【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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130:善意と誠実さが幸せに繋がらない事も有る

 前々から準備して、タルタロスの攻略と合わせて漸く、地脈に依存しない循環サイクルが蓬莱島内に完成してから数日。

 高度二千メートルを浮遊する仙境となった蓬莱島の陸地面積を都度拡張して行く傍ら、日課だったタルタロスの探索が無くなった事で空いたリソースを、何へ回そうかと考えながら細々とした仕事――ガイア連合として正式に依頼された物の作成など――を片付けたり、黒死ネキから届いた蓬莱島のタルタロスなら入って大丈夫なのか? との問い合わせを受けて、万一全力を出されても対処出来る様、輪廻転換炉の補強機構を追加設計などしていたところ、最近顔を合わせることが少なくなっていた友人からのメールが届いた事に気付く。

 

「忙しいだろうに、押し掛けちゃってごめんね」

「構いませんよ、少し前に色々と片付いて余裕が出来た所でしたしね。それよりメールでは相談って事でしたけど、千代さんの感じ的には愚痴の方が近そうですね?」

「うぐっ、いやまあ相談したいのは本当なんだけど、何かどうにも上手く行かなくてさぁ……」

 

 星霊神社の一角にある私の庵にて、掘り炬燵に突っ伏す様に垂れてる千代さんにお茶を出しつつ、相談したい事とやらについて話を向けて見るが、久しぶりに会った千代さんの表情と雰囲気からはどんよりとした気配が漂っており、悩みと同時に愚痴を吐き出したい様子が窺える。

 まあ久しぶりに落ち着いて話す訳ですし、直接本題に入るよりは近況辺りの話題から入って行きましょうか。

 

「今は煙ニキが準備しているシェルター都市を活動拠点にしているんですよね?」

「うん、お父さんの職場の社長でも有るからねー。そろそろ終末が近いって話だし、高校時代の友達含めて助けたい人達を考えたら、煙さんのところに集めるのが良いかなって」

「安全性で一番は山梨ですけど、シェルター居住権を考えると他支部か個人で確り準備してる所になりますよね。終末後の移動に掛かる労力は未知数ですし」

「それだよねぇ。折角助けても、その後の生活が上手く回ってるか確認しに行けなかったら後悔するだろうし……。瑞樹ちゃんの方はどう? 色々片付いたって言ってたけど」

「長年続いていたタルタロスの攻略が漸く終わったところですね。その後の後始末も大方終わって、蓬莱島に手を加えながら次ぎに何をしようか考えてた感じです」

「あ、タルタロスの攻略終わったんだ。ペルソナ関係って掲示板でも情報があまり流れないから、そっち方面の話って殆ど知らないんだよねぇ」

「噂システムの懸念もあって情報制限してますからね。琴音と私で担当していた分は終わりましたから、他二つの手伝いをしつつ、終末までにやっておきたいことを熟してる感じですね」

 

 これまでの期間を考えると、もう目の前と言って良い程に迫る終末に向けた備えの話を二転三転させ、お茶請けに出したケーキも食べ終わって一息付いた所で、今日の本題である千代さんの相談事へと話題を移す。

 

「そろそろ本題に移ろうと思いますが、千代さんが推し活してる作家先生の備え、上手く行ってないんです?」

「そうなんだよね。でも、一ファンとして先生の嫌がることなんてする訳に行かないし……」

「確か高校卒業した後、表向きガイアグループに就職した事にした後でしたっけ? 出版部門に引き抜きしようとして断られた上、買収とかもしない様釘刺されたのは」

「う゛っ……」

 

 告げた言葉に千代さんが呻き声を上げた様に、実のところ今回の様な相談(愚痴)は初めてと言う訳では無く、千代さんが覚醒して霊能関係の仕事を本格的に始めた後、いずれ終末が訪れる事を実感する様になってからの事。

 主題としては、千代さんが推し活している少女漫画の作家先生が、終末後も創作活動を続けられる様に周辺環境を整えたい、と言うのが千代さんの願い。*1

 ――な訳だけど、どうも千代さんの話の持って行き方が悪いのと、お相手が確りとした常識を持ってるらしく、怪しい宗教勧誘みたいに拒否感を持たれているらしい。

 まあ千代さん自身、厄介ファンみたいな押しつけがましい事をしない様、ファンの領分を超えない様にきっちりと配慮した上で、相手の同意を得ずに行動しない様心掛けているってのも、上手く行かない理由の一つだとは思う話。

 

