【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
昨夜からの一日で可能な限りの準備をして、沖縄支部の方に依頼を出して春香さん*1を呼び、タルタロス深部でのナビゲートを可能にする用意も調えたら、後はいよいよ突入を待つばかり。
私達が決戦へ向かうとは言え、その間も影時間に巻き込まれる一般人の救助や、浅い階層でのレベル上げに来る人達もいる訳で、表面上はいつもと変わらない日付変更直前の風景がここにはあった。
「こうしているといつも通りな気がして、これから大一番って感じがしませんね……」
「まあ終末案件と言っても、毎度毎度大きな前兆があったりはしないからねぇ」
「何かしらの影響が出てる時は既にギリギリの状態まで進行しているんですから、兆候なんて出る前に対処出来る方が良いですよ」
そんな風に雑談しつつ、集まったメンバーと装備の最終確認をして、いよいよ時計の針が午前零時を指し示す。
いつも通りの影時間が始まれば、葦原荘で時間を待っていた面々もそれぞれに動き出し、私達最深部突入組もナビ組の準備が整ったのを確認して、前回設置した篝火灯台へと転移する。
最早慣れ親しんだ動きで取り出した超機人へと搭乗し、問題無くナビが繋がってるのを確認したら、タルタロス二百五十階で見つけた空間の歪みから、タルタロスの最奥部と目される場所へと突入する。
空間の歪みを越えて次の階層へと移動したのを把握した直後、感じ取ったのは一つの違和感。
「分断、ですか……」
そこは先程まで居た月を間近に見られる場所と変わらない距離の所で、しかし明確に異なる空間だと感じ取れる程に、淡い月光に満たされた世界が広がっていて……、そして私以外の突入メンバーの姿は無く、直前まで繋がっていたナビ組との接続が断たれていた。
まあこう言うトラップはよくある物だし、ネガティブマインドが仕掛けてきそうな妨害として、推測していた行動の一つでもあるので、動揺する程の事では無いけども。
そうして私が現状を認識するのを待っていたかの様に、幻想的な月光の絵画に墨をぶちまける様な気配を漂わせながら、一つの存在が現出する。
「遂にここまで土足で踏み込んで来たか、邪神の手先め」
「邪神の手先などに成り下がった覚えは無いんですけどねぇ……」
「ふん! 邪神の思惑に乗って押し入ってきたのだから手先で十分だろう」
オープンチャンネルで話してる訳でも無いのにこちらの声を聞き取る当たり、ここがネガティブマインドの用意した場所で有るという事は確かなのだろう。
「その邪神と同一視されるような行動原理してる奴が何言ってるのだか、ほぼ邪神みたいなものでしょう」
「一悪魔でしか無い邪神と一緒くたにするとは、化物になっても愚かさは変わらん様だな」
直近で遭遇した三月の時と同様に、相変わらずこちらを――人類その物を嘲笑う様な気配で高圧的に宣う
これまでの遭遇事例は少ないとは言え、自然と嫌悪感を与えてくる言動は嫌でも記憶にこびりつく物で、予めその本質を知っていなければ、致命的なミスを誘発されただろうと感じる程に、目の前とそして周囲の空間自体から圧し掛かる気配は重苦しい。
「自身の愚かさを棚に上げて言うのは、流石のネガティブマインドと言うべきですかね? 人は見たいものしか見ない、とはユリウス・カエサルの言葉ですが、都合の悪い
「化物を化物と呼んで何が悪い、貴様らが既に寿命も無ければ、肉体が滅んでも死なない事などこちらも把握している。それを化物と呼ばず何と言う!」
「ならばそれが人間だ、と言ってあげましょう。人は完全な存在となり得るか、などと言う枷を思考に嵌めてる貴方達には、理解が出来ないでしょうけどね」
「この世界の異分子のくせに良く回る舌だな。前世で知った設定とやらを賢しらに語るつもりか?」
集合的無意識の一側面と言う事もあってか、異世界からの転生者である黒札についても把握している様で、嘲笑する声は、私を――黒札と言う異世界からの転生者を、異分子として人類自体が排除したがっている様に錯覚させる程の悪意を叩き付けてくる。
