【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
月光館学園で琴姉達と合流し、一旦学生寮に寄って皆の私物を回収し終わったのが大体14時頃。
それから最初の目的地と決まった桜子の実家に向けて車を走らせる途中、適当にラジオを付けてクーデター演説の影響なんかを軽く確認していると、運転席部分と異界化させた車内を隔てている扉の開く音が聞こえてくる。
「マリッサに運転任せちゃって悪いね」
「こう言った乗り物を運転するのって好きだし、気にしなくて良いさ。琴姉に任せたら公道レースとか始めそうだし」
「一般に迷惑が掛かる日中にやったりはしないっての」
「それ迷惑が掛からない夜中ならやるって事じゃん」
「あはは、まあ以前にやったのは公道と言っても異界化した峠だしね。それよりラジオの方、何か進展あった?」
軽い調子で声を掛けて来た琴姉に、こっちも軽く言葉を返す。
助手席に座って律儀にシートベルトを付けた後、取りやすい位置に菓子などを置きつつ聞いてきたのは、情報収集で流してたラジオの内容について。
「国会議事堂が占拠された事が確定情報として流れたぐらいで、状況の変化は無い感じだな」
「表の方だとそんなもんか。ネットの掲示板だと一般の連合員とか外部の霊能者がアレコレ話してるけど、【終末タイマー】についての話題も出てないし、まだしばらく動きは無さそうだね」
「そういや動きで思い出したんだが、師匠はマヨナカテレビやメメントスのレイド攻略に動いてるって聞いてるんだが、琴姉は行かなくて良いのか?」
「色んな物切り捨ててガイア連合での活動してる瑞樹と違って、私は一般人の友人もそれなりに居るからね。シェルターへの保護を確認してから行く予定だし、そん時は後を任せる感じになるかな」
「なるほどねぇ、師匠が色々持たせた理由の一番は琴姉が抜けた後って事か」
「多分ね」
「琴姉が言い切らないってのがすげぇ怖いんだが……?」
私なりに納得出来る情報が得られたと思ったら、直後に不安になる返答を返される。
師匠からしても、運命力ではガイア連合でトップクラスと表する琴姉の〝多分〟と言う曖昧な表現は、正直な所何か起きると断言されている様な物だと思う。
「煙に巻いてるって訳じゃ無くて、真面目に微妙な感じなんだよね。私がメインなのか裕奈やマリッサがメインなのかも曖昧だし、でも事が起きるとしたら帝都が異界化した後だから、皆の家族を避難させるのは大丈夫だろうね」
「そこは不幸中の幸いって奴かねぇ……」
「こんな界隈だしポジティブに考えるのは必要でしょ」
「それもそうだ――っと、そろそろ桜子の実家に着くか」
「思ってたより話し込んでたか、んじゃ皆に伝えてくるね」
琴姉と話している内に目的の地区近くまで来てた様で、高速を降りて聞いておいた住所へと向かう。
都心からちょっと離れた下町の様な場所を走らせると、程なくして桜子の実家に到着する。
「到着~っと、まあ夏には帰ってたから久しぶりって気もしないんだけどね~」
「長期休みの時に遊びに来たりとかしてたけどさ、改めて見ても桜子の家って大きいよね」
「宝くじ当たったり、投資が上手く行ったりとかしたからね~。それも今日で無駄になるっぽいけど」
「色んな物が無駄になるってのは大部分がそうだけどな。家族への連絡はもうしてるのか?」
「クーデター関連で学校が休校になったからって理由で、一度家に帰るって連絡は皆入れてるよ。桜子の方はお父さんの方も戻ってるんだっけ?」
「投資だけで食べていける様になってからは時間に余裕の有る生活してるからね~。友達と一緒に帰るってのと到着したってのも連絡入れてるから、遠慮せずに上がって」
桜子に促されて家に入ると、日本の土地事情からすると広々とした玄関に、桜子の母親と思われる女性が出迎えてくれていた。
「お帰りなさい、お友達と一緒に大事な話があるって言ってたから、お父さんも待ってるわ。皆さんもゆっくりして行って下さいね」
「ただいま~お母さん、ゆっくりしたいけど、その前に話の方を済ませておきたいかな」
柔和な顔立ちと泣き黒子が特徴的なおっとりとした雰囲気の桜子母に案内され、談話室の様なそこそこ広い部屋に通される。
「やあ、いらっしゃい。何やら重要な話があるとの事だけど、初めての子も居るみたいだし軽く自己紹介からが良さそうかな。僕は桜子の父で稔、こちらは家内の
部屋で出迎えてくれた桜子の父――稔さんがそう言って会釈する。
雰囲気は奥さんの幸子さんに劣らない程穏やかな物で、簡単な自己紹介を話す声の感じから、社交になれてる様な落ち着きも感じられる。
まあそんな値踏みはそこそこに、こっちもそれぞれ自己紹介を軽くして早速と本題に入る事に。
「――なるほど、まとめるとオカルトと呼ばれる物のいくつかは実際に存在していて、四年前に騒がれてた大予言の様な〝世界の終わり〟と言うのが七日後に迫っている……と」
