【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
ギミックの糸口が見つかれば解析も攻略も進むもので、8番区画を使った集中鍛練の翌日には、鏡像世界と表側を往き来する方法を発見するに至ったのだが……。
『ギミック解除が進むと、表側にも鏡像世界と同じ侵入制限が発生するとはねぇ~』
『関連はしていても繋がっていない2カ所が繋がったから、と考えれば理解も出来ますけどね。ともあれ攻略のステージが次ぎに進んだ感じですし、探索はより慎重に行かないとですね』
『……1つ言わせて貰って良いかしら?』
『どうしました?』
『町中をバイクで爆走しながら慎重にとか言われても説得力皆無だと思うんだけど?!』
『いやいや、これでも不用意にギミックを踏まない様、慎重に調査しながら進んでますよ?』
ヘルメットに内蔵したCキューブ経由の通信で、私と同じくバイクを走らせてる琴音と話してる所に詩乃のツッコミが響いた直後、進行方向に【怪異 インスマス】の一団が道を塞ぐ様に現れたため、適当に跳ね飛ばし轢き殺しながら話を続ける。
『師匠がそう言うんならそうなんだろうが、私としちゃ付いてくのがやっとな感じなんだが?』
『慎重さを捨てるなら道に沿って走らせずに、地形破壊しながら進みますよ。レベル制限されてるので十全に対処仕切れるか怪しいからしませんが』
『だよね~。よっぽど変なギミックでも無ければ概念ごと破壊して行くのが早いんだけど、今までの調査結果からその辺の対策もされてるっぽいし、ちょっと面倒だけど周辺破壊は最小限に抑えないとね……っと、目標確認したから回収してくる』
『わかりました! 大丈夫だとは思いますがお気を付けて、瑞樹さん次はビル街の様な所です』
『ビル街の様な地形となると……こっちですね』
【怪異 インスマス】を蹴散らした所で、どうやら【怪異 インスマス】も私達と同じ場所を目指していたのか、現在拠点の車毎鏡像世界を走り回る羽目になった理由でもある目標を琴音が発見、回収へと向かう。
なお、目標を発見して琴音が単独で回収に向かうのは、いちいち全員で向かっていると回収が間に合わないぐらい、あちこちに目標が散らばっているのと、かなみちゃんのレベルが上がった事でペルソナ能力が向上し、特に時間的猶予の無い目標を的確に見つけ出せるからだけど、最大の理由は、今の鏡像世界では1カ所に長く留まる事が出来なくなってるから、と言う物。
そもそも何故、鏡像世界の町中を拠点の車毎移動するはめになったのかと言うと、発端は表側と往き来可能になるギミックを解除して、フロアの攻略が次の段階に進んだ事だろう。
ギミックの発見と解除法の特定は昨日の内に終わっていたけど、時間的にそろそろ夕食時って事から、表側の調査をしている承太郎ニキ達とも連絡を取り合って、状況変化への対応も考えて解除は今日の朝に決まり、昨日の探索は終了。
そして少し前に、ギミックの解除自体は問題無く完了した……のだが、直接往き来出来なかった状態からの変化は、予想通り表側、鏡像世界側の双方で発生した訳で。
今のところ掲示板に上がってる情報では、表側でも鏡像世界と同じ侵入条件が適用されたらしいのと、ダゴンやイタカなどの邪神種族の悪魔が何体も出現しているとの事。
まあ大扉を開くために、守護者に当たる邪神を喚び出す必要があるってのは調査によりわかっていたため、邪神が出て来た事自体は驚きと言う訳では無いし、出て来た邪神の種類も、鏡像世界で発見されてた【怪異 インスマス】や【邪鬼 ウェンディゴ】などを考えると、納得する所。
後は状況変化後の調査で、表側に転移ギミックが追加されていて、邪神がギミックを使って〝メメントス内の各地にランダム転移する様になった〟と言う追加情報が無ければ、問題無いと言えたんですけどね……。
