【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
『進行方向2つ先の十字路左に反応が3つあります。大きさは多分レベル10ぐらいだけど、未確認です』
「了解、低めだから種族確認したら、カズマと誠メインで援護に詩乃で行こうか」
「あいよ、どんな奴がいるんだか」
「弱点付ける相手なら良いんだけどね……」
いきなりメメントスに落ちるなんて事態になって、更にはどんなギミックの関係かは不明だけど、琴姉が異界化した車内から出られないのが判明したのが数時間前。
そんで状況打開に繋げるための探索に加えて、覚醒したばかりな新人達の戦闘訓練も必要だろうって話になり、アレコレ話してる内にメインの探索は裕奈・二代・ペリーヌの3人が行い、新人組は私が引率して倒せそうな敵がいれば戦わせる形で軽く探索する事になったんだが……まあ今のところは順調って所か。
喧嘩慣れしてるからか前衛で戦う事に躊躇いの無いカズマと、機転を利かせられる魔法型後衛兼サポートの誠、遠距離狙撃が可能な射撃手の詩乃、それから確り情報を抜ける上に感知範囲も精度も高いかなみが、拠点として置いてある車内からナビゲートする形でチーム組んでるってのも理由だろうが。
「見えたが……半漁人か? アレ」
『ちょっと待ってねカズくん。……んー【アナライズ】して見えた種族名は【怪異 インスマス】ってなってるよ』
「うげ、インスマスかよ」
「知ってるんですか? マリッサさん」
「ガイア連合が以前に攻略した大型異界の1つに〝印巣枡〟*1ってのがあったんだよ。クトゥルフ神話が元ネタになったっぽい奴らで、周辺住人を掠ってインスマスに変えたりしてたらしい」
「交戦記録があるんなら対処法とかもわかってるって事?」
「基本的に火炎か破魔のどちらかか両方が弱点で、氷結と水撃は耐性か無効ってのが多いな。個体によっては電撃弱点だったり逆に耐性持ちだったりする事もある。後はクトゥルフ系共通のパッシブスキルで、見た目や匂いなどを経由して精神系デバフを積んでくるのは注意だな。まあよほど高レベルの奴でもなければ物理で殴れば殺せるから、長時間観察とかせずさっさと殺せば問題無い」
「つまりぶん殴れば良いってこったな!」
必要な情報は聞いたとばかりにカズマが飛び出し、それに慌てて誠が続き、溜息を吐いて狙撃体勢に入る詩乃と、探索中に何度も見た流れだが、奇襲したとは言え【怪異 インスマス】3体をサクッと倒せてるし良い感じだな。
それより問題なのは、メメントスなのにシャドウではなく悪魔が湧いてる事。
少なくともここまでの探索中に見かけたのは、見た目は不気味でもシャドウだったんだが……。
「お疲れさん、誠もだいぶ戦闘に慣れてきた感じだな」
「積極的に攻撃するのはまだ慣れないですけど、ちょっとした妨害程度なら何とかって所です」
「いやいや、おかげで俺が殴りやすくなってんだから十分だっての」
「敵は無事に倒した訳だけど、マリッサは何か気になる事あったのかしら?」
「ここにシャドウじゃなく【怪異 インスマス】が湧いてるってのがな。まあその辺考えるにしても車に戻ってからだな、探索時間もそこそこ経ったし帰還するか」
「へいよー」
若干暴れ足りないのか渋々と言った気配のカズマ以外は異存もない様で、【怪異 インスマス】がドロップしたフォルマを回収したら、探索へ出る前に決めた時間的に引き返さないと行けない時間のため帰還する事に。
そんな道を引き返して車へと戻る途中の事、かなみのナビ型ペルソナによるサポートで不意打ちは無効化出来るし、通ってきた道だからと油断してた訳じゃ無いんだが、不意に何処からかクラシックのメロディが聞こえてくるのに気付く。