「その終末と言うのの起点が東京だから、悪魔が出てくる前に避難させたい……と言う事ね」
「桜子の言う事だから頭から否定したりはしないけど、流石にうん解ったとは言えないかな」
「まあ流石にそうなるよね~」
一通り説明が終わっての桜子の両親の反応は、一般人としてはかなり柔軟な物で、普段から桜子の幸運関連で不思議な体験をしてきたんだだろうな。
とは言え、流石に説明だけで体感した訳でもないオカルトを納得出来る程では無い様子。
まあ当然の事だし、そう言うオカルトを理解出来ない一般人向けに、説明を納得させるための術ってのが実は存在する。
流石はガイア連合と言うか東洋の神秘と言うか、私が教わった師匠もセツニキって黒札の人から教わった術式らしいんだが、元を辿れば千年以上前の日本に居た有名な陰陽師、安倍晴明と蘆屋道満って人物が共同開発した術なんだとか。
「それじゃ予定通り、悪魔って物を体感して貰うとするか」
「霊符の配置は終わりましたわ、お見せするのは私のアガシオンがレベル的によろしいですわね」
「じゃあ術の行使ぐらいは私がするかな、無意識側に働きかけて理解を促す術式追加版は二人じゃまだ難しいだろうし」
「そう言や霊視ゴーグルとか、機械でも悪魔見れるようになってるんじゃ無かったっけ?」
「機械だと合成映像とかと認識される場合があって、未覚醒者に説明するって段階だと微妙ってのは聞いたな」
「霊感で感じ取れないとなると、モニター越しでは理解に届かないと言う事で御座るか」
「だからこそのこの術って訳だよ。
琴姉が呪を唱え、ペリーヌが配置した霊符から五行を循環させた枠を空中に作り出し、開門の宣言と併せて柏手を一つ鳴らすと同時に、物質界側から魔界側の存在を視認可能な窓が完成する。
術式の難易度としては大体レベル10もあれば最低限使える感じの物で、私でもそう気負うような術って程では無いんだが、師匠が追加した人類の集合的無意識に干渉して理解を促す効果を組み込んだ術となると、ペルソナ系の適正によって要求される技量やレベル、発揮される効果の比率が変化するため、琴姉がしてくれるってんなら任せるのが一番なんだよな。
後、裕奈や二代が扱える様になってくれると、琴姉の代わりが出来るんだが、二人共術方面は苦手としてるからなぁ……。
「なっ?!」「えっ?!」
「あ、見えたみたいだね~、覚醒してない一般人でも悪魔を見える様にする術を使って貰った感じだよ」
「ああ、その蒼いジェル状の物が悪魔って奴なのか……」
「今お二人とアガシオンの間に姿を見える様にする窓を開いておりますわ。立ち位置を少し変えれば見えなくなりますから、確かめてみて下さい」
桜子の両親の驚き様から、目の前に浮遊させていたアガシオンが見える様になったんだろうな。
ペリーヌに促されて二人がソファから立ち上がり、琴姉の開いてる窓の範囲外に出たり戻ったりして、アガシオンの姿を何度も確認する。
数分ほどそうして確認した後、納得したのかソファに座り直して一つ大きく息をつく。
「見せられたのが手品の類いでは無いって事ぐらいは理解したよ。まあだからと言って終末云々まで完全に納得したとは言えないけど、少なくとも東京に悪魔と言うのが大量に出現する危険性があるってのは受け入れよう」
「そうね、稔さんも言ったけれど、悪魔が出現して危険だから避難するってのはわかったわ。でも、避難すると言っても何処に行けば良いか当てはあるのかしら?」
「大丈夫ちゃんとあるよ。と言っても私が用意出来た訳じゃ無くて、こっちの琴音経由で用意して貰えたんだけどね~」
「じゃあオカルト関係もある程度理解して貰えたし、その辺の話をしていきましょうか」
「よろしくお願いするよ」
オカルトを胡乱で曖昧な物では無く、実在するが一般においては未知の物だと、意識を改めた様子で返答する桜子の親父さんに頷きを返して、琴姉が代表して説明を始める。
話す内容は、日本の霊能事情と私らが所属するガイア連合について、そこから派生して説明が必要なメシア教とメシアンによって引き起こされた世界情勢などから、先に話した目前に迫ってる終末案件に関連して、帝都全体が更地になる可能性も含めた内容や、帝都に家族が住んでいる麻帆良堂の面子の家族を回収して、空に浮かぶ蓬莱島に転移で避難する所まで、取り急ぎ必要な情報を抜粋して話し終わる。
「この後の予定もあってだいぶ要約した感じになったけど、一先ず現状説明はこんな感じかな」
「転移とか空に浮かぶ島とか、直ぐに信じられる話では無いですが、そう言う物として今は棚上げしておくとしましょう。話を聞くに避難が困難になるまで多少は余裕も有る様子だけど、荷物をまとめたりする時間は貰えるのかな?」
「それなら荷造りに掛かる時間を減らすために大容量の収納バッグを持ってきてるから、コレに入れてくれ。この家に有る物全部入れても多分大丈夫だろう」
