【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
渋谷隠れ家の目的を達成して、最後に皆で打ち上げを行った日から数日。
電脳異界の時間加速倍率は少しずつ落としているけど、渋谷隠れ家内に設置してる設備の物質化に掛かるリソースの捻出だったり、参加者の移動や巻き込まれた人達の対応だったりと、まだまだやることは沢山残ってるのもあって、もう少し賑やかな日々は続いていたりする。
「宝食島と讃命島の移設は確定してますが、農地と鉱山はどうしますかね……。農地は今有る分を収穫したら消去でも構わないと言えば構わないんですが、決命石のパイルポテトが自然発生してたりとか、変な概念を蓄積してるみたいですし、鉱山もファンロン鉱とクロンデジゾイトメタルを再現して採掘可能にしてますから、消すのは無しですかね?」
弟子達は先に家族のところへ送ったり、終末目前の状況で1週間放置してる蓬莱島や巌戸台支部の確認を琴音と綴に頼んだりして、今は久遠と湯乃葉だけが残ってる拠点で作業を続ける。
バカンス目的の宝食島は、色々と終わった後だからと心置きなく遊ぶ人達用に解放しているため、移設準備をするのはほぼ最後になるとして、素材採取用の讃命島は移設に向けてダンジョンコアへの封印も完了。
認知異界の集合的無意識から概念を引き込める特性を生かすとすると、蓬莱島内に移設してるタルタロスの付属異界として設置するのが良いだろうって事で、電脳異界と認知異界の性質を併せ持たせ、ブルーウォーターにデータとして移動させておく。
「移設用に封印した讃命島のデータ量がコレで、宝食島の規模的に予想されるデータ量を考えると……流石に農地と鉱山も一度に運ぶって訳にはいきませんか、ファンロン鉱のデータ量が特に大きいですしねぇ。まあ其処は何度か往復すれば良いだけですし、もっと大容量の端末を用意してくるのも有り――いっその事渋谷隠れ家用にデジタル技術部へ納品したのをそのまま買い取るのも有りですかね? どの道タルタロスに付属させるなら相応の設備が必要になりますし……検討と交渉だけでもしてみますか。ダメだったら同じ規模のを作ってタルタロスに接続しましょう」
上手く行けば電脳異界〝渋谷隠れ家〟ごと、蓬莱島のタルタロス運用の拠点に出来るって事で、ダメ元でデジタル技術部や連合の運営に提案しておき、それはそれとして移設する為の準備は進めておく。
そうして渋谷隠れ家での後始末をしていた所、カヲルニキが目標の討伐を達成して、無事に脱出したとの連絡が届いたのだが――
「マヨナカテレビを経由した渋谷隠れ家へのルートは維持してましたけど、流石に脱出に使えない様対策されてましたか……」
「みたいだねぇ。ま、何度も消耗品の補充や回復しに来てりゃ気付かれもするか。一応経路は残してたけど、使わなくても何とかなったみたいだし良しとしとこうか」
「カヲルニキは亀球でゆっくり帰ってくるから良いとして、念のための保険も必要なくなりましたし、最後まで残ってる面々の退去を確認したらココはどうします?」
「元々の目的通り、他の電脳異界と同じ様に将来的な保養地としての再整備と物資生産に回すだろうね。と言う事で探求ネキの要望は却下になるね」
「まあそうなりますか。では取り決め通り讃命島と宝食島、それから農地と鉱山はこっちで回収させて貰いますね。良い感じに面白概念も蓄積されてますし」
「その点は私としちゃちょっと残念だけどね。でも契約は契約だ、他の区画に蓄積された概念を使って良い感じに再構築するさ」
安心院さんとカヲルニキから届いた連絡を確認したところ、ちょび髭ニャルを倒した後にちょっとゴタついたみたいだけど、この間釣り上げて用意した亀球で無事に脱出、今はゆったり空の旅をしながら日本への帰路についているとの事。
なお、カヲルニキの方が終わるまで脱出経路の1つとして、渋谷隠れ家を維持してたのが無駄になった事を謝られたけど、ある程度以上無駄になる想定で維持していた訳ですし、どの道後片付けにはそこそこ時間を掛ける事になったのは変わらないため、気にしなくても良いと返信しておいた。
