【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「なあ師匠、今日からの予定を空けておけって言ってたの、このクーデター騒ぎ関連なのか?」
今月の第一木曜に行われたグルメ狩猟祭が終わった後、月の下旬辺りは予定を空けておく様にって言われてたため、
まさか日本で、ジョークでも無くマジでクーデターが起きるとか思わんよな……。
「関係すると言えば関係してますが、五島陸将のクーデターは開始の合図であって、メインでは無いですね」
「開始の合図? これ以上に何か起きるのか……」
「五島陸将って方は、確かガイア連合が協力されてる自衛隊の方ですわね? 瑞樹様やガイア連合の上位陣が自衛隊の動きを察知出来ないとは思えませんし、了承の上でと考えますと、メシア教に対する陽動……でしょうか? それでもクーデター騒ぎは行き過ぎな気がしますが……」
今日になって昼は葦原荘の方でと言われて、師匠の子供達を除いたメンバーで集まってたら、賑やかしに付けてたテレビからクーデターの演説が流れてきたとなれば、少なくとも今月の初めには知ってて備えてたって訳か。
綴姉さんは既に知ってたのかクーデターの映像に驚いてないみたいだし、事が起こるまで詳細を教えて貰えてないってのは、家族になってはいてもまだまだ実力不足って感じかねぇ。
「メシア教過激派の動向から、半終末状態を維持するのもそろそろ限界と判断して、制御出来る形で終末を発生させる感じですね」
「ん? ガイア連合が終末に備えてるってのは前々から聞いてたが、連合が終末を起こすのか?」
「正確には、メシア教過激派が発生させる終末原因を完全には防がず、対処出来る範囲に誘導して、まだマシな終末環境に軟着陸させると言うのが正しいですね」
「半終末になった原因で、以降も最後の楔になってる日本を狙って何度もICBMが飛んで来てるって話関連ですよね。基本的に多神連合などの神々が出稼ぎで迎撃してますが……、蓬莱島が空に浮かんでからは、迎撃の様子を眺めながら宴会してる人も居ましたっけ」
「何と言いましょうか、蓬莱島に移住してきた方達は色んな意味で逞しい方が多いですわね……」
「ミサイル迎撃戦を酒の肴にしてる話は良いとして、ICBMが一発でも帝都に落ちれば、辛うじて物質世界に留まっている現在の地球全体が魔界へと墜ちる事になりますからね。しかも現状では地球の地脈がメシア教に汚染されているため、魔界に墜ちれば穢教鳥の巣に取り込まれる事になりますから、まだマシな魔界の地域へ着地できる様にするのが、今から終末の日までにガイア連合が行う作戦の目標になります」
そう言葉を締めくくる師匠の話はまあわかるんだが……。
「その作戦を行うってのは連合のトップが決めたんだろうから良いとして、初手がクーデターで、同時に悪魔召喚プログラムをダウンロード出来るサイトの公開ってのもどうなんだ?」
「メシア教がとっくに穢教鳥召喚プログラムをばらまいてますから、それのカウンターとして必要なんですよねぇ……。それに帝都の市民全員を助けることなんてどだい無理ですし、自助出来る可能性を配るぐらいはって所です」
「そう言えばマルゴットさんが悪魔召喚プログラムについて色々と言ってましたわね? 確か、粗悪品のプログラムも出回っていて、それを使って悪事を働くダークサマナーなんかもいるとか」
「蓬莱島行く前は持ってる奴の方が少なかったんだが、そこまで出回ってたのか……」
どうやら蓬莱島で色々と忙しく修業している間に帝都の霊能業界事情は大きく変化していた様で、半終末直後ぐらいの頃だと、黒札と関わりのある一部が持ってる程度だった悪魔召喚プログラムも、粗悪品を含めて多種多様な物が出回ってるとの事。
いやまあ、デモニカの粗悪なレストア品と併せて問題になってるってのは知ってたんだがな。
それでも態々サイトを用意して悪魔召喚プログラムを配布したり、既存の悪魔召喚プログラムをガイア連合製の物に強制アップデートするパッチを流したりするって事は、放置してると終末案件の対応に支障が出る程って事だろうな。
「ガイア連合で扱ってる悪魔召喚プログラムには、使用者のレベルを大幅に超える悪魔を召喚出来ない様にしたり、生命に関わる程のMAGを消費しないようにセーフティーを掛けてますが、メシア教の物には無いですし、その辺の制限を外してる連中も居たりしますからね。元々帝都の守護結界の限界が近くなっていたと言うのも重なって、放置していれば大量の穢教鳥召喚から帝都占拠、なんて可能性も有りましたし」