「娯楽保護のためと言っても、ガイアグループで独占すると多様性が失われる可能性も高くなりますし、買収しないって選択肢も普通に有りだと思いますけど、終末の備えがし難いのは確かですよね……」

「うん、ガイアグループなら会社として備え出来るし、終末が来た時の避難もある程度強制出来るけど、他社だとそれも出来ないから、出来れば移籍か買収でもと思ったんだけどねぇ」

「あの出版社って結構な大御所も所属していて、経営的にも問題無い会社の買収ってなると結構無理がありますし、そっちのファンな黒札から経由で話を持って行く方が良いんじゃないですか? もしかしたらそこの関係者と友人な黒札とかも居るかもですし」

「なるほど、ファンの立場からじゃなくて、友人から話を聞いた職場の同僚の説得なら確かに……」

「後は現状想定されている終末の日だと、一週間程度は脱出の猶予が有りそうな予測ですし、事が起き始めた直後の混乱を防ぐ準備と、その先生の大事な人達を強引にでも脱出させる手筈を整えて置くぐらいですかね?」

「えぇ? でもファンとは言え勝手に連れて行くのはダメじゃ無い?」

「後から本当は救えたはずなのに、自分が拒否していたから死に別れることになった、なんて事になる方が問題が大きいと思いますよ?」

「そうかなぁ……」

「ふむ、では一つ占って見ましょうか。易……だと千代さんもわかりにくいでしょうし、タロットが良いですかね」

「瑞樹ちゃんの占いなら、確かに指針として良いかも、お願いしても良い?」

 

 千代さんの同意も得たところでタロットカードを取り出し、宙に浮かべてシャッフルさせる。

 今回はわかり易くワンオラクル――シャッフルしてまとめた後、カットしたカードの山を横スライドさせて等間隔に並べ、質問内容を考えながらカードを一枚選ぶ占い方法――をベースに、千代さんが推し活している先生に関する終末前後の状況を占い、その結果を取っ掛かりに【未来視】をする感じになる。

 ちなみに、本来は私みたいな高位霊能者が占術を行うと、場合によっては占いの結果が確定した未来になって覆せないなんて事も起こったりするため、ガイア連合では専用部署があったり資格試験があるぐらいには専門性が高かったりするのが、ガイア連合での占術と言う技術。

 まあとは言え、千代さんが軽く同意してくれた様に、私の占いや【未来視】は未来の出来事を確定させるタイプでは無く、現在までの情報を素に可能性未来の予測演算を行うタイプのため、こうして気軽に提案も出来た訳だったりするけども。

 

「では初めて行きましょうか。作家先生自体の救出は確実に行うでしょうから、まずは救出した後の創作活動に関して――」

 

 シャッフルしているタロットの下へ差し出した千代さんの手に、カードが託宣(オラクル)の様に舞い降りてくる。

 

「千代さんから見て戦車の正位置に節制の逆位置ですか……」

「え、どう言う事? 確か逆位置って悪い意味のが多かったよね?」

「戦車の正位置は物事が思い通りに迅速に進展する事を示しますが、それが成功を意味するのかは他のカードを参考に読み解く事になります。この場合節制のカードは、戦車の意味合いを補強する物になりますため、節制の逆位置は流れが止まる停滞を表すと考えられます」

「え゛っ……」

「今回の託宣は作家先生の創作活動に関して、千代さんから見てどんな様子かを占った訳ですから――漫画の執筆自体は現在よりも更に速くなる一方、漫画の出来などは現在と変わらないまま、傍目には漫画を描くマシーンの様にも見える。っと、そんな感じの世界線(未来)に至る可能性が高いみたいですね」

 

 千代さんの手元に降りてきたタロットカードを取っ掛かりに、【未来視】で予測演算した可能性未来の情景を映し出してみると、何と言うか〝お労しい〟との表現が似合う様な、ただ千代さんが望んだ漫画家で在り続ける事だけが存在意義かの様にも見える作家先生の様子が浮かび上がる。

 

「えぇ……」

「どうやら終末時の出来事で覚醒するみたいですね。なまじ覚醒出来てしまった事で、不眠不休での執筆も可能になった様子ですけど、強迫観念に近い物を感じさせますねぇ」

「どうしてこんな事に……」

「なら次は、この状態に至った理由について占って見ましょうか」

 

 もう一度タロットをシャッフルし、先程と同じ様に千代さんの手元に降りてきた託宣(オラクル)を確認する。

 降りてきたカードは塔の正位置、審判の逆位置、(ソード)Ⅸの正位置、(ワンド)Ⅹの正位置の四枚。

 

