【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
修業場異界深層の中間付近、若干奥地側に当たる場所に居を構える強欲の悪魔、【魔王 マモン】の大規模領域にて、私が投げ込んだ茸レートとショコラ竹が大戦争を始めてしばらく。
領域内の外周を舞台に、左右から展開する茸レートの戦士とショコラ竹の戦士がぶつかり合い、戦域が中央に聳え立つ荘厳で煌びやかな宮殿まで徐々に広がっていくのを、領域外で停止させた私の移動領域――造形魔法で造り上げ、現在は体長にして40,000メートル、体高も6,500メートルまで成長した〝威風堂々たる鹿王〟の、頭部付近に生える巨木に造ったツリーハウスで、文字通りに高みの見物をしていた。
酒や料理も用意して、暴れ回る茸と竹の戦士に悪魔達が翻弄されているのを眺めるのは楽しいけれど、マモンの配下悪魔だけあって、流石に茸戦士や竹戦士と1対1で負ける様な事は無く、少しずつ対応の速度が上がってきているのが見えたため、次の一手を仕掛けることにする。
まあ次ぎと言っても、初手で使った強制契約を逆用した手法なのは同じだけども。
未だに中央の宮殿を視認する事で押しつけられる強制契約は健在で、強制契約と言う形であれ縁が繋がった事に変わりは無く、縁が繋がっているならその繋がりを辿り、領域内に侵入するセキュリティホールを作る事も可能な話。
もちろんの事、強欲の名を冠する魔王がそんな侵入経路の対策をしていない訳は無いのだけど、それでも取っ掛かりが出来る事に違いはなく、最初の一歩があれば穴を空けられるだけの技術を磨いてきた術者に、時間を与えたらどうなるか? と言うのが今の現状を表している。
そんな訳で、挑発も兼ねて追加の拝観料として投げ込んだのは、ルキフグスからガイア連合――と言うかセツニキに渡された魔貨製造術式*1を応用し、ショタおじ監修の下で、魔貨の製造と流通の助力という形で許可を取った幻想植物〝黄金魔花月*2〟の種。
撒いた種は、これもまた領域内に満ちる欲望のMAGにより急成長し、数十秒程で魔貨を生い茂らせ黄金の光を放ち始める。
「茸レートとショコラ竹で大戦争するぐらいにMAGを吸い上げてるはずですが、流石は強欲の領域ですね」
「領域の一部が黄金の森になってるわね。確か魔貨農場作って栽培してる樹木よね? アレ」
「蓬莱島内の欲望MAGが多くなり過ぎない様に創って植えた物ですね。まあ欲望が一切無くなると、それはそれで発展する意欲まで消えるので、蓬莱島全体の結界と連動させたりと調整が大変でしたが」
「島のは自然に落ちた物を回収する術式で自動化していて、人が立ち入れない様にしているんだったな。確か枝から毟ると、面倒な事になる仕様にしているんだったか?」
「一応毟った当人だけで終わる様にはしてますが、魔貨製造術式の関係で、地獄の宰相が関与してくる経路になるんですよね。ここみたいに外なら兎も角、蓬莱島の内部だと結界のセキュリティホールになるので、魔貨農場は完全自動化して立ち入り不可にしてる感じですね」
なお黄金魔花月については、元々将来的に蓬莱島の住人が増える事で、住人の欲望から生じるマグネタイトが膨れ上がり、大きな問題に発展する可能性を憂慮して、行き過ぎた欲望を吸収する手段の一つとして研究していた物で、茸レートやショコラ竹も、その研究の途中に思い付いて創り出したネタ植物の一つだったりする。
まあ欲望を吸収して効率的に消費するなら、実用性も兼ねて魔貨を実らせるか、と考えて魔貨製造術式を引っ張り出してきた辺りで、魔貨を生み出す植物とか色々と各方面に影響が大きいと気付き、魔界の造幣局であり元締めの【魔王 ルキフグス】に、正式に話を通した流れがあったりするのは余談として置いておく。
ともあれ、強欲の領域に居る悪魔にとってはとても魅力的な植物な訳で、茸戦士や竹戦士の対処をしていた悪魔が、突如出現した黄金の森へ続々と集まってくるのが見える。
