【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
高校生最後の夏が終わった。
声にすれば短くて簡単なよくあるフレーズだけど、既に前世より今世の方が長く生きてる私にとっては、色々と思う所のある言葉。
とは言えそんな感傷も、今世の濃過ぎる経験の所為で、偶にふとした切っ掛けで思い起こす事もあるって程度だし、前世のことで覚えてるのなんて、せいぜい高校二年の頃に交通事故に遭って短い生涯を閉じたってぐらいで、思い返す程の内容もあまり無かったりするんだけど。
まあ前世に関しては既に終わった事だし、未練とか引きずってるって訳じゃ無いんだけど、終末の日が近付いているのを知ってると、どうしても思うのは今世でも高校を卒業出来なかったな、と言う話。
「そんなこと言ったら、頑張ってる受験勉強が無駄になるだろう他の皆はどうなんだって話だけどねぇ。普通人生は一回限りなんだし」
「唐突に変なこと言い出したけど、何かあった?」
「いや、特にコレと言ったことが有った訳じゃ無いけどさ、裕奈にも話したと思うけど十月末頃にアレでしょ?
「ふむ、そう言う物で御座るか。拙者は今の環境に満足しているし、家族の安全さえ何とかなるなら楽しみな気持ちの方が強いで御座るが」
「あ、そうだ、二代の家族に関しては説明とかしてる?」
「そういや二代の所は両親含めて一般人だったっけ、一週間ぐらい前から情報解禁されるって話だし、避難先とかその後の生活環境とか準備終わったの?」
「説明の方はガイア連合の専門部署に依頼している所で、その後の事は瑞樹殿に相談して、蓬莱島で行う覚醒修業のテストケースと言う感じで、移住の準備を進めているで御座る」
学校の昼休みに、いつもの三人でご飯を食べながらアレコレ話していると、話の流れから終末後に向けた準備で、一番問題になりそうな二代の周辺に話が移る。
が、どうやら瑞樹の方に相談をしてたみたいで、大方の問題は既に解決してるらしい。
何時の間に? と言う気持ちは若干あるけど、私有地として蓬莱島を持ってて、ガイア連合でも運営含めて方々に影響力のある瑞樹が相手なら、まあ仕方無いかとも思うところ。
実際、私に相談されても瑞樹に話を持って行く事になるだろうし……。
「今は移住者の関係で覚醒者しか居ないけど、蓬莱島も将来的には住民の子供とかで、未覚醒者もそれなりにでるだろうし、覚醒修業のカリキュラムとかも必要になるか」
「覚醒修業ねぇ……、私らは事件に巻き込まれて偶然って感じだったけどさ、実際のところその修業ってどんなことすんの? 滝行とか座禅とか?」
「ん~色々、かな? 覚醒修業って言っても緩ーい物から、一歩間違えればって感じの荒行まであるし、私達黒札だと、荷物を担いで富士山を上り下りしたり、呪術や霊薬に使う植物や虫なんかの世話、後は裕奈も言った様な滝行や瞑想とかもやってるし」
「へぇ~」
「でもまあ、個人によって修業にも相性があるから、コレをすれば覚醒出来るってのは言えない感じかな。一番重要なのは生存本能を刺激して、覚醒しなければ行けないと無意識下に思わせる環境で過ごす事らしいし」
「確か、蓬莱島の様な生活可能な異界や霊地と呼ばれる場所が重宝されるのは、覚醒を促す環境になるから、とは瑞樹殿が言って御座ったな」
一般社会において覚醒者が少ないのは、覚醒する事で悪魔に狙われやすくなるなど、生きる上で不都合が多いからと言う、生存本能や防衛本能的な物の結果。
そのため覚醒修業の基本は、覚醒しないと危険だと本能に訴えかける事に有り、滝行や瞑想、或いは直接的な臨死体験が行われるのも、本能を刺激する為の手法の一つであって、どの修業方法が正解とは言えないのが面倒な話だよね。
「ふむふむ、つまり覚醒修業ってのは、何をするかよりどんな環境で修業を行うか、が重要って事か」
「そもそも霊能事件に巻き込まれてその場で覚醒ってのが極稀で、基本的には数年から十数年ぐらい掛けて覚醒を目指す物らしいからねぇ。黒札とかの霊的素質が極端に高いとかなら話は別だけど」
「霊的素質と言うと、拙者はそこまで高く無いと言われたが、裕奈はかなり高いとの話しで御座ったか?」
