【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「うげっ、マズった……」
最初に気付いたのは、今回遠距離専門にする詩乃が居るからと、斥候をメインにしていた裕奈。
声を聞いて周囲を改めて観察してみるが、見えるのはここの所の探索で見慣れた鏡像世界の町並みで、何かあると仮定して違和感を探って感じるのは、せいぜいちょっとした既視感がある事ぐらいで――
「ん、既視感? ……まさかループ系ギミックか?!」
「ループ? それって繰り返すって意味よね?」
「ええ、一定範囲の閉じた空間を繰り返す物で、無限回廊などとも呼ばれるギミックですわね。色々と種類の有る系統ですが、今回の場合はこの道と言う所でしょう」
「緩やかなカーブを描いていて道の先が見えなかったとは言え、失敗したなぁ」
「ループ系ギミックが発動する前に気付けるのは極一部の例外ぐらいだし、そこは割切るしかないだろ」
「ですわね。早めに気付けただけでも良しと致しましょう」
「となると、まずは起点を探す所からで御座るな」
ちょっと落ち込んでる様子だが、ループ系はそもそも発動している事に気付かせないってのが基本なギミックだし、ループに囚われてるってのを認識出来ただけでも十分だろう。
それよりもループ系ギミックで重要なのは、何処を起点に空間の接続がされているかと言う部分。
偶に特定の事象を起点としてループする物も有ったりするらしいが、それなら記憶封鎖でもされていなければ一発でループしてるとわかるし、裕奈が気付いた後に霊力の流れを検査しても何かしら干渉されてる感じは無かったから、恐らくは基本的な空間を接続するタイプのループギミックだろうとは思う。
ともあれ、起点を探らないと脱出の糸口も見えないって事で探索を開始すると、細かく調べる事で発動するトラップを見つけたり、逆にセンサー辺りでも有るのか通りを歩いてるだけで反応するトラップが襲ってきたり、更にはシャドウや悪魔も湧いてきたりと色々有ったが、しばらくしてようやくそれらしい物を見つけ出す。
「見つけたには見つけたが……」
「気付かせるつもりが無いわよね? コレ」
「通りからは見えないメニューボードの裏、だもんねぇ」
発見の経緯としては、ループ系ギミックにしてはあからさまな変化のあった場所、1番や2番と表示が変化する大きな看板のある建物を中心に周辺を調査したところ、隣にある喫茶店っぽい建物の前に置かれているメニューボードの裏に、それらしい張り紙を見つけたと言う物。
「それにしてもこの張り紙に書かれてる内容、〝8番出口〟って奴かな? 確か黒札の間だとそこそこ有名な仕組みらしいし、認知の関係で利用されたって可能性は有りそう。以前に瑞樹さんから、幼女ネキが同じ様な異界を造った*1って話も聞いたし」
「ルールとして8番区画からとの記載もされておりますし、類似のギミックと考えるのが良いですわね」
「ふむ、記載されている内容通りと考えると、探索中にシャドウや悪魔が出現したのは投網や鳥黐を破壊したから、と考えるのが良いか、てっきり動きを封じて追撃する感じの仕掛けと思って御座ったが」
「ああ二代が切り捨てた粘液まみれの網と、私が燃やしたピンク色の
二代が切った網の方は余裕が有ったから調べようとしたんだが、切った直後には網が消えてシャドウが襲ってきたし、鳥黐の方は回避出来ない程の量と範囲で飛んできたから、咄嗟に燃やす事になっちまったんだよな。
まあ過ぎた事は置いとくとして、裕奈が言う様に、8番出口と呼ばれるタイプのループをベースにしたギミックなんだろう、記載されている内容はこんな感じになっていた。
・出入り口となるメニューボードの前を通過する者は、ゲームの参加に同意したものとする。
・参加者は、区画内にて仕掛けを発見し解除すること。
・仕掛けを解除したら、区画番号看板に触れてメニューボードの前を通過すること。
・上記2点を達成せずにメニューボードの前を通過すると、1番区画から再スタートとなる。
・区画内全ての仕掛けを解除した状態で、8番区画から出入り口となるメニューボードの前を通る事により、ゲームクリアとなる。