欲望を刺激する黄金の輝きに照らされて、悪魔が我先に枝へと手を伸ばし、身内同士で争い始める所まで出てくるのは、人間の欲望が悪魔にまで影響した結果だろうか。
悪魔達が黄金魔花月の葉を根こそぎ毟り取り、一時的に枝だけの状態になった辺りで我に返ったのか、戦士狩りに戻っていく。
「ふむふむ、領域内が荒らされる事への対処事態は行いますが、脅威度の低い相手と分かれば部下に任せてこちらの観察、ですか。これは黄金魔花月を追加で投げ込んだのを、貢ぎ物とでも勘違いしましたかね?」
「強欲の名を冠する程なら、相応にプライドも高いだろう。瑞樹の推測通りではないか?」
「強欲だけど傲慢では無いからどうかしらね? くれるなら貰うってだけじゃないかしら、拝観料の態で投げ込んだ種もそれぞれ十分な価値があるもの」
「まあ、黄金魔花月で味を占めたつもりになってるならそれで十分ですけどね。マモンが主である以上欲望のMAGが尽きることは無いでしょうし、後は仕込みが芽吹くのを待ちましょうか」
最初に投げ入れた茸レートとショコラ竹で騒がして、次ぎに投げ入れた黄金魔花月を美味しい餌と認識させられたなら、後はそれらを隠れ蓑にした策略の種が芽吹くのを待つだけ。
狙い通りに動くか、或いは推測を超える動きをしてくるかと、相変わらず茸戦士と竹戦士が暴れ回る領域内を観察しながら、その様子を肴にこっちも相変わらず酒と料理を楽しむ。
まあ傍目には、余裕かまして油断している様にしか見えないだろう私達だけど、実際のところはどう動かれても対処出来る様に、料理や酒はバフ効果や霊力回復効果などが有る物だし、トリコの原作で技を使用する度に大量のカロリーを消費していたのと全く同じでは無いけど、保有するマグネタイト量が継戦能力に影響する関係で、【食没】により食べた物をマグネタイトに変換して蓄えるのも、戦いの準備だったりする。
そんな訳で、エンドレスに飲み食いしながら観戦する事しばらく、深層入り口の防衛陣地では、第1防衛ラインである平野部が悪魔で埋め尽くされ、第1を完全放棄して第2防衛ラインの砦群での戦いにメインが移った、と情報共有がきた頃、時間としては終末が到来してから1日経つかどうかって所だろうか。
大型拠点の攻略を始める前の時点でも、深層の中間から奥地辺りで悪魔の数を減らして回る間に、そこそこ以上の時間が経過していて、私が攻略開始したのが他の組より幾分遅かったとは言え、防衛陣地に集まってくる情報だと、セツニキやグラ爺の組は既に大型拠点をそれぞれ潰し終わっているとの事。
私もマモンの動きを待つより、さっさと潰しに動くべきかと考え、攻略方針の変更を検討し始めた頃、待っていた状況の変化が、マモンの領域で発生したのを確認する。
「思った以上に時間が掛かってましたから、攻略方針を変更しようかと考えてましたけど、漸く動き始めましたね」
「茸竹戦争が収まる処か規模を拡大し始めてるものねぇ。其処で問題の起きてる外周部を破壊して作り直すでは無く、こっちに手を伸ばしてリソースを奪おうとするのだから、強欲の名に偽り無しって所かしらん」
「強欲の領域が鹿王に届いたら開戦か」
「久遠の出番はマモンが出張ってきてからですけどね。それ以外の配下は現状脅威になりませんし」
マモンの領域がじわじわと広がり、領域の手前で停止させている〝威風堂々たる鹿王〟を取り込もうとしているのを確認しつつ気付いて居ない様子を装い、仕込みを爆発させるための引き金を仕掛け、強奪者気分の獲物が罠に掛かるタイミングを待つ。
何処までこちらの思惑通りに行っているかは推測の域を出ないけど、本体でも無い高位分霊のマモンなら、強欲の性質もあって7割8割ぐらいは策に嵌まるだろうと思う所だけど……。
「開幕でマモンが直接襲撃してくるのが最悪の想定でしたが、こちら有利で進められそうですね」
「向こうとしては、領域内に捉えて契約の履行を押しつけるつもりだったのだろうな。契約内容の一部が書き換えられてるのに気付いて無いみたいだが」
