【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「夏と言えば盛りだくさんのイベント! なんて思えてたのがもう、遠い昔のように感じるよねぇ~」
「何だかんだで、体感時間だと1年以上になるもんねぇ、覚醒してから」
「美砂と桜子も喋るのは良いけど手は止めない! イベント時間迫ってるんだからね!」
「「はいは~い」」
10月末頃に起きたクーデター宣言により私達の日常が終わりを迎えて、友達と言う程親しくは無かったけど、それでも見知ったクラスメイトを含めた大勢が穢教鳥に連れ去られたあの日。
詩乃が受けた仕打ちを考えると幸いとは言いにくいけど、不幸中の幸いでどうにか助けられた部活の後輩を連れて、道中に見かけた穢教鳥などの悪魔を倒しつつ、東京を脱出しようと車を走らせたはずが、ひょんな事からメメントスって認知異界に落ちる事になったあの時。
結果的には、東京を脱出する目的だった詩乃のお母さんの安否確認も出来たし、私達が動いたことで詩乃と他数人を助けられたから、少なくとも無駄にはならなかったとは思うところ。
だけど、それでも考えるのは私達の弱さというか、覚醒した霊能者とは言っても駆け出しの冒険者みたいな物で、まだまだ色々と足りてないのを突きつけられた様な感じもした出来事。
それからは本格的に修業する様になって、霊能者の先輩であるマリッサやペリーヌ、私達と同じくペルソナ使いでは無い2人にも、色々と指導して貰った日々を思い返す。
体感だともう1年程――9月の頭にダイオラマ魔法球内で1、2ヶ月間、TRPGのキャンペーンセッションをしてたのを含む――時間が経ってる様に感じる所為で、夏が来た事に違和感は無い反面、現実ではまだ10月が終わってない事に現実感を感じられない。
まあ電脳異界なんて非現実空間で時間加速してる訳だから、現実感が無いのは正しいんだろうけどね~。
「円~、瑞樹さんから今日のラッキーアイテムってコレ、渡されたんだけど……」
「何それ貝殻?」
「一緒に渡された取説には〝ミュージックシェル〟*1って名前の音楽再生宝貝って書いとるね」
「へぇ~音楽系のなのね……ってコレ、呪歌や呪曲をそのまま保存して何度でも再生出来るって書いてるんだけど?」
「〝権能クラスの再現は出来ないので注意〟とか書いてるけど、そんなの出来る方が少ないんだから、問題点にもならないってナイちゃん思うんだよね~」
「そんな宝貝を10個も渡されてどうしろと……?」
「まあ普通に考えて、可能な限り環境を整えた私らの演奏を保存して持っていけって事じゃ無い? ほら鏡像世界で瑞樹さんと演奏した後から、儀式としての演奏も教わったし」
「あ、ミュージックシェル同士を連結させて、メドレーみたいに流したりループさせたりも出来るみたいだね。もしかしなくても、これをバックに踊り系の儀式が必要になったりする……かも?」
「うっわ、否定出来ない……!」
再現された物とは思え無い夏の陽射しが差し込むラウンジで、アレコレ騒ぎながら進めているのは、近く開催される夏イベに参加する為の準備諸々。
なお、私達にも師匠として色々教えてくれてる瑞樹さんからは、自由参加で構わないとは言われてるんだけど、折角のイベントに参加しないなんてのは秒で却下して、どんな用意が必要かって意見を出し合ってるのが現状ってところ。
ちなみに自由参加って事から、詩乃や誠君に千景ちゃんはバカンスのみ、カズマはソロで参加してかなみちゃんが宝食島の方からサポートする感じ、裕奈達高弟組――弟子の数が増えた関係で、一応分けることにしたのだとか――の4人は、本筋の攻略を疎かには出来ないって事で、期間中に何日か参加する程度になるみたい。
その点私達麻帆良堂組は、メメントスやマヨナカテレビ関連だと間引きぐらいしか出来ないし、ペルソナ使い達と違ってドンドンレベルアップ出来る訳でも無いため、今回は夏イベに常駐するぐらいのつもりで準備してるって側面もある。
まあ1年間確りと修業してきた――割と主な要因は瑞樹さんや琴音達との【房中術】&【霊質強化術】のおかげかもだけど――結果として、私達もレベル30の壁を超える段階に来た訳だし、夏イベを通して次のステップに進むってのも目的の一つになるかな?