師匠から予め空の収納バッグを結構な数渡されたのも、こうした避難の際に持ち出す物関係で時間が取られるのを考えてだろうしな。
それに手提げする程度の鞄に机やタンスなんかが入っていくのも、霊能を感じて貰うって意味では効果が大きいって点も有るんだろう。
実際、私が取り出した鞄を見て怪訝な表情を浮かべてた桜子の親父さんも、試しにソファの一つも入れてみせれば驚きつつも直ぐに納得してくれたからな。
んで、話が終わって避難する事も納得して貰ったなら、後は行動あるのみって訳で、手分けして収納バッグに家中の荷物を入れていき、最後に一つのバッグにまとめる事にすれば数分ほどで荷物の回収も完了。
その様子を呆然と眺めていた桜子の両親を車に押し込めば、桜子の家に到着してから大体一時間程で次の家に向かって出発出来た事になる。
やっぱり予想してた通り、事情説明と避難に同意して貰うのが一番時間掛かった訳だな。
「確かボドゲ部で活動する関係で、家族ぐるみでの交流があるんだっけか。次からは桜子の両親も説得に加わって貰えるだろうから、多少は時間短縮出来るかね?」
「桜子の幸運で資産家になったからって、私らの活動も結構支援してくれたからねぇ。稔さんに招待されて私らの家族も一緒に旅行に行ったりとかしてたから、そこそこ効果あると思うよ」
「だと楽なんだがなぁ」
「ま、なる様にしかならないってね。それより桜子、稔さん達に今まで話せなかった事色々暴露するの楽しんでるよね、これ」
次ぎに向かうのが美砂の家って事だからか、助手席に座ってきた美砂と喋りつつ車を走らせる。
美砂が示した先、車内を異界化してる関係で内部との連絡用に開いている通信ウィンドウでは、桜子の両親が室内の広さに驚いたり、桜子が覚醒した後のアレコレを話して驚かせて居る様子が映っていた。
まあ映像見て美砂が笑ってても、こっちの音声はスイッチ入れないと向こうに伝わらないから良いんだが、これ自分の親に対しても似たことするつもりだな……。
「それにしても、琴姉が置いていったままの菓子*2を食いつつ、コーラ*3飲みながら運転するってのはステイツに居た頃を思い出すな。飲み食いしてる物はかなり上等になってるが」
「アメリカ出身だったっけ、凄く自然に日本語話すから忘れそうになるけど」
「その辺は覚醒して知力が上がったおかげだなぁ」
「覚醒してからの学習力向上はすごいもんねぇ……っと、覚醒と言えばマリッサの経緯を軽く聞いた時点で良い思い出じゃ無さそうだったから余り話題にしてなかったけどさ、アメリカで暮らしてた頃の事って聞いても大丈夫だったりする?」
「私ん中で折り合いは着いてるから大丈夫だぞ、つってもそう面白い話じゃ無いと思うが」
「何か思い出してたっぽいから気になってねぇ~、それにこれから長い付き合いになるんだしね。あ、飲み物とか有ったりする? 琴音からここの菓子は好きに食べて良いって言われてたけど、飲み物無いとちょっち辛い」
「ああ、琴姉とかは自分で用意してたから忘れてたな。そこのタンブラーは内容量拡張した奴でコーラなら大量にあるから、そっちのコップで好きに飲んでくれ」
私の過去話なんぞ聞いて面白いかねぇとは思うが、話したくないって程でも無いし聞きたいって事だから、適当に覚醒してから日本に来るまでの事を話すことにする。
なお、コーラを入れてるのはドリンクホルダーに挿してる水瓢箪製タンブラー*4で、ペリーヌと合作した商品だったりする。
ちなみに蓬莱島の商店に卸してるが、結構な値段する割りにはそこそこ売れてると言ったところ。
まあ長期保存可能な分長く使えるだけ耐久性があって、一人で何個も買う様な物じゃ無いし、加工にもそこそこ手間と時間が掛かるから、生産が大変になる様な注文されたりしないのは良い事だな。
そんな感じで過去話とかしながらしばらく車を走らせ、次の目的地に到着してからは、桜子の家での状況の繰り返しというか、話す内容自体は同じだし、桜子や美砂の両親と説得力の補強となる人員は増えていく訳で、移動と説明する時間はそこそこ掛かったが、説得と避難は予想よりスムーズに進んで行った。
とは言え帝都内を回っただけでも相応に時間は掛かる物で、葦原荘に戻り転移で蓬莱島への移動と、二代の道場を含めた周辺の未覚醒者用区画への案内が終わった頃には、日付が変わるぐらいの時間になっていたが。
「とりあえず最低限の目標は終わったって事だし、後は事態が動くまでは葦原荘で寝て待機、事が起きたら私らの出来るだけのことをしに行く感じだな。そん時は琴姉が個人的に避難させたいって人らや、ボドゲ部の後輩って人らの救助が当面の目的になるか」
激動になるだろう明日――日付的には既に今日だが――からに備え、【食没】で確りとエネルギーを蓄えてから一眠りする。
次ぎにゆっくり眠れるのは、何時になるかねぇ……。