「まさかとは言い切れないのがメシア教の嫌な所ですよね……。それにしても、帝都の大結界は聞いたことありますけど、ガイア連合の技術なら修復も出来たのでは?」
「力が有るとは言っても、出来て十年も経たない新興組織ですからね。
師匠が言うには、葛葉キョウジ氏を含めて真面な霊能者もそれなりには居るが、根願寺全体として見るなら、十四代目葛葉ライドウを自害に追い込んだ戦犯で、メシア教に尻尾を振って組織の真面な連中を罠に嵌めた売国奴。
体面上は護国のためと嘯いているし、若手は実力不足でもそのお題目を真っ当に実行しようとしている真面な面子だけど、上層部は地位のために国内の霊能組織など様々な物をメシア教に売り渡した連中がそのまま残っていて、プライドだけは高い働き者の無能みたいなものだとか。
一応、一部の黒札はキョウジ氏を中心とした真面な若手を援助して、根願寺の立て直しなんかもしているらしいんだが、師匠としては終末まで利用出来れば十分で、終末後には天皇家を守れる真面な若手の人員が残っていれば良いぐらいの感じとの事。
まあ師匠も帝都の巌戸台支部で支部長している関係で、根願寺との関わりは少なくないみたいだし、思う所は色々あるって事だろう。
「組織としての面子……と言う事ですのね。理解は致しますが優先順位を間違えている様にも思いますわね」
「それを考えられる連中なら師匠も見切りを付けてたりしないって事だろな。んで、結界の限界が近いって事は、今まで抑え込んでたのが溢れ出すって事じゃないのか?」
「マリッサの予想は概ね正解ですね。まだ結界を維持している現在でも、地下などで異界が出来るぐらいには機能が落ちてますし、機能停止すれば粗悪品の悪魔召喚プログラムを通り道に際限無く湧き出てくるでしょう」
「予想が当たって嬉しくない事態にも慣れてきたのが悲しいぜ」
「それで、現状はある程度理解致しましたが、私とマリッサも呼ばれたと言う事は何か出来る事が御座いまして?」
今起きてるクーデター演説から間近に迫る終末、メシア教の動きにガイア連合の思惑など、ある程度現状を理解するための情報が共有された所で、私らまで呼ばれた理由をペリーヌが問いかける。
ぶっちゃけ、そうした終末関係の話を私らにする必要は無いはずだし、大体のことは分身を使って師匠一人で解決出来る訳で、綴姉さんなら兎も角、私とペリーヌまで呼ばれたって事は、何かしら私らでないといけない事があるんだろうとは思うんだが……。
「簡潔に言えば占術の結果ですね。終末への備えは色々としてますが、二人に色々と持たせて、麻帆良堂の皆と合流させるのが良い結果になると出ましたので」
「それって何かに巻き込まれるってことじゃねぇのか……?」
「ほぼ確実にそうでしょうね。更に言えば琴音とは別れて巻き込まれる感じになるでしょうから、頑張って生き延びて下さい」
「なるほど、彼女達の命が私達の肩に掛かってると言う事ですわね」
「琴姉と分断されるのか、何かしらのギミックで真面に戦えない状態になるのかはわからんが、私らで何とかする必要があるってのは了解だ。そんじゃ持ってく物の確認をしたら直ぐに向かうって事でいいのか?」
「月光館学園の方は昼から休校になる予定ですから、確認が終わり次第学園で合流ですね。まあ本格的に事態が動くのは明日、メシア教が帝都中の電子機器をハッキングして、穢教鳥召喚プログラムを強制起動しての無差別召喚をしてからになりますので、今日の内ならまだ余裕は有りますね」
「逆に言えば、それだけ余裕が有っても大変な事態に巻き込まれるのが確定しているって事か……」
「なので、私の持つ倉庫一つ分のアイテムを詰めた収納バッグと、予備の収納バッグをそれなりに入れてます。アイテムに付いては全部使い切っても問題無いですから、生き残る事を優先して下さいね」
そう言って渡された肩掛け鞄サイズの収納バッグ。
とりあえず内容物確認のために、この手の大容量収納の中身をリストアップするアプリを接続させ、ペリーヌと確認作業に入る。
「パッと出て来た情報だけでも恐ろしい数が入ってるんだが……?」
「各アイテムの個数が基本万単位と言うのは、どれだけの事態が想定されておりますの……?」
「使いきっても良いとは言いましたが、実際に使い切れるとまでは思ってませんよ。数が多いのは単純に私が消耗品の類いを溜め込む癖があると言うのと、使う事も無く倉庫の肥やしになってたのでこの際全部突っ込んだってだけですし」
「いやいや、在庫処分ってレベルじゃねぇだろ?!」
「支部の備蓄と言われた方が納得出来る量ですわね……」
