【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
電脳異界の準備が滞りなく終わり、後は時が来るまで保守しておけば十分となった頃には、九月もそろそろ終わりが見えてきていた。
攻略レイドに向けた拠点作成は順調な一方で、マヨナカテレビやメメントスの攻略状況の方は、お世辞にも順調とは言えない感じだったけど、これは元々想定していた通りだし特筆する問題とは言えないですかね。
他に行ったガイア連合山梨支部としての活動と言えば、後は巌戸台支部関連だけど、こっちは葦原荘の内部空間を拡張して収容可能人数を増やしたり、食料や各種素材の生産量を増やしてのシェルター機能の強化、それから麻帆良堂のマルガとマルゴット経由で繋がりの出来た
まあ傘下と言っても蓬莱島への移住を許可して、巌戸台支部からの依頼を優先的に回す程度の事だし、蓬莱島でのあれこれも絡むため、組織としての行動と言うよりは半ば私用みたいな感じもしますけども。
「契約で決めた異界はこれで十分ですかね?」
「ああ、私達に許してくれた土地と含めて十分以上だ、感謝する」
「後は住居の方ですが、今日中には最低限終わりそうですね。いくつかの工房は先に私が建てておきましたから、当面の作業はそっちを使って下さい。他の必要分は島民同士で、って所ですかね」
「いや、工房を用意してくれただけでも有り難い。あれもこれもと頼っては私達の立つ瀬が無いからな、必要な物は私達の腕で稼いで何とかするとも」
蓬莱島の拡張した土地の一角、
異界内は中央に湖が有り、その中心には異界の要として植えた生命樹が聳え立つ小島、北には峻厳な霊峰が偉容を誇る。
湖は生命樹の力を受けた霊水を湛えており、湖の周囲には霊水を吸って急速に育った草木が生い茂って森を構成している。
集落の建設は、そんな湖の畔から中心の小島に向かって水上へ張り出す様に行われており、最終的には岸辺と小島を繋ぐ橋の上に町があると言う、ある意味ファンタジーな物になる予定との事。
移住してきた魔女達の方へ視線を向けると、取り急ぎ私が建てた住居へ荷物を運び込んだり、早速周囲の森へ素材の採取に行く者、持ち込んだ素材を使っての作業をするため工房に行く者など、各々が活き活きと動き回っているのが見える。
その様子を私と並んで眺めているのは、現在
見た目は二十代前半ぐらいで、淡い金髪とグレーの瞳に雪の様なと言う形容が似合う白皙の美女であり、黒札的にわかり易く例えると、艦これのグラーフ・ツェッペリンと似た容姿って所だろうか、髪型はツインテールでは無くロングストレートだし、実年齢は四十過ぎとの事だが。
私の声質とも似ている*1辺り、異世界の認知が少なからず世界に影響した結果なのだろうとは思うけど、考えたところで意味のないことだから横に置いておく。
「後は……そうそう、今蓬莱島では住民となった者達の交流を目的に、秋祭りを準備中ですから、引っ越しで忙しいでしょうけど参加してみては如何ですか?」
「秋祭り? サウィン*2の様な物か」
「食欲の秋と私の造った食欲界を重ねての物ですが、グルメ狩猟祭と銘打ってますし、収穫祭の側面も一応はありますね」
「なるほど、少し時期はズレるがサウィンと同様の祭りなら参加しない選択は無いな。それに、祭りなら確かに準備から参加して交流を持つのは重要か、私達も同じ島の住人で隣人になる訳だしな」
「島内の事は今のところ政務・探索・商業・職人のギルドで取り纏めてますので、参加するのならギルドに聞いて下さい」
「ああ、早速各ギルドへ話を聞きに行くか」
「では私もそろそろ次へ行きますかね。貴女達がこの島で良い学びを得られる事を願ってます」
「その期待に背かない様、心掛けるとするさ」
正式にガイア連合の……と言うか、私の傘下に入る交換条件として、要望された安住の地の引き渡しが終わり、住居などの問題も無いのを確認して異界を後にする。
いずれ小島に届くまで建築が進んだ後には、湖に浮かぶ橋上都市や魔女術の修業場として、人気の観光地の一つになるのだが、それはまだまだ先の話。
ちなみに未覚醒者が複数移住して来た今回の件については、覚醒修業のカリキュラム構築や未覚醒向けの各種サポート体制、その他注意する点の調査と言う側面も有ったりする。
