赤金の二色が混ざった炎だけど、この色は【アギ】のアレンジとして色を変えているのでは無く、燃やすと言う概念を、物質を燃やして熱量に変えるプラスの方面と、熱量を燃やして固体に変えるマイナス方面の概念として一つに纏め、二つの概念を曖昧なままで留めた状態のために生じる物。
ちなみに、本来は相反する火炎と氷結を均等に混ぜ合わせると【
「うおっ、全く分からないって訳じゃ無いのが逆に辛いな……!」
「概念を扱うと言うのが良く分かりませんでしたけれど、これは確かに口で説明するのは無理ですわね……!」
「人類が言葉と言う道具を得て以降、様々な単語を当て嵌めて概念を分解してきましたが、それでも概念の全てを掌握するには至りませんからねぇ」
分解出来た概念範囲を扱うのが科学なら、分解出来ていない概念領域にも手を伸ばすのが、オカルトと言えるでしょうかね?
等とどうでも良い事を思い浮かべつつ、練習用のため威力よりも持続力に特化させた呪符を手に、二人が複合属性術式に込めた概念部分を感じ取るのに四苦八苦している様子を眺める。
まあ術式を習得する適性レベルとしては、31以降の存在格が一段上がった後の技術で有るため、術に関するセンスの高い二人でも相応に苦労する事になるはず。
とは言え、苦労も挫折もせずに進んだ先に良い結果はまず無い話ですし、まだしばらくは守破離で言うところの基礎的な技術を教える守の段階。
今は色々と苦労も失敗もしながら、いずれは破の段階――自ら考え自立して歩める様になって貰えれば、と言ったところですかねぇ。
「ああくそっ、霊力の消費はそれほどでも無いのに、すんごい消耗したぞ?!」
「体や思考と言うよりも、魂が疲弊している様な感じが致しますわね……」
「消耗するだけで済んでいるなら、十分可能な範囲まで届いている証拠ですよ。人が人のままでは理解出来ないのが概念領域と言うモノです。言葉で可能な説明など概念の表層的な部分がせいぜいで、本質に近付く程ソレに含まれる情報量が膨大になり、言い表す事が出来なくなりますからね」
「この感覚を言葉にしろと言われても無理なのは良く分かるな……。過去の文献に残って無いってのも、今なら納得するぜ」
「ですわね。多分私が感じているモノとマリッサが感じ取ったモノは、似ていても同じでは無いでしょうし、万人に理解出来る言葉で説明など、到底無理ですわね」
「そこを理解出来ているのなら、二人はセンスが有る方ですよ。それでは回復するまでお茶にでもしましょうか」
呪符を使った複合属性術式発動が終わって、疲労困憊と言った様子の二人を誘いしばしのティータイム。
二人に取って概念領域の術式を扱うと言う事は、魂魄的に少し背伸びした先の世界を体感した様な物。
今ほど
兎も角、疲労回復のためにも紅茶とお菓子を用意して、一息入れさせる事に。
「何か今までとは格別に、紅茶が染み渡る気がするぜ」
「肉体より精神に軸を置くというのは、こんな感じなのでしょうか……」
「存在格が上がっていけば、文字通りの意味で精神が肉体を凌駕して行きますからね。自分なりの精神的な疲労をリセットする方法は見つけておくと良いですよ」
「あいよ、色々考えて見る。にしても、複合属性術式で二属性を合わせるならまだ何となく想像も付くんだが、三属性以上とか可能なのか?」
「自然現象で例を挙げるとするなら、台風などの嵐だと、電撃に疾風か衝撃、それと水撃か氷結を合わせた三属性と言えますし、噴火なら火炎と地変に衝撃辺りはイメージして構築し易いですかね? まあ複合させる属性が増えていくと、何かに例えるのも難しくなりますし、三つ以上の複合が安定する頃には今以上に理解も進んでますから、事象を模するより光線にでもした方が楽ですね」
「光線……ですか?」
「これも一度見せた方が早いですし、休憩終わりにでも披露しましょうか」
「楽しみにしとくわ、まあ今はこの怠さをどうにかするこったな……」
「紅茶とケーキが美味しいですわねぇ……」
そうしてしばらく雑談しつつ、追加で団子やタルトなども食べて二人が回復したところで、再開前に複合属性術式の到達点と言える術を披露する。
複合するのは属性全てで、分類としては万能属性とも言えるけれど【メギド】等の様な物では無く、相手の最も弱い属性でダメージを与える特性と、弱点が無く全て等倍以下なら無属性として、万能属性に耐性が有っても軽減出来ない特性を持つ魔法。
「では標的の方も設置しましたし、ゆっくりと構築していきますから、確りと見ていて下さいね?」
イメージは加法混色と呼ばれる光の三原色と、減法混色と呼ばれる色の三原色。
混ぜ合わせて白に成る光を陽、黒に成る色を陰として、白と黒を含めた八色で八卦と見立てて構築を開始。
見立てた八卦が集まり四象となって両義へ至り、森羅万象を内包する太極の弾を作り出す。
単純な見た目は白と黒の陰陽魚だけど、良く観察すれば、それぞれ色が重なり合った結果として、白と黒に見えているだけなのが分かるだろう。
そうして作り出した力を暴れない様に制御して、直線状に解き放つ。
「行きますよ、【マスタースパーク*1】!」
極彩の様にも、モノトーンの様にも感じる力の奔流が解き放たれると、設置した標的全てを巻き込む様に着弾。
術の結果をわかり易くするために、敢えて弱点属性をバラバラにしていた標的は、それぞれの弱点に合わせて燃え上がったり氷像に成ったり、電熱で焼け焦げた物や衝撃でバラバラになった物など、一つの術で複数の結果が現れたのが分かる惨状を呈していた。
「複合属性術式を光線として扱うとこんな感じですね。光や色の三原色は混ぜて別の色を作る物ですから、複合属性術式のイメージとも相性が良いんですよね」
「やっている事自体は説明もして貰いましたから分かりますが、理解出来たとは到底言えませんわね」
「最終的な目標としてなら兎も角、まずはわかり易く事象を模倣するのが良いな、絶対に」
「ええ、まずは呪符に頼らず、【凍える炎】を使える様になるところから頑張りましょう。その次は嵐を参考にした三属性ですわね」
「ではさっきと同じ呪符を渡しておきますので、頑張って下さいね」
複合属性術式を光線として放つ【マスタースパーク】を見て、まだまだ手が届かない先だと感じたのか、頷き合う二人の結論は足場を確りと固めていく事の様で、地道な反復練習に意欲的に取り組んでいく。
実践で使える段階になる頃には、レベル30の壁も超えてる事だろうけれど、いずれ二人なりの術を見せてくれるだろうか。
「その時が今から楽しみですね」
攻撃対象に弱点となる属性が有る場合、その属性攻撃としてダメージを与え、明確な弱点属性が無い場合は無属性として、常に等倍以上のダメージを与える特殊複合属性術式。
なお、混ぜ合わせる属性が多いため、術式の発動と制御には相応の技量を要求するため、上手く混ざり合わないと万能属性に変化する。