「かなみ、こっちで何か音楽が聞こえるんだが、そっちからは何か見えないか?」
「あ? 音なんか聞こえるか……?」
『えっと……あ! 探索してきた道からは遠いですけど、範囲ギリギリの所に1体居ます。反応は結構大きいので、恐らくレベル20から30の間ぐらいは有りそうです』
「かなみの感知範囲って、私達を中心に半径500は行けたわよね? マリッサも良く聞こえるわね」
「その辺は
「マリッサさんの耳が良いってのを除いても、500メートル先まで聞こえるような音を出してるって事ですから、何かの罠ですかね?」
「可能性はあるが、そう言ったのを調べるのも探索だしな。戻る前に確認だけしておくか」
音関係は防ぐ手段が少ない割りに一発アウトな場合もあったりするため、最低限どう言った物かだけでも調べる事にして、移動前に精神系の防御装備を再確認し、万一の時に解除出来るアイテムもそれぞれ持った上で音の発生源へと向かう。
近付くにつれてメロディもはっきりと聞こえるようになったが、どうやら楽器による物ではなくヒューマンビートボックス*2っぽい感じだな。
「あ、これか? 俺も聞いた事はあるな、曲名とか知らんが」
「多分だが組曲くるみ割り人形の2番、行進曲だったはずだ」
「くるみ割り人形って名前は聞いた事ありますけど、この曲だったんですね」
「曲名がわかったのは良いけど、問題はそんな曲を歌う猫娘が何でいるのかって所よね」
「あ、詩乃さんはもう見えたんですね。と言うか猫娘?」
「見た目は猫耳と尻尾の付いた美少女って感じだな」
『今解析してる途中ですけど、さっき遭遇した【怪異 インスマス】と同じ反応が女の子の向こうから近付いて来てます』
「インスマスが……、僕達と同じ様に音を聞きつけて寄ってきた感じですかね?」
音系ギミックの対策として音に乗ったMAGを弾く結界を展開してる関係で、その分動きも遅くなり慎重に移動してるため、私らが見つかってる可能性は低いと思うが、追加で現れたインスマスも含めて見つからない様、隠れて観察出来る場所を探して潜り込む。
良い感じに観察場所を見つけた辺りで、未だにくるみ割り人形を歌い続けてる猫娘の前に、インスマスが現れ襲い掛かろうとしているのが見える。
「あいつら、仲間って訳じゃねぇのか?」
「シャドウ同士だと余り見ないが、悪魔なら同じ異界内に居ても争い合うのは珍しく無いな」
『ようやく解析出来ました。あの女の子も悪魔で、【怪異 くるみ割り猫】って名前みたいです』
「くるみ割り猫だからくるみ割り人形を歌ってるって事かな……?」
「見た感じあのインスマス、さっき倒した奴らよりレベル高い気がするんだけど、猫娘に一撃も入れられてないわね」
戦闘が始まって十数秒って所か、襲い掛かるインスマスの攻撃をヒラヒラと躱して、インスマスの息が乱れた隙を穿つ様に、くるみ割り猫の左ジャブがインスマスの急所――位置的に股間の辺り――を打ち据え、動きの止まったインスマスの急所へと追撃の右ストレートを叩き込むワンツーが決まる。
綺麗に左右の拳が決まったところで動きは止まらず、更には痛みからか蹲るインスマスの顎をサマーソルトキックで打ち上げたら、2回バク転して出来た距離を助走に使い跳躍、放物線の頂点で空中を蹴り出して加速すると、速度と体重を乗せた跳び蹴りがまたしても急所へと突き刺さる。
「貴様を末代にしてやる!」
最低でも生殖機能は奪っていくと言わんばかりのシャウトが響き、跳び蹴りの威力を余す事無く叩き込んだ様な勢いでインスマスが吹き飛び、反対に結構な速度で跳び蹴りした方のくるみ割り猫は、その場でジャンプしたかの様な自然さで着地する。
「やべぇな……、アイツとだけは戦いたくねぇ……」
