【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
隠されていた実質の制限時間が判明し、状況の悪化も覚悟の上で1番区画から全ての仕掛けを解除しながら進み始めてどれだけ経っただろうか。
1番区画から虱潰しに仕掛けを探し、解除してきた事で新しく判明した事だが、仕掛けられているトラップの数は区画番号の数字に+1して、私らの人数を掛けた数になってるみたいで、1番区画なら+1した2×5で10の仕掛けがされていた。
そんで、最初の頃8番区画で虱潰しに解除した際の数が軽く100は超えていた事から、恐らくだが途中の区画で解除していない仕掛けが次の区画に持ち越される仕様もあるんだろう。
今にして思えば、8番区画で一度調べて解除した場所を再度調べたら、前に解除したのとは別の仕掛けが見つかったってのも、持ち越しされた分が再設置されたと考えれば理屈も通る。
なお、この想定が正しいとなると、1番区画から虱潰しにするのも8番区画で何往復もしながら虱潰しにするのも結局は同じ事になる訳で、二度8番区画で虱潰しにした際、解除した数をカウントしていなかった事が悔やまれる。
まあ過ぎた事を嘆いても仕方ないって事で、計算上だと合計220個になるだろう仕掛けを解除した状態で、8番区画からメニューボードの前を通れば脱出となるはず、との推測を基に区画を進んで行く。
「そろそろ私らにも影響が出始めたか?」
「私は多少実感出来るかなってぐらいだけど、マリッサの方も?」
「いや、今のところ内丹の煉気で霊力巡らせてるから弾けてる。つっても、弾く感覚を感じてる時点で対策装備の閾値を超えた証拠だからな」
「拙者達の中では、裕奈が一番煉気の練度が低いで御座るからなぁ」
「二代みたいに修業馬鹿でも、マリッサやペリーヌみたいに直弟子って訳でも無いんだからしょうがないじゃん!」
「まあ私達はまだまだ余裕があるので良いですが、詩乃さんは大丈夫ですの?」
「大丈夫、って強がりたい所だけど、んくっ、正直、歩いてるだけでも、辛いわね……」
「歩くのが厳しいなら私らで背負って行くでも良いんだが、ヤバそうなら結界張って落ち着くまで休憩するのも考慮するぞ?」
「もう、7番も終わる、訳だし、はぁはぁ……、後一つぐらい、持たせるわよ」
「…………わかった。それなら急いで確実に仕掛けを解除していかないとね」
ペリーヌの確認する声に応える詩乃の声は、本人も言う様にかなり限界が近い様子で、発情の状態異常で上気して色付いた肌は艶めかしく汗を浮かべている。
今もこうして自力で歩けているのは、発情のギミックが仕組まれていると気付いた後、【内丹術】の煉気で体内の霊力を循環させる事により、状態異常などへの耐性を向上させる技を教えたからだろうが、意識が快楽に流されても可笑しく無い程に発情状態が深刻化している状況で、煉気を維持して少しでも軽減し続けられている精神力には驚くばかりだな。
本来なら一度発散させてしまうのが手っ取り早いし、師匠から手解きされてる【房中術】を応用すればそう時間も掛からないんだが……視線を向けた裕奈が首を横に振ってるのを見て、やはり同じ懸念に至っていると確信する。
私らが囚われている8番区画――8番出口系って事でこのループギミックに仮で名称を付けた感じ――を仕掛けた側の思惑を考察した際、思い浮かんだ懸念点はクリアに必要な行動に仕組まれていて、気付いた時には手遅れになっている可能性が高かった発情状態。
鍛練の一環で師匠に掛けられて体験した事が有るからわかるが、発情の状態異常が積み重なって段階が進むと、理性的な思考が溶けて本能的に快楽を求める様になり、兎に角気持ち良くなる事しか考えられなくなるんだよな。
そんな発情状態にする状態異常付与を、空間全体に気付かせずに積み重ねて行くってのが、仕掛けを解除する事で進行していたギミックな訳で、発情状態を発散するための性行為に及ぶ事自体にも、何らかのトラップが仕掛けられている可能性は高いと思うところ。
