【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
色んな意味でこの場所に居ないはずの人物が現れた事に、詩乃を除いて驚きと同時に警戒向けるが、そんな私らの様子は関係無いとばかりに、琴姉にしか見えない人影は普段の琴姉と同じ様に声を掛けてくる。
「おろ? 後ろに突然気配が現れたって事は、ループ系のギミックにでも嵌まった感じかな?」
「ドッペルゲンガー的な奴じゃ無くて、マジで琴姉……か?」
「いやいや、琴音は侵入条件に弾かれて鏡像世界には入れなかったはずでしょ? 本物にしか見えないけどドッペルの可能性を考えた方が良いんじゃない?」
「偽物なら端末は持ってないはずですから、連絡入れてみればはっきり致しますわ」
「お、その確認方法は確かに有りだね。瑞樹の作った端末まで真似て作るなんてのはドッペルゲンガーだと無理だし」
「ふむ……、普通に電話が繋がっているし、本物とみて良いで御座るな」
ペリーヌが端末から電話をかけると、同じループ空間内に居るからか、前に試した時は繋がらなかったコールの音が、目の前に居る琴姉から聞こえてくる。
どうやらマジで本物の琴姉が目の前に居るみたいだが、そうなると今度は別の疑問が湧いてくる。
「本物なら逆にどうやってここまで来れたんだ?? 裕奈が言った様に条件に掛かって車内の異界から出られなかったはずだろ……?」
「そこはもちろん、瑞樹の造ってくれたコレのおかげだね! レベルの方は【呪霊錠】を使った霊格封印で49まで下げたけどね」
「また新しい端末? 瑞樹さんが造ったってなら何とかしたのはわかるけど、何か見た事ある様な形……あ! もしかしてフロンティアのデジヴァイス?」
「そそ、瑞樹が先に電脳異界に来て新しく創った装備で、フロンティアのデジヴァイスを元ネタにしたアルカナコートの上位装備みたいな感じ、名前は元ネタから取ってディースキャナだね。ちゃんとスピリットエボリューションとか出来るし、レベルはそのままだけど出力を一時的に上げられるから、鏡像世界の制限に掛からずレベル50以上の力も使えるよ」
「相変わらずとんでもねぇな、師匠……」
異界を攻略する時は、如何にルールの穴を突くかを考えろってのをいつも言われてるが、それにしても制限を掻い潜って琴姉を参加可能にしたのは、マジでどうやったんだか……。
疑問は尽きないし、現状の情報共有も必要って事で、詩乃を休ませてる茶会の席に琴姉も混ざり、しばらく情報交換する事になる。
琴姉からは師匠が創ってたらしいディースキャナって装備や琴姉専用に造られた端末の事、それ関係で【狂気耐性】習得の鍛練に黒札が一名追加された事などの経緯をざっくりとされ、次は8番区画について今のところ確定している情報と、仮設段階の推測なんかを話す事に。
「つまりは、琴音が持つ複数のペルソナをそのディースキャナとやらに格納する事で、今の琴音には一つしかペルソナが無いと鏡像世界に誤認させた、と言う訳で御座るか」
「フィレモン式のペルソナ使いとかだと、ペルソナを破棄して新しく降魔させたりとか普通にするからね。破棄する代わりに格納できる場所があれば、後は普段やってる事の延長みたいなもんだし簡単だったよ。それより、今まで保持可能数の関係で試せなかったペルソナを造ったりとかも出来る様になった事が嬉しいかな?」
「その辺の感覚は私らにはわかんないから置いとくとして、琴音がこっちに来たのは私達と合流するため?」
「色々試す為の素材集めを兼ねてって所だけどね。合流した方が良さそうな気がしたから来たんだけど、軽く聞いた範囲と詩乃を看た感じ、正解だったみたいだねぇ」
「それって、私の状況も何とか出来るって事……?」
「いや、話を聞いただけだから恐らくとしか言えないけど、ループ空間――8番区画って呼んでるんだっけ? 兎も角この中で発情の影響を完全に解消するのは止めた方が良いってのは同意だし、仕込まれてそうなギミックに引っ掛からず対処するのは瑞樹でも無理だと思うよ。8番区画の根底に組み込まれてるギミックだろうし」
勿体ぶる事も無く、深刻化した発情の解消を8番区画内で行うのは無理と断言する琴姉。
師匠の名前も出すって事は、隠されていた発情状態の積み込みがこの8番区画の主目的、って推測は当たっているとみて良さそうだな。
