【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
琴音がスマホにみえるオカルトなのかSFなのかわからない機械で、空中に投影したテレビ放送から、褌姿の男がクーデターを起こすなんていう異常事態が発生したのを知ったのがついさっき。
事情を知ってるっぽい琴音から説明されたことによると、終末とか言う物理法則世界の終わりが目前まで迫っていて、琴音が所属しているガイア連合ってのは、その終末を出来るだけ被害を少なくして乗り越えるのが目的なんだとか。
んで、終末が起きる要因ってのは色々有るらしくて、軟着陸出来そうにないヤバい案件はコレまでにいくつも潰してきたし、何なら私らが通ってる月光館学園にもヤバい終末案件が有ったってのは真顔になったよね……。
近くにある巌戸台支部自体がその終末案件対処を目的とした支部って言われたら、納得するしか無いんだけどさ。
「それで、月光館学園に在ったタルタロスって異界は七月頃に対処が終わって、東京には後メメントスって言う異界が在って、メシア教の過激派って奴らが東京に核ミサイルをぶち込む前に、何とか対処しようとしてるってわけか……、そのミサイル発射自体を止めるってのは出来なかった感じ?」
「ミサイル自体は去年から何百と飛んできてるから、迎撃だけなら問題は無いかな。ただ、そうした対処療法での延命しても無理なぐらいに、情勢が進行したって感じだね」
「え? ミサイル飛んできてたってマジな話?」
「去年から続いてる渡航制限あるでしょ? あれってメシア教によって世界各地に核ミサイルが落ちたのが原因なんだよね。日本は結界であちこち守ってる上にミサイルも全部撃ち落としたから、地球全体が魔界に落ちない物質世界側の楔になってて、メシア教としては日本に核ミサイルさえ落とせれば、自分達に都合の良い魔界へ墜とせるからって事で、頻繁にミサイル撃ってきてる感じ」
ちなみに、全世界へ一斉に核ミサイルが撃ち込まれた事件ってのは、日本だと報道すらされていなかったりするんだけど、そのミサイルが爆発するときのエネルギーを使って悪魔を召喚する仕掛けがされてたらしくて、ミサイルを全部打ち落とせた日本以外は
そんでそこらに悪魔が徘徊してる様な状況だから、一般人は危険って事で海外に行かない様に、政府から制限させたって事らしいんだけど、政府にそうさせられるだけの影響を持ってる事自体驚きだよね。
「なんて傍迷惑……」
「流石は陰日の邪教のモデルになった組織だね~」
「東京目がけてミサイルが発射されるのは止められないってのはわかったけど、ミサイルが落ちて東京壊滅、なんて事になったりはしないわけ?」
「そこは
「琴音が断言するのであれば問題は無いので御座ろう。そうなると拙者達はミサイルが発射される前に避難する感じで御座るか?」
「基本的にはその予定かな? 私が個人的に助けたい相手にはもう手を打ってるし、裕奈の両親は霊能関係者だし元々東京には居ないから大丈夫。二代の家族は既に蓬莱島の方へ移住してるし、マルガとマルゴットの方もこの間に移住が終わってるから問題無いとして、後は美砂と円と亜子と桜子の家族を避難させれば一区切りかな」
「琴音が慌ててない理由はわかったけどさ、具体的にその終末ってのが起きる日時とかわかってる感じ? 明日明後日とかだと、逃げるのも難しいと思うんだけど」
「ああそれなら、このアプリ入れると良いよ。日付的には十一月の一日が終末の日になると予想されてるけど、東京内に居ると時空間が拗れて正しい時間を認識出来なくなるだろうしね」
琴音がスマホを操作して、空間投影された画面に表示されたのは、【終末タイマー】とか書かれているプログラム。
説明してくれた事によると、この後東京中に悪魔が溢れ出てくるから、大規模掃討作戦を開始するまでのタイムリミットを表示しているってのが表向きの話。
実際のところは、メシア教過激派が核ミサイルを発射して、東京に着弾するまでのタイムリミットを表示しているとの事で、どの道一般人などの巻き込みを出来るだけ減らすために、さっさと都外へ避難して貰うために用意した物って所は同じらしい。
ちなみに予想している日時は十一月一日の日曜日、一神教だと万聖節とか諸聖人の日とか呼ばれる、全ての聖人と殉教者を記念する日で、色々と特別な日だったと思うんだけど、一応は一神教系列のはずなメシア教が、その日に世界を終わらせようとしてるってのが何とも言えないよね……。
