【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「やっぱり指輪は有った方が良いですか……」
「そりゃまあ、憧れが無いと言ったら嘘になるよね。学校に付けて行ったら色々言われそうだから、普段はネックレスにでもする感じになりそうだけどさ」
一晩中愛し合った結果の寝不足を解消するため、時間加速しているダイオラマ魔法球で睡眠時間を取り、その後改めて用意した朝食の席での事。
明け方に琴音と話した事を昨夜の参加者全員に伝えたところ、反応の差はあっても全員指輪は欲しいとの回答が返ってくる。
現在も高校に通ってる三人は特に、普段から付けていると色々面倒事が有りそうって事で悩んでいたものの、そこは琴音が言った様にネックレスに通して身につける事に落ち着いた様子。
「それなら良い感じの指輪を用意してみましょうか。まあ結婚式の方は現状的にしばらく無理でしょうから、終末越えて色々落ち着いてからってところですね」
「なあ師匠、その終末が近いってのを何度か聞くけどさ、具体的にどんな事が起きるかってのは分かってるのか?」
「あ、それは私も気になるかな? 琴音に聞いてもはぐらかされたし」
「私としてはタルタロスが終末案件最優先だと思ってるんだけど、他の可能性も有るって話しただけで、別にはぐらかした訳じゃ無いんだけどねぇ」
「終末と言っても、現在の文明社会が大きく破壊されて、人が頂点に立つ時代が終わると言った感じの事態を一括りにした呼び方ですからね。ある程度以上に文明を維持出来ない程の破壊が起きるなら、地震でも洪水による水没でも、或いは核ミサイルによる地上の焼き払いでも、同じく終末と言うわけです」
「ガイア連合で現在を半終末と呼んでるのは、その核ミサイルによって日本以外が焼かれたからでしたよね」
「ですね。更に悪い事に、メシア教が使った核ミサイルには天使召喚プログラムも組み込まれていて、核爆発のエネルギーを使っての天使――連合では穢教鳥と呼称する様になった種族の悪魔を大量召喚した事で、ゲートパワーも魔界に近いレベルまで一気に上がりましたからね」
ゲートパワー、大雑把に言えば物質世界に属する地球が、精神世界側である魔界にどれだけ近付いているのかを表す指数の様な物。
基本的にはゲートパワーの数値が、その周辺で自然湧きする悪魔のレベル上限と考えれば良い感じ。
まあ異界だったり何かしらの儀式だったりで、ゲートパワー以上の悪魔が出現する事もあるし、そうした出来事によってゲートパワーが上昇する事もよくある話。
半終末に突入した事件もその一つであり、メシア教が言うところの天界と言う名の魔界に地球を墜とそうとしたのが、全世界への核ミサイル発射と言う事。
そもそも魔界と呼ばれてはいるけど、実態は精神や概念側に属する世界の総称で有って、単一の世界を指す言葉では無く、俗に言う天国や地獄に楽園など、現実とは隔てた場所に在るとされる世界を表す業界用語ですし。
「終末にいたる要因はいくつも想定されていますが、ガイア連合の技術で乗り越えられるものとして準備を進めているのは、地脈の暴走により地球全土が魔界の一つへと変化する事態ですね。今はメシア教によって地脈の属性がLaw側に偏っているため、このまま状況が進めばメシアンが言う天界と言う名の、人間が家畜として穢教鳥に支配される人間牧場世界に墜ちる可能性が高いですが」
「うげぇ、そりゃ確かにこの世の終わりだな……」
「対処を進めて居ると言う事は、何とかする方法は有ると言う事ですわよね?」
「全世界での地脈の活性化と合わせて、地球が魔界化する事自体は元々避けようが無かったですからね。なので地脈をNeutralまで戻して、人が生きていく事も可能な範囲の魔界に落ち着かせるのが、今のところの目標ですね。食欲界を使っての地脈の濾過を止めたのも、時間稼ぎは十分出来たのと、最終的には一度地脈全体がLaw属性に染まった状態で行う作業が有るためですし」