「瑞樹さんって、消耗品は基本的に百単位で余分に用意しますし、アトリエ式錬金釜を創って大量生産が可能になった後は、一度に万単位で製造してますから……」
乾いた笑いが浮かびながらもフォローする綴姉さんの様子を見るに、恐らくこの収納バッグに入ってるアイテムでも氷山の一角なんだろう。
いやマジで、どんだけ物資を溜め込んでんだ? この師匠……。
「まあ師匠が溜め込んでたアイテムを放出したってのは良いんだが……、このパイルポテトとバンカーポテトってのは何なんだ?」
「ドイツ出身の島民が増えましたから、美味しいジャガイモの品種を増やそうかと思って創り出した物ですね。ガイア連合の購買部でも少し前から並んでますよ」
そう言って師匠が表示した画面には、購買部の商品紹介ページが表示されていて、パイルポテトとバンカーポテトの内容はこんな感じだった。
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・パイルポテト
デンプン質の少ないメークインをベースに【植物改変】したジャガイモの一種で、生の状態では金属の性質を併せ持ち、地下茎が杭状に育つのが特徴の芋。
バンカーポテトと共生することで、より大きく美味しく育ち、栄養価も高くなる性質が有るが、代わりに生息地へ不用意に踏み込むと、パイルポテトの後端部がバンカーポテトに接触して特殊な衝撃を発生させ、爆発の推力でパイルポテトが飛び出す天然の地雷原になるため、注意が必要。
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・バンカーポテト
デンプン質の多い男爵いもをベースに【植物改変】したジャガイモの一種で、マグネタイトを大量に溜め込む性質と、特定の衝撃を与えると爆発する性質を持つ芋。
パイルポテトと共生することで、より大きく美味しく育ち、栄養価も高くなる性質が有るが、代わりに生息地へ不用意に踏み込むと、パイルポテトの後端部がバンカーポテトに接触して特殊な衝撃を発生させ、爆発の推力でパイルポテトが飛び出す天然の地雷原になるため、注意が必要。
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「……何故天然の地雷原を作り出す植物なんて物を創る事になりましたの?」
「少し前に武器の種って言う、種を植えると武器が育つ幻想植物を創ったのですが、金属の種類を変更するだけじゃなくて、葱とか大根とか他の野菜に材質を変えて、武器として使える野菜になったりしないかって要望*1がありましてね。武器の種の材質変更対象は金属限定ですし、なら金属の性質を持つ野菜や果物を作ってみるのも良いかと思い、アイディアが浮かんだのがパイルポテトで、杭の様な物からパイルバンカーが思い浮かんだため、序でにバンカーポテトも創った感じですね。危険度が増すと美味しさも増すので良い感じですし」
「こう言うとこ、師匠も頭ヒーホー言われる部分だよなぁ……」
「公的な部分は真面目にしますけど、私的な部分はかなり遊びますよね。まあそうした余裕が出て来たのは瑞樹さんのレベルが上がって、拠点もある程度整った数年前からですけど」
「この世界で好きなことをやりたいなら、力を付けるのは大前提ですからねぇ。力も無いのに目立てば餌食になるだけですし」
「色んな意味で力が無いと悪魔に喰われるだけだし、メシア教や他にも質の悪い組織ってのはいるからなぁ……っと、なんだコレ、ヤシの実?」
師匠の言葉に同意を返しつつ、収納バッグ内の確認を続けていると、今度は大量のヤシの実が複数種類表示されているのを見つける。
表示されてる名前は、普通のヤシの実に酒ヤシの実、ハムヤシの実にココナッツ爆弾などがあり、名前でどんな物かある程度予想は付くが、何故ヤシの実である必要が有るんだろうか……。
ちなみに、さっきのポテトの事もあるからと調べて見た所、やっぱりガイア連合の購買部に同じ名前の商品があって、商品説明としてはこんな感じ。
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・酒ヤシの実
トリコの食材再現シリーズの一つで、中に甘い酒が詰まった実を付けるヤシ科の一種。
天然で発酵した酒は上質なリキュールのようにまろやかで飲みやすいが、アルコール度数は60%とかなり高いため、悪酔いには注意が必要。
また、樹液は糖質と混ぜる事で急速にアルコールを生じさせる性質をもっているため、即席で酒を造り出すことも可能。
