【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

199 / 202
162:終末のアディショナルタイム

 水と土が混じり合って泥が広がり、泥に根を張り木々が広がり、幾重にも連なる木々により森が広がって樹海を形作る。

 樹界が津波の様に広がり、押し寄せ、あらゆる物を呑み込んでいく。

 悪魔も、悪魔が造り出した世界も区別無く、一切合切を養分として木々の波間に沈め、湖沼と樹木の世界が全てを塗り替える。

 

「【木遁仙術・樹界沼境(じゅかいしょうきょう)*1だけで呑み込めるとなると、高位分霊は居なかった感じですね」

「力自体はそこそこ有ったみたいだが、技術もお粗末だったのを考えると、発生したばかりだろう」

「この辺は思考力の低い獣系が多いみたいね~」

 

 修業場異界深層の入り口を守る様に幾重にも構築された防衛陣地*2にて、防衛を担当する修羅勢達と行動方針の擦り合わせを行った後、押し寄せてくる悪魔の数が防衛線で対処出来る程度の内に離れ、奥地へと向かったのが数時間程前の事。

 そして、魔界の奥地と繋がる通路となっている修業場異界の中に居ても、はっきりとわかる程の空間的な振動により、遂に現世が終末の時を迎え、地球その物が魔界へと落ちた事を感じ取ったのが十数分前と言ったところ。

 つまりは事前にショタおじから言われていた通り、魔界の深部に繋がる通路を塞ぐ要がしばらく居なくなると言う事で、終末到来と同時に爆発的に悪魔達が動き出すと言う話でもある。

 そこかしこから悪魔が際限無く湧き出し始めたのは、未だ終末の到来で空間が激しく揺れ動く間の頃からで、一先ず防衛陣地に向かう数を減らすため、手当たり次第に潰して回る事にして、手始めに目に付いた小領域を私の領域で呑み込み、概念強化の糧にしたのが現在の状況。

 

「領域広げただけでも大量に悪魔が入り込んできますが、入り口に押し寄せてる悪魔を見るに、定点で減らしても余り意味は無さそうですし、ちょっと準備して一手間加えましょうかね」

「何をするつもりかは兎も角、私はいつも通り守り通すだけだな」

「瑞樹ちゃんの事だし、陣地毎移動する感じかしら? それなら私は誘引する陣でも追加しておくわね」

「付き合いも長いですしわかりますか。泥造形魔法(マッドメイク)樹造形魔法(ウッドメイク)合作、〝威風堂々たる鹿王〟って所ですね」

 

 幾本も足を持つ鹿を泥で形作り、樹木を鎧の様に外殻として形成し、湖沼と樹界を内包する移動領域として造形魔法*3で造り上げたのは、トリコに登場する八王の一角である鹿王スカイディアを模した物。

 ちなみに、トリコ原作に置けるアカシアのフルコースの肉料理に当たる食材〝ニュース〟を再現する関係で、食域の森や鹿王スカイディアも、食欲界のトリコ層に創り出してたりする。

 そのため造形魔法での再現とは言え、〝威風堂々たる鹿王〟の力は真に迫る物になっており、角の上に広がる樹海内にも、大量に生息する猛獣を泥や樹木で造形した物が控えていて、領域内に侵入した悪魔を自動迎撃可能な移動要塞にもなっている。

 まあ流石に原作通りの体長60,000m、体高10,000mなんて巨体には現状なっていないけど、深層内に悪魔が造った領域を呑み込んでいけば、その内原作通りの巨体にまで育つでしょう。

 

「それでは雑に挽き潰しながら、高位分霊や特殊ギミックなどを発見したら都度対処といきましょうか」

「ふむ、そうなると一先ず警戒するのは、狙撃や遠隔呪詛などになるか」

「自我の薄い湧きたてなら流れ作業になりそうね~、フォルマやドロップ回収用の式神を放って置くわ」

 

 スカイディアの頭部近くに生えてる大木の上に、そこそこの大きさが有って寛げるツリーハウスを造って乗り込んだら、早速行動開始して、周辺に次々とポップするレベル100前後の悪魔を誘引し、樹海内の造形怪獣で叩き潰し、ドロップするフォルマやマッカなどを回収しながら彷徨き回る。

 兎に角防衛陣地に向かう悪魔の数を減らす事を第一に、入り口で支援している木分身と共有する情報も踏まえて、防御や体力が高くて倒し難い悪魔の群れや増殖系などの数が爆発的に増える悪魔、前線拠点を造り始めた悪魔などを狙って襲撃を繰り返す。