ともあれ、カヲルニキの方も片付いたって事で、最後までバカンス気分で残っていた連中を叩き出して、私も異界移送用のストレージを用意して回収し、蓬莱島へと戻る。
「お帰りなさい、瑞樹さん。東京大崩壊関連で非時市への避難と移住希望が増えてますが、変化と言えばこれぐらいでしたよ」
「ありがとう綴、移住関連は蓬莱に任せてる試験をクリアしたならそのまま許可で良いですね。ただの避難民を受け入れる必要は無いですし、通常通りに渡航基準をパスしたなら一時滞在許可で十分でしょう」
「非時市と名前を付けて実際に面積も相応にありますけど、蓬莱島自体瑞樹さんの私有地ですものね……」
「まあただ突っぱねるだけだと無駄に騒ぐでしょうし、適当に周囲のシェルターまで移動する手段ぐらいは用意しましょうか。【終末タイマー】の残り時間を確認しながら無理しない範囲で、ですけどね」
蓬莱島の自宅に戻って執務室へと向かうと、先に戻って諸々の確認をしてくれていた綴が出迎える。
まあ渋谷隠れ家に居る間も、蓬莱から定時連絡で各種報告は貰っていたし、状況の変化自体は有る程度把握している訳だけど、先に戻っていた綴から見ても、終末目前で問題になりそうな部分は避難民と移住希望者ぐらいって所なのだろう。
私達が居ないことで、一週間ほど
足りない物は自分達で作る! と言う精神で、島民達も元気に動き回ってるとの事ですし、終末突入の影響さえ乗り切れば、蓬莱島自体の心配は殆どしなくても良いですね。
内側が問題無いのを再確認した所で、次は残ってる問題の避難民関連に目を向ける。
とは言え、こっちも結論としては通常通り、一時滞在許可の基準をクリアしているか、移住許可の基準をクリアしているかを審査して終了なのだけども。
まあ貧すれば鈍すると言うか、自分達が被害者の弱者で助けられるのが当然、と思い込む人間は少なからず出てくる物で……。
「命の危機に人の本性が出てくる何て言いますが、本性を計るなら立場が上と認識した状態で、損得が絡む内容が上手く行かない状況の方が真に迫ると思うんですよね。命が絡まない範囲で余裕が無い時の態度も本性とは言えそうですけど、命が絡む時は生存本能が働く以上本性とは言い切れないですし」
「何と言うか、人間ここまで傍若無人になれるんだ、って呆れを通り越すよねぇ」
「程度の差はありますが、割と見かけるので対応も慣れております――以上」
「とりあえず対応は基本通りで、対象の知り合いなどが許可されてる人の中に居るなら、言い聞かせるか一緒に出ていくか選ばせる感じにしましょう。保護者が居ないならさっさと放り出して解決ですね」
蓬莱島の方は特に問題も無かったため、確認が終わって最低限の方針を伝えた後は巌戸台支部へと移動してきた訳だけど、其処で最初に目に付いたのが、有りもしない権利を振りかざして保護を強要してる自称被害者の姿。
東京大崩壊でネット上にもオカルト関連の情報が飛び交う様になったからか、未覚醒の一般人でも東京内で悪魔が暴れて建物などが破壊されている事。
それから、悪魔の対処をしてるオカルト組織のガイア連合が存在する事、その支部が東京内に有る事程度の情報なら、得られる環境に変化してたのが大きな要因だけど、良く支部まで辿り着けたものだとも思うところ。
ただ、辿り着いただけで全部が解決した気になって、半端に得た情報から事実誤認してる人が多い様にも見て取れる。
人道的に可能な範囲で保護しているのは事実だけど、ガイア連合としてもガイアグループとしても、民間団体であって国家機関ではないし、税金を貰って活動している訳でも無い話。
得てしてこう言う追い詰められた状況になると、誰かが呟いた都合の良い希望的発言を内輪で反響させ、エコーチェンバー現象*1を引き起こす物で、その結果が今眼前に居る自称〝救済されて当然の被害者〟と言う事だろう。
「――! ――――!!」
「それにしても、結界で隔離して声の1つも届いていないっての、何時になったら気付くんだろうね?」