「その反応だと、今世でも
「我らの命題が無価値だと言うか! 化物に成り果てた分際で!」
「無価値で無意味でしょう。〝完全〟と言う事は退化せず進化も出来ず、至った時点で終わった
〝完全〟とは、欠けたところや足りないところが無い状態を表す概念であり、完全な存在とするなら、それは何ものの影響も受けずに単体で存在する事が可能で、全てが揃っているため変化する事も無いと言う事。
それは何ものかの影響を受ける事も無ければ、何ものかに影響を与える変化もしないと言う事。
概念的には〝解脱〟がある意味近いと思っているが、完全な存在とは結局のところ、魂まで含めた意志の消滅では無いか? と言うのが私の考え。
生きている限りは必ず何かしら変化する物で、変化するからこそ進化も退化も別の進化を摸索することも、可能になるのだと私は思っている。
「意志と魂の消滅が完全な存在だと? 存在していないのに完全な存在とは笑わせる。所詮は人である事も出来なくなった化物か、実につまらん愚かな答えだな」
「観測すると言う干渉が出来る時点で完全な存在では無いでしょう。人を馬鹿にする前に、命題とした
「き、貴様ぁ!!」
ある意味で存在の根幹にも触れるだろう命題を突いた事で、流石の
「【吉祥天】【黒闇天】【天津甕星】起動、〝ザ・ワールド*2〟!」
「闇よりもなお昏き
停止した時間の世界で、対抗手段として組み上げた術式の詠唱を朗々と紡ぐ。
「混沌の海よ たゆたいし
それは
「我ここに 汝に願う 我ここに 汝に誓う」
イメージするのはポジティブマインドだけでもネガティブマインドだけでも無い、正も負も混ざり合い、混沌とした集合的無意識その物。
「我が前に立ちふさがりし すべての愚かなる者に
我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを
【
この決戦において一番の不確定要素に挑むため、襲い来るだろう未知への覚悟を決めて、最後の言葉を紡ぐ。
それはどれだけ想定を重ね、何度未来予測を繰り返しても、成功する世界線を確定出来なかった術式であり、元ネタであるスレイヤーズにおいては、いくつもの世界が存在する混沌の海その
再現術式として構築した【
もちろんの事、ショタおじからは普段使い禁止を言い渡されているし、術式などの情報は封印指定の場所にしか残していないが、概念的に集合的無意識の奥底に位置するこの場所からこそ、使用許可を得られた訳で――
「術式固定!」
発動直後から襲い来る未体験の衝撃に、消し飛びそうになる自意識を、走馬灯の様に想起される記憶の奔流と、左手から感じる確かな繋がりを支えに、混沌とした集合的無意識自体への直接接続を乗り越え、制御する。
「概念掌握、霊体外装編纂・接続、術式兵装展開【
【
それは元ネタである原作において、〝星の触覚〟と呼ばれる肉体を持つ精霊が持つ能力であり、作中においては自らの意志によって、世界その物を思うままに変化させる事を可能とする規格外の力。
とは言え、〝
「――!? なにっ?!」
術式兵装の展開と同時に停止した時間の世界が動き出し、
同時に、私のシャドウが変化し成長したペルソナである【世界 タカミムスビ】が、【世界
「ペルソナ能力者として、ネガティブマインドの一部でも有る状態だと撃退するのも面倒ですが、それなら
試しに振るった【崩拳】は、
空間が砕けた後も、幻想的な月光が満ちる空間な事に代わりは無かったが、周囲に琴音達の機体が居て、まだ距離があるとは言えその大きさ的に間近に見える月、それから月を囲む様に光を放つ無数の篝火灯台の灯りが確認出来る。
どうやら本来のタルタロス最深部に到達した、と言う事だろう。
「お? っと、何かニャルなネガティブマインドが急に慌てだしたからもしかしてと思ったけど、やっぱり瑞樹の仕業だったか。それが言ってた策って奴?」