「時空間が拗れるって、東京中が異界化するってことかしら? 規模としては流石に広すぎると思うのだけれど」
「まず間違い無くね。東京を覆ってる結界が限界にきてるってのはさっきも言ったけど、結界内に悪魔が大量に湧くぐらいまで破綻した場合、最終手段として結界を反転させる仕組みが有るらしいんだよね」
「反転? 内部に悪魔が湧かない様にするのが今有る結界だったよね?」
「中に湧かない様にして守るのが基本だけど、結界を越えて強大な悪魔が出現したりした場合の仕組みなんだろうと思うけど、結界の壁を攻勢結界に変化させて、内部に発生した悪魔を拘束したり干渉したりで外へ逃がさない様にする*1みたいなんだよね。危機的事態に陥った際に悪魔を外へ逃がさないための仕掛けだから、そうなると結界が閉じた状態になって内部のマグネタイト濃度は高くなるし、結界内のGPが急激に上昇するって訳で、異界化して時空間ぐらい歪むだろうって予想だね」
「それって結界の境界線が壁になるって事だよね? ……出れるの?」
「自衛隊と協力して、脱出するための穴を作る予定になってるね! ちなみに攻勢結界に振れると、悪魔も人も関係無くジュッとする事になるっぽいよ。流石は全盛期のヤタガラスと葛葉が組み上げた帝都守護結界だよねぇ」
「わぁお……」
いやまあ絶句するよね。琴音が言う通りなら――と言うか確実にそうなんだろうけど、東京を覆ってるらしい結界がいよいよ限界になって悪魔を逃がさないモードになると、東京内からの脱出が困難になるって事だし……。
「つまり、急いで避難するべきって事じゃ……?」
「ある程度急いだ方が良いのはそうだけど、事態が動くまでにはまだ多少時間があるし、皆の両親を連れて行くならどの道夜で待たないといけないから、慌てる必要は無いかな」
「琴音が余裕かましてるのってそう言う事か……。そんじゃ放課後までは普通に授業受ける感じかな」
「いや、クーデター騒ぎから大事を取って休校って感じにする予定になってるよ。もう少ししたら校内放送でそれが流れるだろうし、その後ぐらいにはマリッサとペリーヌもこっちに来るから、その後から本格的に動こうか」
「何と言うか、本当に前々から色々と準備してきたってのがわかるよね……」
終末に向けて備えるのが目的と言ってるだけあって、打てば響く様に投げた疑問の回答が返ってくる。
まあだからと言って琴音みたいに余裕を持てたりしないし、楽観なんて出来る訳も無いってのは、霊能者に覚醒してからの2ヶ月間でたっぷりと学ばせられたから、何とかなる当てが有るぐらいに思っておくのが良いんだろうね。
それにそうやって割切らないと、家族以外の人達――小学生の頃過ごしてきた地元の知り合いを助けるのを諦めた……いや、見捨てると決めたのが揺らぎそうになる。
実際の終末が何時どの様に起きるのか、なんてのは今日になるまで知らなかったし、琴音や瑞樹さんに聞いてもはぐらかされてたけど、終末が訪れると今の日本も日常も壊れるのは確実ってのは聞かされてて、その時に家族だけでも確実に助けられる様にするかってのは、先月に覚醒した後の説明でも聞かれた事。
これも多分トロッコ問題って奴の類型なんだろうけど、〝誰を助け誰を切り捨てるのか〟ってのは、以前までの日常では杞憂と笑われる様な話でも、霊能界隈では日常茶飯事とまでは言わなくてもそこそこ起こる出来事の一つ。
陰日TRPGのシナリオだと良くある展開だし、何度もセッションする中でロールするPCの気持ちになって悩んだこともある。
TRPGとしてなら、どの様な結末でもそれはそれとして楽しめたものだけど、実際の命が掛かった選択をしなければならないと実感したあの時は、今まで演じて想像していた以上に吐き気を催したのを覚えている。
そう感じたのは私と一緒に覚醒した円や亜子に桜子も同じで、人の命が軽い世界に足を突っ込む事になったんだって、改めて理解させられたっけ。
まあ霊能者として覚醒出来たと言っても、まだまだレベルの低い私らはトロッコ問題で言うなら線路上に居る側で、レバーを操作出来る人に声を届けられる方法を偶然手に入れたって感じの立場。
これが琴音だったり瑞樹さんみたいな突き抜けた実力者なら、そもそも暴走するトロッコ事態を何とかしたり、トロッコが犠牲者に到達する前に救出する様な、存在しなかったはずの選択肢を作り出すって事も可能なんだろうけど、私らじゃ両親を助ける事すら善意に縋って漸くって所だしね。