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・ハムヤシの実
色んな動物のモモ肉の特徴を凝縮させた、モモ肉に特化した実を付けるヤシの品種。
収穫して置いておくだけでも美味しい熟成ハムになり、燻製などの一手間を掛けると、重厚なモモ肉の旨味が溢れ出す一品となる。
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・ココナッツ爆弾
星のカービィのステージギミックに登場する、爆発するココナッツを再現したヤシの品種。
成熟するとヤシの木の下を通る動体に反応して落下し、接触と同時に衝撃属性の爆発を起こす危険物。
実のなっている高さ以上から近付く事で自切を防ぎ、刃物で切り離す事により爆発条件を緩和させ、収穫する事が可能になるが、正しく収穫した場合でも、一定以上の衝撃を受けると爆発するため注意が必要。
なお、正しく収穫したココナッツ爆弾を割り開くと、パチパチと炭酸が弾ける刺激を持つ甘い果肉や、極上のココナッツソーダが取れる。
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とりあえずココナッツ爆弾については取り扱い注意だな。
師匠のことだし確実に美味しいヤシの実なんだろうが、美味しい分爆発の威力も高くなってるのも確実で、下手に近距離で爆発されると致命傷になりかねん。
「ああ、酒ヤシの実を再現した際、思い付いて序でに創った時の物ですね。ヤシの実も色々と有りますけど、酒ヤシの樹液加工した酒の種なんかも入れてますし、粉末にした酒ヤシの樹液も単体で入れてますから、即席で新しい酒を造る事も出来ますよ」
「まあ悪魔との交渉材料になるし、有れば有るだけ良いのは確かなんだが、他にも大量に酒瓶が有るっぽいのに、更に酒を造る必要あるのか……?」
「場を清める際の補助にも使ったりしますし、もしかしたら、万が一足りなくなる様な事も…………いえ、それでも数万本のお酒が無くなるとは考え難いですわね」
ちなみに、師匠が言う酒の種や樹液の粉末って奴も確かに収納バッグに入っており、さっき開いたガイア連合購買部のサイトから探した商品説明はこんな内容だった。
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・酒の種
フリーズドライさせた酒ヤシの樹液の粉末に、黒糖などの糖類を配合して推し固めたタブレット。
某剣の世界に在るアイテムと同じく、水を注ぐだけで酒が出来る事から、名前を貰った商品。
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・酒ヤシの樹液(粉末タイプ)
酒ヤシの樹液をフリーズドライして水分を抜いた粉末。
ジュースなどに少量混ぜるだけで、手軽にお酒を造る事が可能。
※投入する粉末量が増えるとアルコール度数も高くなるため注意。
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「とりあえず、一通りの確認は終わったか?」
「何が入っているかぐらいは把握致しましたから、咄嗟には難しくても必要な時に取り出すぐらいは出来ますわね」
「丁度琴音の方からも麻帆良堂の皆への説明が終わって、休校になる学内放送がされたとの事ですし、合流に向かっても良さそうですね」
「OK、そんじゃ私らは琴姉の所に行くが、師匠達はこれからどうするんだ?」
「巌戸台支部の支部長代行は葦原に任せてますし、木分身を全部回収し終わったら、マヨナカテレビとメメントスの攻略レイドに参加するため、電脳異界へ向かう感じですね」
「私も瑞樹さんと一緒に電脳異界の方です。両親は香川支部で活動していて、大学時代の友人とかは他県にいますし、そっちの支部に保護を頼んでいますから」
「分身を含めて瑞樹様がいらっしゃらないのは不安も感じますが、仕方無い事ですわね……。では行って参りますわ」
内容量が量だけにそこそこ時間が掛かったが、確認も漸く終わって収納バッグを肩に掛け席を立ち、師匠と綴姉さんに見送られて葦原荘を出ると、琴姉達が居る月光館学園へと向かう。
クーデター演説が流れてからまださほど時間が経ってないからか、町中を歩いていると何度も通ったいつもと変わらない情景で、一見すると本当に終末目前なのか疑わしく感じる程に平穏な町並みが広がっている。
「嵐の前の静けさってのは、正にこう言う状況なんだろうな……」