【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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128:幻想月光領域タルタロス 5

 月光が支配する領域に太陽の光が出現するのを確認し、上手く状況が推移しているのを感じ取る。

 ()()()()()には緑の光とそれに照らされ砕かれては再生する死神の影、煌々と闇の世界を照らし出す太陽の光とその陽光に切り焼かれては止めどなく溢れてくる人の闇。

 そして漆黒と金色が混ざり合った闇の光と何処までも昏い人の闇が、月光の世界を塗りつぶす様に侵食する領域。

 

「見事な膠着状態で、ネガティブマインドとしては想定外、異界の核となった悪魔の【夜魔 ニュクス】には好都合と言ったところですかね。私としては想定通りですが」

 

 タルタロス最深部で三つの戦闘領域が構築されているのを、【夜魔 ニュクス】である月の表面を走り回りながら眺める。

 本体の【空想具現化(マーブルファンタズム)】による隠蔽と木分身()の【圏境】による気配の同化で、私自身と進めている封印作業の進捗を隠し通してきた訳だけど、異界の根幹的なギミックに干渉出来る様になったのなら、封印完了まで後少しと言ったところ。

 元々影時間と言う時間制限から、【夜魔 ニュクス】が時間稼ぎの手を打ってくるのは予想出来る話で、【夜魔 ニュクス】が時間稼ぎしている間にネガティブマインド(ニャルラトホテプ)が漁夫の利を得ようとするのも、集合的無意識の領域である最深部なら想定出来る訳で。

 突入前の作戦的には普通に倒して封印の方針で話していましたが、封印作業を一任されてる私としては、初めから時間稼ぎされる事を前提として、封印作業を行う予定で準備を進めていたりする。

 木分身の私が月面に居るのも、本体がネガティブマインド(ニャルラトホテプ)を妨害するための攻撃に紛れて、流れ弾として種状に変化させておいた木分身()を飛ばしたからで、その辺の隠蔽も上手く行っている様子。

 

木分身()と封印作業自体の隠蔽を確実にするための、()()()が上手く出来るかが懸念点でしたけどね……っと、封印術式の構築完了。後は【夜魔 ニュクス】の力が良い感じに削れるまで、【ニュクス・アバター:死神】を倒せばってところですね」

 

 琴音が【ニュクス・アバター:死神】を倒す度に【夜魔 ニュクス】の力が削れて、干渉可能な異界の範囲が広がっていくのを確認しつつ、削りを加速させるために【人類の自滅願望(エレボス)】の復活ギミック解除に取り掛かる。

 とは言え、影時間とタルタロスに掛かっていた朝日に類する事象での強制退出とは異なり、【人類の自滅願望(エレボス)】の出現自体は最深部が集合的無意識の領域でもある事からだし、復活ギミックもその辺が派生して組み込まれているため、完全な解除とはいかないのだけども。

 

探求者:色々調べた所、エレボスの復活ギミックその物は無意識領域内で有る限りどうしようも無いとわかりましたので、代わりにタルタロス内に出現する為の経路を閉じる方向で対処しようと思います。

ハム子:あ、って事は対処するのは月だけか

探求者:【夜魔 ニュクス】と【邪神】が問題で、無意識領域自体は防衛反応と漁夫の利出来ればってところでしょう。

黒先生:情報が端的で枝葉がわかりにくいですが、エレボスやネガティブマインドは本来戦う相手では無い感じですか?

探求者:封印作業が後は削りだけになったので言ってしまいますが、このタルタロス異界は集合的無意識へ干渉するための儀式場として、【邪神 ニャルラトホテプ】によって作られたゲーム盤です。

    なので集合的無意識との繋がりを削れば、追加で出現したエレボスぐらいなら弾き出せるので、綴はそのままこの異界との繋がりごと焼き切る感じで燃やして下さい。

黒先生:わかりました、次で燃やします。

 

 チャットへ書き込んで情報伝達が終わった直後、綴の戦っている辺りが一際煌々と光を放ち、月面まで伝わって来る程の莫大な熱量を迸らせて【人類の自滅願望(エレボス)】を燃やし尽くすのを確認する。

 それに合わせて異界構造への干渉を行い、【人類の自滅願望(エレボス)】がタルタロス内に出てくるための経路を閉じ、出現自体を出来ない様に弄っておく。

 

「これで【人類の自滅願望(エレボス)】は退場、【ニュクス・アバター:死神】が復活する事での消耗も多少は加速するでしょうし、後は封印の要にした生命樹を育てながら待つとしますか」