「へぇ~そうなんだ。あれ? それじゃ琴音が言うタルタロスが終末案件ってのは?」
「防がないといけない終末案件の方って事ですね。今でも多少は影響が出て無気力症に陥った人が出ていますけど、あれはシャドウに精神が喰われた者達ですし、最終的に全人類が無気力症に陥って絶滅すると言うのが、タルタロスで進行している事態になります」
「黒札の中でも一部なら生き残れるだろうけど、その段階まで行った時点で負けだからね。そんな訳で最優先対処案件だと私は思ってるってとこ」
「ペルソナ使いは心の強さが必要になる分、他の霊能者とは条件が違うだけ見つけにくいですからねぇ。今はアルカナコートが出来たので多少マシにはなっていますけど」
終末案件は文字通り、どれ一つ取っても対処に失敗すれば文明崩壊レベルの事態が起きる訳だけども、その結果に関しては割と幅が大きく、最小なら文明こそ崩壊はするけど、人類もそれなりに生き残る事が可能な程度から、一人の例外無く人類が死滅したり、地球の自転が停止して物理的に地表が吹き飛ぶなんて事も起こり得る話。
ちなみに、事が起きたら終了なのはペルソナ関連の方に多いんだけど、この辺は一度崩壊した後が舞台になってる事も多いメガテン系と異なり、舞台自体は現代社会で、世界の終わりを防ぐために動くストーリーラインなペルソナ系との違いだろうと思う。
「そういやアルカナコートが出来たおかげで、修羅勢の一部も戦いの刺激求めてタルタロスに来てるもんねぇ。満月毎の復活以外に、刈り取る者をリスポーンさせる方法を見つけ出して、毎晩楽しそうにリスキルしてるし」
「流石に修羅勢と呼ばれているだけありますよね……。それが恒例になってから、二百五十階のシャドウも大分数が減りましたし、何なら二百五十階へ狩りに来てる人達もいますよね?」
「宇宙空間での戦闘は、修羅勢の住処である修業場異界でも遭遇するのは珍しいですから、確定で使えるなら色々試したいと思う人も居るって事ですねぇ」
「ううむ、拙者も宇宙空間での戦闘とやらを体感してみたい物で御座るが……」
「私は出来るなら勘弁して欲しいかなぁ。宇宙空間で活動出来る装備なんて無いし」
「レベル上がればある程度耐えられるし、ペルソナ発動中なら概念を纏う事で宇宙みたいな極限環境も大丈夫だけど、その分霊力消費の制限が掛かるからね。瑞樹みたいに仙人になって【神足通】を鍛えれば、素の状態でも宇宙とか行けるみたいだけど」
「綴でもその段階には届いてませんからねぇ。レベルも上がってますから後一息と言った感じですが」
「その一息が遠い感じなんですけどね……。流石にカズフサさんやキノさんみたいには行きませんよ。琴音ちゃんも仙術に力を入れていれば直ぐに行けるんじゃ無いですか?」
「私の適性はペルソナ方面だからなぁ。瑞樹に教わって霊能方面も鍛えてるけど、ペルソナと組み合わせての形だし、別物に成りそうな気もするかな」
「概念関連は全く同じって方が珍しいですからねぇ。確定した答えが無い領域ですから、綴も私が見つけた答えは参考程度にして、自分なりの答えを探すのが重要ですよ」
っと、そんな感じで話題を二転三転させつつ朝食が終われば、平日な今日も貴重な高校生活へ向かう三人を送り出し、
基本的には綴とマリッサにペリーヌの三人と、移住してきた明石教授の様な、一般教科を教えられる人員で講義を回している訳だけど、流石に全てを賄える程では無いって事で、蓬莱の管轄下にある九十九式自動人形へ知識系スキルを突っ込んだ個体に代行させたり、私の木分身もちょこちょこ講義を行って居るのが現状。
いずれ基本的な講義は島民同士で回せる様になって欲しいところだけど、それはまあ数年か十数年は先の話しになるだろうか。
兎も角、各々動き出したところで、私も個人的な研究の方へと取りかかる事にする。
「さて、色々と進めてる研究はありますが、取り急ぐのは指輪の作成ですね。この場合は
細かいところは置いておいて、作る指輪に盛り込みたい性能を考えていく。