まあ蓬莱島と言う場所の性質上、覚醒者で有ることを前提に色々と造られてる事を考えると、未覚醒者ってだけで色々と不利なのは確かな話ですし、いずれ島には未覚醒の子供達が生まれてくる事になる訳で、その試金石としてある意味では丁度良いとも言えますね。
「引っ越し関連の諸々は概ね終わったみたいですが、此処での生活はどんな感じですか?」
「おお瑞樹殿、ここ数日は道場の方で寝泊まりしておりましたが、やはり戸惑うことが多いみたいで御座るな」
やって来たのは非時市の住宅区画と
ここで数日前まで建設作業してたのが、二代の実家である槍術道場の引っ越し先になる、純和風な平屋建ての武家屋敷。
併設された道場は槍を振り回す事から結構な大きさだけど、学びの園で一年学んだぐらいでは流石に難しかった様で、内部の空間拡張までは手が回って無い様子。
その代わり耐久性と修復能力はそこそこの物になっていて、霊能者が鍛練しても大丈夫な道場になっているため、当面は十分でしょうか。
道場では丁度、二代が両親や門下生に覚醒修業を兼ねた稽古を付けていたみたいで、休息に良さそうな頃合いを見計らって差し入れを持って行く事に。
ちなみに、差し入れの方は覚醒を促す効能の霊薬を混ぜた物で、これは大赦に居る三人の娘を含めた次世代の子供達の協力により、ある程度成果が出た食事で覚醒を促進する修業を応用したお菓子類。
まあ、未覚醒者向けにアトリエ式錬金釜で大量生産した物なので、味の方はそこそこ美味しい程度だけども。
「なるほど、機械類も普通に有りますけど、基本的に術式を組み込んだ物ばかりですから勝手も違うでしょうね。あ、食事での覚醒修業も兼ねて差し入れ持って来ましたから、適当に配ってあげて下さい」
「覚醒修業の一環と言うことであれば、記録を付けている蓬莱*3殿に渡しておくのが良いで御座るな」
「畏まりました。修行者の皆様へと配膳を行います――以上」
「では、ここらでしばらくの休息とする! 差し入れを頂いている故、瑞樹殿に感謝して頂く様に!」
休息の掛け声で修行者達の揃った返答が返ってくるのを余所に、もう少し詳しく話を聞く為に二代と屋敷の方へ移動し、こちらは覚醒修業とは関係の無い、純粋な手土産を取り出してお茶にする。
今回使うのは、蓬莱島移住者の中で栽培方面を学んでるグループからの要望を受け、グルメ狩猟祭に間に合う様に農地の時間を加速させた際、お礼として貰ってきた作物の一つであるコーヒー豆。
生豆の状態で貰っていた物を、【アギ】と【サイ】を使ってこの場で焙煎しそのまま【サイ】で細かく挽いたら、コーヒー用に成分を調整した熱湯の水球を【アクア】で造り出し、挽いたばかりの粉を投入したら【グライ】で水球の外から圧力を掛けながら、三十秒ぐらい霊力操作で水球内をかき混ぜる。
最後は【グライ】の圧力を粉だけに切り替えてフィルター代わりにし、抽出したコーヒーをカップへと注ぐ。
入れ方に関しては、前世でチラッと見かけたスティープショットと言う方法を真似た物で、一服するとコーヒーらしい苦味の中に、コーヒーオイルの豊かな香りと仄かな甘味が感じられる一杯が出来上がった。
「霊木としての質や品種改良もまだまだこれからと言った物ですが、此処からの発展を期待させてくれる感じの豆ですね」
「拙者では珈琲の違いなどわかりませんが、コレが美味しいと言う事は確かで御座るな」
「味覚なんて人それぞれですし、美味しいと感じて貰えたなら十分ですよ。それで皆さんの様子についてですけど、大きな問題は今のところ報告されていませんが、何か気になる点とかは有りますか?」
「先も言った様に戸惑っているのが基本なのだが、同時に以前よりも落ち着きが無い様に感じるで御座るな」
「落ち着かない感じですか、それはプラスとマイナスのどっち方面です?」
「アレは拙者が実戦を経験する様になった時と同じ様な、ワクワク感とでも表現するのが良さそうに思えるで御座る」
「なるほど……、二代の家族以外については、移転理由を説明した上で付いてきた人達ですし、実戦的な意味か或いは霊能自体かは兎も角、ファンタジーな状況で童心に帰ってる感じですか」
「うむ、おかげで覚醒修業にも積極的に取り組んでいるで御座る」
現代日本で態々槍術を習ってる人達だけあって、非日常適性が高いと言うか、創作の中の話と思っていた事が現実に有ると知って、随分とやる気が漲ってるらしい。
