【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「なあ師匠、帳簿見つめて微妙な顔してるが赤字にでもなったのか?」
「普通に黒字ですし売り上げも去年に比べて上がってますよ」
今年も初日に多少のゴタつきはあったものの、無事に星大祭が開催される事となり、大小様々に発生するトラブルも恙なく処理されながら、開催期間の折り返しを迎えた頃の事。
マリッサに微妙な表情と表現されたのは、星大祭ブラックマーケット*1に毎年出店している店舗の売り上げ中間まとめが先程終わって、前年と見比べたのが原因と言えば原因だろうか。
「ただ、木分身の私が店番していた去年より、簡易式神に任せた今年の方が売り上げが良いんですよねぇ……」
「そういや祭りの直前に、デッサンドールみたいな奴作ってたっけか。店番用だったんだな」
「ブラックマーケットに出してる店はスケベ部関連ですから、商品も主にそっち系なんですが、女性が店番していると利用しづらいって意見が来てたので、試験的に性別と言うか人間味を削ぎ落とした式神を配置してみた訳ですね」
「そしたら師匠が店番してた時より明らかに売り上げが上がった。と」
「中間時点で、去年の開催期間総計の倍以上ですからね。どれだけ尻込みしてた人が居たのかって話ですよ」
「そりゃ微妙な表情にもなるわなぁ……」
祭り期間が後半に入り、今年初参加の弟子組も祭りの雰囲気にある程度慣れた様で、今日もこれから裏(霊能)だったり闇()で開催されているイベントへ参加するため、必要になりそうな道具を揃えるために私の店まで顔出しに来たとの事。
まあ店番してる簡易式神が奥へ通したのが、丁度帳簿を確認してる途中だったと言うのが今の状況なのだけども。
「赤字って訳じゃ無いなら良いんじゃない? それより今日参加するイベント対策! 特に農業部主催の金属樹*2伐採競争の対策はマストだよ!」
「うむ、制限時間内に伐採出来た量の二割を貰える上、ポイントの高い金属樹には特殊な合金の物も有るとの事、拙者達にとってもメリットが大きいで御座るからな」
「ガイア連合としてはいくらあっても足りない金属素材を、大量確保するのが目的でしょうけれども、個人で考えれば二割でも結構な量になりますわね」
「木目を気にしなけりゃ軽くて丈夫な素材だからな。その分伐採するのも色々大変らしいが……」
「結界術の応用で空間ごと切り取るのが楽ですよ? イベントでは容量に特化した収納バッグも配布されますから、結界で空間断絶すればバッグに収納出来ますし」
「その結界術の難易度がまず高いと思うんだけど??」
裕奈に何言ってんの? みたいな視線を向けられてたので、軽く結界術の説明と術式の手解きをしてみたけど、マリッサとペリーヌが補助道具を使って辛うじてと言った具合で、元々術者タイプでも無い裕奈と二代は取っ掛かりも掴めていない様子。
裕奈と二代も一応は簡単な術式、範囲内の穢れを払う【浄化】やガスコンロぐらいの火力を出せる【灯火】などは使えるんだけど、流石に結界術はまだ早かったみたいですね。
「実戦で使える程では無くても、金属樹の伐採に使うぐらいならマリッサとペリーヌもいけそうですね。裕奈と二代には順当に伐採用の斧が良いですかね」
「使えるっつっても、補助の楔と縄で囲ってと準備しても数分かかるんだがな」
「逆に言えば、数分掛ければ最大サイズに成長した金属樹でも、一度に伐採出来ると言う事ですわね……」
「うん、伐採目的なら十分過ぎるぐらいじゃない?」
「で、御座るなぁ……。それで瑞樹殿の言う伐採用の斧とはどんな物で御座るか?」
「ああそれなら、カタログのコレですね」
開いたページに載せてる商品紹介はこんな感じ。
――――――――――――――――――――
・伐採専用概念霊装斧〝与作〟
植物属性以外には一切ダメージが入らない代わりに、植物特攻を持つ概念霊装。
また、戦闘を目的としたスキルの効果が一切発揮されない代わりに、伐採作業の効率と速度が上昇する。
樵の心構えを持って振るえば、切り倒せない樹木は存在しない。
――――――――――――――――――――
物としては伐採作業専用に特化させた斧で、見た目は重厚な金属製だけど、人や動物に向けて振っても打撲の一つも与えられないと言う概念霊装になっていて、タイプは手斧サイズからポールアックスぐらいの長柄サイズまでいくつか用意している。
「斧か~、値段もまあ何とか?」
「概念霊装ではあるから安くは無いけどな。まあ私らが使わなくなっても売り先には困らんだろうし、今回のイベントだけで考えても十分プラスになるだろ」
「では二本購入して拙者と裕奈で使うとして、他に必要な物は有るで御座るか?」
「ええっと、今日他に参加予定のイベントは昨日と同じくレイド戦だけですから、消耗したアイテムの補充ぐらいですわね」
「連日のレイド戦で結構色々使ったもんねぇ。その分レベルも上がったけどさ」