今後は基本的に常時身につける事になるだろう点を考えると、他のアクセと干渉しない様にしておきたいところですし、万が一の事態にも対処出来る性能は持たせたいところ。
「欲しい性能となると……まずは即死や状態異常対策ですかね。自前のスキルや他の装備でもある程度対策はしてますが、この辺の概念を重ねておけば貫通系の対策にもなりますし、いっそのこと貫通自体への対抗術式も有りですね。後は裕奈が言ってた様に、極限環境でも生存可能になれば、万一の不安も多少は減らせますか」
これまでにどの様な事態だろうと対処出来ると、自信を持てるだけの技術を身に付けてきたけど、それでも不安を払拭出来ないのは、異界探索などの目の届かない所へ弟子達を送り出す時の事。
装備なども貸し与えているし、早々に遅れは取らないと分かっていても、私の知らない所で危険に陥っていないかは心配になる物。
これが琴音みたいに、自分と同等以上の実力を持っていると確信出来ているなら飲み込めはするけど、それでも心配は要らないと割り切れる様な精神はしていないし、この辺はショタおじを過保護と笑えない部分だと、我ながら思うところ。
ともすれば箱庭の中に閉じ込めて、全てを己の管理下に置きたいと思う様な独占欲が湧き上がるのも感じつつ、それが己の愛した者達の輝きを失わせる物だと理解しているからこそ思いとどまる。
そんな自分の仄暗い陰の感情を暴れさせないためにも、今回の指輪を作って贈ると言うのは、良い機会でしたかね?
まあ自己分析は兎も角、必要と思う性能をピックアップしたら、次は挙げた性能を実現可能な素材を見繕う。
「サイズの自動調整や装備破壊への対策は基本として、武器を振るう時にも邪魔にならない様にするのを考えると、情報接続加工を応用して装着者と一体化させますかね。そうすれば他のアクセサリとの干渉も抑えられるでしょうし、となると……ハルゼン合金、エレクトラム合金辺りが良さそうですね」
ハルゼン合金はオリハルコンと神珍鉄を混ぜているため、多少の大きさ変化は素材の特性として可能だし、エレクトラム合金は不朽の概念を持っているため、装備破壊への耐性も高いし状態異常耐性も付け易い。
指輪の土台に関してが決まった所で、次ぎに取り出すのは何だかんだと使用頻度の高いアダマントス合金、それから生命樹の樹液から作り出した琥珀や枝などの素材各種。
アダマントス合金は死の概念に特化している事から、即死関連の耐性を付ける素材にも適しているし、刈り取る者のフォルマを使用した物で有れば貫通関連への適性も高い。
生命樹の方は、陰に属するアダマントス合金と釣り合いを取るための陽属性と言う点に加え、生命力方面での即死耐性関係と
「必要な概念強度を考えると、生命樹関連に対してアダマントス合金の量が多くなりすぎますね……タルタロス二百五十階のフォルマを使いますか。死の概念が充満する世界に現れるシャドウのフォルマですし、素材の属性としては十分行けますね。代わりに精神方面に寄る事になりますけど、情報接続加工するならどの道ですね」
取り出した素材から出来上がりを想定し、盛り込む性能を吟味しては素材を追加したり入れ替えたりして、いくつか試作しつつ最終的な性能を絞り込んでいく。
今回は概念の純化よりも融合昇華――イメージとしては直立する塔では無く、広い裾野を持つ山の様に、概念をまとめ上げた安定性を求めて八卦炉を使用し、各種鉱石・フォルマに合金樹を投入して煉り上げる。
出来上がったのは、一見では飴色の様に見えて、見る角度によっては黄金の輝きだったり、星空の様な瞬きを魅せる、木目も美しい合金木の指輪。
「ふむ……、土台の方は目標通り、後は各種術式を刻んで仕上げですね」
指輪の数は十一、作る物の性能的に子供達にも用意したい所だけど、今回は私達の関係を示すための指輪と言う事で、子供達に渡す分はまた別に作る事にする。
後、少し悩んだのは香川支部は大赦に居る三人の娘と、その母で大赦の当主である浅間智と立花誾に小西霊子の三人。