 そうして悪魔を蹂躙したり悪魔の発生させる領域を取り込んで、順調に〝威風堂々たる鹿王〟の体積を少しずつ増やしていると、いつの間にか原作設定の半分程には届くかと思う大きさになっていた。

 

「うーむ……、思った以上に概念強度が増して、想定以上の強さになりましたね。この鹿王」

「食欲界で再現したスカイディアはコレの倍ぐらいの大きさだが、強さで言うなら瑞樹が造って操るこっちの方が上ではないか?」

「強さに関しては、原作の八王そのまま再現とは流石にいきませんでしたからねぇ。時間が経てば時間操作系の能力が成長して、八王と呼べるぐらいになるでしょうけど、今暫定で鹿王と呼んでる個体も、スカイディアの中で1番成長しているってだけですし」

「限定空間内の時間操作能力を持つ生き物って、割とトンデモの類いよねん。分霊でも無い悪魔なら、レベル50前後でも倒せるでしょう?」

「時間関連は適性を持ってるか、事前準備でもして無いと対処が難しいですからねぇ」

 

 ちなみに、造形魔法での再現した〝威風堂々たる鹿王〟を術の媒介にする事で、鹿王スカイディアの持つ能力の認知が概念的な補助になっているらしく、現在の私は普段以上の時空間操作も可能になっている。

 そのため、本来なら対処にそこそこ手間取る高位分霊悪魔も、対象周囲ごと時間を遅くして造形怪獣で袋叩き、なんて方法も可能になっていたりする。

 

「瑞樹、またイナンナ系の高位分霊だな」

「今回は【地母神 イナンナ】の側面が強い個体ですか」

「逸話再現目的で酔い潰そうとする個体来ないかしらね? 珍しいお酒持ってるから、ドロップが美味しいのよねぇ」

「逸話的にはエンキが招いて酒を振る舞うんですけどね。高位分霊のイナンナだとD2系のスキルカードを抽出できる可能性も有りますし、もうちょっと来てフォルマを落としてくれても良いんですけどね」

 

 私の本霊が【エンキ/エア】の関係で、シュメール神話やメソポタミア神話でエンキ神と関係のある、イナンナや同一視されるイシュタルが頻繁に襲ってくるのは、修業場異界の下層以降ではいつもの光景だけど、深層ともなると高位分霊の割合も多くなるもの。

 なお、襲ってくるイナンナやイシュタル系の悪魔は、普通に力押ししてくる個体もそこそこ居るけど、逸話上で飲み比べで酔い潰したエンキを言葉巧みに騙し、文明生活の恵みである〝メー〟を全て奪って逃げると言う話があるためか、搦め手で酔い潰そうとしてくるのも結構な数いたりする。

 逸話としては、所謂政治的権威の移行を示唆する話だけど、コレを私に当て嵌めて、私の力を根こそぎ奪うのが目的って所でしょう。

 まあ、私は【食没】によってアルコールだろうとMAGに分解して栄養として蓄えるので、意図的に酔おうとしなければ酩酊なんてしないため、酒だけ頂いて首を撥ねて終わりですが。

 

「おや珍しい、この個体連動効果系スキル持ちみたいですし、ちょっと時間が掛かりそうですね」

「時々遭遇するけど、結構高位の分霊って事よね。私も行った方が良いかしら?」

「造形怪獣の自動迎撃で十分ですよ。領域内ですからトラップもそこかしこに仕込んでますし、避けても避けなくても削り続けますから、耐久型っぽいこの個体でも問題無く処理出来ますね」

「イナンナの方は問題無いなら、私は追加で来た方の対処に向かうとしよう」

「追加? いつの間にか牛頭の巨人が来てるわねん、有名処ならミノだけど……足が鳥の物って事は蚩尤(しゆう)かしら?」

「湯乃葉の分析通り蚩尤(しゆう)みたいですね。耐久型のイナンナと組まれると面倒ですし、こっちの処理が終わるまで足止めお願いしますね。久遠」

「承知した」

 

 順調に鹿王だけで対処出来る様になって直接戦闘する回数も少なくなり、テーブルにはお菓子やお茶にお酒なども並んで、すっかり寛ぎスペースになったツリーハウスから久遠が飛び出し、まだ少し距離のある【魔王 シユウ】の迎撃へと向かう。

 一方で、領域内の造形怪獣やトラップだけで対処可能とは言え、高位分霊が2体同時になると対応が面倒になるのが明白なため、久遠が足止めしてくれている間に私の方も、【地母神 イナンナ】の処理を加速させる。