「領域内への侵入が契約の承諾になるって文に、
「そう言う事ですね。では侵入者であるマモンの領域内にあるギミックを逆手にとって、侵食して行きましょうか」
まあ相手に気付かれずに出来る程度の書き換えをした所で、本来ならマモンの領域に侵入した時点で強制付与された契約の同意が成され、契約内容に沿って徴収が開始されただろうけど、それは造形魔法で造り出した威風堂々たる鹿王が、私の領域を基礎材料としていなかったらの話。
マモンが自身の領域範囲を広げ、
そして、私が徴収する側になった事で、仕込みが一気に芽吹き出す。
「中央の宮殿内でも黄金魔花月が生い茂り始めたわね」
「今守備に就いてる悪魔も枝から毟っていたみたいだな、茸戦士や竹戦士を抑えていた悪魔が消えて、中央に雪崩れ込み始めたぞ」
「戦争の範囲が宮殿にまで届きましたか。それにしても、枝から毟った葉っぱを調べた者は居なかったみたいですね。情報偽装はしてないので、普通の【アナライズ】でも分かる程度なんですが」
「見た目は魔貨と同じだし、そう思い込んだら調べたりなんてしないでしょ。そ・れ・に♪ 正しい情報を知ったとしても、欲の皮突っ張った強欲の領域に居る悪魔が、手にした黄金を手放すなんて出来る訳無いわよねん」
楽しそうに笑う湯乃葉が表示したのは、黄金魔花月の葉っぱを【アナライズ】して得られる情報内容。
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・黄金魔花月の葉
魔貨と同じ形状をした金色の葉。
葉っぱ自体が黄金で出来ており、魔貨としての性質を持っていない不完全な状態でも相応に価値を持つが、魔貨の製造途中に持ち出された物で、物としては偽造された魔貨扱いとなる事には、注意が必要。
また、魔貨に変化する途中で枝から切り離されているため、黄金であると同時に植物としての性質が残っており、十分な概念量になるまで一ヶ所に集まるか、欲望のマグネタイトが必要量充満していると、葉っぱが種子の代わりと成って黄金魔花月の樹へと成長する。
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調べれば簡単に分かる通り、製造途中で不完全なために偽造扱いとなる、魔貨の形をした黄金の葉っぱと言うのが、枝から毟った場合の代物。
ある意味で〝製造途中に盗まれた物〟と定義する事も可能な訳で、この辺がルキフグスの干渉経路になると言う話の部分。
そして、私が今回施した仕掛けの1つは、条件が揃えば葉っぱが種子代わりになると言う部分で、侵入されて契約が成されたのを切っ掛けにして、ルキフグスから許可を得て行っている魔貨製造の妨害を行った者への処罰を、侵入の対価として強制執行すると言う物。
なお、この強制執行の内容については、魔貨製造妨害者の所持する黄金魔花月の葉を強制発芽させ、所持者の欲望を糧として成長させる感じで、これにより育った黄金魔花月は、罰則による物として私に所有権が有り、黄金魔花月の生えている場所を私の領域として侵食すると言う流れになる。
「領域侵食が始まれば、流石に仕掛けの内容にも気付きますか。久遠は情報収集を兼ねて時間稼ぎ、湯乃葉は傾世元禳と陣を使って他悪魔の誘導、私はその間にマモンの領域を削って向こうのギミックを弱体させます」
「心得た」
「了解よん、出来るだけ広範囲に葉っぱを運ばせるわね」
早速と湯乃葉が動き出し、こちらへ向かってくる気配を遮る様に、久遠がツリーハウスから飛び出していく。
私も私で、契約のパスを通じてマモンの領域側に干渉し、領域侵食を加速させる手筈を整えていると、そうして動き出した直後、想定して警戒していた通りに、私の領域を揺るがす程の圧力を伴って、【魔王 マモン】が直接踏み込んでくる。
「私の物を盗んでいくとは、随分な泥棒が居たものだな」
「我が主の領域に土足で踏み込んでおいて盗人呼ばわりとは、欲の皮が突っ張った悪魔らしい言い様だな侵入者」