それこそ発散する為に快楽を受け入れたら、快楽を通してペルソナに侵食して、シャドウに反転させるなんて事も有り得るかもしれん。
師匠達が終末目前に電脳異界って所へ籠もって認知異界と接続し、時間加速してまで攻略に取り掛かってるのも、メメントスやマヨナカテレビと言った悪魔の支配する大型の認知異界が残った状態で終末が到来すると、人の集合的無意識に悪魔が干渉出来る割合が増えるからって理由で、半終末に突入した際に発生したらしいペルソナ使い達のレベルが大幅に下がるとかなら幸運な部類だし、何件か確認されてるペルソナ能力自体が消失すると言うのでもまだ良い方で、悪ければペルソナがシャドウ化して本人に襲い掛かったり、シャドウに反転する際の影響で死ぬ可能性もあるってのを聞いた事が有る。
そんな訳で、満足するまでイかさせて発散させるって方法が、仕掛けた側の主目的な可能性が有るため取れないって事だな。
詩乃の様子に気を配りつつ7番区画を抜けて、8番区画での仕掛け解除も順調に進み、予想通り45個見つかった仕掛けを解除したら、二代とペリーヌには詩乃の様子見を兼ねて待機して貰い、裕奈と2人で手分けして見落としが無いか見て回る。
喫茶店の手前まで再調査して仕掛けが無いのを確認し、喫茶店を挟んだ向こう側に居る3人の様子をちらっと眺めたら、裕奈と調査箇所を入れ替えてダブルチェックしながら番号看板の所まで戻っていく、
なお、そのまま喫茶店の前を通って合流しないのは、見落としを無くすためのダブルチェックって理由に加えて、メニューボードの前を通る事で私と裕奈だけがクリアになって3人が取り残され、3人で再度一からなんて事になったりすると危険ってのもある。
1つ1つの仕掛け解除で上昇する概念値がそう多く無いのは、詩乃に軽度の反応が出るまで気付けなかった事からもわかっているが、逆に言えば8番区画を2回隈無く探して解除するだけで、詩乃のレベルで可能な対策は突破し始めるぐらいに積み重ねられてるのも事実であり、実質的に三度目ともなれば私らの対策装備すら超え始めたのを考えるに、私らは兎も角として、詩乃に四度目は無理だろうって事で、慎重を期した訳だが……認めたくないがこの結果はある意味必然だったのかもしれんな。
「んぅ……はぁ……あ、――――っ!」
しばらく前から話をするのも難しくなっていたため、ダブルチェックの間は動かさない様にしたりと、少しでも休息する時間を設けたのも焼け石に水だった様で、三度8番区画のメニューボードの前を通過しても風景が変わらず、振り返れば1番の看板がそこに在り、振り出しに戻された事を理解した瞬間遂に詩乃の限界が来たのか、倒れ込んだ拍子に声も出ないほどの絶頂が押し寄せた様子で蹲る。
8番区画に入る少し前辺りから、私らの対策装備を超える程に積み重ねられていた事を考えると、詩乃はかなり持ちこたえた方だろうが、その反動か痙攣する様に絶頂を繰り返してる様子は傍目にも危険性を感じる程で。
何はともあれ詩乃を落ち着かせる必要があるって事で、1番の看板下まで詩乃を運んだら結界の強度を上げる補助器具を設置して浄化結界を展開、結界内なら発情の状態異常値が減少するのを確認して一息吐き、三度目も失敗に終わった事も有って、行動方針を考え直す為にも休息する事にする。
なお、浄化結界の禊ぎにより長時間我慢してた事であちこち酷い事になってた詩乃だけで無く、私の方も汗をかいたりしてべたついてた感触などがさっぱりしていくのを感じる。
「結界張ってセーフエリア作れたのは良いとして、しばらくは詩乃の体調確認も兼ねて休憩かな」
「拙者達も少なからず影響は出ていたから、そっちの確認もするべきで御座ろう」
「後は仕掛けの解除以外に何を見落としてるか、ってのを考える事かね」
「区画内の全ての仕掛けを解除、と言う条件自体は達成出来ていたはずですが、1番区画に戻されていると言う事は、ルールに記載されていない何かを見つけられていないのか、或いは記載内容に何かしらの見落としでもあるのか……。考える事は多いですが、それよりも気絶してる詩乃さんが目を覚ますのを待つ間に、出来る範囲で検査しておきましょう」