「見てただけでヒュンってなる。【怪異 くるみ割り猫】*3、恐ろしい悪魔だ……」
「普通にレベルの高い悪魔だから今は戦うべきじゃ無いってのは賛成するけど、そんなに警戒する程?」
「股間が急所なのは男も女も同じだけどな、金玉殴られる痛みってのはまた独特なんだよ。まあ男には共通の苦しみだから、そう言うもんってぐらいに理解しとけば良いさ」
「いや、玉殴られた痛みがわかるってのはどう言う事よ」
「こっちの界隈――つーかガイア連合だとナニ生やす薬とか道具なんかもあるし、完全な性転換も可能だからな。以前私の師匠に使わせて貰った事が有るんだよ。んで、そん時に不注意でぶつけた事があってな、アレは痛かった……」
「色んな意味で何やってんの……?」
今は無い玉を打ち付けた時の幻痛が浮かんで来たのを振り払い、インスマスの玉を粉砕したのを確認して、またくるみ割り人形を歌い出したくるみ割り猫を見やる。
見た目は散歩しているみたいにふらふらと歩いていて、向かう先も私らが隠れている場所とは別方向なのを見るに、どうやら襲い掛かって来たから迎撃したって感じで、能動的に誘い込む罠って訳では無い様だ。
「よし、とりあえずどんな奴かはわかったし、無理して倒す必要も無さそうだから、このまま見つからない様に撤退して帰るぞ」
「「異議無し!」」
「ハモったわね男共」
『カズくん……』
「まあ私も意義無いわよ。無理せずさっさと帰りましょ」
そんな訳で、そこそこのレベル上げ成果と、序での割りには色々と得られた情報を持って車へと帰還出来たのは、探索予定としていた時間ギリギリの頃。
メイン探索に行ってた組が既に戻ってたのは、まあ予想通りではあったんだが――
「おかえりなさい、マリッサ達も戻ってきてこっちの作業も終わりましたし、休憩しつつ色々話しましょうか」
「何で師匠がココに!?」
「何でと言えば、そこのかなみちゃんの能力経由で琴音からの念話が届いたから、ですね」
「ほら、かなみちゃんのペルソナがナビ型ってわかった時、色々聞いたでしょ? んで、最近夢で色んな情景を見てたり、その事を確り覚えてるって話から、集合的無意識に強い干渉能力があるんじゃ無いかって思ってね。試して見たら念話を繋げる事も出来たってわけ」
「つまり、かなみのおかげって事か。流石だな!」
「もうカズくん! 髪か乱れるからワシャワシャしないでってば!」
車内に入ると何やら機械を弄ってる師匠が居て、私らが戻ったのを見て凄く自然にお茶の用意をしてるのに驚かされたが、さらっと軽く説明された話によると、琴姉からの念話で私達が鏡像世界って所に落ちたのを把握して、通常のメメントスとは反転した場所って特徴に合わせた通信方法を構築したらしい。
んでまあ、話を聞いて数時間と経たない内に通信手段を作り上げたのは師匠だからで納得するとして、なんで師匠の木分身が居るのかって所なんだが、師匠達が終末に向けて高倍率での時間加速が可能な電脳異界に拠点を作り、その電脳異界とメメントスやマヨナカテレビと言った認知異界を接続する事で、終末の日までに駆け込み攻略するレイドを予定してたのは知ってたけど、その電脳異界に肉体ごと入り込む為の技術として【デジタライズ】って術式が有るんだとか。
その【デジタライズ】術式で師匠の木分身をデータ的に圧縮した種を端末に取り込み、チャットの通信に載せて転送、琴姉の端末で解凍処理を行って実体化したのが、ここに居る師匠の木分身との事。
そんな感じで師匠がここに居る経緯の話を聞くついでに、詩乃達初対面組との自己紹介も一通り終わった所、普段は魔法を使って時短する師匠が珍しく茶器を使い、ゆっくりと茶を淹れている様子を眺めていてふと疑問が浮かぶ。
