【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
鏡像世界の都市風景からは不釣り合いな程に巨大な大扉の前広場。
広さ的には学校のグラウンド2つ分ぐらいはありそうな石畳の広場で、即席の陣地設営が急ピッチで進む。
いつもならこう言う時、裏方を一手に引き受けてくれる瑞樹はボスを喚び出すために別行動中で、綴さんマヨナカテレビの方の助っ人に行ってて、更には式神のアイギスも側に居ないって状況は凄く久しぶりだけど、私独りで対処しないといけないって状況じゃ無いだけ、今回巻き込まれた事態はまだマシな部類かな?
「琴音! 障壁関連の設置終わったよ!」
「オッケー、こっちも準備は終わってるし間に合ったかな。来るよ!」
状況がようやく大詰めに入ろうかって段階になったからか、ふと浮かんで来た思いを頭の片隅に放り投げ、ざっと全体へと視線を巡らせる。
鏡像世界に落ちてからずっと拠点として活躍してくれた車を中心に、後衛や支援メンバー用の防衛陣地がどうにか出来上がったのを確認し、自身を含めて準備が終わっているのを確認した直ぐ後、大きな力が広場に流れ込むのを感じ取る。
流れ込んだ力が集まり現れたのは、巨大な雲にも見える肉塊とそれから伸びる黒い触手、そしてその巨体からは不釣り合いな程に短い、黒い蹄を持つ足が生えており、肉塊を割り開いた様な巨大な口からは粘液がしたたり落ちると言う、正しく醜悪な邪神の姿。
顕現した影響により、周囲のマグネタイトが波打ち衝撃の様に広がるのを追いかける様に、巨大な口から轟く咆吼に合わせて世界が塗り変わっていく。
「このレベルのボスだし領域ぐらいは普通に使ってくるか、かなみちゃんは解析! 麻帆良堂の皆は概念防御に集中! 各チームは基本それぞれの判断で対処! 誠はカズマのサポートに集中して、カズマは私と一緒に突っ込むよ!」
「よっしゃぁ! ケンカだケンカ!」
「それじゃいつも通り耐性ノックしてくぞ~」
「情報処理班は共有チャットの確認も怠るなよ? 不意の呟きが状況打開の鍵になるなんてのは良くある事だからな」
領域内に広がるのは黒い子山羊の集団か、或いは黒く枯れた樹木の森にも見える一本一本がシュブ=ニグラスの触手なのか。
その真偽は不明でも、周囲全てが敵と言う事に変わりはないため、解析などは担当に任せて小手調べに回る。
ボス戦のチーム分けで私が関わってる範囲としては、経験が少ないけど能力的に前線に出る必要の有るカズマと誠を私がフォローして、ナビ型のかなみちゃんは後衛の陣地で情報収集班と一緒に解析をして貰い、それが終わり次第サポートへ回って貰う。
遠距離狙撃が可能な詩乃はマリッサ達弟子組とチームを組ませて、麻帆良堂の皆は適性的に防御系や遠距離系の方が向いてるため、陣地の維持を最優先にしつつ後は臨機応変に対応させる感じに。
それ以外の参加者については、チームを組んで鏡像世界の攻略に来てる訳だし、細かく指示するよりそれぞれのやり方で戦う方が上手く回るだろうから基本は放置。
情報共有だけ確りしていれば、致命的な失敗を避ける事も出来るだろうしね。
ともあれ早速と各チームからの攻撃が飛び、私達も深追いしない程度に攻撃を始めた一方、シュブ=ニグラスの方もただ攻撃を受けるだけな訳も無く、肉塊から生える黒い触手が振り回されては、地面が抉れる程の威力で叩き付けたり薙ぎ払われ、巨大な口からは【溶解ブレス】*1や【ブレインジャック】*2などが放たれ、デバフや状態異常を積み込んでくる。
耐性ノックの結果としては、属性攻撃は万能も含めた全てを反射、代わりに物理属性は全て弱点*3と、わかり易い耐性をしていると判明。
直ぐさま物理系攻撃が得意な人員を主軸に、膨大なボスの体力を削る連携の構築に取り掛かる。
「う~む、
『戦闘中の男性各員に通達! コードW! 繰り返すコードW! 音の発生源に気を付けろ!』
「――何事?! ってアレか……」
「うげっ、誠! 周囲にはいねぇよな?!」
「目撃情報は反対側だから、今のところ大丈夫!」
シュブ=ニグラスとの戦闘自体は想定して対策してたのもあり、耐性を確認したら弱点属性を中心に攻め、バフとデバフを切らさず連携した事で特に問題無く進んでいたんだけど、想定外だったのは眷属以外の悪魔やシャドウが領域内に入り込んでも、シュブ=ニグラスが排除しなかった事。
普通は眷属以外が入り込めば、取り込んで養分にでもするものだけど、人間の排除を優先する仕様にでもなってるかの様に、協力して襲い掛かって来たのは誤算だったかな。
そんで
「げっ! こっちに吹き飛ばされてきてんぞ!?」
「あちゃー
「はい!」
「マジかよ!?」