「お母さんが黒札だから、その分高くなってるってのは聞いたけど、二代も言う程低くないでしょ?」
「二代も何気に本多忠勝の転生者だしねぇ。神話とかに出てくる悪魔よりは格が落ちるとは言っても、普通に超人の域には行けるんだし、高い素質を持ってるって言われる方だよね」
「拙者達の周囲で同等以下なのは、マリッサとペリーヌの二人ぐらいで御座ろう」
「元々の素質だけで言えば、綴さんもそうだよ?」
「何?!」「え、そうなの??」
「あー、二人が会った頃には既に超越者の域に至ってたから知らないんだっけ」
かく言う私も、【霊質強化術】などの技術を教えて貰った時に、話の関連で序でに教えて貰った内容だけど、綴さんも一応は対魔忍衆の血族って事で、元々の霊質でもレベル20ぐらいには上がっただろうとは言っていた。
まあ元々、霊的素質より精神力の方が強く影響するペルソナ使いに覚醒してたし、レベルが高いのもその所為と思われてるから、本来の素質部分は【霊質強化術】で延々と魔改造を繰り返してたってのは、知らない人の方が多いんだけどね。
「綴さんの家って霊能関係一族の分家なんだよね。メシア教に主立った霊能者が根切りにされた後、邪法を使ってでも再起しようとした人達の影響で、他の名家と呼ばれてる家系よりは霊質も高い方だけど、それでもガイア連合の基準で20を超えられるかどうかって感じだし、綴さんも最初は20前後が限界だったらしいよ」
「そうだったんだ……」
「ううむ、努力を重ねてこられているとは知っていたが、まさかそれ程とはな」
「まあそれも、瑞樹の割と頭可笑しい技術が有ったから、出来た努力なんだけどね。【霊質強化術】でやってる事って、本来は神仏の試練を越えて漸く得られる様な物だし」
「あー、【房中術】と併用して施術されたアレか……、何かこう、言葉にし難いけど、体の奥底を押し広げられる様な感じがして、しばらく違和感が続いたんだけど?」
「違和感で済んでるのは、無理をせずに少しずつ広げる様にしてるからだね。自分で【霊質強化術】を扱える様になると感覚も変わるみたいだけど、術式の元になった儀式概念的に、本来は相手の都合を考えずに力を流し込んで、耐え切れたらより強い力を得られる試練みたいな物らしいし」
「物語などで時折見かける話で御座るな」
「で、何か思いっきり話が明後日の方向に行っちゃった気がするけど、二代の家族周辺の準備は大丈夫って事で良いのかな?」
「うむ、非時市の方で建設中の道場もそろそろ完成するとの話、後は来月にでも引っ越し作業をすれば準備は完了と言えるで御座るな」
「裕奈の方は両親共に関係者だし、終末に向けた準備は大体終わってる感じ?」
一般人である二代の家族関係の話から、何故か綴さんの霊質についてに移ってた話題を裕奈が引き戻した所で、今度は裕奈の方の終末準備について聞いて見る。
ちなみに私の方は、両親と祖父母は既に居ないし、他に繋がりの有る親族も居ないため、友人関係でシェルター枠を用意したら概ね準備は終わり。
と言うか、本来なら必要な物の大半を瑞樹が用意しちゃってるから、私が改めて準備する必要も無い感じ。
だからまあ、裕奈や二代とか、月光館学園で出来た友達のために色々と手回しをしてるって訳だけど。
「こっちも大体終わってるかな~。お父さんとお母さんはそれぞれで準備してるし、琴音と共通の友達はそっちで準備してるでしょ? 個人的な物も終末後は蓬莱島暮らしするからどうとでもなるし……あ、そうだ、麻帆良堂の皆に声掛けとこうかな」
「麻帆良堂で御座るか?」
「えっと確か、ボドゲ部から何人かで立ち上げたって話しの、TRPG同好会のサークル名だっけ?」
「そそ、琴音が言った通りのサークル。高等部に上がってからはクラスも別れたし、話す事も少なくなってたから詳しくは知らなかったけど、この間の祭典で見かけてね~。偶然だろうけどマリッサと意気投合してて驚いたよ」
裕奈の話しによると、中等部の二年と三年で同じクラスだった椎名桜子、釘宮円、柿崎美砂、和泉亜子の四人が立ち上げたサークルで、去年にドイツからの留学生を二人加えた六人で活動してるらしい。
そんで今話題に出したのは、そのドイツから来た二人が覚醒者だったからで、友人として一応の確認ぐらいはしておきたいって感じかな?
