【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
それは六月の某日、ショタおじから一部の黒札には終末の時期が大まかに伝えられた後の事。
後数ヶ月、長くても半年以内には確実に終末の日が来ると定まった訳だが、ガイア連合山梨支部こと黒札の面々が重苦しい空気に包まれるかと言えばそんな訳も無く、それはそれとして騒がしい日常が繰り広げられる一角で、また新しい娯楽コンテンツが生み出されようとしていた。
「黒死ネキ、頂いた〝情報〟*1で確認出来る限りの一般人からの契約は取り付けてきましたよ」
「夢の中で契約を結んできたのだったか、まるで夢魔か何かだな? 探求ネキ」
「いちいち説明する意味も無いですし、過去を対価に安全を得られるのだから十分でしょう」
クツクツと楽しそうに笑うのは、艶めく長い黒髪と赤い瞳が妖しげな美貌を醸し出す美少女である、黒死ネキこと四条灯。
今二人して作業している此処は、山梨第二支部の区画にあるガイアグループの娯楽部門用スタジオの一室で、黒死ネキの普段の行動範囲からは余り縁が無い様に思える場所だが、今回の企画には欠かせない人物なため、後で全力戦闘を行うことを対価に協力を要請した経緯。
なお、企画の協力を要請した際には、「私としては、本人達の視点以外を含めた映像作品として完成した物も楽しみだから、喜んで協力させて貰う」との快諾を得たのを考えると、死合いを対価にしなくても通ったかも? とは思うが、他の対価よりは快く全力で協力してくれるだろうから気にしないことにする。
「まあ未覚醒の一般人にいちいち説明していては、何時までも作業が進まんか」
「制作側な私と黒死ネキ以外の黒札関連で許可が取れたのは、幼女ネキ*2と田舎ニキ*3にカス子ネキ*4、それからTS魔人ニキネキ*5辺りと、余り数は多くないので色々編集が大変ですからね」
「当事者からすれば割と黒歴史だからな、然もありなん。――っと、そういやシリーズ一本目の編集はそろそろ終わると言ってたがどうなんだ?」
「一応通して見れる程度には終わってますよ。三人の幼少期から順に追っていくため、当時の人を探して契約を取り付けるのに時間が掛かりましたが……」
「ほう、それは楽しみだな」
二人して楽しげに笑みを浮かべながら編集作業をしているのは、今から約一年程前にガイア連合山梨支部へと合流してきた三人の黒札、一部に親しまれ、一部に倦厭され、一部に重宝される、愛すべき馬鹿達として三馬鹿ラスの通称が贈られたサスケニキ、ヨロイニキ、クロマニキ*6の日常風景を、【過去視】などを使って映像化した物。
ちなみにこれは、ガイア連合に所属してからの僅か一年で巻き起こしてきた数々のやらかしに、三人が地元でこれまでに起こしてきた騒動の数々と、まるでナチュラルボーンコメディアンの様な三人組の生き様は、確実に世界(メインはショタおじ)を笑顔にしてくれるだろうと思い立ち、出来るだけ映像には手を加えずに、状況を把握し易くする描写に留め、娯楽作品として残そうと企画した話。
使用するのは黒死ネキが【ゲーデ】の権能を使い、契約の対価として本人達から得た情報を基にした主観映像と、その情報を基に現地で【過去視】を行い映像化した三人称視点や、他の当事者からの視点。
そこにそれぞれの当事者がその時どう感じ、何を思ったのかも台詞や字幕として組み込んで、ドキュメントバラエティ的な物に仕上げようと言うところ。
「では一度通して流しますので、意見があればお願いしますね」
そんな訳でシリーズ一本目、許可を得て作成している旨を伝えるため、冒頭部分に入れた三馬鹿ラスへ映像作品化する契約を持ちかけに行った時の状況がモニターに表示され、ワクワクしている黒死ネキと共に編集作業へと取り掛かる。
場面は星霊神社の廊下を私が歩いている所で、簡単な経緯や背景事情などが、字幕で表示される映像が流れていく。
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これは半終末と呼ぶ時期になってしばらくした頃の事、探求ネキが以前遭遇した際には、酒に酔った上、ワイン瓶片手に愉快な罵り合いと殴り合いを繰り広げていた三人組が、ガイア連合内の方々で色々と面白おかしい騒動を巻き起こしていると知り、数々の騒動を傍で見届けた人々の感想から、娯楽として良いのでは? と思い、映像化の許可を取り、契約を結ぶために赴いた時の話。