力がなければ選ぶ権利すら無い、ってのを解らせられた感じだよねぇ……。
ともあれ、色々と話してる内に昼休み時間もそろそろ終わろうかって頃、琴音が言った通りさっきのクーデター事件が理由なんだろうけど、重要な連絡事項があるから各自の教室へと至急戻るように、との校内放送が聞こえてくる。
そんな訳で急いで教室に戻ると、担任からクーデター事件の話としばらく休校になるとの説明をされ、危険を感じたら直ぐに県外へと避難する様に言われた辺り、ガイアグループ系列の学校だけあって、明確では無くても東京が危険地帯になる可能性は通達されているらしいね。
そんで荷物をまとめて改めてボドゲ部の部室に戻ると、教室で説明されている間に来てたのか、マリッサとペリーヌの二人が端末を操作している姿があった。
「オッス美砂、師匠から色々荷物持たされて避難の手助けに来たぜ」
「琴音に説明されてたから来るのは知ってたけど、早いね」
「事態が動くまでは余裕があるっぽいが、どんな手順で避難するかって話もしないとゴタつくからな。その辺話し合うなら時間は多くあって困る事はないだろ」
「まあ確かに――っと、来たっぽいね」
「やっほー、二人も来て全員集まったし、軽く方針決めたら動こうか。霊能関係じゃない家族の移動だと時間掛かるだろうからね」
私達の到着からさほど経たずに再度全員が集まると、席に着く間もなく開口一番に琴音が議題を挙げる。
まあ簡単に言えば、どの順番でそれぞれの家を回って、家財道具など一式を回収し、最終的に何処へ避難するかと言う話。
私みたいに実家は都内にあるけど、学校のある港区からは遠いため寮生活してるって場合も有る訳で、私物の回収で寮に向かうのは決定として、それぞれの実家を回る順番と、最終目的地をどうするかってのは重要な所だよね。
家族も霊能関係だったり既に移住も終わってる面子は良いとして、私を含めた先月まで一般人だった四人については、家族への説明も問題点に上がるし……。
「とりあえずそれぞれの両親を避難させるってのは確定として、祖父母や親戚とかは都内に居ないって事で良かったよね? 両親だけなら蓬莱島に避難させてもある程度フォローするし、多少ならルールの基準も緩和出来るけど、それ以外だとルールの緩和も出来ないから、最悪ランダム転移で放逐になる可能性があるのは注意してね」
「私含めて両親だけのはずだね。流石に今日明日で遊びに来てるなんてパターンだと何とも言えないけどさ」
「こっちはそんな予定は聞いてないから、大丈夫だと思う」
「ウチも遊びに来たりとかする親戚居ないから大丈夫かな?」
「私のとこも大丈夫だね~」
「オケオケ、そんじゃ蓬莱島に避難させるって方向で進めるとして、順番はどうしよっか」
「ん~、それなら家から行くと良いかも? 私の両親なら不思議なことの理解も早いだろうし」
「そういや桜子って、小学生の頃からやたらと運が良かったんだっけ? 不思議な運の良さを身近に感じてれば理解も早いかもねぇ」
「九年ぐらい前に山で遭難した後ぐらいからね~」
「他に良さそうな意見が無いなら一旦学生寮で皆の私物を回収した後、桜子の家から近い順に回って、葦原荘から転移で蓬莱島に避難させるって感じにしようか。最優先事項が早く終われば、他の人達の避難誘導とかを多少するぐらいの余裕も出来るだろうしね。まあ無理をしない範囲でって但し書きは付くけどさ」
「え?!」
「何でって顔してるがそりゃ解るだろ。少し前まで一般人だった奴が直ぐに割り切れるなんて思ってねぇし、黒札にだってそう言う人は多いんだしな。師匠がアレコレ渡してきたってのも、ギリギリまで救助活動とかしても大丈夫な様にって事だろうさ」
最後にウィンクしながら付け足した琴音の言葉に、私達より以前から業界に関わっていた皆も、仕方無いと言った表情は浮かべても批難するような感じは無く、それどころか驚きの声が漏れ出た円にマリッサが返した言葉に、同意する様子さえあった事に、何と表現すれば良いのか解らない感情が湧き上がる。
正直な所、まだまだ真に実感出来ているって訳じゃ無いけど、終末って奴のカウントダウンが始まったと聞かされて、多少なりとは言え力を得たのに、私達以上に力を持っていない顔見知りの人達を切り捨てて、家族だけを連れていち早く逃げるって事に罪悪感を感じているのは確かな所だし、割切っているんだと思い込む様にして、いつも通りを意識していたってのは、私だけじゃ無く亜子や円に桜子も同じなんだと思う。