「なるほどねぇ。そんじゃ向こうの都合でも聞いて遊びに行ってみる?」
「そだね。夏休みの宿題忘れてたりでもしなければ部活動も再開しているだろうし、メールでもして確認してみる」
「ふむ……マリッサとも面識があるなら、学外で集まってTRPGのセッションをするのも面白そうで御座るな」
「あ、良いね! 確かに機会があったら~ってのは言ってたし、その辺も併せて聞いて見る」
と、話が一段落したところで昼休みが終わり、退屈だけど平和な午後の授業を受け、放課後。
休み時間の間に、今日の午後でも大丈夫との返事が返ってきた様で、早速三人でボドゲ部の部室へと向かう事に。
「美砂~遊びに来たよ!」
「いらっしゃい、ボドゲ部へようこそ~、まあ今は私ら六人だけで後輩達はまだ来てないけど、椅子とかに余裕は有るからゆっくりしてってよ」
ノックして扉を開けると元気な声が迎えてくれる。
結構広い室内にはいくつかの机が置かれていて、壁際の棚にはTRPGのルルブ以外にも有名処のボードゲームがいくつも置かれていたり、パソコンやカメラなどの機材もあって、ボードゲーム部として色々やっているのが見て取れる。
「急に押し掛けてごめんね。私は裕奈と同じクラスの汐見琴音、TRPG歴は数年って所かな。よろしく」
「同じく本多二代と言う、拙者がTRPGを始めたのは裕奈と同じ頃だから、半年ぐらいで御座るな」
「よろしく~」
三年生で二学期ともなれば、受験勉強なりもあって部活を引退したりってのが多い印象だけど、普通に部室に集まって遊んでる様子なのは文系の部活だからなのか、或いは単にその辺が緩いのか……。
裕奈に来た返信の内容的に、部員の友達を呼んで遊ぶ事は結構有るみたいだし、割と緩い部活って可能性の方が高いかな?
それは兎も角、堅苦しいのは面倒って事で、軽く挨拶した後は下の名前で呼び合う事になり、いくつかのボードゲームを囲んで遊んでいれば、さほど時間も掛からず仲良くなれると言うもの。
遊びながら軽く探りを入れてみた感じだと、霊能関係者はドイツからの留学生である二人、マルガ・ナルゼとマルゴット・ナイトだけで、他四人は陰日TRPG関連で知った情報ぐらいって所で、未覚醒だけど実は関係者って事は無さそうかな?
後は、霊能関係者である二人が所属する組織、瑞樹から聞いた話だと
「う~ん、まさかダイス関係で、桜子大明神に張り合える相手が居るとは……」
「桜子は昔から運が良かったもんねぇ、琴音は運が良いと言うより、ここぞって時に外さない感じだけど」
「私の場合は悪運が強いって感じだけどね~。っと、負けちゃったし喉渇いたから飲み物買いに行くけど、序でに欲しい人居る?」
遊び初めてそこそこ時間も経って、飲み物の一つでも欲しくなってきた頃合いを見計らい、部室を一旦退出する口実に提案すると、案の定全員が手を上げる。
「あ、それならナイちゃんも手伝おっか、九人分一人で持ってくるのも大変だろうし」
「ありがと、それじゃ行こっか」
それぞれの注文を確認する間に、軽く目配せしたのをちゃんと読み取ってくれた様で、留学生の金髪の方、マルゴットが買い出しの手伝いに名乗り上げてくれる。
「態々手伝いって形で呼び出しちゃってごめんね」
「ナイちゃんそこは別に気にしてないかな~、美砂ちゃんから裕奈ちゃんが遊びに来るって聞いた時から、
二人して部室を出て、他の文化系部室からも多少離れた辺りで話を切り出すと、普通に予想していた様で特に気にした様子も無く返事が返ってくる。
ちなみに、これは自己紹介の時に説明された事だけど、マルゴットは自他を愛称で呼ぶ癖があるとの事。
まあその点を除けば社交的で話しやすい人柄だし、もう一人の留学生で覚醒者のマルガの方は、若干引っ込み思案な印象だった事を思えば、今回みたいな話に応じる役割を引き受けてきたんだろうね。
「まあ覚醒者ってのは隠して無いんだし、こうして会いに来ればわかるか」
「そりゃね~。そんで、どんな要件か聞いても?」
「一番は二人の為人を確認するのと、裕奈の友人である四人がどれだけ
「巌戸台支部で仕事を受けてるのは兎も角、
「黒札だから一応? 巌戸台支部なら支部長補佐とか実働のトップみたいな感じだけど」
「それ十分お偉いさんだよね……? でもまあ、それなら私達の組織名を知ってても当然かな」
証拠の提示って事で、ガイア連合の身分証明として渡されてる黒札を見せる。