「「「あの時は済みませんでした!」」」
話をしたい事が有るので、時間の良い時に星霊神社の一室に来て欲しいと、事務局経由で連絡を入れ、返信されてきた日時に部屋へと入った際の第一声がこれである。
しかも三人揃って一糸乱れぬ見事な土下座のおまけ付きで。
「?? ……ああ! 以前酒に酔って棒やらゴールデンボールやら叫びながら殴り合いして、霊視ニキにドナドナされた時の事ですか? 私としては別に気にしてないので謝罪は要りませんよ。今日呼んだのは別の理由ですし」
「「「えっ?」」」
多分三人にとっては忘れられない失敗談だったのか、表層に浮かんでいる感情は、
事実、三人は探求ネキからの呼び出し(本人達の主観)を受けたと言う事で、思い当たる節は目の前で醜態を晒した一件しかなく、下ネタぶちかましたシツレイの落とし前に呼ばれた物と覚悟して来ていた。
「ええっと、それじゃその……探求ネキからの話と言うのは?」
「確りと説明しますので、まずは椅子に座りましょうか、そのままでは話し辛いですし」
三人を代表してなのか、忍者装束を身に纏い、サンシタニンジャな気配を漂わせるサスケニキが要件を尋ねてくるが、こちらから契約を持ちかける立場として、正座した状態で話す訳にも行かないため、まずはテーブルについて貰いお茶を入れて一息付けた所で、改めて探求ネキが話を始める。
「さて、一息付いた所で改めて今回三人を呼んだ件ですが、今ガイアグループの娯楽部門――主に黒札向けの娯楽コンテンツを作成している部署で、三人の活動記録をドキュメンタリー*7的な映像作品にしてみないか? と言う企画が挙がってまして――」
「それはもしかして、俳優デビューの誘いってやつか!?」
「このおバカ! 探求ネキの説明を遮って変な事言ってんじゃねーですよ!」
「んだとテメェ!」
「あ、バカ二人は無視して良いので続きをどうぞ」
探求ネキの説明途中で声を上げたのは、有名武将の鎧兜をパーツ毎に継ぎ接ぎした様な格好をしたヨロイニキで、三人の中では前衛をするだけあって行動力のあるタイプらしい。
そんなヨロイニキに突っ込みを入れたのは、とんがり帽子を目深に被ってローブやマントを着込んだテンプレ的な魔法使いスタイルのクロマニキで、雰囲気的に三人の中では頭脳担当を自認している気配を感じる。
まあ説明の途中で質問が挟まると、話が脱線し易くなるのでちょっと困る時も有ったりするのだが、とは言え今回は認識違いを訂正する程度のため、さして問題が無かったのは幸いか。
「説明途中で、と言うのはアレですけど、疑問をそのままにして勘違いするよりはマシですので、気になった事が有ればタイミングを見て質問してくれて構いませんよ。それで、映像については【過去視】などで集めてくるので、出演と言うより三人の肖像権の使用許可ですね。ドキュメンタリーなので意識した演技では意味が無くなりますから」
口頭での説明に合わせて、三人に契約事項などを記載した紙も渡し、この場を設けた目的、三人を主題とした映像作品に関する説明が行われていく。
モニターには説明している状況を背景にワイプして、実際に三人へ渡した書類の内容が表示された後、要約した重要な内容の四つが表示される。
・【過去視】などの術を用いて、三人の行動を映像作品として編集し、販売する許可について
・映像作品を販売した際、発生した収益の一部を肖像権料として支払う事(割合はガイアグループで定める出演料を参考とした物とする)
・ドキュメンタリーを目的とするため、普段の行動に変化が生じない様、今回の交渉は三人の記憶から消去させて貰うため、その代わり肖像権使用料とは別に、補填として望む報酬を支払う事
・使用許可を得た場合、承諾の下で制作を行って居る証明として、今回の交渉も映像作品に含める事
他にも細々とした特記事項があったりするが、基本的に互いに不利益が発生しない様にする事と、終末案件やメシア教関連で早急に対処しないといけない場合の備えとかのため、気になる場合は先に表示した書面を、一時停止しての確認を推奨する。
さて、書面の方もではあるが、出来るだけ記載内容を簡潔にしているのは、現役高校生でこの手の契約に慣れていないだろう三人でも、理解出来る様にとの配慮の結果なのだが――
「つまりどう言う事だってばよ?」
「うんうん」