「ええ、詳細は全てが終わってから話しますが、
「ういうい、そんじゃ分断されてた皆の確認したらすぐに向かうから、よろしくね!」
個別に隔離されていた空間を砕いたところ、同様に隔離されていたらしい琴音がいち早く気付いてこちらに通信を繋げ、手短に状況を確認すると直ぐさま動き出す。
そんな琴音と話していた僅かな間もあれば、領域を破壊して殴り飛ばした影響も消えたのか、
「何故だ!? 何故
「人の可能性を諦めた敗北者共に理解を求めるつもりはありませんが、歩むことを止めた
空間その物が私達を圧し潰そうとしてくる力を、【
ただまあ、ぶっつけ本番な事もあってまだ扱い切れていないため、対処の隙を突いて攻撃してきた
「空間全体への攻撃はどうしようも無いが、私が居て瑞樹への直接攻撃が通るなどとは思わないで貰おうか」
「くっ、人擬きの悪魔め!」
そこは私の守護者である久遠が通す訳も無く、私が【
『マスター! 良かった、繋がった……』
『こちらサポート班です。最深部だと繋がらないのかと思いましたが、妨害の影響だったみたいですね』
「なるほど、瑠璃と春香さんの方には干渉されてなかったみたいですね。どうやら最深部へ侵入する事を条件として、
『湯乃葉さんが通れないと言ってたのは、それの影響でしょうか?』
幸いなことに、ナビの繋がりを辿っての干渉はされなかった様で、最深部に仕掛けられていたのはペルソナ能力者が侵入するのが条件だったらしく、長年掛けてシャドウ異界内での活動も十全に可能となった湯乃葉は、ペルソナ能力を持っていない――集合的無意識に干渉する能力が無い――からか、私が領域を破壊するまでは最深部に入る事自体が出来なかったとの事。
「恐らくペルソナで集合的無意識と繋がっている事が侵入条件の一つになっていたのでしょう。その条件を敷いていた領域は破壊しましたし、
『――っ、了解しましたマスター。でもちゃんとモニターしてますから!』
『了解です。
「流石にそんな危険を冒させる訳にはいかないですからねぇ……」
少し葛藤する間を置いて了承した瑠璃にはちょっと申し訳なく思うものの、春香さんがフォローしてくれた様に、
ともあれ、湯乃葉とナビ組が琴音の方に合流したのを確認した所で、【
「全くもって忌々しいな木偶人形! 【泡沫の波紋】*3【刻の車輪】*4」
「おっと
「ふむ、ならばこちらが良いか。【崩天撃】*8!」
微塵に消し飛ぶ程の威力を叩き込んだとは言え、ネガティブマインドの領域でもあるこの場所では一時凌ぎにも成らないが、少なくとも琴音達への妨害を防ぐ事には繋がるだろう。
「――くっ、だが無駄な足掻きだな。仮に貴様が
「相変わらず思考と想像力が足りてないですね? 私が可能だと思えば何でも思うままに変化させられるのですから、最初の発動を乗り越えた時点で、
こちらの意識を乱そうとする言葉を適当にスルーしつつ、【
「ふんっ、だがどうやら向こうが気になる様だな? ならばこうしてやろう、貴様よりは妨害効果が高いみたいだしな【運命の車輪】*9!」
「おや、随分と判断が遅いですね。状態の変化を解除するぐらい、片手間も要りませんよ」
「――何だと?」
そうして何度かの攻防を繰り返した所で、琴音の方に補助や回復をする回数が増えてる事に気付いたのか、
「向こうに妨害まで行くとなると、流石の琴音達でもそう長くは持たないですけど、とは言えこの力にも十分慣れましたし、私がフリーになるならその間にさっさとタルタロスを封印してしまえば良いだけの話でしょう」
「なっ??! こ、この、人擬きの化物がぁ!!」
「ふふふ、さぁ封印を阻止したいなら、私の行動を妨害し続けるしか有りませんね?」
こうして妨害する側とされる側の立場は逆転し、決戦の焦点はこの因縁の始まりに選ばれた少女――琴音の元へと移る。
現在は習熟が進み、二十秒ぐらいは無理なく発動可能。
修練により久遠の固有スキルとして統合昇華し、拳だけで無く武器を含めたあらゆる〝単体単発攻撃〟で発動可能になった物理極大ダメージスキル。