今の霊能界隈なら、知らない方が潜りと言われるぐらい有名になった身分証だけあり、私の話についてはすんなりと納得してくれた様子。
「去年にドイツからって事は、メシア教がやらかした後に避難してきたと思うんだけど、あってる?」
「間違っては無いかな。運良く日本まで来れて、拠点に出来る場所の確保を当面の目標に、人外ハンターとしてガイア連合に所属して稼いでる感じだね」
「じゃあボドゲ部に入って麻帆良堂に参加したのって偶然?」
「ナイちゃんもガッちゃんもシュピール*1は好きだからね~。でも、麻帆良堂に参加する切っ掛けは桜ちゃんに誘われたからなんだよね」
「桜子に? ……なるほど、幸運の申し子って感じかな」
さっきまで桜子と一緒にボードゲームで遊んだ時の感じと、現在の視点から見ると重要な選択を選び取ってる事例を踏まえると、単なる偶然と呼ぶよりも、幸運と呼べる運命の流れを引き寄せる力を持っていると考える方が自然で、極稀にそう言う性質を持って生まれる者が居るのは私も知るところ。
具体的に言えば、黒札のカズマニキも同じタイプの人間だけど、運命愛され勢みたいな波乱万丈ともまた違い、無意識に運命力と上手く付き合って乗り熟してる様な感じだろうか。
そんな桜子が高等部に上がり、ボードゲーム部へ入部してから立ち上げたのが麻帆良堂で、去年に留学してきた直後の二人を誘って入部させたのを考えると、今こうして私とマルゴットが話している場面自体、桜子が上手く生き残る為に引き寄せた運命の流れなんだろうとも思う。
「幸運の申し子ってのは確かに感じるかな? 仕事に行く直前に持って行った方が良いと渡された道具で、危機を脱した事も何度か有るし」
「事の起点が桜子ってなると、前提が変わってくるかぁ……」
「ナイちゃん、もっと警戒されるもんだと思ってたけど、そんな簡単に信じて良いの?」
「事前に調べてメシア教関連では無いってのはわかってるからね。後は多神連合系でも質の悪い連中繋がりじゃ無いってわかれば十分かな。恐らく
こっちの認識としては、一般人な友達のサークルに、いつの間にか覚醒者が混ざっていたと言う状況。
そんで、一般人をカイして接触してくるのはメシア教だけで無く、多神連合系や名家()などでもよく使われる手段な訳で、何かしらの悪意を持って近付くために利用しているなんてのも考えられる話。
なんだけど、それも覚醒者側から近付いて来てるならの話で、今回は逆に一般人の方から積極的に取り込みに来てる訳であり、そうなると前提から話が違ってくると言うもの。
「んー、琴音ちゃんってそう言う運命は砕いて進む様なタイプに見えるんだけど、以外と信じてる感じ?」
「運命力も運命の流れも在ると知ってるだけだよ。納得出来ない未来は砕いて道を切り開くのはその通りだけどね! まあ兎に角、四人にも
「あ、ガイア連合の基準だと、まだ終末にはなってない判定なんだね」
「ウチだと半終末って呼んでるかな、日本は防衛に成功してまだ以前の環境を保ってるしね。でもそれもそろそろ限界だから、最後の準備をしているってところ」
「それって話しちゃって良いの?」
「積極的に広めてはいないけど、終末に向けての準備はずっと続けてるから今更かな? そもそもガイア連合自体、終末を乗り越える為に集まったのが始まりで、霊能組織としての体裁は必要だから取ってるだけだしね。その辺の細かい所も含めて、次ぎの休みにでも話す機会を作ろうかと思うんだけど、どう?」
「こっちは多分賛成するんじゃないかな? 麻帆良堂の方もTRPGのセッションって事にすれば、普通に集まると思うよ」
「オッケー、じゃあそう言う事で、拠点に出来る土地の紹介も出来るし、その辺の資料も用意しておくね」
「りょうかーい、それじゃ飲み物買って戻ろっか」
夕暮れにはまだちょっと早い時間の部室棟。
密談と言う程踏み込んだ話をした訳ではないけど、意味深な言い回しを含んだ会話に何だか不思議な気持ちになりつつ、部屋を出て来た理由で有る買い出しを済ませる。
ただの学生なら記憶にも残らないだろうなんて事無い日常の一幕だけど、放課後に部室へ集まって、日が落ちるまで遊び倒すってのは、今世だとした事が無かったとふと思い浮かぶ。
日常の終わりが直ぐ其処まで来ているとは思えない様な瞬間、薄氷の上に乗ってるのだとわかってはいるけれども、今は未だ平穏な一時を楽しむ事に全力を注ぐ事にしよう。
終わりは必ず来るのだから――