【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
以前のニャル焼き祭りから時間も流れて七月、毎日コツコツと進めてきたタルタロス二百五十階の探索が、遂に終わりを迎える。
眼に見える変化は波紋の様に暗闇が歪んで感じ取れる空間の異常、霊感に伝わるのは強大な力の気配。
まず間違い無くタルタロスの終点だろうと推測される場所に、最後になるだろう篝火灯台を設置した所で、今日の探索可能時間が残り10分を切った事を確認する。
「恐らく、と前置きは付くけど、遂に最奥に到着って所かな?」
「琴音もそう感じたのなら、まず間違い無く最奥でしょう。となると、次回はタルタロスの封印になるでしょうから、最後の用意に取り掛からないといけませんね」
「ここまで長かった様な、実時間的にはそうでも無い様な、不思議な気分ですね」
「感慨に耽るのも良いけど、時間的に今日は終わりなんだし、戻ってから話した方が良くないかしら?」
「ああ、湯乃葉の言う通りですね。篝火灯台は確り稼働してますし、念のために追加の結界も付与しましたから帰りましょうか」
と言う事で、篝火灯台が機能している事を再度確認した後、タルタロスから脱出して影時間が閉じるのを待ち、巌戸台支部へと戻ってくる。
影時間中の基本活動として行っている巻き込まれた人の回収や、レベル上げに来た人達の情報をまとめ、いつもの報告書を手早く書き上げると、後は支部の主な管理をしている葦原に任せ、先に休憩していた琴音達の元へ移動する。
「支部長業務お疲れ~、食堂からいくつか買ってきたけど食べる?」
「そうですね。影時間でカロリーもだいぶ消費しましたし、食べながら明日の準備について考えましょうか」
「珈琲をどうぞであります」
どうやら今日は珈琲の気分だった様で、琴音がまとめて持ってきた物の一つをアイギスが渡してくれる。
礼を言って一口啜り、相変わらず探索後はガッツリと食べたいのか、肉を中心としたハイカロリーが並ぶテーブルからミートパイを一切れ貰う。
「さて、明日に向けた確認をして行きましょうか」
「最奥にいるタルタロスの核になってる悪魔は【ニュクス】でしたっけ?」
「多分【ニュクス】の高位分霊だろうってのがガイア連合の見解だね。と言うかそうなる様に、
「悪魔なら本体に近いレベルの超高位分霊だとしても、対処の方法がありますからねぇ。
「集合的無意識を正と負に分けた負の側面と言う存在……ですか。人類が存在する限り存在し続ける訳ですから、確かに封印なんて出来ませんよね……」
「まあそこは二百五十階に【ニュクス】とも関わりがある月が浮かんでた訳だし、封印手段も取れる存在が核になってるって事でしょ。問題はほぼ確実にネガティブマインドが妨害に来るだろうってところ」
「タルタロス自体が集合的無意識の深奥に向かってる様な認知異界ですし、万全に力を振るえるネガティブマインドとの衝突は避けられないでしょうね」
明日の影時間で恐らく対峙する事になるだろう相手で、確定しているのは高位分霊(レベル100以上)か、或いは超高位分霊(レベル150以上)の【ニュクス】。
それと悪魔としての【邪神 ニャルラトホテプ】では無く、人類の集合的無意識を
【ニュクス】単体でも割と対処が面倒な話だけど、それ以上に問題となるのが【ニャルラトホテプ】で、人類の集合的無意識の半分という存在は、言い方を変えれば人類自体の運命に影響を与える存在であり、それは星の意思などと同様の運命力と呼ぶ概念の一種。
つまるところ、人類の半分に相当する概念存在が敵として妨害しに来る訳で、本質的に倒す事が不可能な相手の妨害を防ぎつつ【ニュクス】を封印して、タルタロスの管理権限を手に入れなければならないと言う事。
「ネガティブマインドの対処は瑞樹が考えてると言ってたが、実際のところどうなんだ?」
「何とかなるだろう方法の準備は終わってますよ。ただ、事が事だけに一度使うと察知されて対策される可能性が高いですから、ぶっつけ本番になるのが懸念点ではありますね」
「何もかも万全確実とは流石に行かないよねぇ……。【ニュクス】封印の道具はショタおじチェックも通ってるんだよね?」
「そちらは万全ですね。異界の性質的に本霊が核になってる可能性は有りませんし、分霊ならレベル150を超える様な高位のでも封印可能とお墨付きを貰ってます。まあ封印するにはある程度削って弱らせる必要が有りますから、琴音にはそっちをメインに頑張って貰う事になりますね」
「あいあい、そこは当初から覚悟してたから問題無いかな。んで、綴さんは状況みて私の方か瑞樹の援護をする遊撃って感じでお願い」
「湯乃葉も枠としてはこっちですね。アイギスと久遠は式神ですし直衛が一番でしょう」