コードWこと男性機能絶対殺すキャット、【怪異 くるみ割り猫】も戦場に乱入してくるって訳で……。
鏡像世界にそう言う悪魔が出現するって情報が流れてからは、探索するチームの男性比率が露骨に変わるぐらいには恐れられている存在が襲い掛かってくれば、上手く回っていた連携が崩れるのも仕方無い話か。
兎も角、連携の立て直しと【怪異 くるみ割り猫】の対処――既に襲撃してきてる分の撃破と乱入阻止――が必要って事で、シュブ=ニグラスへの攻撃は男性陣に任せ、
「末代まで祟るにゃんてまどろっこしいにゃっ! 【秘拳
「うおぉぉっ! 潰されてたまるかぁっ!」
「ナイスデコイッ! 【ブレイブザッパー】*5!」
「ニャギャァァッ――」
「よっし一撃! このまま立て直すまで私らで狩るよ!」
「マジで言ってんのかそれ!?」
こっちに吹き飛ばされてきた男性は誠が担いで行き、追撃で追ってきたくるみ割り猫を速攻で倒したら、わめくカズマの襟首掴んで走り出す。
そんで情報共有用のチャットから今戦場に乱入してきてる個体の場所を確認して、順次倒して回る間に女性を中心としたくるみ割り猫対処チームを結成。
何とか乱入に対して処理対応が追いつく様になり、誠君とも合流してシュブ=ニグラスへの攻撃に戻る。
「抹殺のぉラスト・ブリットォ!!」
気合いを込めてカズマが叫ぶのに合わせて、ペルソナ発動と同時にカズマの背中に構築される3枚羽根の最後の1つが分解され、羽根が砕けていくのに合わせてカズマが急加速してシュブ=ニグラスに右ストレートを叩き込む。
現在のカズマが放てる最大の一撃がどれほどだったかを物語る様に、レベル差が倍近く有るにも関わらず、その一撃は重々しい衝撃音を放ちシュブ=ニグラスを怯ませる。
なおこの技については、瑞樹が原作持ちなカズマの元ネタを参考に、長時間発動出来ない分の余剰出力を3回の攻撃に集約させた〝
ちなみにこの〝
まあレベルが上がったのと丸1日瑞樹が指導したとは言っても、ペルソナ使いになってからの日が浅い分、ペルソナを発動しておける持久力はまだまだだし、だからこそ一点特化に仕上げたって事なんだろうけどね。
カズマの気質的にボス戦で大人しく裏方に回ったりしないだろうし、半端な能力で突っ込まれるぐらいなら、一撃だけでも十分に通用する技を持たせた方が良いって判断した感じかな?
実際戦闘センスはかなりのモノで、ペルソナの発動限界を見極めてラスト・ブリットを確りと当てて、再発動可能になるまで退避しながら回復してってサイクルをきっちり熟してる訳だし。
「さて……と、途中でちょっとしたトラブルはあったけど削りは順調だったし、ボス属性持ってるとは言っても高位分霊って訳でもないから、どんでん返しの可能性は低いしそろそろ倒しきれると思うんだけど……どうなるかな?」
カズマの一撃でシュブ=ニグラスが怯んだ所に、弱点属性攻撃を重ねてダウン取る事に成功したら、他チームと協力しての総攻撃。
戦闘開始からそこそこの時間も経過してるし、そろそろ削り切れるかとの推測は当たってた様で、脈動する肉塊も蠢く黒い触手も動きを止め、シュブ=ニグラスの巨体がマグネタイトへと分解され始めるが――
「やっぱり普通に倒すだけでクリアとは行かないか。総員警戒! まだ終わってないよ!」
分解されたマグネタイトが1カ所に集合し、今倒したばかりのシュブ=ニグラスが再び顕現する。
感じる力的に、ボスとしての能力には恐らく変化無し、一度倒した時点で周辺に何かしらの変化が起きた感じも無いから、ボスとして喚び出す邪神の選択にも間違いはなかったと思って良いはず。
問題は復活させずに倒しきる条件だけど……その辺は解析班の情報待ちかな?
掲示板の方にも軽く目を通した感じ、表側もこっちと同じく復活したらしく、掲示板に上がってきた情報から色々推測してるみたいだし、しばらくは無理せずに殴り続ける感じになりそうだね。
『情報処理班から全体連絡! 表側のボスも同様の復活を確認、観測情報から撃破には特定の手順が必要と推測されるため、調査を兼ねて同時撃破を試すとの事!』
「聞いたね! ボスの体力は前回である程度把握してるだろうし、勢い余って倒さない様に注意して削るよ!」
復活したシュブ=ニグラスの体力を再度削って、そろそろ半分に届くだろうかと言った頃合いで、情報処理班からの全体念話が聞こえてくる。
レベル制限してる上に現場指揮しながら攻撃までしてると、流石に掲示板やチャットを頻繁に確認する余裕が無かったけど、やっぱり表側の方のボスも復活するギミックがあった様子。
ちょっと攻撃を控えて情報の方を確認してみると、瑞樹が情報解析に回ってるみたいだし、後2・3回も倒せば突破口も見えてくるかな?