「初日のシキオウジロボだっけか? アレも大概厳しかったが、二日目以降はギミック見つけられるかどうかって話だよな……。単純な戦闘力で何とかなる相手はまだマシだってのが良くわかるぜ」
「まあレイド戦イベント自体、終末に向けたガイア連合員のレベルアップを目的とした物ですからねぇ。初日で最低限必要な武力を示しましたから、後は様々な状況に対応出来る様、知識と経験を積ませる感じですし」
昨日までに挑戦してきたレイド戦での事を話し合う四人は、有るシキオウジロボを始めとしたレベル60に制限したボス役と戦ってきただけあって、現在のレベルはそれぞれ40を超えた辺り。
このまま行けば最終日辺りには50目前までいけそうな感じだけど、それはそれとして概念系の認識や鍛練が不足するだろう事を考えると、一気にレベルが上がるのも良し悪しと思うところ。
まあその辺は、師匠である私と琴音で確り修業をつければ良い話かと考え直し、消耗品の補充を終えた四人がイベントへ参加しに向かうのを見送ると、私の方も琴音や綴と祭りを回る事に。
「お、裕奈たち頑張ってるね~」
「マリッサちゃんとペリーヌちゃんが最大サイズを伐採して行ってますし、今の調子でいけば一位を狙えそうな感じですね」
「制限時間のある競技ってのが良い影響になってるみたいで、結界術の発動に掛かる時間が少しずつ減ってきているのも追い風ですね。対抗馬のチームも大所帯ですから、一人当たりの量は兎も角、チームとしての総量は油断できないところですが」
適度に屋台を冷やかして回り、手当たり次第に屋台料理を買い集めた頃、丁度弟子達が参加するイベントになったのもあって、折角だからとイベントステージ近くに席を確保して観戦する事に。
ステージ上に浮かぶ立体映像――農業部が用意したイベント異界を映し出した物――では、樹高十メートル程から百メートル程まで、幹の太さも樹高に相応しい程の金属光沢を放つ樹木、金属樹が所狭しと生い茂る樹界が広がっており、参加者が樹界のあちこちに散らばって伐採作業に勤しんでいる姿を確認出来る。
特に動きが大きいのは、最大サイズの金属樹が多い区域で行動している弟子組四人と、比較的伐採し易い鉄の金属樹が多い区域で人海戦術を展開しているグループの二つ。
「あの大所帯のとこって、パピヨンニキ*3の部下だっけ?」
「パピヨンニキが佐渡島の佐渡金山異界に作った金属樹林で、林業している本職の人達ですね。あそこは低レベルでも安定して伐採出来る様に色々研究してますから、一種類の金属樹に目標を絞れば量を確保するのは難しく無いでしょうね」
「そう言えば、順位の基準は素材の価値では無く総量でしたっけ」
「まあ四人にとっては順位よりも素材集めの方が重要っぽいけどね~。最大サイズを切り倒せるから、結果的に優勝争いする事になってるけど」
「今回のイベントに使ってる金属樹林は、農業部が色々栽培実験した後でもありますから、特に最大サイズになってる区画は特殊合金の金属樹も多いですし、素材集めが目的の四人には宝がそこらに生えてる感じでしょうね」
ガイア連合としての工業的な大量生産の観点からすると、精錬作業などをある程度飛ばして各種金属素材として使えて、尚且つ設定した配合の金属として成長する金属樹は、いくらあっても良い素材の一つってのが、このイベントだけでも良くわかるところ。
まあ私の場合、まとまった量の金属が必要なら、配合比を決めた少量の金属を溶かした合金樹に混ぜ込んで嵩増しすれば良いため、態々金属樹として栽培したりはしていないけど……。
「金属素材集めって事なら、確かにこのイベントは効率が良いと思うけど、ペリーヌなら合金樹も普通に使えると思うんだけど?」
「そう言えばそうですよね? 生産系ならマリッサちゃんも瑞樹さんの手解き受けてますから出来るはずですし……」
「技術としては出来るでしょうけど、合金に関する知識は足りてないでしょうからねぇ。その点イベントで伐採している金属樹は、農業部と技術部で協議して栽培した物ですから直ぐに使えますし、実物を解析して配合比率などを調べる目的もあるんだと思いますよ」
「あーそっか、正式に弟子入りしたのも三月だから、まだ半年も経ってないんだった。レベル上げと一緒に色々詰め込んでるけど、知識も含めて万全には程遠いのは当たり前か」
「確かに、私達みたいに年単位でって訳じゃ無かったですね……」
戦闘方面なら、レベルの上昇と感覚的なもので何とかなる部分も多いため、時間的な不足もある程度はカバー出来たりするが、生産方面だと一部の閃き特化だったり、知識系悪魔を起源に持つ黒札でも無ければ、レベルが上がって素材を扱う感覚が追いついても、適切に扱う知識が足りないとなるのが普通の話。
マリッサとペリーヌにしても、四月頃に予定よりレベルが上がった辺りから、ちょっと駆け足で知識を詰め込む事になった関係で、加工技術は有っても今回の合金に関する知見の様な、中間素材に関する知識面ではまだまだ足りていないのが現状。