「とりあえず、いくつかの場面を想定して登録しておく感じで、ダンスに使える曲を気持ち多めにするって事で?」
「ナイちゃんもそれで良いと思うかな~。ほぼ間違い無く、この間渡された装備を使う事になるだろうし」
「アレ、かぁ……」
「亜子はやっぱりまだ抵抗有る感じ?」
「チアリーダーしてた3人は多少慣れてるだろうけど、やっぱり露出度高すぎない?!」
「豊穣や子孫繁栄を祈願する踊りの衣装をモデルにしたって話だし、扇情的なのはそう言う物と割切った方が良いと思うわよ?」
「里の豊穣祭だと外から男性呼んで、もっと露出の多い服で踊って誘ったりもするからね~」
「私以外の許容範囲広すぎ!?」
「ほらほら亜子も騒いでないでさっさと諦めなさい。それより曲目決める為にも、夏イベ内容のおさらいと予め用意しとく装備や消耗品の再確認するよ」
いつもの様に円が場を締めて、全員で見える様に大きく映し出してる夏イベの告知ページに目を向ける。
イベント開始は明後日の正午からだけど、バカンス用の宝食島は異界自体の開放が行われる明日の午前4時には移動可能。
協力型イベントの会場となる
そんで、讃命島での様子は宝食島からも観戦可能だけど、イベントの影響が宝食島側に出ない様に仕切られていて、宝食島側から態と干渉しようとしたら、ペナルティ付けて強制参加になるから注意する様にとの事。
他にも色々と禁止事項や罰則事項も書かれているし、利用規約への同意が異界に入る条件になってるから、知らない見てないは許されないため、色々準備が終わった後にもう一度皆で確認する様にしよう……うん。
まあこの辺の注意事項一度呼んでるからざっと流し読みして、一先ず現状用意した持ち込み品で問題になるのが無いのを確認したら、イベント内容に移る。
バカンス主体の宝食島関連は、参加者が現地で探す楽しみ要素としてほぼ情報無しのため飛ばすとして、協力型イベントの方で目を引くのは、島の内外に棲息する動植物の情報。
いくつかの例として挙げられているだけでも、大きさの基準が数メートル単位だったり、雨が降ると活発に動き出す草木だったりと、力を合わせて生き延びろと言わんばかりの内容だったりする訳で……。
「基本は協力してのサバイバルで、讃命島に滞在した時間が長い程、イベント終了後に配布される報酬量が多くなって、参加者全員の合計滞在時間に応じて報酬の質が上がる、と」
「それと島への出入りはいつでも可能だけど、収納バッグなどの大量に持ち運べる系統の道具は持ち込み禁止で、讃命島から素材などを持ち出す場合は、脱出ポイントを見つける必要があるってのも大事な所よね」
「ええ、収納系の
「まあ道具を使わずに術だけで収納空間を維持する、なんてのは無理だから術の事は置いとくとしても、中で作るのは挑戦した方が良いよね~、ナイちゃん達も瑞樹さんに色々作り方教わってる訳だし」
「持ち込める容量の目安は、バックパックで50L前後……大体登山でテント泊する人ぐらいの物資量になるかな?」
「普通の登山やったら兎も角、危険な動植物が居ると確定してる所に、その大きさのバックパック持っていくのはやっぱり躊躇うかなぁ……」
「歩くだけなら何とでもなるけど、戦う時は確実に邪魔になるし、走って逃げたり隠れたりにも影響するからねぇ。でも、作成チャレンジする為にも生産道具は必要だし、一発で成功出来るとは限らないから素材も出来るだけ持ち込みたいし、ある程度のリスクは仕方無いと割切るしか無いっしょ」
「そうそう、最初は多少の失敗も込みで持てるだけ持ち込むのが1番だと私は思うかな~。いっそ事前に呼びかけて、拠点とか作るぐらいやってみる?」
「「えっ?」」
改めてイベント告知内容を見ながら方針の再確認をしていると、持ち込む荷物量を減らすかリスク承知で最大量持って行くかって話の所に、桜子が思い付いた様に新しい意見を突っ込んでくる。
詳しく――と言っても桜子自身具体的なイメージが固まってる訳じゃないっぽいけど――聞いた所、瑞樹さんが昔に開発した装甲護符を使えば、一気に建物を造る事も出来るって事で、建物の設計図と装甲護符を維持するための動力として宝玉型五行器、それから現地で装甲護符を作成する用意が有れば、行けるのでは?と言った内容だった。
「確かに、可能か不可能かで言ったら可能だろうけど……」
「サバイバルイベントでそれやって良いのかな?」
「少なくとも禁止事項や罰則事項には書いてないから、拠点を造ったりイベント前から協力を呼びかけたりしても、咎められたりはしない……と思うわ」
「まあ心配ならプランを立てた所で瑞樹さんに見せて、問題が無いか確認して貰えば良いと思うよ~」
「これもイベントに全力で挑むためって言えば理解はしてくれるだろうし、主催者に事前確認するってだけなら問題も無いか。んじゃ急いで草案作って、可能かどうかだけでも聞きに行こうか!」
「「おー!」」