「今度は多いですね。塔の正位置は先の結果も合わせると、終末時と覚醒により今までの常識が崩壊した事。審判の逆位置は今までの行いが災いして、希望が叶わなかったり予想外の不幸に見舞われる事。(ソード)Ⅸの正位置は、人生が変わる様な深い悲しみとの遭遇、(ワンド)Ⅹの正位置は精神的な重圧を感じる逃げられない場面に直面するって所ですね」

「正位置が多いのにカードの意味が物騒過ぎない……!?」

「まあ、漫画を描くマシーンな状態になった理由についてですからねぇ。審判の逆位置には神を怒らせた状態を示す意味があるのを考えると、恐らく覚醒して色々な事に気付いた際、千代さんの提案を断り続けた結果として、頼んでいれば助けられた可能性も有った友人や知人などの、助かる可能性を閉ざしてしまった事に思い至ったのかもしれませんね。千代さんも相手の了承を得ずに事前避難させたりとかはしないでしょうし」

「あー……、確かに終末目前になったら、先生のプライベートを守るために了承を得られる範囲で事前避難させる積もりだったけど」

「その辺を誠実に伝えた結果としてって所でしょうね。そこで了承しなかった人達が生き残る可能性は低いですし、覚醒してその辺に気付けば精神が追い詰められもするでしょう。後は千代さんによって運良く生き延びられた家族や知人のためにも、千代さんが望む通りに漫画家を続ける事だけが……と考えた結果が先の占い結果に繋がると予想されますね」

「うぅ、私は先生の作品が好きで、終末後も漫画家として普通に活動して貰えたらってだけなのに……」

 

 両手で顔を覆って落ち込むのもまあ無理は無い……と言うか、結果だけは千代さんの望み通りでも、その過程や推し活している相手の苦悩とか、ボタンを掛け違った様なズレ方は、いっそどちらにとっても最悪に近い状況では? とも感じるところ。

 

「では、今のうちに作家先生が終末後も伸び伸びと執筆出来る環境と、そのための方法を考えて対策しましょう」

「――っ! そうだよね! 瑞樹ちゃんの占いは今のままだと一番可能性の高い未来ってだけで、ちゃんと変える事が出来るんだよね?!」

「今回の占いは可能性未来の予測演算ですから、変えられる未来ですので安心して下さい。兎も角、未来を変えるなら見落としの無い様にしないとですね」

「うん! ありがとうね瑞樹ちゃん!」

 

 そうして、千代さんの推し活している作家先生が、終末後も気兼ねなく漫画家を続けられる未来の摸索を始める事になる。

 本来なら作家先生を直接占うのが早い話では有るんだけど、今でも一ファンとしての領分を超える行動に抵抗のある千代さんに、その提案するのは流石に憚られると言う事で、色々と条件を変えて占いを繰り返す訳だけど――

 

「また太陽の逆位置ですか……」

「今回も希望からの絶望って事だよね、これ」

「何か見落としがあると考えるべきでしょうね。少なくとも今千代さんが把握している情報から、打てる手立ては全て想定し終わりましたし」

「だよねぇ……って事は、何か情報が足りないって事?」

「そうなりますね。精度は落ちますが、絶望の理由となる大切な何かについて占って見ますか。これまでの結果から縁を繋げば見えるモノもあるはずです」

 

 どれだけ占って【未来視】を行っても、ある程度対策を想定した時点から状況が一向に変化しなくなった事で、そもそもの情報が足りていないとの結論に至る。

 まあ絶望の理由となる〝何か〟を調べる事自体は、これまでの占いでも行っていたのだけど、他の状況を変化させる要素の割り出しを先に進めていたと言うのが正しいだろうか。

 既に判明した情報から連鎖して解決する事の方が多いため、状況を変化させる要素を全て割り出して、それでもなお不明と言う事が判明したのがついさっきの占い結果で、今回はアプローチの方法を変えて具体的に何が鍵となっているのかを探ると言うところ。

 

「恋人の正位置、聖杯(カップ)ナイトの正位置、(ワンド)エースの正位置……ですか」

「これが出たって事は、先生に恋人が居るって事?」

「そうですね、そこはそのまま読み取って家族にも知らせていない恋人が居ると解釈して良いと思います」

「ん? あそっか、恋人だからって家族や知人が知ってるとは限らないのか」

「後の聖杯(カップ)ナイトの正位置は、愛を伝えると言った意味から告白やプロポーズを示し、(ワンド)エースの正位置は物事の始まりや誕生の意味を持ちますので、恐らくですがただの恋人と言うだけで無く、結婚も考えるぐらいの仲で相手は妊娠している可能性が高いですね」