一応
いくつもの配合と加工して試すのを繰り返すのは、相応に費用も時間も掛かりますしね……。
「んー最終的にはギリギリ二位って所かな? あ、このガレット美味しい」
「蕎麦に拘ってる農業部員と調理部の合作ですね。具材は終末向けに色々栽培してる中から、生産量の多いのを中心に揃えたみたいですが」
「終末後の食糧事情を考えたメニューって感じでしょうか? こっちはオゾン草の外葉を使った草餅ですけど、中の餡だけで無く生地も甘めにしてるみたいで、外葉の苦味が抑えられていて割といけますよ。苦いことは苦いですけど……」
「オゾン草の外葉ならそれだけでも十分な栄養を摂取出来るし、携帯食料辺りを目指した感じかな? うん、食べられない程じゃないし甘味も確り感じられるけど、何個も食べたいって程じゃないね……」
「私としてはこのぐらいの苦味なら十分いけますけどね。それにしても今回出てる屋台は、終末に向けた試行錯誤って感じの所も多いですね。ズボラ飯食材の麺竹を使った焼きそばとか、保存の利く食材を使ったアレンジレシピ系もそこかしこに見られますし」
「後はフード悪魔を使ってるところも多い気がします。リヴァイアサンの蒲焼きとか、ベヒモスの串焼きにジズの唐揚げとか……」
「確か去年に瑞樹が初遭遇した後も、それなりの頻度で見つけて倒されてたっけ。倒し方が悪いと一体丸ごとにはならないけど、それでも得られる量が多いから祭りで少しでも消費したいって所かな? 確か倉庫にだぶついてるって言ってた気がするし」
「高レベルの素材が一カ所に集まると勝手に異界化したりとかしますからねぇ……っと、伐採競争が終わりましたね。琴音の見立てた通り四人は二位で終わりましたか」
屋台で買ってきた料理の品評なんかをしつつ観戦していたイベントが終了時間を迎え、結果発表や賞金などの授与も終わると、次のイベント告知がステージ上に空間投影されてる立体映像に表示され、ステージ上の模様替えなども慌ただしく動き出す。
「次のレイド戦イベントは、黒札でも修羅勢と呼ばれる人達がボス役をしてるんですよね? 確か」
「レイドボスを担当出来る人限定だけどね~。実力的には可能でも人間サイズだと多人数との戦闘がし辛いから、魔人ネキ*4やカビゴンニキ*5みたいにある程度大きくなれるか、巨大ロボとか大型の悪魔を使える必要があるから」
「まあボス側もレベル60までの力でと言う制限がありますし、その辺をクリアするために大型サイズの式神ボディを作って、意識を繋げる遠隔操作で参戦する方式も検討してるみたいですね」
「そこまでしてレイドボスしたいのか……いや、星祭組ならお祭好きだしするか。まあいいや、それより今日のレイドボス役が決定するみたいだけど――」
「あ、瑞樹さんみたい……ですね?」
「ですね。受諾のメール確認も来ましたし、木分身送って今日のレイドボスを務めましょうか」
「制限有りの戦闘で瑞樹がどんな手札を出してくるのか……、ちょっと楽しみかな」
「大きなサイズだと【木遁・木人の術】とか【須佐能乎】、後は食欲界に居る生き物たちを使役するってのも、確か出来ましたよね?」
「最初はアカムトルムとかウカムルバスとか丁度良いかと思ってましたけど、ちょっと思い付いた事が有るので新技お披露目しますよ」
どうやらランダムセレクトされたレイドボス役は私だった様で、ステージ広場で観戦している本体の私はそのままにして、木分身の一体でイベント異界の方へと向かう。
レイド戦イベント担当の運営と制限やギミックなどの確認も行い、挑戦者が揃うまでの間にボス用に区切られた空間で準備を進めていく。
今回レイドボス役として使う手札は、少し前に思い付いて実験し、上手く行くことを確認した【魔装術】*6を使って黒死ネキみたいに姿を変化させると言う物。
実験内容としては私のメインペルソナである【世界
まあ見立てや理屈を捏ね回して、割と強引に筋道を作った感じは有るけれども、強引でも理屈が通れば
「見た目のイメージが某運命のティアマトになるのは、私自身も前世の印象が強いからですが、レイド用の大きさにするならやはり多少は怪獣っぽさを出した方が良いですかねぇ」
時間が来るまであれこれ姿の微調整を行い、一応センシティブ判定されないように気を付けつつ、レイドボスとしての外見を造り上げる。
具体的にはサーヴァントとして仲間になった時では無く、ストーリー上で戦う際の姿をベースに、私としての特徴でもある樹木の要素を組み込んだデザインで、手足の中程から先は木の幹や根っこにも見える様な感じになっている。
後、胸元も蔦を編み込んだ服の様にしているし、インナーも着けてるので大丈夫でしょう……多分。
「そろそろ時間ですか、レベルは制限されてますし権能の出力もレベル相応ですが……。さて、挑戦者達は上手くギミックを解けますかね?」
ペルソナや悪魔の写し身を人の霊格に纏わせ、意思の力で潜在能力を引き出し制御する技術。