 

 これもまた本体が遊びに見せかけて放ったタネマシンガンに紛れさせ、【夜魔 ニュクス】の月面に漂着させた生命樹の種を成長させて、陰陽の釣り合いを取る事で封印とする術式を本格的に稼働させていく。

 流石に生命樹が成長して行くとなると隠蔽なんて無理なため、他の下準備が終わるまでは後回しにせざるを得ませんでしたし、漸く大詰めに漕ぎ着けたってところですね。

 生命樹の成長により急速に増大する陽の力と、【ニュクス・アバター:死神】の撃破と復活で削られていく陰の力の比率を確認しつつ、【夜魔 ニュクス】も流石に体へ根を張られると反応する様で、攻撃してこようとする動きを月面に描いておいた封印術式で抑える作業に掛かる。

 本体の方では相変わらずネガティブマインド(ニャルラトホテプ)が神経を逆撫でする様な台詞を吐いているけど、初動で封殺出来た時点で言葉以外に出来るのは、せいぜい【人類の自滅願望(エレボス)】みたいな余計な手駒を呼び込むぐらいで、それも異界をある程度掌握しつつ有る現状なら防げる。

 

「となると、後気を付けるべきは封印直前のタイミングですね」

 

 好事魔多しとも言う様に、順調な時ほど予期せぬトラブルは起きる物だし、何なら強制的に都合の悪い出来事(ファンブル)を引き起こしてくる連中も居るのが困りもの。

 そうこう考えながら警戒している内に、もう何度目かもわからない【ニュクス・アバター:死神】の撃破が行われ、事態が動き出す。

 

「クックック、色々と想定とは異なる事態が起きた時はどうしようかと思いましたが、まあまあ許容範囲内ですかね? 後は必死に頑張ってる皆さんを涙を呑んで倒させて貰って、私の完全勝利とさせて貰いましょうか!」

「おや、どの邪神が来るかと思えばニャル子アバターですか。生憎手元にはオリハルコン製のフォークしか有りませんがお一つどうぞ」

「うおっとぉ! いきなりノータイムでフォーク刺しに来るとかなんばしょっとね!」

「邪神にはフォークを馳走するのが邪神ハンターの礼儀と決まってますので」

「んな恐ろしい礼儀初めて聞きましたよ!」

 

 木分身()の前に大物ぶって姿を現したのは、状況的に影時間とタルタロスの元となる切っ掛けを作り、琴音の中に鍵を埋め込んだ本人である【邪神 ニャルラトホテプ】。

 外なる神の括りにある概念存在で、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、チクタクマン、這い寄る混沌に無貌の神など様々な呼び名が有り、時と場合と個体それぞれで目的も立場も趣味嗜好も異なると言う、対応方法を構築出来ない極めて厄介な存在である。

 まあ最近は創作から連想するイメージが影響してか、いくつかのアバターにおいては多少の傾向を類推出来る様なったため、決め打ちも安心も出来はしないけど行動推測の材料ぐらいにはなっていたりする。

 特にニャル子と呼称される銀髪美少女な姿については、ゲームなどの娯楽に傾倒していて、遊び相手や駒的な面が強く自身の楽しみが減らない様に程度の思惑だろうとは言え、割と人類が絶滅しない様に行動するぐらいには、まだマシな行動原理をしている分類になる。

 ただ、まだマシな程度であって、別に人類の味方でも無ければ、その行動によって悍ましい過程や結果が引き起こされる事も多いため、警戒対象で有る事も変わりはしないけども。

 

「まあ現状において敵対が確定している相手に斟酌する必要性も無いですし」

「くっ、ですが思惑通りこの場面になった時点で私の勝ちは決まった様な物! 私の仕込んだ鍵を持ったままここまで来た事を後悔する事ですね!」

 

 そう勝ち誇った表情で宣言し力を行使する様子のニャル子を余所に、封印作業を進めつつ次の行動に合わせた一手を準備しておく。

 

「…………あれぇ? 確かに鍵の反応は有るのに何故起動しない?!」

「琴音の魂に埋め込まれた鍵なんて、とっくに対処しているに決まっているでしょう。今残っているのは貴方を誘き寄せるために、機能している様にカモフラージュしたデコイですよ。縁を辿って来る分霊を潰しておかないと安心出来ませんからねぇ」

「私がのこのこと誘き出されたですと!? ペルソナを暴走させて手駒にするつもりでしたが失敗ですか……。ですが鍵は所詮、機能すれば儲け程度のおまけ! まだ私の本命は途切れていない! 無意識領域の深奥に直接干渉出来る様になった今、勝ちは私の物ですよ!」