画面のワイプが戻り、一通りの説明が終わって質問が無いか、探求ネキが聞いた所での反応がこれである。
「ふっ、相変わらずバカですね。つまりは私達の活動が幹部直々に認められ、多少の問題はお目こぼしして貰えるって事でしょう」
「いえドキュメンタリー作品ですから、問題を起こしたならそれをそのまま映像にするだけで、問題のもみ消しなどはしませんよ? まあ貴方達三人以外の人が巻き込まれた場合、その人に映像化の許可を取れるかで、作品にするかが変わるぐらいですね」
「「お前もわかってねぇんじゃねーか!」」
素直に分かっていない反応の二人に、自信満々の態度でマウントを取るクロマニキの誤った解釈を訂正すると、いっそ美しいほど揃った台詞と動作でクロマニキをしばき倒す二人。
条件反射なのか、売り言葉に買い言葉でヒートアップしながら、コミカルにドタバタしている三人を微笑ましく眺めつつ、とりあえず埃が舞ってお茶に入らない様に結界を貼っておく探求ネキ。
「多少運動してエネルギーを発散出来たみたいですし、契約の話に戻りますね?」
「「「アッハイ」」」
なお、この時の探求ネキは大笑いしない様、微笑み程度に抑えるために力を注いでいるのだが、その様が三人には凄みとして伝わったみたいで、流れる様な動きで叱られる時の体勢(正座)を取り、静かになる。
「改めて簡単に言うと、映像作品が利益を出している間は、出演料として利益の一部が三人に支払われると言う事です。映像化の許可を貰えれば、後はこちらで全て行いますので、三人が特別何かをする必要も無いですね」
ちなみに、三人が問題を起こした際、発生した周辺被害の修理費用などは、三人の肖像権使用料から天引きする契約内容も、先の書面には記載されている。
「なるほど、俺達を使った映像作品を作るには、肖像権とやらが問題になるから、俺達に許可を取りに来た、と」
「俺達が許可すれば、後は探求ネキ達が制作するから、俺達は何もしなくても金が貰えるのか」
「つまりは不労所得と言う奴ですね」
「これはかなり美味い話じゃないか?」
「美味すぎる気もするが、探求ネキが持ってきた話だしな」
「探求ネキと言えばガイア連合でも古参も古参の大幹部です。私達を嵌める必要なんて有りませんし、報酬は魅力的ですよ」
なお、必要も無いのに三人して正座したままの会話である。
「それに映像作品になるって事は、それを見てファンになる子なんかも出てくるんじゃ無いか?」
「おお!」
「それは確かに有り得るでしょう」
態々小声で話していたのにも関わらず、声量が大きくなる程に興奮した様子の三人は、傍目に明らかなほど都合の良い妄想に耽っているのが窺える。
三人が三人とも己一人がちやほやとされ、他二人にマウントを取ってる未来図(妄想)を思い描いているのを横に、探求ネキは次の爆弾を投下する。
「その様子なら許諾は得られそうですし、今回の交渉記憶を消去する代わりの補填についての話をしましょうか」
「「「はっ!?」」」
「そうだ、これが有ったんだ!」
「つってもよ、どんな報酬が良いんだ? 記憶は消されるんだろ?」
「そこ何ですよね。記憶消去が条件で無ければ、以前失敗したアレを聞くチャンスなのですが……」
「おい止めろよ、嫌なことまで思い出しただろ」
幸せな想像(妄想)から現実に引き戻された三人が、表面上は真剣な表情を取り繕うと、また小声での会議を始める。
なお、小声と言っても最初ほど潜めてる訳でも無いし、何なら身体能力的に、探求ネキには最初から全て筒抜けなのだが……。
とりあえず、三人から具体的な案が直ぐに出てこない様子のため、考える切っ掛けとなる情報を追加する事に。
「まあどんな報酬が良いかを聞く前に、可能な範囲を伝える方が良さそうですね。今回は記憶を対価にとなりますが、記憶自体の重要性はさほどでもありませんので……物品換算だと今のレベル帯か、一つ上で使える装備を一人一つぐらいになりますね。金額的にはこの範囲で、後は私のコネで調達できる範囲の物品なら何とかなりますか。何かの知識が欲しいなら、情報をまとめた本を渡す事も出来ますね」
「あの……、ちなみにその装備を探求ネキ謹製の物にして貰うなんて事は?」
「別に構いませんよ? 範囲内に収まる素材ならレベル50前後まで使える装備も作れますし、それにします?」
「もう少し考えさせて下さい!」
そんな訳で情報を与え、またしばらく正座したまま話し合いを始める三人を眺める。