私が子作りすると言う事を確りと意識出来ていなかった頃、【霊質強化術】が機能するか確かめるために、
娘達への愛情は間違い無くあるし、母親である三人への愛情も確かにあるが、それは伴侶として、ともすれば永遠の旅路となる私達の先々まで、共に在る事を望む物かと心に問えば、現状では否と答えが返ってくるところ。
彼女達は大赦と言う組織で、地元を護るために命を捧げてきた過去と覚悟があり、それを捨てて私の庇護下にとはとてもでは無いけど言えないし、仮にそれで簡単に頷く相手なら、悩む程度の愛情を持つ事もしなかったとは思う。
結局の所、香川支部に所属するのでは無く、外部から支援する選択をしたと言うのが答えで、そこの線引きは確りとしておかなければいけないと言う話か。
「この指輪を渡す相手の基準となると……私の場合は、その人の子を身籠もっても良いと思えるかどうかって所ですかね? まあ基本的には、琴音も含めて皆が受け入れる相手ってのが最低条件ですが」
内心に浮かび上がった思いの整理をしつつ、術式を刻み終わった指輪をチェックして、目標の性能に届いているかを確認する。
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ハルゼン合金木とエレクトラム合金木を土台として、アダマントス合金木に生命樹の琥珀や枝などの素材各種、タルタロス二百五十階のフォルマを注ぎ込み、概念融合して作成した指輪。
この指輪を装備する者同士の絆が深まる程に性能が上昇する、思いと願いの結晶。
情報接続加工技術の応用により、装備時の違和感を減らし、武器の扱いなどに影響を出さない工夫が施されており、尚且つ通常のアクセサリーと干渉しない特殊装備枠になっている。
装備効果
┣基本:【サイズ自動調整】【装備破壊耐性】【精神状態異常耐性】
┣友人:【状態異常耐性】【生還トリック】
┣恋人:【装備破壊無効】【全状態異常無効】【極限環境適応】
┗伴侶:【即死効果無効】【貫通耐性】
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完成した指輪の詳細な性能はこんな感じで、盛り込んだのは不測の事態への対策を重視したスキル群。
装着者同士の繋がり、魂の契りとでも言える状態を条件にする事で、魂魄をより強固に護る防壁としての役割を持たせる事に成功した物。
少なくともこの指輪を身につけている間は、修業場異界の深層だろうとただのギミックで即死する事は無いと言える、はず……。
「ショタおじに聞いた話だと、修業場異界の深層が繋がってる先は、魔界の中でも特に深いところらしいですから、深層よりも酷い異界なんてのは早々無いと言えますが……。まあ何処まで行っても完全なんて無理な話ですし、この世に絶対なんてのは無いですから、私が安心出来る性能ならそれで良しとするしかないですね」
確認が終わった指輪を左手の薬指に付けて、サイズ自動調整や情報接続加工による一体化が正常に機能している事も確かめ、指輪の製造に関する資料の作成に取りかかる。
「さて、今回の絆魂の指輪のレシピはどうしますかね。物としては
基本的に新しく装備などが出来たら、使用する素材や機材から製法まで、事細かに記した
「……そうですね、
レシピを書き上げたところで思考もまとまり、手元に残す原本とは別にコピーしたレシピの他、序でに隠しレシピとして設置したら面白そうな物をピックアップして学びの園へと向かう。
いずれ何時かの未来において、蓬莱島で生まれた子達が学びの園でレシピを見つけ、何かしらの冒険を繰り広げたりするだろうかと想像すると、なんとも楽しくなってくる。
「創作ではありがちですが、過去の偉人が仕掛けの先に宝を残すと言うのも、今ならその気持ちが分かる気がしますね。何十年先か、或いは何百年先になるかは分かりませんが、仕掛けを越えた子達が紡ぐ物語を、観賞できる日が来るのを楽しみにしておきましょうか」