・区画内で器物破損が行われた場合、参加者へのペナルティとして懲罰執行者が召喚される。
恐らく張り紙がされているメニューボードを起点として、区画番号を表示している建物までの道を繋げてループしてるんだろう。
ルールの記載を見た感じ、道中で二代が切り払った直後に網が消えたのは、仕掛けを破壊する形で解除したと見做されたって所で、その後に出現したシャドウがペナルティの懲罰執行者に当たるとしたら、仕掛けであっても破壊したらペナルティが発生するし、仕掛け自体が自壊するタイプの物でも参加者にペナルティを押しつけるつもりなんだろうな。
「その8番出口って、具体的にどんなループなの? そこの張り紙にも書かれてるから、8番目が脱出の鍵になるってのはわかるけど」
「基本的には最初にルールが提示されていて、ルール通りに動けば普通に脱出出来るけど、本能的な衝動を刺激したり、意識の隙間に差し込む様にルールを破らせてループに閉じ込めるって感じで、ループ系としては脱出方法がわかり安い分マシな部類かな」
「そのルールがメニューボードの裏に隠してあったのを考えると、クリア自体は可能だがクリアさせる気は無い、って言うギミック系異界としては普通に厄介な場所ってところだな」
「なるほど、何かしらループ条件に引っかける細工がされてるだろうって意味では、警戒する点は変わらないわけね」
「うむ、提示されている文面自体に嘘は無くとも、提示していないルールが仕込まれている場合もあるで御座るからな」
「ですわね。記載内容を読んだ限りだと、8番区画までは1つでも仕掛けを見つけて解除すれば進めるみたいですが……。この区画内全ての仕掛けが8番区画だけなのか、1番から8番までを含むのかでも厄介さの度合いが変わりますわ」
「そこは今考えても仕方ないし、頭の片隅にでも置いとくとして、一先ずは8番区画まで進んで調べるか?」
「そだね、まずは8番区画が在るのを確認するのと、その途中で仕掛け関連を可能な範囲で調べる感じで行こうか」
そんな訳でこのループギミックの起点になっただろう8番出口系のルールを見つけ、当面の行動目標が決まったところで行動開始。
起点を見つけた時は1番区画に戻されていたらしく、道中でトラップに遭遇したらそのまま次ぎの区画へ向かい、看板の所まで遭遇しなかったら少し戻りながら調査して、仕掛けを解除したら次へと言った感じに進んで行く。
なお一応の確認として、1番区画からメニューボードの前を通った後、振り返って看板の表示が2番と変わっているのを確認し、近場で仕掛けを探して解除して引き返してみたところ、メニューボードの前を通ると同時に看板の表示が1番に変わっていくのを見たため、ルール自体に偽りは無いと仮定して行動するべきだろう。
そうした早めにしておきたい検証も挟みつつ進んだ感じ、区画の番号が大きくなるに連れ仕掛けの発見難易度や対処難易度も高くなったのは想定通りとして、仕掛けの種類に統一感が無いのは少し気に掛かる所か。
異界に出現するトラップってのは、ある程度内容が似るのが普通で、師匠によると異界を構築して維持するリソースの関係との事だが、それを考えるとトラップの展覧会みたいになってる状況は、リソースの無駄が多い様に感じる。
となると、考えるべきはトラップの種類では無く、トラップを見つけて解除する事がルールに記載されていた事の方だろうな。
トラップの破壊でも解除した事になるってのは、区画を進む間に検証して確定してるし、区画を進むには最低でも1つは解除する必要が有るって事は、解除する事をトリガーに別の何かをしていると警戒するべきだろう。
「8番の看板までは問題無く来れたし、ちょっと休憩しつつ情報整理しよう」
「賛成致しますわ。テーブル出してお茶をとは言えませんが、軽く食べて水分補給は必要ですわね」
「OK、そんじゃ詩乃はこっちから選んでくれ、師匠が在庫処分で突っ込んでるから大概の物は有るぞ」
「いや多過ぎるわよ。探すのも大変だしこれで良いわ」
「お、拙者と同じ握り飯か、具材は何で御座るか?」
「生姜豚のしぐれ煮とか書いてあるわね。ジュネスのロゴ入ってるけど、ジュネスでこんなおにぎり売ってた?」