一方で鏡像世界側の方だけど、良いのか悪いのか、懸念していた侵入条件には変化が無く、表側みたいに邪神が出現する様になった訳でも無かったため、変化の調査から始めようかとしてた所、唐突に鏡像世界側で起きた変化の一端を知ることになる。
それは、拠点として使っている車自体に掛かっている物とは別に、拠点としている地点の安全確保として【エストマ】を初めとした隠蔽や隔離の結界を展開しているのだが、その時は結界など無いかの様にシャドウや悪魔達が素通りし、警報系の結界も反応せず、車が攻撃された後にようやく事態に気付いたと言う有様だった。
幸いなのは、防御系の結界まで無効化される訳では無い様で、攻撃による被害自体は無かった事か。
ともあれセーフティエリアの構築が出来なくなった訳で、それだけなら防衛陣地を作って迎撃すると言うのも考えはしたのだけど、其処でもう一つの変化が定点防衛の考えを捨てる事に繋がる。
そのもう一つの要因と言うのが、かなみちゃんのペルソナ能力による目標探索と回収が必要な事態である、巻き込まれた一般人の急増だった。
電脳異界とマヨナカテレビやメメントスなどの認知異界を接続し、現実世界側では五島陸将のクーデター宣言により終末のカウントダウンが始まった後の頃、現実世界側でGPが急激に増加した影響か、認知異界に適性の有る一般人が落ちてくる事が増えたのは、琴音達もその巻き込まれの一環で鏡像世界に落ちた事から周知の話。
私達が探索を始めてから今朝までに置いても、数人は巻き込まれた一般人を保護する事はあったんだけど、それが車が襲撃される前後ぐらいから急に十数人単位で発生すれば、攻略が次の段階に進んだ影響と考えるのは当然の事だろう。
実際、近場で確認した反応の場所は、潮の香りがする区画の中でも、黒い子山羊の転移陣を見つけた広場みたいな、何かの儀式が可能だろうと探査結果の出ていた場所の近くだった訳で、とりあえず現場へ急行するために転移しようとした際、鏡像世界内での転移が出来なくなっている事が判明する。
まあ十中八九フロアギミックの追加による物だろうと推測し、直ぐさま拠点の車で現場へ向かう方針に変更して現場へ急行すると、見つけたのは巻き込まれた未覚醒の男性。
とりあえず回収してから改めて調査をしようかと考えていた所、どうやら落ちてきた時点で既に錯乱していた様子で、こちらを美人局か人攫いの類いと決めつけて逃げ出し、止める間もなく自ら生贄の祭壇へと突入してしまうと言うアクシデントが発生。
結果としてでは有るけれど、尊い(かどうかは微妙な)1人の犠牲によって、鏡像世界で生贄の儀式が行われる事により、表側で邪神が1体召喚される事が判明する。
こうした状況の変化から、拠点の車毎移動して巻き込まれた一般人が生贄になる前に回収し、このフロア自体の攻略を急ぐ事になったと言うのが、現状までの経緯になる。
『それにしても、師匠ってバイクとか持ってたんだな。普段から直接目的地に転移してると思ってたぜ』
『転移出来る様になってからは、基本転移で動いてますから間違って無いですね。まあ、バイクはキノとツーリングする為に用意した趣味関連ですが』
『ああなるほど、琴姉もバイク持ってたのはそう言う事か。持ってる理由は納得……なんだが、なんで
『一緒に旅するなら排気量はある程度合わせた方が良いかとなりまして、それでどうせならとあるテレビ企画のカブの旅みたいに、スーパーカブにしようと琴音が言い出したからですね。式神バイクなキノのエミールに合わせてだいぶ改造する事になりましたが……』
『あらゆる蛮用に耐えるスーパーカブって、認知世界的にかなり優秀なバイクだし*1、良い選択したって思うんだけど? あ、回収終わってそろそろ合流するよ~』
『ほいほい、受け入れの方は準備しとくぜ。それはそれとして、師匠がスーパーカブに乗ってシャドウや悪魔を跳ね飛ばす姿がすんごいシュールなんだが?』