「ではそこにトラップカードオープン【ATフィールド】! この霊符(カード)の効果により拒絶の防壁を展開し、融合や侵食などの無意識領域への干渉を無効化する!」

 

 先程ニャル子が鍵の仕掛けを動かそうとしていた間に、用意していた術式をデュエル風に効果説明まで加える事で、術式の効果を更に強化して発動する。

 まあ木分身()の方で行っているのは、対象を捕捉したり効果内容を決めたりと言った補助部分で、術の実行部分は本体の【空想具現化(マーブルファンタズム)】による物。

 想像するだけで実行出来る【空想具現化(マーブルファンタズム)】だからこそ可能な即興の術を、予め用意していたかの様にパフォーマンスする事で邪神(ニャル子)の意識をこちらに引き付け、本体の方に向かい直接ネガティブマインドの化身(ニャルラトホテプ)と融合すると言う方法に思考が至らない様誘導する。

 仮に本体の方へ向かわれても対処する方法自体はある物の、不確定要素はどうしても出てくるため、ちょっとした手間で打てる手段があるなら打っておくと言う事ですね。

 

「トラップカードなど何時の間に?! 自分の手番以外でのカードセットはルール違反でしょ!」

「おや、私はちゃんと貴方が鍵への干渉を試みた時に準備をしていましたよ?」

「いやいや、私のターンはまだ終わってません! 手番が移っていないカードのプレイは無効です!」

「これは可笑しな事を言いますね。現実はターン制では無くリアルタイムバトルですよ?」

「うがー! あの手この手で邪魔してくれますねホントに!」

「そう言う貴方も態々私の前に姿を現したのは、封印作業を邪魔するためでしょう」

「作業を止める処か、遅らせるぐらいしか出来てないのは本当に何なんですかねぇ? これでも私、かなり高位の分霊何ですけど」

 

 そもそもマーカーとしての鍵を埋め込まれていた琴音の前に現れるなら兎も角、封印作業をしている木分身()のところに直接出て来た事自体が割と可笑しな話。

 状況的に私達が最深部へ突入した少し後ぐらいにはこの邪神の分霊も侵入して、丁度良いタイミングを狙っていたと思われる。

 恐らく本体での隠蔽と【圏境】で封印作業の大部分を隠し通せていなければ、封印術式への細工ぐらいはされていただろう事は想像に難くない。

 実際木分身()の前に姿を現すのに合わせて術式へ干渉されているし、今あれこれ言葉を交わしているのも意識を逸らさせたり隙を作るための行動で、木分身()()()だったら干渉を全て防げていたかは怪しいと感じる辺り、本人が言う様に高位の分霊ってのは確かなのだろう。

 

「超越に至った人の可能性を甘く見すぎでは? 続いて速攻魔法【ハリセンスロー】! この魔法効果によるダメージは発生しない代わり、対象一体を強制ダウンさせる!」

「ぎゃー! って言うかもっと真面目に戦うつもりは無いんですか!」

「悪魔を相手に戦いのペースを渡すとか何の冗談です?」

 

 正々堂々と戦えと糾弾する様な台詞を放つニャル子だが、そもそも戦いにおいて相手の思惑(ペース)に合わせるとか、模擬戦や鍛練でも無ければ論外な話。

 ましてや悪魔の、特に【邪神 ニャルラトホテプ】相手に正々堂々など有り得ないし、どうこう言うニャル子自体、精神干渉や封印術式への干渉、タルタロス内へ手駒を呼び込むための経路構築など、文句を言う裏で色々と手を出しているのだから、油断など出来る訳も無い。

 表面上はギャグかシリアルっぽい戦いで互いに時間稼ぎをしている風を装い、裏で行われる様々な干渉を防ぐ暗闘が続き――

 

「くっ、埒が明きませんね。こうなったら力尽くで――」

「残念ながらこれでチェックメイトです【絶招・通天砲】*1!」

「――しまっ!?」

 

 先にしびれを切らしたと言うか、こちらの対処が段々と遅れ始めて来てはいたけど、それでも邪神(ニャル子)側が優勢になるよりも封印が完了する方が早いと確定したため、裏からの干渉による制圧から、直接戦闘で倒す方向に切り替えたと言うところだろうか。

 だが、高位分霊な【邪神 ニャルラトホテプ】が妨害出来ない程に封印作業が進んでいると言う事は、私以外の手が空くタイミングでもあると言う事。

 