浄化結界で発情の概念を押しのけ、ディスチャームを使って発情状態も解除した事で、詩乃の呼吸なんかも落ち着いて来てるが、顔などはまだ上気したままで体温も高いため、完全に抜くなら8番区画を抜けた後でと但し書きは付くが、【房中術】辺りで発散させないと無理だろう。
発情の状態異常は段階が重くなったり長時間掛かってると、状態異常を解除しても長期間影響が残ったり、場合によっては性格や体質自体が変化して戻らなくなる場合もあるのが厄介なんだよなぁ……。
「……今のところ、後遺症が残る様な変化はしてなさそうだな」
「今は大丈夫でもこの後もとは断定出来ないよねぇ、やっぱり」
「ここまで持たせた詩乃の精神力を考えると、しばらく浄化結界内で安静にしていれば、多少動けるぐらいには回復しそうでは御座るが」
「検査結果を見る限り、それで動ける様になったとしても後一度、行けるかどうかですわね」
収納バッグから取り出したベッドに寝かせている詩乃を検査した結果を見て、ペリーヌが悩ましげな表情を浮かべる。
発情状態の肉体的な作用として1番大きいのは、エンドルフィン――脳内麻薬や快楽物質とも呼ばれる神経伝達物質の過剰分泌で、嗜好の変化や依存症の様な症状が起きる理由の一つだが、厄介なのはエンドルフィンが分泌される事自体は肉体の正常な反応によるものであり、【パトラ】などで雑に一発解消とはいかない事。
医師免許とか持ってる奴なら薬剤の処方で抑えたり、師匠みたいに卓越した術者なら過剰分泌状態を異常と定義して、軽減させたりなんかも出来るんだろうがな。
まあ私らに出来るのはせいぜい、発情状態を引き起こすMAGの働きを取り除く状態異常の回復と、後は性感帯などを刺激しない様にして安静にさせる事ぐらいだな。
「後は、目を覚ましてから問診しないと判断出来ませんわね」
「そっか、そんじゃ詩乃についてはしばらく様子見するしか無いっぽいから一旦置いとくとして、三度目が失敗した訳だし、一度腰を据えて考えるべきかな?」
「この手のギミックを考えるのは皆に任せ、拙者は詩乃を看ておくで御座る」
「二代は私らの中でも直感が鋭い方なんだから、積極的に考察しなくても良いがちゃんと聞いといてくれよ?」
「まあ二代さんについてはいつもの事でしょう。私の気になる点としては、1番から虱潰しにした結果として仮定した、仕掛けの総数が220個というのが本当に正しいのか、ルールに提示されている内容に見落としや解釈違いをしてる物が無いか、と言う所ですわね」
「区画内に設置されたトラップは全部解除出来てたはずだがな……」
改めて8番区画ギミックについて考察する為、直ぐ其処にあるメニューボードの裏からルールの書かれている張り紙を剥がし、持ってきて見返してみる。
・出入り口となるメニューボードの前を通過する者は、ゲームの参加に同意したものとする。
・参加者は、区画内にて仕掛けを発見し解除すること。
・仕掛けを解除したら、区画番号看板に触れてメニューボードの前を通過すること。
・上記2点を達成せずにメニューボードの前を通過すると、1番区画から再スタートとなる。
・区画内全ての仕掛けを解除した状態で、8番区画から出入り口となるメニューボードの前を通る事により、ゲームクリアとなる。
・区画内で器物破損が行われた場合、参加者へのペナルティとして懲罰執行者が召喚される。
張り紙自体に炙り出しなどの仕掛けが無い事は、最初に色々と試して確認しているため、記載内容自体はこれで全部なのは間違い無い。
8番区画でダブルチェックまでして、合計で220個の仕掛けを解除したのを確認した後、念のため8番の看板にも触れてメニューボードの前を通過したため、ルールに書かれている1番区画に戻される条件自体には引っ掛かってないはずだし、恐らくクリア条件を達成していない場合は、8番から1番にループするって仕様なんだろうな。だからなんだって話ではあるが……。
んで、ルールの記載を読む限り、クリア条件は達成していたはずだが、現実に1番へ戻されてるって事は何か見落としか、解釈違いしてる所があるんかねぇ?