「霊能者向けの裏ジュネスで売ってる奴だな。あそこガイア連合支部のカバーとしてガイアグループが建てた施設だし」
「なんかもう、驚き疲れてきたわね……」
「それなら生姜豚のしぐれ煮は疲労回復効果が有るため丁度良いで御座るな」
詩乃が探索とは別の方面で疲れた様子をみせるが、ガイア連合内でグルメ食材と呼ばれる素材を具材にしたおにぎりだけあって、一口食べたら気疲れも飛んだ様子で美味しそうな笑顔を浮かべる。
私の方も適当に見つけたバーガーを食べ、小腹を満たしながらここまでの情報を整理していく。
まずはトラップの解除についてだが、8番区画で見つけた物も解除する事自体は問題無く、仮に無理な難易度でも、破壊して出現するシャドウや悪魔も対処出来ない強さでは無い。
とは言え、8番区画で出現したのがレベル30台だったし、破壊を繰り返す事で出現するレベルが上昇する仕様だったりすると危険なため、可能な限り普通に解除していく事に決まる。
次は上手く行けば儲けものぐらいの感じで、拠点にいる師匠への連絡を試していたんだが、まあ当然の様に繋がらなかったから、ルールには記載されていなかったがループ系の常として、外部との通信を封じる仕組みもあるらしい。
まあ食料自体は師匠に持たされているのが十分有るため、ループ空間内と外で時間の流れが極端に違いでもしなければ、最悪でもかなみのナビで位置を特定して師匠による救出が望めると思う。
つっても今日探索に出る前だと【狂気耐性】の訓練が佳境に入ってたから、動ける様になるまでどれぐらい掛かるかとか、内部からは確認しようが無い時間の流れる速度の違いとかを考えると、外部からの救出を当てにして行動するのは危険だろうけどな。
後はまだ確証の無い懸念として、ルールとして仕掛けの解除を必須としてる点について、解除なり破壊なりする事自体に別の目的を含ませている可能性も考えられるが、これについてはこれから8番区画の仕掛けを解除していく中で警戒するぐらいか。
「とりあえず現状だとこんな感じかな?」
「じゃねぇかな。憶測だけなら上げられるだろうが、今は考え込む前に確定情報を増やす段階だろうし」
「一応、ここまでに判明した事と未確定な部分はまとめておきましたわ」
「ではペリーヌがまとめてくれた未確定部分を調べつつ、8番区画の仕掛けを解除していくとするで御座る」
「オーケー、そんじゃ行こうか――っとと、私らで進めちゃったけど、詩乃もこれで良い?」
「色んな意味で後輩なんだし、気になった事とか有ったら都度聞くから問題無いわよ」
「あいあい、んじゃ改めて探索再開と行こうか」
小休止を挟んだ後、8番区画の仕掛け解除に取り掛かった訳だが、しばらくして全ての解除って条件が思った以上に難敵な事を思い知る。
具体的な数が決まっているなら、数え間違いでもしなければ全部を見つけて解除する事も問題無いだろうが、どれだけあるか不明な所で全てとなると、区画内を隈無く探しても全部を発見して解除出来たかなんてわからない訳で、実際確りと調べたはずの建物を念のためもう一度調べたら、更に仕掛けを発見するなんて事も有ったしな。
そんで、行ったり来たりしながら探せるだけ探し、看板に8番と表示されているのを確認してメニューボードの前を通った結果は1番区画に戻されると言う物で、見落としがあったかともう一度同じ様に8番区画を隈無く調べたんだが――
「これで抜け――れてないか……」
「流石に二度続けて見落としたとは思いたくないんだが、ペリーヌが懸念してたみたいに、1番区画から虱潰しにする必要が有ったりするのか……?」
「仕掛け以外にも何か見落としている、と言う可能性もあるが……、何とも言い切れんで御座るな」
「今のところは仕掛けの解除で状態異常を受けてる感じはしませんが、何も無いとは考えにくいですものね……」
「致命的な状態異常は装備で対策してるから、それで気付けてないって可能性も有るけどねぇ」
「その状態異常って奴についてなんだけど、どんな物が有るのか聞いても良い? 少し前からちょっと暑い気がするのよね」
「暑い? そんな感じはしないが詩乃はまだレベル10前半だし、私らより影響が出やすい可能性はあるな。ペリーヌと詳しく調べるから、説明の方は頼んだ」