「わかりました」
「ポジションについては了解するけど、装備とかの準備は大丈夫かしら?」
「んー、ちょくちょく瑞樹がアップグレードしてくれてるから大丈夫だと思うけど、一応確認しとく?」
「今までは超機人を使って小破する事もありませんでしたが……、相手を考えると最終確認も兼ねて、少しでもバージョンアップ出来るならしておきましょうか」
タルタロスの二百五十階では基本超機人に乗っているため、機体や武装の強化は何度かしているものの、今のところ機体が破壊される程の戦闘にはなった事も無く、実際何処まで通用するかとの点は不安ではある話。
それにまあここ最近での装備更新は年明け頃にしたぐらいで、特段不便も無かったため以前ほどは頻繁に更新していないし、生身で戦う際の装備に関しては念のため強化しておきたい、と感じるのも決戦前なら仕方無いだろうか。
搭乗中は超機人がメイン装備として効果を発揮する形に成るけど、その他の装備が効果を発揮しないと言う訳でも無いし、大破させられるなんて事にしないためにも、改めて装備を確認して行こうと思う。
そんな訳で夜食を食べながらの会議を軽く行った後、本体が寝室で夜戦に突入する一方で、木分身の方の私は工房へと籠もる。
「さて、まずは少しずつ進めていた服を完成させましょうかね」
装備の再確認と新調を行うとなると、どれだけの時間が掛かるかも不明なため、工房内の時間を加速させた上で一つ目に取り掛かる。
取り出すのは、緋緋色金の金属糸を特殊な製法で織り上げた布で制作中の服装備。
緋秘色ベスト*1を作る際にも使用する金属布を主に使用し、他の布素材と組み合わせて性能を追求している物で、現在進行形で色々と研究を重ねている途中の物だったりする。
「三桁レベルになると反射吸収を貫通するのはもちろん、反射や吸収も貫通する攻撃を防ぐスキルに対して、条件を付けることでそれすらも貫通するなんて場合も有りますし、防御方法は幾つも有った方が良いですからねぇ」
服を仕上げながら思うのは、場合によっては物理的魔法的な防御力より重要になる耐性に関する事。
女神転生やペルソナのシリーズによって、〝耐性〟の扱いには微妙な違いがあったりするけど、現実となった今世でもその辺は同じで、耐性と一口に言っても半減相性と割合減少の二種類が有り、基本的に半減相性は貫通効果で抜かれるが、割合減少の場合はそもそも貫通効果の対象とならない場合もあったりする。
前世のゲーム中では、75%や25%の様に表示されていた割合減少だけど、50%以下の減少相性なら貫通可能だが、99%~51%の間だと貫通の対象にならないと言うパターンもあり、今世でも同様の結果になる場合もあることが確認されている。
そんな訳で、現在はお揃いで付けてる
「緋秘色ベストの時に併せて見つかった、マジカルローブの製法を元に研究してましたが、時間的に65%で妥協する事になりそうですね。出来れば貫通対象になるギリギリの51%、それが難しくても55%までは減少率を上げたかったところですが……」
ちなみに〝マジカルローブ〟と言うのは、前世で言えばATLUS作品の一つである新約ラストバイブルⅡ――厳密に言えば女神転生シリーズとは直接繋がっていないとの事だけど、登場する魔法やアイテムに敵などから、何かしらの関わりがあると感じられるシリーズ作品――に登場する防具で、性能は全属性の耐性値を75%にすると言う物。
アイテムのフレーバーに書かれていた内容としては〝エイボン特製の魔力がこもったローブ〟という代物で、今世で見つけた書物に書かれていた内容でも、古代に存在したらしい魔導師エイボンが編み出した製法と記載されているのを見つけている。
この世界にメガテンⅤで登場した設定である至高天の座――世界の在り方を決められる場所で、そこに居る存在は創造神や唯一神などと呼ばれる――が在るかは不明だけど、仮に在るとした場合は現在四文字が居座ってるはずで、四文字が座に着く前の時代があったとするなら、その時代にエイボンと言う名前の魔導師が存在していて、その足跡を残した悪魔から知識を得て書物に残されたと言うのも、可能性としては考えられる話。
まあそんな古代の、現在にはほぼ痕跡が存在しない可能性の話は兎も角、物の製法を再現出来たなら改良出来ないか研究するのは当然な訳で、緋秘色ベストと同じ効果を他の服にも搭載する方法は確立したため、続いてマジカルローブの効果をより高められないか? と研究していたのがここ半年で装備を更新していなかった要因の一つ。
なお、流石に元からの製造難易度が高い事もあって、三ヶ月以上掛かって漸く、減少率を一割引き上げる所まで研究が進んだ、と言うのが現在のところ。