 時間にするとせいぜい数ターン(数十秒)程度で倒し終わり、そこそこ質の良いフォルマやアイテムを回収した所で、久遠が足止めしていた【魔王 シユウ】を領域内に誘い込むと、こちらは久遠がだいぶ削っていた様で、1ターン(10秒)程で沈んでフォルマとアイテムを残し、消滅する。

 

「高位分霊もそこそこ遭遇する様になりましたね。防衛陣地の方も第1防衛ラインは半壊、第2ラインの最前線砦もそこそこ被害を受けてるみたいですし、中小規模の領域潰しから大型領域の攻略に方針を切り替えますか」

「悪魔が神話体系などで分かれて、基地拠点にしている大規模領域か。他に攻略に向かっている面子は?」

「セツニキとグラ爺をリーダーにした攻略班がそれぞれ動いてますね。他にも何組か居ますから、攻略目標が被らないように注意しながら潰していきます」

「了解よん。偵察班から情報貰って候補を挙げるわね」

 

 高位分霊悪魔2体の処理が終わった所で、入り口の防衛陣地で補助に回してる木分身から、防衛戦線の状況推移を確認し、手当たり次第に悪魔を削る方針から、防衛戦に圧を掛ける足場となる拠点潰しに重点を置くことにして、湯乃葉が表示してくれた偵察班の情報へ視線を向ける。

 今私達が居るのは深層の中頃から奥地の間ぐらいで、優先対処すべき大型拠点は大体中間地点付近と言ったところ。

 防衛陣地から近い拠点から攻略班が向かっている様子のため、私達が向かうなら逆に奥地側に近い拠点で、補給線を潰しながら前後から拠点を攻略して行くのが良いだろうか。

 

「少しは拠点構築の邪魔を出来ていたと思いたい所ですが、大規模な領域もそこそこ構築されてるみたいですし、やはり完全に対処なんてのは無理ですねぇ」

「私達と同等のレベルだと、1体で大規模領域の展開など容易だからな。こればかりは仕方あるまい」

「奥地側の大型拠点だと、一番近いのはこの場違いに荘厳な宮殿みたいな所かしらね」

「無駄に煌びやかにしたがる悪魔は多いですから、見た目だけでは判断が付かないですね。とりあえず近くまで行って攻略方法を検討しましょうか」

 

 手始めに近くの大型拠点を目標に定め、遠目から情報解析しつつ向かって行く。

 途上にある小型の領域や襲撃してくる悪魔を、返り討ちにして取り込みながら進み、後数分もあれば敵拠点に到達する頃にある程度の解析が終わる。

 

「領域内のMAGからすると……強欲の【魔王 マモン】ですかね」

「領域の規模からして、その程度のネームバリューは必要だろうしな」

「強欲系のギミックとなると、何かしらの行動毎に対価を徴収するのが定番かしらね? 侵入しただけで色々と制限されそうよね」

「マモンと推測してから検査してみましたけど、案の定隠蔽した強制契約が掛けられてましたね。視認した状態で領域内に入ると、強制契約に同意した事にされてましたよ。この手の無自覚な契約は、通常より効力や強制力が低くなりますが、それも複数重ねたり誘導して追認させれば何とでもなりますからねぇ」

 

 掛けられていた強制契約の内容は、簡単に言えば宮殿の拝観料を払え、領域内に入ったら払うことに同意したと見做すって所で、恐らく領域内では似た様な強制契約がそこかしこに有って、何かしらの行動や奥深くへ向かう毎に契約を強制して、あらゆる物を奪っていく感じなのだろう。

 後は領域内のフィールドギミックとして、マグネタイトの強制徴収などの強奪系も仕掛けられているだろうし、無策で踏み入ると何も出来ずに干上がるでしょうね。

 領域を視認するだけでも、欲望を刺激して誘引する効果が有る上、敢えて無意識に軽く働きかける程度に抑えることで隠密性を高め、状態異常として明確な形にしないことで回復魔法の対象外にしているみたいですし。

 

「それでどう言った領域か、ってのは判明した訳だけど、どう攻略して行く予定かしらん?」

「中に入った者から強欲に奪っていくなら、外から色々と与えて、何でもかんでも欲する事の怖さを知ってもらうとしましょうか」

「ふむ……、となるとしばらくは高みの見物となるか。ならば酒だな」

「良いわね~、この鹿王に実った果実を使って、カクテルでも作ろうかしら」

「まずは強制契約を逆手にとって、拝観料の対価扱いで種を色々と蒔きましょうか。しばらくは育つまで待ちですし、酒の肴でも用意しましょうかねぇ」

 