「承った。では、代表的な物から説明して行くで御座る」
裕奈と二代で説明して貰ってる間に、詩乃のバイタルチェックに取り掛かる。
まあ私らじゃ師匠みたいに術や霊的知覚で何でも出来たりしないため、解析作業は端末にインストールしてるアプリ頼りなんだがな。
それでも裕奈達と違って生産系も学んでる関係で、解析系のアプリも相応に入れてるし、私らの霊的知覚と合わせて精度も上げられるから、こう言う解析調査は私らの担当って訳だ。
んで、状態異常についての説明が粗方終わった辺りで解析結果も出たんだが、深刻では無いものの無視出来ない状況にはなっていたらしい。
「メジャーなとこだとこんな感じだけど、はっきりと影響が出てる訳じゃ無いのも考えると、軽度の毒関係だったりするのかな? 後はマイナーな状態異常だと、対象に掛かる重力が増える加重状態とか、メジャーな状態異常から派生する特殊状態異常として、毒や魅了が重篤化した時に起こる発情状態なんかもあったりするけど、派生形の状態異常を直接ってのは、特化した異界でも無いと早々組み込まれたりはしないしなぁ……」
「裕奈、残念ながら発情状態がビンゴだ。詩乃にも魅了対策の装備は渡してるんだが、どうやらループしてる空間自体に発情の概念が蓄積されてるらしい」
「は、発情?!」
「そこに在った仕掛けを解除して確認しましたが、解除によって僅かですが空間内の概念量が増えてますわね。今はまだ魅了対策装備の閾値を超える程ではありませんが、詩乃さんのレベルで装備可能な物だと完全には防げないぐらいには上がっておりますし、このままではいずれと言う所ですわね」
「あー……なるほど、空間自体に状態異常が積み込まれてるなら、ディスチャームとかでの解除も無理か。んで、軽度の発情状態だから身体が暑くなった様に感じたって訳ね。一先ず詩乃には発情状態に特化したアクセを付けて貰えば、ある程度は悪化を抑えられるかな? それでもレベル的には気休め程度だろうけど」
「マジでそんな状態異常あるの……?」
「残念ながら真面目な話で、マグネタイトを生産すると言う意味だと効率の良い方法のため、魅了を使った姦淫系は異界だとそれなりに見かけるで御座る」
「エロに染めれば自発的にマグネタイトを生産する様になるから、そこそこ思考の回る悪魔だと異界内に捕らえてMAG電池にする事も多いし、メシア教の常套手段って事で優先対処に指定されるぐらいには、魅了・洗脳辺りの状態異常はマジで危険だからな」
「魅了と洗脳は聞いてたけど、発情までは聞かされてなかったわよ……」
ここに居るのが女だけでギミックによる影響とわかったとは言え、発情している状態と言われると色々意識してしまうのか、詩乃が先程までより僅かに顔を赤らめる。
まあ意識するなと言って切り離せるなら人間の三大欲求などとは言われない訳で、恥ずかしかろうと身体が火照っていようと我慢して貰うしか無いんだが。
裕奈も言った様に、空間自体に発情の概念が蓄積されているため、言ってしまえば常に状態異常発生判定をされている様な状況になっていて、ディスチャームなどの魅了・発情を回復可能なアイテムを使っても、回復した次の瞬間には状態異常を受けるから意味が無い感じだし。
「こうなってくると、1番から8番の全部で仕掛けを全て解除するって条件になってる可能性も、否定出来なくなってきたかなぁ……」
「装備で無効化出来ない所まで状態異常を積み込むのが目的と考えると、破壊でも解除判定になっていた事に理屈が通るで御座るな」
「違う可能性はもちろん有るが、今1番区画まで戻されてる訳だし、動く余裕が多い間に確認しておくってのは悪く無いと思うぜ」
「私も賛同致しますが、詩乃さんは大丈夫ですの?」
「炭鉱のカナリアみたいな物でも対案が出せない以上、反対なんて言わないわよ」
「まあ本当に無理そうなら、番号の看板近くにでも浄化結界設置して待機して貰う感じにするか。私らが移動しながら展開出来る程度の結界だと無理だが、補助具も使った設置型の結界ならある程度空間内の概念も押さえられるだろうし」
「1番はそうなる前に脱出する事だけど、とりあえず隈無く探して解除して行こうか」