「ちょっとまって! それって先生の家族もその事知らないから、私も気付けなくて死別するって事じゃ……」

「太陽の逆位置が出ていたのを合わせると、何かしらの方法で恋人やお腹の子供が亡くなった事やその原因を知ってしまうのでしょう」

「oh……」

 

 再び千代さんが両手で顔を覆って項垂れてしまったけど、流石にこればかりは顔を覆いたくなるのもわかる程の惨事だろう。

 何せ元々の想定だと、千代さんが一ファンとして知れる範囲で可能な限り手を差し伸べてはいたけど、知る訳も無い最愛の人と子供は救いの手から溢れ落ちていた訳で。

 割と邪険に提案を振り払っていてもなお、ファンとしての善意で家族や一部の知人だけでも助けてくれた相手、しかも覚醒した事で上位存在と理解出来る相手の慈悲で生かされていると認識しているなら、家族にすら伝えていない恋人を助けられなかった事の憤りをぶつけるなど出来ようはずも無い。

 

「ともあれ、最後の取っ掛かりも出来ましたし、後は偶然助けられるタイミングを探しましょうか。千代さん的に個人を特定するってのはしたくないでしょうし」

「多少ファンの領分を超えてしまうのは諦めたけどねぇ。流石に確実に助けるためとは言っても、先生がご家族にも秘密にしている恋人の特定はアウトでしょ」

「まあだからこそ、周辺の人をまとめて外へ連れ出す方向で探ってる訳ですけどね。危険域を抜けた後は自衛隊の方に手回しでもして、煙ニキのシェルターに本命だけ移動させる様にしますか。千代さんが狙って助けたって事を伝えると、漫画を描くマシーンに陥る可能性が高いみたいですし……」

「ははは……はぁ、なんでか私が確り説明しようとするとそうなるんだよねぇ……」

「何事も誠実に全て伝えるのが良い、と言う訳では無いって事ですね。時には敢えて伝えない事の方が相手にとって良い場合もありますし。後は、千代さんがレベル31以上の超人に至ってるのを自覚するところからですかね?」

「へ? どゆこと?」

「未だに一般人的な感覚で居るみたいですけど、命を落とす可能性が高いと想定している状態で、本人が了承するかどうかで割り切れるのは一般人の感性では無いですよ? 霊能界隈的にはごく当たり前の感覚ですから麻痺しやすいですが、レベルが上がった事で明確に価値基準なども変化しています。そこを意識しないと相手との認識のズレに気付けません」

「上位修羅勢とか真修羅とか呼ばれてる瑞樹ちゃんに、それ言われるのは何か納得いかないんだけど?!」

「私はこれでも新人黒札の研修とか、巌戸台支部で影時間に巻き込まれた一般人を保護したりが有りますから、認識のズレには気を付けてますし」

「え、そんなにズレてる……?」

「覚醒修業前の死にかけた経験やショタおじの厳しい方の修業(ハードコース)を体験して、価値観が変わらない訳ないでしょう。今の千代さん的には、必要なら手足の一本や二本失うぐらい許容して戦えるでしょうけど、一般的には骨折しただけでも禄に動けなくなるのが普通ですよ」

「あ……」

「未来を変えるにはその辺の認識のズレもどうにかする必要が有りそうですし、今日のところはそこから始めましょうか」

 

 言葉に詰まる千代さんにはちょっと申し訳なく感じるけど、最初に終末後を占った結果を考えると、未来を変えて維持したいなら必要な事。

 そのため、今一度一般社会と霊能界隈、ガイア連合山梨支部とそれ以外の霊能組織など、それぞれでの認識を再確認する事になった。

 まあこの手の認識のすれ違いは千代さんに限った話では無く、ガイア連合以外と関わりを持つ大体の黒札は通る道ですし、千代さんが望む未来のために頑張って貰いましょうか。

*1
本家様の『小ネタ 終末後の推し活動』より




救われる世界線が一つぐらいあっても良いと思って、初期の友人枠に千代ちゃんを入れた訳ですが、書き始めた後にまさか更に救いの無いダイス結果が出てくるとは思わなかったw
拙作世界線では、大体のことを何とか出来る探求ネキに相談した事で、推し活している先生の周辺に恋人も救助される事が確定しました。
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