「一生気付かないと思いますよ。結界内のログを確認する必要も無いぐらい、無償での保護や過剰な待遇の要求を繰り返してますし、アレはもう自己暗示の域まで行ってますね」
「マスター、引き取り手の居る人間の退避を完了しました――以上」
「そこそこは引き取り手がいましたか。では葦原は引き続き監視対象と保護者の動向をチェック、思想の感染が起きそうなら、規定に従って警告等の対応をして下さい」
「畏まりました――以上」
「それでは、不当な要求をしてくる人達には退去頂きましょうか」
面倒だけど支部長として一応表に顔を出して、一回は主張を聞いた後に聞く価値のない戯れ言だったと確認し、幻惑と遮音を重ねた結界で遮断して隔離。
聞くに堪えない主張を繰り返す連中の思想が、葦原荘の入居者や保護した一般人に感染しない様にした所で、まとめて放り出す前に個々人でケアするつもりのある保護者が居るかを確認してたのがついさっきまでの事。
まあ元々、葦原荘の入居者から情報を貰った人達に勝手にくっついてきたのが、今も結界内で幻影相手に同じ事を繰り返し続けてる連中みたいですし、汚染源から隔離して意識を洗浄すれば何とかなるでしょう、何とかならなかったら入居者の許可自体も取り消しになる訳ですし。
ともあれ、まだ何とかなる可能性のある人の回収が終わったのを確認して、喚き続けてるだけの
正直な所、個人的には後腐れなく
なお、実際には後からメシアンや悪魔などに利用されたりして、巌戸台支部のセキュリティホールにならない様、巌戸台支部や所属員に危害を加える行動を起こす事を条件に、自身の全MAGを消費して【バイナルストライク】を発動させる術式を仕込んでいるため、今追い出したアレらを使って攻撃しようと画策した連中諸共、吹き飛んでくれるでしょう。
ちなみに、無関係の人を巻き込むのは流石に寝覚めも悪いため、メシアン度測定器*2を元に狂信度合いや害意、悪意などを判定し、【バイナルストライク】の対象に含めるかなどを決める様にしている。
そのため、仮に人混みの中で爆発したとしても、当人とメシアン度の高い連中が巻き込まれて吹き飛ぶだけなので、後は放置でOKと言う話。
「さてと、邪魔者の対処は終わりましたから、私は執務室で仕事して来ます」
「ういうい、そんじゃ私は友人達の様子見に行ってくるかな~、蓬莱島に移住するかも聞いておきたいし」
「我々も通常業務へと戻ります――以上」
不和の種をばらまく面倒な連中を掃除し終わった所で、私は後回しになっていた支部の書類確認へ、琴音は東京大崩壊当初に助けた後、認知異界の裂け目に落ちた事で放置することになってしまった友人達の元に、葦原も支部内の清掃などの仕事へと、それぞれ散っていく。
報告自体は貰っていたとは言え、契約的な観点から私のサインが必要な書類なんてのも有る訳で、体感だと約1年ぶりとなる支部長室で執務机に向かい、書類仕事を熟す事しばらく、基本的な所は葦原が終わらせているし、定時報告などで連絡が来た際に指示も送っていたため、量自体は多かったけどそれほど苦労も無く処理も終わる。
ちなみに書類関連の主な内容としては、ガイア連合山梨支部との協定を盾に、穏健派を名乗るメシア教徒が要請してきた巌戸台支部への避難民受け入れで、占術の結果過激派が紛れ込んだり、過激派が侵入するセキュリティホールになる可能性が高いと出たため、いつも通り拒否した感じになる。
この辺、元々が黒札や金札向けの賃貸住宅兼宿泊施設で、支部機能としてはタルタロス攻略拠点に特化させていたため、メシアンが介入出来る隙が殆ど無いのも有利に働く所。
と言うのも、メシア教が世界各地でやらかして来た上に、核ミサイルパーティーで半終末突入の原因となった関係からか、メシア教徒がタルタロスに入るとシャドウの出現数が普段の倍以上に爆増するのが確認されていたし、世界に死を蔓延させた元凶の1つとして概念が働くのか、メシア教徒がタルタロス内に居ると、低階層でも【刈り取る者】が出現してメシア教徒を殺しに掛かる事例が確認されてたりする。