「そういや結構今更なんだが、師匠が魔法で時短せず茶器を使って淹れるお茶って初めてじゃないか?」
「……そう言われるとそうですわね? 琴音さんや綴さんとの時は茶器を使われる事も有るみたいですけれど」
「僕としては、魔法で時短するって話の方が気になるんですけど……?」
「空中にお湯の玉を浮かべて、一気に十数人分のお茶とかコーヒーを淹れてくれたんだけど、凄くファンタジーしてて見てるだけでも楽しかったよ~」
「いやいや、見た目は普通の茶器っぽいけど一度に入ったお湯の量がおかしかったから! 十分ファンタジーしてるって桜子」
「パフォーマンスとして楽しんで貰えるのも良いですけど、一応普段は茶器を使わない理由もちゃんと有るんですよ。今回はクトゥルフ系の悪魔が出現したと言う事から、説明に使う為って所です」
「説明に、で御座るか?」
「丁度淹れ終わった所ですから、まずは一服してみて下さい」
話してる間に茶葉の抽出が終わったのか、師匠によって注ぎわけられたお茶が私らに配られると、立ち昇る香りに自然と手がカップへと伸びる。
一口飛び込んできたお茶は熱過ぎず、程好い熱がお茶の旨味と香りを弾けさせ、美味しさという概念で殴られた様な衝撃に全身が震え出す。
お茶の爽やかな香りが全身を満たし、液体なのにお菓子を食べた様な食感すら感じた気がする程、分厚い美味さの重奏に翻弄され、意識が奔流に呑み込まれて行く――
「さ、次を淹れましたからどうぞ」
強制力を感じる様な師匠の声が聞こえた気がしたのは、どれぐらい経った頃だろうか。
気が付いた時に手に持っていたのは、最初に配られたお茶とは別の香りが立ち上るお茶の注がれたカップ。
うとうととした夢心地から不意に起きた様な、意識ははっきりしたのに身体が意識に付いてこない、そんな状態の自分を自覚する。
真面に動く視線で他の様子を見回すと、私と同じく視線を動かして状況の把握に動けているのが弟子組と呼ばれてる3人、他の皆はぼーっと惚けた表情でお茶を飲んでたり、まくし立てる様な早口で飲んだお茶の感想を呟き続けてたり、大粒の涙を流しながら泣き喚いていたりと、まるで狂った様な情景が広がっていた。
そんなカオスと言って良い室内でも、師匠と琴姉にアイギスさんだけは、普段通りにお茶を飲んだりお菓子を食べたりと寛いでいて、いっその事師匠達の方が可笑しいんじゃ無いか? とも思えてくる。
思考が空回りする様な感じがした所で自然と身体が動き、手に持っていたお茶を一服した事で、精神と肉体のズレみたいな物が落ち着いていくのを感じ、それからはさほど時間も掛からずに、声を出せるぐらいには回復したのを理解する。
「琴音……、あんたこうなるのわかってたなら、一言ぐらい、説明してくれても良いんじゃない?」
「狂気関連って一度体感してるかどうかってのが、理解するために重要なんだよ。瑞樹なら方向性をある程度誘導する事も出来るから、大惨事にはならないしね」
「ううむ……、戦とはまた違う狂気の感じで御座るな……」
「ああそっか、二代が私よりマシなのってバトルジャンキーだからか」
「加えて、レベル40台に乗ってるペルソナ使いとしての精神力も、ですね。ペルソナ使いではないマリッサとペリーヌは、回復してきても普段通りにはもう少し掛かりそうですし」
「一応、話は、聞けてるぜ……」
「同じく、ですわ……」
途切れたりはしてるけど一応の会話が出来てる2人に対して、私とペリーヌは一言二言が限界な感じだが、奇妙な行動をしながら師匠の淹れるお茶を何杯も飲んでる皆よりはマシだろうな……。
それからまたしばらく時間が経って、途中で師匠が最初に見た機械を弄ったり、車外に出たりとかしてる様子を眺めてる内に、ようやく全員が真面に動ける様になり、改めて師匠からの説明が行われる事になる。