後はチャットに流れてる情報だと、シュブ=ニグラスの復活後から
「復活回数での強化ってのは普通に有り得る話だし、ボス本体が強くなったり今以上にタフになる可能性も考えとくべきかな」
「え、更にボスが強くなる可能性まで有るんですか? こっちとしては、今でもカズマの援護で一杯一杯なんですけど……?」
「ギミック系のボスだと割とあるよ。条件さえ達成出来れば簡単に倒せる代わりに、対処を間違えた分だけ強化される能力とかね」
「そんなのゲームの中だけにして欲しいですね……」
二度目の削りだけに、シュブ=ニグラスが振り回す触手や吐き出すブレスなどの対処も危なげなく、攻撃担当全体としても余裕が見える程だし、私はカズマとかのレベル差が大きい一部のフォローをしつつ、観察の方に回る事にして、全体を見渡せてフォローに入れる位置に移動する。
しばらくそうしてボスの体力を削る様子を見ていると、どうにも明確な言葉に出来ない、違和感と言うか何か思い違いしている様な感覚を感じ、意見を求めてチャットに情報を投げる。
ハム子:瑞樹、ボスを削った時の反応で何か変化とかある?
探求者:攻撃時の反応の変化ですか? 表と鏡像の両方で解析してますけど、今のところそれらしい情報は入ってきてませんね。木分身の1体で攻撃してみましたけど、手応えなども変化は無かったですし
ハム子:んー……、気になったのは自分で攻撃した時じゃ無くて、他のチームが攻撃してた時なんだけど……、上手く言葉に出来ない感じなんだよねぇ……
探求者:ふむ……琴音が攻撃した時には感じ無かった違和感って事ですか?
ハム子:ちょっと待ってね
チャットに書き込んでから、シュブ=ニグラスの残り体力予想や攻撃班の連携状況を確認して、程々の一撃を加えて見るけど、さっき感じた違和感的な物は発生せず、普通に触手の一本を叩き切っただけで終わる。
確認は終わったって事で、さっさと距離を離して次の攻撃のために場所を空けて戻る途中、連続して攻撃が降り注ぐ中で再度妙な感覚を感じ取る。
ハム子:自分で攻撃した時には何も感じ無かったね。でも、その直後に私が攻撃した所に当たった複数の攻撃から、妙な感じがしたから何かあるのは確かだと思う
探求者:琴音が攻撃した直後に同じ場所へ攻撃したチームですね? ちょっと調べて見ます
とりあえず後の調査は瑞樹に任せれば良いとして、そうこうしてるウチにシュブ=ニグラスの体力もだいぶ削れた様子。
掲示板の方を確認すると、今は表側と攻撃タイミングを合わせる準備段階で、総攻撃にはもう少し時間が掛かりそうな感じだし、攻撃は自然回復分を削る程度に抑えて、大火力で一気にトドメまで行ける様に準備を呼びかけておく。
「一気に削る大技は必要だけど、まだまだ先は長いだろうから、消耗し過ぎない程度の技に抑える様にね!」
「あいよ! 聞いたなお前ら! 程々に全力でぶちかますぞ!」
「おいおい、男ならいつも全力でケンカするもんだろ!」
「カズマみたいに自前の分だけで最大火力出せるならそれで良いけど、僕みたいに消耗品が必要だと回数制限があるんだからね?!」
まあ一部にはそんなの関係無いって感じで全力出してるのも居るけど、バテたなら陣地の方に放り込むだけだから放っておく事にして待つことしばらく、指揮所代わりにもなってる情報処理班からの合図に合わせ、2回目のボス撃破を達成する。
1回目と同じ様に地面へと倒れ込むシュブ=ニグラスがマグネタイトに分解され、再び集まって3回目の顕現が行われたのを確認した所で、さっきまでに何度か感じた妙な感覚とは違う変化を感じ、原因を探るよりも前に言葉が口をついて飛び出す。
「総員防御態勢! デカいの来るよ!!」
警告を発して自分も防御を固めた直後、最初の顕現で咆吼を上げながら領域を展開した時よりも更に強烈な衝撃と精神汚染が広がるのを感じつつ、2回目の時に
どうやら復活する度に強化されるのは確定で、何が強化されるのかや強化度合いに変化があるのかなど、気になる所は幾つも有るけど、確かなことは不用意に何度も復活させると倒す事も難しくなりそうって所だよね……。
「強化内容が条件で固定されてたり、ランダムの可能性なんかも有るから確定的な事は言えないけど、許容出来る復活回数は5回か6回って所……かな?」
フロア攻略のレイドボス戦も前哨戦はそろそろ終わり、次は攻略法を見つけるのが先か、手に負えなくなるほどボスが強化されるのが先かの耐久戦って所だろうか。
まあ何にせよ、まずは今の衝撃波に載せて放たれた精神汚染の被害状況確認と、治療や攻撃サイクルの立て直しからだね……。