「よっしタイミングバッチリ! 合体して行くよ!」

「了解であります。黒麒麟変形、超機人宇宙(ユニバース)と接続――完了。超機人双極宇宙(カオス・コスモス)起動するであります」

「ターゲットロック! メス・アッシャー*2、ダブル・シュート!」

 

 月面の各地で今も【圏境】で隠れ、封印作業を進めている木分身(私達)から事前に連絡を入れておいた琴音達が、【絶招・通天砲】で打ち上げたニャル子へタイミング良くメス・アッシャーを叩き込む。

 両肩に展開される二本の砲身から膨大な重力エネルギーが放出され、命中したニャル子を中心にブラックホールの様な超重力空間が発生し、重力崩壊の衝撃が迸る。

 元ネタはスパロボの第三次αに登場する機体、ディス・アストラナガンの武装メス・アッシャー。

 この武装を再現するにあたっては、ディス・アストラナガンの更に元になった機体であるアストラナガンから、アキシオン・キャノンの設定〝宇宙に漂うダークマターの構成物質とされるアキシオンを目標にぶつけ、ブラックホール並の超重力空間へのワームホールを発生させて叩き落す〟と言うのを参考にした物。

 まあ前世でも今世でもアキシオンって素粒子は未発見だし、その性質も仮説段階で、超重力を発生させられるのかは不明と言う事もあり、武器としては【グライ(重力)】系術式での制御と、マグネタイトに重力子の働きを持たせる機構を組み合わせ、超機人二機の動力炉から出力される大量のマグネタイトを重力子として放出し、命中させた対象を超重力圧縮させる重力子砲として、再現した形になる。

 

「流石に邪神となるとあの攻撃でも一撃とはいきませんよね。なので、これで仕留めます! 【火天の構え】【焔刃・燎原神楽】」

 

 重力崩壊の衝撃でニャル子の見た目(アバター)が崩れ、冒涜的で不定型なナニカの姿へと変化しつつも、未だ存在を保つ【邪神 ニャルラトホテプ】が動き出す直前、【人類の自滅願望(エレボス)】と【ニュクス・アバター:死神】との戦闘で強化に強化を重ねた綴の剣閃が迸る。

 際限無く上昇する熱量が一振り毎に【邪神 ニャルラトホテプ】を切り焼き、存在の一欠片も残さず燃やし尽くす。

 

「最後はあっさりとした感じでしたけど、運否天賦する様な戦いなど無いなら無い方が良いですしねぇ。っと、さてこれで【夜魔 ニュクス】の封印は完了、タルタロスと影時間は私の管理下と言う事で、蓬莱島の方に移しますかね」

 

 最後の懸念材料だったこの世界でのタルタロスや影時間の始まりとなる存在、琴音に鍵を埋め込んだ【邪神 ニャルラトホテプ】の誘い出しと討伐が完了し、異界の核となっている【夜魔 ニュクス】の高位分霊も、【ニュクス・アバター】による妨害以外の行動を封殺して封印完了。

 異界の制御権を私が確保したことで、ネガティブマインド(ニャルラトホテプ)からの干渉を制御することも可能になり、タルタロスが終末案件となる可能性は無くなったと言えるだろう。

 

「本体も【空想具現化(マーブルファンタズム)】を解除して無事に元に戻ったみたいですし、後始末が終われば漸く一区切りですね」

 

 【夜魔 ニュクス】の封印として月面に聳える生命樹を見上げると、丁度大樹の根元にいる私の方へと降りてくる琴音達の機体が視界に映る。

 出迎えるために歩む死の世界である宇宙空間(月面)には、生命樹の影響で植物がそこかしこに芽吹き始め、死は終わりでは無く、新しい生の始まりだと謳う様に広がっていく。

 それは終わり()から始まり()へと輪廻する、死を超克した事の一つの象徴。

 こうして私達の、〝死〟と言う概念その物との長い戦いは、細々とした後始末は残っているけど、一応の区切りを迎える事になる。

*1
自身が扱える全ての強化を最大状態にする【天津甕星】に、耐性破壊の【発勁】と耐性を貫通する【浸透勁】の攻撃方法に、【崩拳】と【アカシャアーツ】の打ち方を組み合わせた奥義であり、単体に打撃属性絶大威力攻撃のオリジナルスキル。

*2
スパロボのディス・アストラナガンが持つ武装を再現した物で、アイギスの超機人と合体時のみ使用可能なエネルギー砲。

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