「さて、元々の質問など記憶から飛んでいるでしょうから、改めて話しますが、マリッサが疑問に思った私が皆に振る舞う際、茶器を使ってお茶を淹れない理由を簡単に言うと、体感して貰った通りレベルが低かったり概念への防御力が低いと、お茶の味を楽しむ前に意識が飛んで発狂してしまうからですね」
続けて説明してくれた所によると、専用の道具を使い手順を守って行う動作は儀式に通じるとかで、お茶を美味しく淹れる為に繰り返す事も含めて概念が蓄積され、高位霊能者で有る程無意識の内に霊薬と化してしまうんだとか。
ただのお茶が……。
「お茶が霊薬になった程度で、と思うかも知れませんが、霊薬は回復目的の物でも未覚醒者が口にすれば、それだけで命に関わる事も有りますからね? 概念領域を普通に扱う高位霊能者の霊薬だと、さっきみたいに概念の圧力に負けて、一時的に発狂する可能性も有りますから注意が必要ですよ」
「ガイア連合で一部の食材とか料理に販売制限が掛かってるってのも、その辺が理由だしねぇ。低レベルのが食べると身体が燃え出したりするし」
琴姉が具体例を挙げて取り出したのは、まるで溶岩が流れ出す火山にも見える、赤々とした光と熱を感じさせる代物で、形状として近いのは細長い物が重なってる所から、ケーキのモンブランだろうか。
そこそこ距離があるのに確りと感じる熱量に、かなみを初めとしたレベルの低い組が引いてるが……、まあそりゃそうだよな。
「これは火栗や火多栗の実、灼熱オレンジ*4などを使ったマグマモンブラン*5ってケーキだけど、見て感じてる熱量ってのは概念的な物で、実物自体はほんのり温かいぐらいなんだよね。でも概念に対する防御力が低いと、マグマモンブランに込められている概念の影響で、マグマに振れたと存在が書き換えられて燃えだしてしまうし、マグマの概念と合わせる事で創り出される美味しさを感じる事は出来ないってわけだね」
「とまあ、概念が絡むと耐性が無い人では味を楽しむ事も出来ないため、普段は茶器を魔法で代用したりして、敢えて概念強度を落としてる面もあるって所ですが、今回こうして概念強度そのままのお茶を出したのは、先に言ったクトゥルフ系の悪魔がここ、鏡像世界に居ると判明しているからです」
「それってもしかしてCoC……
「お、誠君もTRPGやるの? 今度お姉さん達と卓囲んでみる?」
「あっいえ動画勢で……、興味はあるんですけど」
「美砂! そう言う話は休憩中にしなってば」
「あはは、ごめんごめん。瑞樹さんも琴音もごめんね」
「多少は緩い方が良いですから大丈夫ですよ。まあCoCで言う所のSANチェックや発狂、正気度辺りで間違ってはいないですね。クトゥルフ系の悪魔は総じて、視覚や嗅覚などの五感を通して精神の均衡を崩す能力を持っていますから」
それから、クトゥルフ系悪魔の共通能力などについて説明された所によると、まず〝狂気〟と呼ばれる精神異常については、具体的には精神の変調であって、霊力の作用による異常では無いため、【パトラ】などの異常回復魔法では治らない場合も有るらしい。
一応クトゥルフ系悪魔のスキルによって発狂した場合、発狂の原因となるMAGを取り除けるため回復出来てる様に見えるが、原因を取り除くまでの間に精神自体が変化してしまっている場合も有るため、根本的な回復は精神科医などのメンタルケアをするしかない上に、必ずしも治療できるとは限らないとの事。