マリッサのぼやきを笑って流し、見た目はスーパーカブだけど、色々と魔改造した結果中身はほぼ別物と化してるバイクを走らせ、次の目的地へと向かう。
ちなみに改造内容としては、外から見える部分を霊力の籠もった鋼鉄へと変化させ、悪魔を轢き逃げ出来る様に、衝突時に【テトラカーン】を元にした攻勢結界を展開する仕組みや、強度の上昇に自動修復などを付けており、一応は一般道も走れる様に見た目だけは変えておらず、ナンバープレートも取得してたりする。
一方、外からは見えない内部構造の方は大きく変えており、特にエンジンは耐熱性と火炎制御能力に優れる緋焔合金木*2を使い、ドラッグレース用車両並の加速と最高速度を叩き出す事も可能になっているが、五行の循環と増幅を用いる事で、例えサラダ油だろうとガソリン並の燃焼力を維持し、スペックを発揮可能になっている。
まあエンジン出力を上げた事で、フレームやギアなんかも外から見えにくい所は高品質な霊能素材に置き換えてるため、一台当たりに掛けた費用は下手な高級車の数倍ではきかないレベルの値段になっていたり。
なお、琴音の使ってるバイクも当然同じ改造を施しているため、要回収者を荷台に載せてても合流するのにさほど時間は掛からず、通話が聞こえた直ぐ後には車の横に付け、走行中のまま開けられたスライドドアから受け渡しを完了する。
『瑞樹、そこそこ走り回って回収して来た感じだけど、攻略の方はどんな感じ?』
『状況変化後の探索も進んで、推測もだいぶ確証に近付いて来た感じですかね。とりあえず大扉を開けてフロアの攻略を完了させるには、鏡像世界と表側とで同時に邪神を倒す必要が有るってのは確定と見て良いですね』
『やっぱ邪神の召喚もこっちでしないと行けないか……。てことは、表の方で今召喚されてるのとは別の邪神が必要って事だよね?』
『そうなりますね。鏡像世界で生贄召喚された邪神が表側に出現してる事から考えて、恐らく鏡像世界で倒す邪神は表側から召喚する形だと思われますし、今は承太郎ニキ達が
報告待ちとは言え、鏡像世界側では黒い子山羊を使って起動する転移陣って有力候補があるため、そう遠くないうちに探索結果も上がってくると思う。
まあ鏡合わせの2つのフロアと邪神の召喚ギミックって要素から、大扉の守護者は二面性のある邪神では無いか? と推測はしていたため、表側に出現報告のある邪神の中に〝シュブ=ニグラス〟が居ない時点で、大扉の守護者は女神の側面としてのシュブ=ニグラスと、男神としての側面であるパンの大神だろうと予想してはいるのだけれども。
問題は表側と鏡像世界側のどちらに、どの側面を召喚する必要が有るのかと言う所。
間違った方を召喚して倒して徒労になるってだけなら良いのだけど、ニャルが何かしら干渉してるのが確定してるフロアのギミックで、あからさまな失敗に致命的なペナルティが無いなどと考えるのは、楽観が過ぎますからねぇ……。
『つまりはまだしばらく回収と調査が続くって訳か。そんじゃ次の先導は変わるから、回収の方よろしく~』
『確かにそろそろビル街ですね――っと、確か別動班の1つもこの辺に居たと思いますが、位置はどうなってますか?』
『は~い、こちら管制室! 本隊が向かってるビル街より向こう側と思われる反応を回収して、こっちに向かってるってさ』
元気よく返事を返してくれたのは、現在鏡像世界に散らばり、巻き込まれた一般人の回収や調査に当たってる各班の連絡を取り纏めてる管制室で、オペレーターをしてくれている美砂。
他にも麻帆良堂の面々が管制室で情報処理に当たっており、かなみちゃんが感知した一般人の居場所を地図上に記入して各班に共有するなど、裏方作業を担当してくれている。
ちなみにカズマと誠君の2人については、詩乃みたいに車の護衛向きと言う訳では無いため、他の班に混じって探索に出ているし、私の木分身も他四体それぞれで調査や救助をしており、鏡像世界に居る人員総出で攻略を加速させているってのが、現状と言った所だろうか。