で、何か勢いで当初予定していた行動方針や準備をそっちのけにして、サバイバルと言うより戦争イベントの準備でもするのかって感じのプランが出来上がり、瑞樹さんに見せたところ一頻り楽しそうに笑った後、「皆さんのやりたい様にやって良いですよ」と言って、装甲護符のレシピカードや宝玉型五行器など色々と貸してくれる事になった。
そうなるともう後には引けない訳で、夏イベ初日のお祭り騒ぎって感じに企画公開した上で賛同者を募集して、人数を集める一方で高弟組などの生産系技術持ちに声を掛け、讃命島内での自給自足体勢構築に動き出す。
イベント開始前日に思い付いて動き出したのも有って、声掛けしたり事前準備したりにバタバタしたけど、手続き関係は瑠璃ちゃんが何とかしてくれたおかげで、忘れかけてたミュージックシェルへの録音作業の時間も何とか確保。
正直準備万端とは言えない感じになっちゃったけど、どうにかイベント開始目前には突入準備も終わり、讃命島への侵入が可能になると同時に乗り込んでいく。
異界に入って最初に感じたのはギラギラと照りつける太陽、そして輝くような白い砂浜に爽やかさすら感じる蒼い海。
高校最後の夏に遊びに行った海もそこそこ綺麗だったけど、流石に長年使われてきた観光地と、文字通りに新しく造られた島では綺麗さのレベルが違って、思わず見とれそうな光景が広がっていた。
正直しばらく眺めていたい気分だったけど、拠点構築の計画を立案した者としてボーッとしてる訳にもいかないため、ぐっとこらえて意識を切り替える。
まず最初の動きとしては、初日の動きに賛同してくれた人達と連絡を取り合い初期地点を確認、その後は拠点構築に適した場所を探すため、偵察向きの参加者を中心に讃命島の大まかな地形確認を進めていく。
「海からも色々来るって話だし、津波の1つや2つぐらいは来そうだから、海の近くは候補から外すとして……第1候補はあの山になるかな?」
「ここから見える範囲では、だね。一先ず飛行可能な組からの航空写真が送られてきてるから、位置関係確認して調査箇所を絞ろうか」
「いや~写真見たけど、想定以上に広いね~。私達が今居るのが島の北側で、ここから見えてる山は北に有る小山、位置的に見えないけど中央にはもう一回り大きな山があるし、第1候補はそっちになりそうだね~」
「北西は山岳地帯というか岩石地帯って感じの見た目、北の山から東方面は森が広がって、南東辺りからは草原地帯。南側は東よりも川の数が多く幅も広くなって、南西から西の方に行くとほぼ沼地と言う感じになってるな」
「普通に拠点構築するなら南東の草原の方が良さそうやけど、桜子が中央の山推しな理由って?」
「そうした方が良いって感じたのが1番の理由なんだけどね~。美砂が言った様に津波とかの可能性も有るし、それなら最初に手間は掛かっても、平地よりは高台に造った方が良いかなって」
「桜子の勘なら仕方無い、建物自体は装甲護符を展開するだけだから10分もあれば形になるし、まずは急いで中央の山に向かおうか。無理そうでもそこからなら他の候補地に行くのも間に合うだろうし」
桜子が根拠も無くそうした方が良いと感じた時は、悪手に見えてもそれを選ぶのが結果的に1番良い、ってのが私らの間での共通認識な訳で、無駄な議論をせずさっさと第1候補を決定したら、他の参加者を納得させられるだけの理由探しも兼ねて、中央の山へと急いで向かう。
ちなみに説得材料が要らないマリッサ達には、先に桜子の予感を伝えて中央の山に向かって貰い、事前調査をお願いしておいたんだけど、どうやらマリッサ達経由で業界歴の長いベテラン勢にも話が行った様で、事前に協力を取り付けた人数以上に集まりそうな感じらしい。
マリッサが言うには、讃命島に入ってからの肌感覚で何か起きそうな気がしてるってのと、桜子が幸運系のスキル持ちって情報が後押ししたんだとか。
まあ実際、瑞樹さんによる修業で桜子の幸運に関する能力が成長して、【幸感度】*2とか言う選択の良し悪しを感じ取るスキルや、日々の運気を集めて溜め込む【貯福】*3ってスキル、他にも【宝探し】*4【おまじない】*5【豊穣祈願】*6【豊漁祈願】*7等々、何個も幸運系スキルに目覚めたりしてる訳だしね。
「うわっ、中央の山に拠点造る理由探しが要らないぐらい人が集まってきてるっぽい……」
「あはは~やっぱり?」
「いつもの笑顔がちょっと引きつってるわよ桜子。どうやら私達では感じ取れない
「追加で来た情報を見る感じだと、イベント参加してる中でもベテランの人達ほど、急いで中央の山に向かってるみたいね~」
「結局拠点構築に参加するんなら、準備段階から協力してくれれば良かったのにねぇ」
「多分だけどベテランだからこそ、イベント開始前は状況が悪くなっても対処出来ると判断して、拠点構築企画への参加は見送ったけど、讃命島に入ってからの感じから、幸運系スキル持ちの言葉にいち早く反応したんだと思う」
「つまり逆に言えば、ベテランでもチーム単位では対処出来ない事態が起きる可能性を感じたって訳だよね。それって……」
「まあ、ベテランならそれこそ後から参加する分、相応に手伝ってくれるでしょ。拠点構築道具とかは私達が運んでるんだし、待たせすぎない様にもうちょいペース上げてくよ!」