 対価として投げ込んだのは、茸レートの種胞子とショコラ竹の種。

 この2種は、周囲のマグネタイトを吸収して育つ品種で、特に欲望に類する物だとより早く美味しく育つ性質を持つため、マモンの領域の左右にそれぞれ分けて適度にバラ撒いておく。

 ちなみに、ガイア連合の購買部で販売している茸レートとショコラ竹の商品説明はこんな感じ。

――――――――――

・茸レート

 堅焼きビスケットの様な柄にチョコレートの傘を形成する巨大な茸の一種。

 周囲のマグネタイトを吸収して育ち、特に欲望のMAGが強い程早く、美味しく育つ。

 なお、マグネタイトを吸収する範囲内に、ショコラ竹が存在すると、MAGの吸収力が爆発的に上昇して、手足が生えた茸戦士が誕生し、ショコラ竹を駆除する為の戦争を始める。

――――――――――

・ショコラ竹

 サクサクとしたクッキーの様な地下茎と幹にチョコレートをコーティングした様な外皮や笹を持つ竹の一種。

 周囲のマグネタイトを吸収して育ち、特に欲望のMAGが強い程早く、美味しく育つ。

 なお、マグネタイトを吸収する範囲内に、茸レートが存在すると、MAGの吸収力が爆発的に上昇して、手足が生えた竹戦士が誕生し、茸レートを駆除する為の戦争を始める。

――――――――――

 まあ簡単にいえば、某山と里の戦争の概念を使って美味しく強く成るように創り出したお菓子という訳だけど、それが強欲の領域で繁茂すればどうなるかというと――

 

「思ったより早く始まりましたねぇ」

「強欲の名を持つだけあって、倍速どころでは無い成長速度だったな」

「領域内で生まれて育った物にはギミックも影響しないみたいね。ようやく事態に気付いた連中の慌てふためく姿でお酒が美味しいわ~」

 

 領域の根幹でもある欲望のMAGを盛大に吸収して、茸レートとショコラ竹が急速成長。

 種を蒔いた外周部の数カ所で繁茂して勢力を拡大させ、ものの数分程度で茸レートとショコラ竹の勢力圏が重なり、その情報が双方の勢力圏に伝播した結果、茸戦士と竹戦士があちこちで誕生するぐらい、MAGの吸収と成長速度が爆発的に上昇。

 そうして現在、マモンの領域を舞台に、茸戦士と竹戦士の戦争が盛大に勃発したと言う所。

 よほど欲望のMAGが上質だったのか、誕生した戦士は両方ともレベル100は軽く超えていて、それが既に万単位でぶつかり合ってる訳で、中々に見応えのある戦いになっている。

 まあ、茸戦士と竹戦士の戦争が始まったりすればマモンも流石に気付いた様で、戦士達をなぎ倒して事態を収拾しようと動き出したのも見えたけども。

 

「動き出したのは兎も角、ここで損切り出来ないのが強欲の弱点ですよねぇ」

「現状、茸レートとショコラ竹が繁茂している箇所は外周部だけで、中央に侵食する前に全て燃やすなりすれば対処は簡単だからな」

「まあ損切りして焼却したなら、その穴に私達が攻め込む訳だし? 目の前に鹿王(こんなの)が居たら防衛手段を自分で破壊、なんて出来ないわよねぇ」

「私が仕掛けた事は気付いてるでしょうし、そろそろ領域を広げて取り込もうとしてくるでしょうから、次の仕掛けをしておきましょうかね」

 

 大型拠点の攻略? は順調に進み、次の段階へと移行する。

 さてさて、強欲の【魔王 マモン】は気付けますかね?

*1
拙作の〝071:食肉の闘い〟にて披露した領域構築型の術で、高位霊能者や高レベルの分霊悪魔が使う、その場に存在するだけで自身に有利な環境を創り出す領域の力を、術式として制御した権能の一種。

五行に関連する要素を根幹とする領域で有れば、侵食して影響下に取り込む事が可能で、特に水・土・木の三系統に強い。

*2
『【カオ転三次】 終末に向けての準備するとある転生者の話』様の〝77話:終末が来ましたよ〟より、ショタおじが出掛けて戻ってくるまでの間、修業場異界深層で行った防衛戦の陣地。

*3
拙作の〝137:趣味人の集い再び〟にて披露した再現術式。

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