「んん…………私は……」
「む? 目を覚ました様で御座るな」
ルールの張り紙を前にアレコレ意見を出し合い、仮説を立てては崩してと議論してる間にそこそこ時間が経っていたのか、二代の声で詩乃が目を覚ましたらしい事に気付く。
「詩乃さんが目を覚まされたのでしたら、瑞樹様から持たされた収納バッグに蓬莱熟茶*1も入っておりましたし、ティーブレイクと致しましょう」
「だな、二代! 詩乃もこっちに連れてきてくれ、デトックス作用の有るお茶入れるから、詩乃も多少は楽になるだろ」
「承知、歩くのは辛いだろうから拙者が運ぶで御座る」
「いや流石にそれ――あんっ、ちょっ、服が擦れて――っ?!」
「ああ……、一度発情状態が深刻化するとすんごく敏感になるんだよねぇ。茶菓子は刺激少なめでお饅頭にでもしようか」
「塩っ気の有る奴も欲しくなるだろうから、煎餅とかも出しとくぞ」
「作る時に甘葛の葉を混ぜたりしますから、砂糖などを入れなくても十分に甘いお茶ですものねぇ」
ペリーヌが慣れた手つきで淹れてる蓬莱熟茶だが、師匠が直接作った物程では無いが非時市――蓬莱島に移住した島民達でも製作されていて、島の特産品として一般向けに販売されてるのは主に島民達で作った方で、師匠の作った奴は黒札向けの高級品って感じだな。
ちなみに、島民達へ指導したのは師匠から製法を教わった私やペリーヌで、その関係で茶の淹れ方なんかも教え込まれていて、割と普段から自作した蓬莱熟茶を淹れたりするため、私らにとっては飲み慣れたお茶の一つだったりする。
「はぁはぁ……、何が何だかわからないんだけど、ベッドに寝かされてたって事は気絶でもしてた? 見た感じ抜け出せた訳じゃ無いっぽいけど、それにしては……」
「今は結界を張って、一時的に発情状態にならない空間を作って休んでるだけだな。詩乃に関しても状態異常としての発情は解除したが、発情状態の影響で上がった感度なんかはそのままだから、その辺は……まあ我慢してくれ」
「感度が上がった状態で発情だけが解除されると、思考が一度冷静になるだけジリジリと炙られてるみたいで辛いんだよねぇ……。だから途中で休憩を挟まず進んできた訳だけど、流石に気絶してイキながら痙攣するレベルになるとそうも言ってられないから、こうして安全地帯を作って安静にさせてた感じだね」
「え……」
「発情状態による体の火照りや感度の上昇などについては、状態異常を解除した上で満足するまで発散するのが1番なのですが、8番区画のギミック的に内部でそう言う行為をする事に罠が仕掛けられてる可能性も有りますから、辛いでしょうけど我慢して貰う事になりますわね。なので、少しでも軽減するためにデトックス作用の有るお茶を淹れましたから、ゆっくりと飲んで心を落ち着かせて下さいな」
服が擦れるだけでも軽くイキかけるぐらいには敏感になってるんだろう、二代に抱えられて椅子に座らせられるまでに何度かイってる様子だったし、座った後も話せる様になるまでそこそこ時間が掛かった上、こうして話す間も出来るだけ体を動かさない様にしているのが見える。
その様子を見ていると、師匠が鍛練として快楽の制御方法を私らに叩き込んだ意味が良くわかると言う物。
まあ師匠自身がエロい事して楽しんでたって部分も大きいんだろうが、快楽がギミックに仕込まれてるだけで本能的に抗えなくなる可能性が高まるのを考えると、特に苗床にされ易い女には必須だろうな。
……一部では男が苗床にされたり、男女のチームだと男を使って罠に嵌めるなんて事も有るらしいから、快楽制御の鍛練は男女問わず行うべきなんだろうがな。
「甘くて美味しい……」
「しばらくすれば多少落ち着くだろう、詩乃が動ける様になるまでに行動方針が決まれば、最後の挑戦と言う所で御座るな」
「ま、今んところその方針を決める一手が見つからない感じなんだけどね~」
「なーにか見落としてる感じはするんだよなぁ、その何かが上手く出てこないんだが……」
「ですので、詩乃さんは気にせずゆっくりと体調を回復させる事に専念してくれて構いませんわ」
「ありがとう――あれ? 琴音先輩?」
「「「「――?!」」」」
詩乃が呟いた瞬間、その視線の先、位置的には喫茶店の在る方向へと目を向けると、其処には直前まで存在していなかったはずの琴姉が、メニューボードのある喫茶店より向こう側に立っており、こちらへと振り向く所だった。