逆に言うと、それだけ8番区画内での発情状態の解消が危険って事になるんだが……。
「瑞樹様でも、ですか。そうなると、詩乃さんの状態をこれ以上進行させずに進む、と言う事ですの?」
「その通り。聞いた感じ一回目に虱潰しで解除したのは兎も角、二度目をする前に一旦立ち止まってギミックの考察を挟まなかったのは失敗だったと思うけど、それ以外の対処は適切だと思うしね。現状で取れる最善は発情の概念を弾きながら移動する事だけど……、この浄化結界を張ったマリッサとペリーヌなら思い付いていただろうし、動いてないって事は技量に不安がある感じかな?」
「あれ、そうなの?」
「8番区画脱出の糸口が見えてなかったから後回しにしてた部分はあるが、技量的に不安ってのもその通りだな。積み上がっていく発情の概念を弾き続けられる結界を維持して移動ってなると、設置型じゃない補助道具だと何処まで持たせられるかわからなくてな……」
「恐らく私が来なかった場合はここで数日ぐらい時間かけて鍛練して、九割方行けるぐらいになって脱出に動くって感じになったんじゃないかな? 仕掛けを解除しなければ概念の積み込みはされないから、食料とかが持つ限り時間を掛けられる訳だし」
「それも考慮してはおりましたわね。最も、脱出の目処を立てるのが優先でしたから、その辺の話まではまだしておりませんでしたが」
琴姉の言う方法はそれこそ、最初に詩乃が発情状態の影響に気付いた時にも考えてたが、今の私らで移動しながら張れる結界だと、仕掛けを解除する毎に強度を増していく発情の概念を排除し続けるのは無理、と判断したのは事実なんだよな。
まあそれでもソレしか方法が無いってなれば、何とかするために修業するしか無かっただろうってのは想像が付くんだが……。
そうなるとある程度落ち着いているとは言え、発情による影響が完全に解消されている訳では無い詩乃に、少なからず精神的な変調なり体質の変化なりの後遺症が残る結果にはなっただろうな。
下手したらペルソナ自体にも何かしらの影響――別のペルソナに変化するなど――が出た能性も有るか?
「脱出の目処ねぇ……、見た感じ何か当てが有りそうな感じはするけど?」
「ついさっきまで仮説立てて議論してた感じ、琴音が入ってきた所を見た事で仮説の一つが有力になったから、後は発情のギミックが何とかなるならって所かな?」
「あ、裕奈、ソレについてだが確認する方法思い付いたから、ちょい行ってくるな」
「マジ? まあ大丈夫だろうけど気を付けてね~」
話が脱出方法に移ったところで、さっき琴姉が8番区画に入ってきてからの流れで思い付いた確認方法を試すため、一言断って浄化結界の外に出る。
煉気で霊力を循環させていても、じわじわと発情の状態異常が侵食してこようとする感覚を意識から振り払い、取り出した端末を動画撮影モードにしたら、メニューボードの前を通らない様に気を付けてボードの裏を撮影し、そのまま番号看板の前を通って区画を逆走して反対側から喫茶店っぽい建物の前に戻り、今度は反対側からメニューボードの裏を撮影する。
そうして推測した通りの映像が撮れたのを確認したら、今度はもう1つの確認のためにルールの書かれた張り紙に印を付けてから、区画を進む途中で仕掛けを1つ解除し、1番の看板に触れてメニューボードの前を通り2番区画へと進む。
その際にメニューボードの前を通る前の裏面撮影と、通った直後の裏面撮影、喫茶店の次の建物の前まで進んだ後に引き返し、もう一度メニューボードの前を通る前と後の裏面撮影をして、まだ2番の看板が表示されている建物の前まで移動すると、区画が切り替わった事で見えなくなっていた浄化結界と仲間達が現れる。
1番区画に戻った事を確認したら、最後にもう一度、最初の確認と同じくメニューボードの裏面を看板側と逆側から映して来て撮影を終了させ、様子を窺っていた皆の元へと戻る。
「お帰り~、どうだった?」
「観て貰えばわかるが、やっぱりループ構造自体と記載内容で誤認してたっぽいな」
「どれどれ……、あーなるほど、
「……? どう言う事?」
「詩乃さんが気絶していた頃に話していた仮説ですので、ピンと来なくても仕方在りませんわね」
「そんじゃ、8番区画のルールを改めて確認しながら説明するぞ」
・出入り口となるメニューボードの前を通過する者は、ゲームの参加に同意したものとする。
・参加者は、区画内にて仕掛けを発見し解除すること。