「おいおい、探求ネキ製の装備つったら、超高級品じゃねーか」
「ガチャの景品ではよく見かけますが、オーダーメイド品を持っているの何て上位の修羅勢か、探求ネキの身内ぐらいでしょう」
「となるとやっぱ装備か? 知識をまとめた本ってのも気にはなるが」
「はっ! そうだ、ここでの最適解は装備より知識ですよ!」
「はぁ? さっきまでお前も装備に賛成っぽかったが、何かあるのか?」
椅子に座るよう勧めるべきか、このまま眺めるままにしておくべきかと考えていたところ、段々と大きくなっていた話し合いの声が、最早普通に話してるのと変わらなくなっているのも気にせず、天啓を得たとばかりにクロマニキが語り出す。
「良いですか、探求ネキによるオーダーメイドの装備は確かに貴重です。しかし装備は装備であって、何時までも使い続けられる訳ではありません。実際使える範囲はレベル50前後までとの事ですし、黒札である私達ならレベル50なんていずれ超えていくもの、ならばその先まで使える知識を求めるべきという事です」
「なるほど、確かに探求ネキは技術も知識量も豊富で、星霊神社での授業なんかもしているし、俺達が理解しやすい様に知識をまとめた本を頼めば良いって事か!」
「そうなると、後はどんな知識を希望するかって所か?」
「そこは個人で必要と思う知識を考えて希望する形で良いでしょう。それぞれ得意な能力も違いますし」
「それもそうか」
と、そんな会話が有って、記憶消去の補填となる報酬の要望も決まり、契約が成立することになった訳で有る。
ちなみに三人共、直ぐさま自身の思考に入ったため互いの表情を認識出来ていない様子だが、浮かべている表情は実に似通っており、読み取れる感情はどうすれば他の二人出し抜き、自分だけ良い目を見てマウントを取れるかと言う物。
まあ彼ら三人がどんな知識を求めたのかは、ここで語るべきでは無いだろう。
彼らのことだ、いずれ何かしらの機会に得た知識の結果を知ることが出来るだろうから、今は彼らの辿ってきた面白おかしい人生の軌跡を鑑賞することにしよう――
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契約交渉をした場面が終わって暗転を挟んだ後、三馬鹿ラスが出会った時から始まるドタバタな日々の一部、騒動の前後を切り取って、状況や経緯を把握し易くした場面集が大体二時間ほど流れ、一作目が終了する。
「クククッ、あいつらの記憶を見て知ってはいるが、他視点も含めて状況が分かるとまた別の面白さが有るな」
「編集中は何度も笑ってしまって、別の意味で大変でしたね……」
「だろうな。ああそうだ、編集と言うか状況描写の字幕についてだが、笑ってる途中で読むのは大変だろうから、ナレーション入れた方が良いんじゃないか?」
「字幕だけだと微妙ですか……司波ニキ辺りに頼んでみましょうかね」
「ではそれが終われば遂に販売開始になるか、この〝笑ってはいけない人生録〟シリーズ」
「今のところ本数的に十本は確実に作れるだけのネタが有りますから、隔月ぐらいのペースでリリースする予定ですね」
「いやはや、また新しい楽しみが出来て退屈しないな!」
二人して笑いながら編集作業を終わらせて、最終的な構成も粗方決まったところで、部屋の片付けに取り掛かる。
「さて、リリースの目処も立った事ですし、約束の報酬は何時が良いですか? 準備の方は既に整えていますが」
「ほぅ? ではこの後直ぐだ、他に予定は入れてないしな」
「わかりました。修業場異界のイベント用異界の一つを押さえてますので、命のストックを十分に用意して来て下さい」
「ああ、確りと準備してから行かせて貰うとも」
「では最後の調整に五分掛かりますので、その後ならいつでもどうぞ」
部屋の片付けが終わった所で、企画を持ちかけた時に提示した報酬の話を出すと、先程までの笑い顔と打って変わって、圧力を感じる様な凄惨な笑みを浮かべる黒死ネキ。
予想通りの反応に調整時間を伝えて別れると、宣言通りイベント用異界に構築した対黒死ネキ用の陣地を起動させて待ち構える。
そうしてしばらくした後、きっちりと準備を整えた黒死ネキが満面の笑みを浮かべて突入してくるのだが、その結果については〝術者に時間を与えた結果がどうなるか〟を考えればわかる事だろう。
ただ一つ言えることは、戦い終わった黒死ネキが実に満足そうな表情を浮かべていたと言う事である。