私達の感じてる罪悪感と言うか、何か出来るんじゃないかって言う思いを汲んで、自己満足でしかない私達の我が儘に付き合ってくれる皆には、感謝してもしきれないよね。
「そっか……うん、ありがとね」
「構いませんわ。私達にとっても手の届く範囲で手助けするのは、人で在るために大事な事ですもの」
「そそ、ペリーヌが言う通り私とかレベルが上がっている程、皆が感じてる様な気持ちは忘れちゃいけないんだ。悪魔と何度も戦ってたり、人の悪意に触れ続けてたり、後は純粋にレベルが上がっていくと、人間性とか心の贅肉とか呼んだりする善性みたいなものが気付かない内に磨り減って、何時しか感情が希薄になったり思考や行動基準が固定化されて、悪魔の仲間入りしてしまう危険性がある。だからまあ迷惑とかじゃないし、その気持ちは人として正しい物だからさ、無くさず大事にね」
「よっし、琴音が良い感じに締めたし、行動方針も決まったなら動こうか!」
「それぞれの家族が帰ってくるまでの時間もあるけど、私物の回収とかも有る訳だし早めに動く方が良いのは確かね。……そう言えば移動はどうするのかしら?」
「それなら私が車で送ろうか。以前師匠に貸して貰った装甲護符展開型自動車*2のバージョンアップ版も入ってたし」
「自動車に色々単語がくっついてるけど、何それ?」
「見た方が早いし、まずはこの部屋にある荷物から回収してこうぜ」
行動方針が纏まって、さあ動こうかって所でマルガの挙げた、移動手段はどうするのかって疑問に、当てが有るらしいマリッサが車を出すっぽい事言ってるけど、ごちゃごちゃと修飾語が付いたその車ってのに別の疑問が浮かんでくるが、まあ説明するより見た方が早いって事で後回し。
それよりボドゲ部の部室に置いてる私物やパソコンなどを収納バッグに回収し、戻って来れなくなっても問題無い様にしてから部屋を出ると、学校の駐車場へと移動する。
なお、部室では気付いてなかったからスルーしてたけど、マリッサが運転するって所で免許持ってるのか聞いて見たところ、運転は出来るけど免許自体は持って無いとか。
まあ疑問に思われないような偽装はするって事だし、その辺は何とでもなるのが霊能界隈って事だよね。
「そんじゃ一応騒がれない様に認識阻害の結界を張って置いて、人数が多くなりそうだし内部空間拡張してる奴が良いか」
「結界の方はこちらで張っておきますわ」
「サンキューな、っと設定出来るオプションが結構増えてるな。公道走る用の偽装も追加して、空間拡張は人数的に異界化の方が広さとコストの割合的に良さそうだな……」
駐車場の一角に着くと、ペリーヌによってささっと結界が張られ、マリッサが肩掛け鞄から取り出したブロックのスイッチを入れ、ちょっと見慣れてきた感じのあるホロウィンドウをいくつか操作すると、ブロックから長方形の何かが大量に溢れ出して、瞬く間に一台のワゴン車が現れる。
「何と言うか、ファンタジーよりSFって感じ?」
「こう言うの見ると、ガイア連合の技術が飛び抜けてるのを改めて実感するよねぇ」
「私としては、瑞樹さんみたいな一部が突出してるだけって気がするけどね」
「おーい、展開終わったから駄弁ってないで乗ってくれ」
促されるままにワゴン車のドアをスライドさせて乗り込むと、結界を通り抜けた感覚がした直後に見えたのは、車外から見えていた座席では無く、板張りの床といくつかのテーブルや椅子が置かれているカフェの様な部屋だった。
「へ?! ……あ、異界化とか言ってたのってこれかぁ」
「車の中に結構大きな部屋があるってのは、流石にファンタジーな感じがするね~」
「ファンタジーで済ませられる様な事じゃ無いと思うんだけど……?」
「二、三階建てぐらいの大きさの異界だし、そこまで驚く事でも無いでしょ。瑞樹が本気で手を入れてるなら、ドーム一つ分ぐらいの広さと自給自足用の設備とか入れてるだろうし」
「いやいや基準が可笑しいから! 一人用の部屋を探してるのに一軒家を紹介されて、城よりは小さいとか言われてる様なもんだからね?」
『皆乗ったみたいだし、学生寮に向かうぞー』
予想外な車内の様子に驚いてる私らを余所に、マリッサの声が天井から聞こえてくると、カフェの様な室内に備え付けられている窓から見える景色が動き出す。
何と言うかすんごいグダグダした気がするけど、私達の都合なんて関係無く時間は進むし、世界の終わりは刻々とせまって来ている訳で……。
【終末タイマー】に表示された残り時間は、既に168時間を切っていた。