「まだまだ改良の余地はありますが、とりあえずの完成としますかね」
練習も兼ねて先に仕上げた自分用の装備を広げ確認する。
――――――――――――――――――――
・緋仙の衣
緋秘色ベストとマジカルローブを研究して作成された防具。
装備効果
┣全属性の耐性値を65%にする。
┗全ダメージを1/4にする。
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なお、装備名としては緋仙の衣としているけど、今作った私が普段着にもしている道士服系の見た目以外に、琴音の月光館学園制服に似せた物など、形状は自由に変更可能な装備になっている。
まあ装備としての大部分は、内側の肌に触れる部分に集約してあり、実質的には内側に縫い付けてる部分が緋仙の衣と言えるため、外側の見た目や装飾は自由が効くと言う話だけども。
そんな訳で、装備更新用に予め作ってあった服の内側に緋仙の衣を縫い合わせ、装備として完成させていく。
「汎用的な防御装備は緋仙の衣と絆魂の指輪が有れば良いとして、次は武器の方ですかね……」
次ぎに取り出すのは、私のメイン武器にしている三味線型概念武装〝太極〟と、随分前に綴へ渡した後何度か強化を重ねてきた太刀、それから久遠に持たせている偃月刀の三つ。
琴音はメイン武器として薙刀を使うものの、基本的には相手に合わせて武器を持ち替えて戦う事が多いため、都度新調してるから今回の再確認は要らないでしょうし、内蔵火器を使うアイギスも都度メンテナンスしてるので問題は無く、湯乃葉はそもそも武器を主体にはしてない上、以前にスーパー宝貝の再現で作りだした〝傾世元禳〟が武器代わりにもなるため、確認が必要なのは私と綴と久遠の三人分ってところ。
私の分は術式の改良や弦を新しい物に張り替えるぐらいだから、他が終わってから適当にしておくとして、手に取るのは扱う属性的にニャルへの特攻になり得る綴の太刀。
綴の見た目がサモンナイト3のアティ先生を黒髪にした容姿だからと言う事で、同じくサモンナイト3に登場する剣〝
「前回は〝
去年の九月頃*2、割と思い付きで創り出した再現素材、エイジャの赤石を使った装備を作ろうと考え、綴の超機人用に作ったのが紅炎――太陽概念特化武装。
当時の状況的に、探索を再開した後は基本超機人に搭乗して進む事が分かっていたため、打ち直した
まあそれでも超越者向けに作ってるため、十分以上の武器性能も有りはするのだけど、万一超機人が破壊されて生身で戦う事になった場合を想定すると、紅炎以上の武器性能を目指しておきたいところ。
「今の
折れず曲がらない強靱さと霊力への高い親和性に、霊力操作による多少の変形や拡大縮小が可能な、オリハルコンと神珍鉄を混ぜた特殊鋼であるハルゼン合金を、合金樹と合わせて合金木にする事で、折れず曲がらない強靱さを更に高め、そこにペルソナ能力を強化する性質を持つアステリコン合金木を融合させ心鉄とする。
皮鉄の方には綴が扱う火炎属性に合わせて、火行との相性が高く火炎制御特性を持つ緋焔合金木と、エイジャの赤石を素材に使い、太陽や恒星の概念を折り重ねた概念合金である日天合金木を主体として、心鉄に使った二つを必要分だけ混ぜ合わせて、小刀サイズから野太刀まで刀身を変化させられる様にする。
後は木生火で木行に相性のいい翠木鋼を鞘と柄の素材に使い、ハルゼン合金木も加えて片手持ちと両手持ちを切り替えられる様にして、火行を更に強化する仕組みを組み込んで完成。
打ち直して完成した
流石にこのままでは鞘に収めるのも難しいため、鞘に収めた時は柄と併せて鎮火の効果が発揮される様にして、抜刀時には鎮火を反転させる用に術式を組み込んでおく。
「ふむ……、メガテンで最強の剣の一つとして登場するカグツチに並ぶぐらいの性能にはなりましたかね?」
満足いく性能に仕上がったところで、次は久遠に持たせている黄龍偃月刀〝
こちらも何度か強化を重ねている訳だけど、前回の強化後に新しく出来た合金も有るため、その辺を使って打ち直して行こうと思う。
使うのはトリコ層の
黒紫色の結晶部分と黒金色の木目を持つ合金木になっており、重力系概念との相性が高い超重量の高硬度金属で、霊力操作による重力子制御が飛躍的に向上するのを確認しているため、〝
「とりあえずこんなところですかね。純粋な性能強化と言ったところですが、変に新しく能力を付けても使い熟せなければ邪魔になりかねませんし、何かするなら余裕の有る時ですね。さて、次は――」
と、そんな感じで装備の見直しや強化を行い、途中で夜が明けて起き出してきた面々に渡して、ならしや手直しも行っていればあっという間に時間が過ぎるもので、遂に一つの区切りとなる決戦の時を迎える事になる。