「侵入者? 違うな。私の領域を攻撃して混乱させ、その上で私の領域を掠め取ろうとする襲撃者から奪い返すと言うだけの事、領域の主として当然の権利だろう?」
「権利と言うなら、其方が勝手に押しつけてきた契約に則り、侵入者からの徴収権を行使しただけの話だが? ああ、契約文面の不備は我が主によって添削してあるぞ。まさか大領域の主と名乗っておきながら、契約内容を確認していないなどとは言うまいな」
「何? ……貴様らッ!?」
「更に言うなら、地獄の宰相殿から許可を得て行っている事業を妨害されたため、事業者責任において懲罰を実行した結果の事、たとえそれにより其方に不利益が発生したとしても、それは罰則の結果である。甘んじて受け入れる事だな、侵入者」
「ふんっ! ならば貴様らの全てを奪えば同じ事よっ! 【デストリングス】*3」
「そんな物通す訳が無いだろう」
門番の如く立ち塞がった久遠が、マモンを挑発してヘイトを稼ぐ。
あの反応的に、どうやら契約に書き足した事には気付いていなかった様で、問答で時間を使うことを惜しんだのか、即座に攻撃を仕掛けてきたが、即応した久遠が出掛かりを潰す様に偃月刀を振るう。
なお、技の発動こそ妨害出来たみたいだけど、並の悪魔(レベル100前後)なら物理反射耐性でも、雑に貫通出来る久遠の一撃で全くダメージを受けていない様子なのは、流石に固有スキルなどのギミックで対策していると考えるべきだろうか。
守りを突破しようと攻撃の激しさを増すマモンと、それを冷静に対処して一歩も通さない久遠の攻防が始まったのを視界の端に置き、マモンの領域に在るギミックを解析して、上手く利用出来る物を探していく。
「ふむ、領域内で収奪や破壊が行われた時、該当物と同価値の何かを対価として徴収するギミックですか。徴収対象を指定してないのは利用し易くて良いですね」
「なるほど、適度に壊させる様に誘導すれば良いのねん」
「腐っても高位分霊の魔王ですし、ちょっとミスしてズレたと思わせる程度に、無意識下へ干渉するぐらいが良いでしょうね。私は価値があって壊れ易いか、価値はあってもそのままでは使い道が無い類いのを生やしておきますか」
「了解よん。影響力は最小限で隠蔽に全振りした幻惑の陣でも敷くわ」
最初の強制契約を乗っ取ったのを足掛かりに、マモンの領域内から見つけたギミックを、私の領域内でもマモン相手に適応出来る様に改変し、領域自体のギミックとして追加。
それが終わったら、次は久遠がマモン相手に時間稼ぎしている所周辺と、序でに私達が居るツリーハウスまでの区間に、宝石蓮華や乳香樹などのそれ自体で相応に価値のある物、或いは高性能な霊薬の素材として価値のある植物を生やし、成長させていく。
で、そんな作業を可能な限り急いで進めたところ、良い感じに育った辺りで湯乃葉が敷いた陣の影響が少しずつ出て来た様で、ちょっとずつだけどマモンの攻撃の余波で領域内に被害が出始める。
『【ディアラハン】、久遠はそのまま相手して置いて下さい、支援はしますので』
『了解した。見ていたから分かるだろうがバフを掛けると奪われるから無しで頼む。後、どうやら偃月刀での攻撃は無効化では無く、ダメージを受けた後に回復しているみたいだ』
『格闘攻撃は無効化してる様子でしたが、少なくとも2つはその手のスキルを持ってると見た方が良いですか【ランダマイザ】』
『デバフは通るが……、そっちの居場所を察知されたな』
『まあそれぐらいは織り込み済みですよ。戦場が移動する事自体は気にせずに【ディアラハン】』
『ああ』
こっちで色々と細工してる間も、足止めを続けてくれている久遠へ支援をする序でに、壊れ易く価値のある植物を敷き詰めた場所へと戦場を誘導する。
さてさて強欲の魔王様? その欲望が足を引く底無し沼に嵌まり込んだ経験はお有りですか?
枝に生い茂る魔貨の葉は、自然落葉する事で魔貨として使用可能になるが、枝から直接毟った場合は偽造魔貨に変化する。