まあ蓬莱島自体が空に浮かんでいる上、最近だと島内をリフボードやストライカーユニットなどで飛んでる人もそこそこいて、そこかしこにファンタジーが溢れている環境で、私自身も霊能が基礎となった都市が出来ていく事にワクワクしてる訳ですし、一般人が興奮するのも然もありなん。
それでその辺の興味が行き過ぎて、口論から軽く小突かれて骨に罅が入ったり、脱臼したりと言った怪我に発展した事はあった模様。
覚醒者のレベルが低ければ、筋力なども未覚醒者と大きな差は無いけど、気軽に空を飛べたりするレベルとなると、大抵レベル10は超えて居ますから、普段からの覚醒者相手感覚で小突くだけでも、未覚醒者なら大怪我になってしまうのは仕方ない話でしょうね。
後は、未覚醒者が食べると危険な食材がそこらに溢れているのも、理解させるのに苦労したとか。
「口論云々は個人間の問題ですが、不意に籠もった力で怪我してしまうのは、何かしら保険を用意した方が良さそうですね。食料に関しては、未覚醒でも食べられる物に付けるマークでも用意すれば大丈夫でしょう。一口食べただけでアウトな物は低レベルでも厳しいので店頭に並んだりしませんし」
「場所によっては低レベル帯でも利用が厳しい施設なども有る故、未覚醒者対応のマークが有ると確かに良いで御座るな」
「アトラクション系は確かにそうですね。医療施設などは未覚醒ならそれに合わせて対処すれば良いですし、いっその事レベル帯に合わせてマークを作るのも考えましょうか」
やはり新しい事を始めると今まで気付けなかった点も見えてくる物で、二代と話をしながら見えてきた、将来を見据えて対策して置いた方が良さそうな事項をリストアップし、政務ギルドの方へと報告を回す。
業務的な部分を含みつつも、修行者達の休憩時間中楽しく話したら、指導へ戻る二代の邪魔をしない様に暇を告げて、今度は非時市の中心部へと足を向ける。
一年前の外部開放時には、私が建てたいくつかの施設以外は草原が広がっているだけだった場所も、移住してきた学徒達により実践を兼ねて急速に建築が進められた結果、多種多様な様式の建造物が建ち並ぶ賑やかな町並みが広がり、街路はアスファルトの代わりに鉄を混ぜた合金木のチップを圧縮し、パーティクルボード状に成型した道が敷き詰められている。
使用されている建材からして、コンクリートや煉瓦に石と言った普通な物から、合金樹やセラミックスなどの霊能を組み合わせる事で可能な物、果ては巨大な茸や樹木の内部をくり抜く様な形の物など、好奇心のままに造られていったのが良くわかる。
今はそんな町並みにグルメ狩猟祭に向けた飾り付けが施され、道行く人々も荷物を持って走り回っていたりと、慌ただしくも楽しそうな気配が広がっている。
「祭りの中心はこう言ったイベント用に建造した展示場の方ですが、商店を構えてる人達はそれぞれでも色々と企画してるみたいですね」
建設した施設は一応蓬莱展示場が正式名称なのだけど、参考元にした有明のビッグサイトから名前を取って、ギガサイトと呼ばれて居るのはある意味伝統でしょうかね。
それは兎も角、ここ一年で栽培して実った作物を使った料理が既に並べられていたり、食欲界から狩猟・採取する食材に備えた準備なのか、調理や解体用の道具を新しく造って居る者達に、そうして造られた道具試してる者達など、準備期間中もまた一つの祭りだと思える様な光景が出来上がっていた。
祭りの準備に忙しい学徒達の邪魔をしない様、私だとわからない感じに気配や見た目を誤魔化して町中を歩くと、そこかしこから楽しそうな笑い声や活気のある怒鳴り声が響き、時折爆発音らしき物も聞こえてくるが、確りと回復も出来ているみたいなので大丈夫だろう。
「学徒達の方も準備は順調みたいですし、祭り当日に獲物が尽きるなんて事が無い様、こちらも確りと調整しておきましょうか」
この後の予定を考えつつ活気溢れる町中を散歩して、目に付いた美味しそうな物を買い食いして回ると、風の冷たさと日の暖かさが秋の気配を感じさせ、温かい軽食の食べ歩きに幸せをプラスしてくれる。
蓬莱島を覆う結界で造り出している人工の四季ではあるけれど、感じる季節の移り変わりは自然のソレと変わる物でも無く、秋の深まりを感じさせる。
祭りに向けた準備の喧噪は、慌ただしくも楽しげに秋空へと響き渡る。
オリキャラ紹介
・魔女ゲルダ
レベルは30を超えていて、半終末突入後に日本へ避難出来たのも、彼女が未熟な若い世代を守っていたからと言う物。