・仕掛けを解除したら、区画番号看板に触れてメニューボードの前を通過すること。
・上記2点を達成せずにメニューボードの前を通過すると、1番区画から再スタートとなる。
・区画内全ての仕掛けを解除した状態で、8番区画から出入り口となるメニューボードの前を通る事により、ゲームクリアとなる。
・区画内で器物破損が行われた場合、参加者へのペナルティとして懲罰執行者が召喚される。
「張り紙に書かれてる内容で、8番まで進む条件については確認出来てるから問題無いな。んで、問題となるゲームクリアの条件だが、一行目と五行目の奴だけ〝出入り口となるメニューボード〟って記載になってるのが重要だったって話だな」
「そのまま読むならメニューボードが出入り口になっていて、私達もその認識で動いてた訳よね……と言う事は、メニューボードは2つある?」
「それがペリーヌの立てた仮説だったって所だね。そんで琴音が8番区画に強制参加させられたなら、起点のはずのメニューボードの前を過ぎた直後にはループ内に囚われてるはずだけど、私らが居る空間と繋がったのは喫茶店の前を過ぎて、次の建物の前に踏み込んでからだった」
「ふむ、つまりはメニューボードが置いてある喫茶店自体が出入り口の物と、この看板の隣に有る区画移動用の物の2つ存在していた訳で御座るか」
「正確には出入り口の喫茶店と、看板横の喫茶店、それから2番から7番区画の始点にある喫茶店の3種類ですわね。区画移動については看板に触れた後引き返して、看板とは逆側から通っても区画移動可能なのは確認しておりましたから、同じメニューボードと誤認してしまったのですが……」
ペリーヌが額に手を当てて、溜息を吐く様に誤認した原因の一端を呟く。
まあある意味盛大にミスしてしまったみたいなもんだしな……。
テーブルに置いた端末で再生している今し方撮影してきた動画では、ルールを再確認する為に剥がした事で、剥がした後が見えるメニューボードの裏を映した映像から始まり、区画を走って戻り逆側から喫茶店の前に到着し、メニューボードの裏が映る様にカメラを動かすと、ルールの張り紙がされている状態が確認出来る。
その後、2番区画へと移動してからの映像では、1番区画で付けた印が書かれていないルールの張り紙がされており、1番区画に戻った後、再度撮影した時には印が書かれたままになっているのが動画に映し出されていた。
動画としては移動時間や仕掛けの解除もあって十数分は経過しているが、逆に言えばその程度の時間で検証出来る内容だったと言う事。
つまりは、それぐらい簡単に確認出来たはずが物の見事にすっぽ抜けてたって事で、これに関しては詩乃以外の全員のミスではあるが、嘆いていても仕方ないから気持ちを切り替える。
「反省はすべきだがそれは拠点に戻ってからするとして、だ。8番区画のループ構造は恐らく、各区画のスタート地点となるメニューボードの置かれている喫茶店から、番号看板の隣にある同型の喫茶店までの範囲が1つの区画になっていて、看板横の喫茶店を空間的に重ねる様にスタート地点の喫茶店の上に被せる感じなんだろう。そんで、出入り口となる喫茶店は、通常だと1番区画のスタート地点にのみ存在して、8番区画で条件を満たす事で8番区画のスタート地点が1番区画のスタート地点に置き換わるんじゃねーかと思う」
「つまりは、1番から7番までの看板に触れてから前を通過する条件によって、最後も看板の前を通過してメニューボードの前を通る様に誘導してるって訳か。1番と2番のスタート地点で直ぐに別の場所と検証出来たって事は、気付くヒントはあったのに気付けなかったと煽るために態としてそうだねぇ。本気で閉じ込めるならそれこそ、1番のスタート地点も出入り口の喫茶店とは別にして、8番で条件を満たした時だけ出入り口の喫茶店と繋がる様にしても良いんだし」
「まあ結論すると、後一歩で盛大に煽られる失態を犯すところだったって訳だよねぇ。ぶっちゃけ琴音が来てくれてなかったら、詩乃に後遺症残さず解決出来たかは怪しい所だっただろうし……」
「最悪一度死んでクリア後に蘇生と言うのも考えたで御座るが……、これだけの大仕掛けをしている相手となると、何かしらの対策もしていそうで御座るな」
「たぶんだけどNが造ったギミックだろうし、死んだ時点で魂を持っていくぐらいは仕込んでるだろうからやらなくて正解だろうね」