更に言えば、メシア教徒内にペルソナ使い自体が殆ど居ない上、穏健派であってもメシア教徒のペルソナ使いは精神が強く無いため、ペルソナ使いでもレベル30を超えられなくて戦力にもならないと言う訳で……。
巌戸台支部においては、居るだけでどちらにとっても危険にしか成らないと言う建前で、半終末の初期頃にメシア教徒を出禁にした背景があったりする。
「タルタロスの攻略が終わって、ペルソナ関連以外の依頼斡旋も業務に含めるようになったとは言え、巌戸台支部としての仕事のメインはペルソナ関連な事に変わりは無いですし、メシア教徒が所属するだけで事態が加速的に悪化する以上、協定があろうと受け入れる訳にいかないんですよねぇ……」
ペルソナ関連の依頼となると、大なり小なり人の集合的無意識が関わる案件な訳で、黒札や世界各地で生き残ってる人達の、メシア教が諸悪の根源と考えている認知が影響して、メシアンが近くに居るだけで状況が悪化する、と言う事例がいくつも確認されていたりする。
なお穏健派と名乗るメシア教徒は、過激派がやった事だと主張して何度も受け入れを要請してきているけど、集合的無意識が過激派だの穏健派だのと言った区別なんてする訳も無く、メシア教徒と名乗っている以上、救助対象の一般人に被害が及ぶため、一般人保護の観点からも一切の例外無く、メシア教徒お断りと返事を返す事になる話。
「毎度のお断り書類も書き終わりましたし、後は葦原荘の結界関連を最終確認したら、終末突入後を見据えて修業場異界深層の迎撃に参加しに行きますかね」
ショタおじに聞いている通りなら、終末突入時には地脈関連で大きく影響が出るため、地脈と切り離して展開している結界に綻びが無いか、結界維持の動力に十分な余剰が有るかなどを確認すると、一週間程放置する事になったためか、GPの上昇による影響や悪魔の干渉などにより、いくつか綻びが出来かけてるのを発見。
結界の歪みを整え直して、序でに綻び掛けた要因への対処も加えて補強、結界自体の強度を上げた関係で、葦原荘全体の機能維持に使っている陰陽五行器に、飛行石の太極炉術式ネットワークを組み込んで、出力を増強しておく。
重要部分が終わった後は、一通り葦原荘内を見て回って、鍛練や素材回収を目的として中庭に設置しているダンジョンのアップデートをしたり、食料の安定供給様に設置してる農場異界の収穫状況を確認して、製造設備の更新などもした辺りで一区切り。
結界さえ無事なら何とでもなると思える程度まで手を入れてから、琴音や葦原に一言伝えて星霊神社へと転移し、久遠と湯乃葉を連れて修業場異界の深層へと潜っていく。
「終末突入でショタおじが一時的に居なくなるのは確定してますし、戻ってくるまでの間は確実にエンドレスで襲撃されるでしょうから、私も戦力の1つとして頑張らないとですね」
「戦場の限定化と迎撃設備の建造は終わっているのだったか?」
「こっちをメインにしている修羅勢主体で防衛戦は構築し終わってるって話よね。私達はどうするの? 瑞樹ちゃん」
「木分身の1体は拠点支援に置いていきますが、基本は敵の橋頭堡潰しや数の漸減目的に暴れ回る感じですね」
「つまり、いつも深層で行っている間引きと同じか」
「そうなりますね。まあいつもと違って救援の見込みは無いですから、橋頭堡を潰す際はいつも以上に慎重に調べるってのが注意点ですかね」
2人と深層での行動予定を確認し合いながら修業場異界を潜り、深層に構築された防衛陣地へと向かう。
終末突入まで後数時間、全国各地で同時多発する終末案件に、各地の黒札がそれぞれで対処している情報が入ってきて、既に対処完了している所も、今大詰めに入っている所などもある中で、私達の戦いは終末に突入した後に始まる事になる。
「約束の日が来たからそれで全て解決、なんて事にはならないものねぇ……」
「魔界の奥地と繋がる深層が突破されれば、星霊神社に甚大な被害が出るからな」
「終末時にショタおじが自由に動けるようにってのが、修羅勢なんて呼ばれてる私達が力を求め続けて来た理由の1つですし、ココが正念場ですね」
さて、終末最後にして新生世界最初の戦いを乗り切りましょうか。