そんな狂気や発狂に関してだが、TRPGや本来のコズミックホラーから来る、恐怖なんかのマイナス衝動ってイメージが強いが、正しくは常軌を逸した衝動全般の事で、プラス方面の感動により崇拝する様になったり、知り得た事を誰かに伝える使命感に駆られて日記に書き残したりなど、〝何故そこでそんな事をしたのか?〟と物語の都合によって挿入された様な、違和感に感じる行動を実際に行って居たケースも有るってのは、大型異界〝印巣枡〟に関して説明された時にも聞いた話だっけか。
んで、一通りどんな物かって話が終わり、次は狂気に関する対策についてとなったんだが、精神防御系の装備各種の貸与は良いとして、私らとして問題だったのは、狂気耐性訓練用として出された薬膳料理と言う名の産物達。
「ガイア連合でも狂気関連は面倒が多いので、耐性を付ける為の訓練方法もちゃんとありますし、一時的に精神防御を高める料理の開発なんかもしてるんですよ」
「見た目はもの凄く悪いけど、食材を創り出す所から色々試行錯誤されてるだけあって、味は間違い無く美味しいよ! 私のお勧めはミ=ゴ茸の出し汁をソミュール液に使ったショゴスワームの燻製肉だね。ジャーキーみたいなもんだし」
「玉虫色に不規則な輝きを放つ燻製肉とか、食べ物と認識したくないんですが……?」
「ナイちゃんもちょっとそれは遠慮したいかな~」
「そうか? 確かに見た目はアレだが、マジで美味いぞ」
「カズくん躊躇い無く行ったけど、大丈夫……なの?」
「おう、さっきのお茶に比べれば美味さの衝撃も少ねぇしな。まあなんつーか、こう……強い奴と戦いてぇって感じが湧いてくるが」
「本人の認識し易い形で衝動を表面化させて、精神を強制的に揺さぶられる感覚を覚えるのと、対処可能な方向に精神状態を誘導する事で他の干渉を防ぐ、と言うのが【狂気耐性】鍛練の基本ですね。何事にもブレない【不動心】や鋼の様なメンタルで有れば1番ですが、誰もが可能な方法では無いですので、次善としてですが」
師匠が言う所には、何事にも折れない柱を造るのは難しいから、管理出来る形で折り目を作って、曲がり方と戻し方を訓練するって方法との事。
勝手にファーストペンギンしたカズマの状態を例に挙げると、〝強い相手と戦いたい〟ってのがカズマにとってわかり易い衝動で、クトゥルフ系悪魔のスキルによって精神干渉された際、戦闘衝動へと発露させる方法に慣れておく事で、悪魔側に都合の良い精神衝動への誘導から逃れる感じらしい。
ポイントは、本人の意志で行動出来る範囲の衝動に誘導する事って感じか。
「見た目が悪くなるのを考慮して、一口餃子みたいな包み物も有りますよ。量が少ないのでいくつか食べないと効果が出ませんし、鍛練を進めて行くと必要な量も多くなるので頑張って貰う事になりますが」
「つまり、結局はその玉虫色の燻製肉を食べる方が手間が少ないって事ね……」
「そりゃ瑞樹を含めたガイア連合の料理人達が集まって、鍛練用に考案した物だしねぇ。1本分食べ終わる頃には、よほど精神力が低く無ければ【狂気耐性】を身につけられる様になってるよ」
「まじかー……」
そんな訳でこれからしばらくの間、味は良いが見た目は食欲が減退する様な色彩を放つ薬膳料理を毎食食べ、【狂気耐性】を身につける鍛練を行う事になるのだった。
日本雛形論に基づく地形対応から、逆さにした北海道が北米大陸に相応するため、ラヴクラフトの小説〝インスマスの影〟に登場するマサチューセッツ州エセックス郡に属するマニューゼット川の河口にある港町を、北海道余市郡余市町と独自設定。
黒札の色々な認識が混ざった結果発生した、男性特攻能力を持つ独自設定悪魔。
果汁に含まれている高濃度の油脂により、常時発火しているオレンジ。
燃え上がる濃厚なマロンクリームを、柑橘類の爽やかな風味で後味すっきりとさせた一品。
※狂気などに関しては、拙作世界線においての独自設定・解釈となります。