「嫌な信頼ね……」
「そりゃNだしねぇ……っとそれは兎も角、クリアの目処が立ったのは良いとして、次ぎペナルティで湧いてくるシャドウや悪魔に関してだけど、検証は何処までやってる感じ?」
三度目も失敗した理由が判明し、今度は大丈夫だろうと推測も出来た所で情報共有の続き、次ぎ……と言うか判明してる内容的に最後の情報になるんだが、ルールに記載されているペナルティとして出現する懲罰執行者、トラップが壊れた場合にも出現してくるシャドウや悪魔に話が移る。
「現状判明している事としましては、区画が進むに連れて出現レベルも上昇する事、壊れた量に応じて出現数も増える事、それから懲罰執行者の討伐と仕掛け以外の器物破損でも、発情の状態異常は積み込みされる事の3点は確定しておりますわね」
「後は未確定と言うか、具体的な数値とかが出せないから感覚的な話だけど、破壊規模でのレベル変化は恐らく無いだろうってのと、倒したり仕掛け以外を破壊した時の積み込み量は、仕掛けを解除した時より少ないっぽいって所かな~」
「ちなみに報告書用にまとめてる資料はこれな」
8番区画に関しては、脱出は出来ても破壊するのは私らじゃ無理だろうってのは最初からわかってたから、脱出方法を考察する為の情報整理を兼ねて、他にも似た様なギミックが有る可能性も考慮してまとめてたんで、それを琴姉にも渡しておく。
懲罰執行者関連の情報としては、区画が進む毎に出現するシャドウや悪魔のレベルが5前後上昇してた事から、ループに囚われた人数とかで上昇数が変動するのか、或いは元から5刻みでベースレベルが上昇して、乱数で上下に1つ2つブレる感じだろうと推測してるが、これは琴姉が加わって6人になったから、次ぎに進む時には確定出来そうだな。
そんで出現数に関してだが、一撃で大きく破壊しても、複数回に分けての攻撃で破壊しても、破壊した範囲が同じぐらいなら出現する懲罰執行者の数も同じで、区画が同じなら2つ3つの幅はあってもレベルが大きく離れた個体が出てくるってのは確認されてないため、壊れた量に比例する数が出現する感じで、出現数を減らしてその分強化した個体をってのは無いだろうってのが今の推測になる。
状態異常の積み込み量については、詩乃に変化が生じてから調べた範囲でだが、仕掛けの解除による増加が1番多く、懲罰執行者の討伐、器物破損の順で積み込み量は少なくなってる……と思う。
なお、積み込み量に関してが曖昧なのは、仕掛け解除による積み込み自体も有ると知ってなければ気付けないぐらいに隠蔽されており、その上積み込み量もそう多くは無いため、手持ちの道具や霊感だと増えているとはわかっても、具体的な数値を割り出せる程の精度が出せなかったからって所だな。
「ふむふむなる程ねぇ……。上手く対処出来ても8番目の仕掛けで周辺含めて破壊させて、40後半の懲罰執行者を湧かせて殺せれば良し、倒されてもレベルが50を超えたら強制退去で排除出来るから良しって所かな?」
「そんで懲罰執行者を警戒して破壊させない様に動くなら、その分のリソースを吐かせられるし、解除での積み込みも進むって感じだろうと推測してるぜ」
「後は発情の状態異常を積み込んでいる事を考えますと、程好くレベルを上げさせて良質な生贄を作る為のギミック、と言う線も想定の1つですわね」
「そこそこレベルが上がり易いペルソナ使いだけど、囚われた時は10前半だった詩乃がもう20を超えたもんねぇ」
「ペルソナ使いでも精神的な成長が出来なければ30の壁で止まるのを考えると、8番辺りで出現する懲罰執行者を倒せず何度もループする可能性も有るで御座るな」
「情報を並べると、生贄作成用の罠って思えてきて嫌になるわね……」
「逆に言えば、発情の状態異常積み込みをどうにか出来れば良い感じの修業場に出来そうだよね」
「そう言う所、琴姉も師匠と似てるよなぁ……っと、今んとこ私らで調べられた情報はこんな感じだな」
「オケオケ、どうやら私が引き寄せられたのは後一手足りない所を補う為って感じだね。いくつか追加で検証して、行けそうなら脱出って感じかな」
「具体的にどうするんですの?」
「それはね――」
そうして琴姉の提案する方法を聞き追加の検証に動き出す。
恐らくは大丈夫だろうと思うが、少なくとも詩乃に後遺症が残る様な事態になる前に脱出したいところだな……。