『なるほど、では近くの要救助者を回収したらそちらの班に預けて、私は1つ孤立してる反応の方へ向かいますか。琴音は別動班から受け取ったら、次の反応が多い方に向かって下さい』
『んーそれは良いんだけど、美砂、今保護に向かえてない所ってある?』
『保護状況? ちょっと待ってね~……、今かなみちゃんが感知出来てる範囲だと、瑞樹さんが今言った地点以外は保護済みか、近くの班が向かってるね。かなみちゃんの方はどう?』
『今のところ新しく落ちてきた人は居ないと思います。表側の方まではわからないですけど……』
『表の方は表担当が対応するから気にしなくて良いよ。って事で、別動班を回収したら孤立してる人の所までこのまま向かおっか』
何か感じるところがあったのか琴音が状況を確認すると、今感知出来ている要救助者にはそれぞれ対応人員が向かっているとの事で、私1人で向かう予定を変更し、要救助者を保護してる班も回収してから向かう事に。
一先ず本隊に先行して近くの要救助者の保護に向かい、勝手に生贄になられても困るため軽く【ドルミナー】を掛けて荷台に載せ、回収完了。
少し進んで別動班も車に乗り込んだら、鏡像世界でも端の方に落ちてしまった要救助者の元へと走らせる。
目的の場所は自然公園にも見える木々の生い茂った森で、遊歩道などの一部に人工物があるだけと言った空間になっている。
ちなみに、黒い子山羊の死体で起動する転移陣の移動先がこの森で、何かあるかと調査しても、転移して行ったはずの黒い子山羊すらも見つかっていない場所だったりする。
「さてさて、巻き込まれた要救助者の保護はサクッと終わった訳だけど、段階が進んだ後にココの調査ってしてたよね?」
「転移陣の移動先ですから、真っ先に調べて変化無しと報告が上がってますね。まあ表側で解除したギミックの影響が鏡像世界に出るのは確認されてますから、調査後に何かしらのギミックを解除する事になった可能性は否定出来ませんね。今も絶賛ボスラッシュ中ですし」
「これだけわかり易い変化を見逃す方が無理だしなぁ……水鏡って言うんだっけか?」
「水面に映った姿が男になってるから、普通の水鏡じゃないのも確定だけどね~。これ単純に鏡映しの性別が映るって訳じゃ無いよね?」
「さっき合流した別動班の男性に確認して貰いましたが、普通に自身の姿が映ったそうですから、鏡像世界側から見ると男性の姿が映ると考えた方が良さそうですね」
「と言う事は、表側に同じ水鏡が有るとして、其処を覗き込むと女性の姿が映ると推測出来る訳ですのね」
「つまり表側は男神、鏡側は女神の領分になってるのがフロア全体の性質って事か。とりあえず攻略掲示板に情報流して、表側でも一応確認して貰うとして、こっちはシュブ=ニグラスを召喚する準備に取り掛かっとく?」
「そうですね……どの道両方とも喚び出す必要はありますから、両方の触媒は用意するとして、儀式場は此処になるでしょうから私は残った方が良いですし、琴音は本隊として各班を回収しながら大扉に向かう感じでお願いします」
「オッケー任された。そんじゃマリッサは引き続き車の運転お願いね!」
「へいへい、運転するのは良いがスピード出し過ぎ無いでくれよ? ギミック避けながらだから付いてくのも大変なんだし」
表側でどんなギミックを解除したのかは不明だけど、少し前に森を調査した時には確実に無かった石畳の広場と、その中央にある水鏡と呼べる程静謐な水面を湛える泉の発見により、メメントスの奥へ向かう道を塞ぐフロアの攻略も、いよいよ終わりが見えてきたと言った所だろうか。
琴音達が次ぎへと向かうのを見送り、私の方も大詰めに向けた作業へと取り掛かる事にする。
「差し当たっては、この広場と生贄候補がこの近くに落とされた理由の調査からですかね……」