【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
約束の日と終末の到来は一つの区切りであって、今を生きる私達の日常は色々と変わった世界でも続いていく。
それは魔界の一部となった地球の、日本近海上空に浮かぶ私の仙境であり拠点の蓬莱島も代わり無い話で――
「何かこう……燃え尽き症候群って訳じゃ無いけど、色々区切りが付いて力が抜ける感じするよね~」
「巌戸台の方を含め、各地の支部は魔界地球化した影響で大変みたいですけど、蓬莱島の方は特に代わり無いですからねぇ」
「一応、未だに巌戸台支部長を継続する事になった私は、そこそこ忙しいんですけどね……」
「あー……瑞樹なら隔離された帝都内に転移も普通に出来るんだっけ?」
「設置していた転移陣がマーカーになりますからね。ターミナルも有りますから、多少コストは掛かりますけど往き来自体は誰でも可能ですよ」
魔界地球になって変わった事はいくつもあるけど、大きな物としては日本列島の陸地拡大、それから帝都を覆っていた大結界を境界線とした空間隔離がされた事の二つだろうか。
陸地拡大は文字通りで、各地の支部間での陸路が大変になったのと、拡張された陸地は基本的に荒野なため、農地などに開拓するのが難しい上、そこらから悪魔が湧き出すのが問題点。
帝都の空間隔離については、真・女神転生Ⅳの東京がイメージとして近い感じだけど、地殻で覆われている訳では無いため、物理的な出入りが出来ない所が相違点と言ったところ。
後、地脈が滅茶苦茶になってるため、地脈を用いた転移がほぼ不可能な状態になっており、現実的な出入りの方法としては、地脈に関係無いターミナルによる転移か、私が設置した転移陣みたいな空間座標を参照して直接転移する方法の二通り。
一応アカラナ回廊*1を経由しての移動は可能みたいだけど、正直このルートを通るぐらいなら、空間隔離してる境界面に穴を空けて、通過する方法を研究する方が現実的と思えるレベルなので、有って無いような物でしょうね。
「ターミナルで転移するコストって結構掛かるんだよねぇ……。審査が終われば非時市の方に連れてこれるから、それまでに必要分のコストは用意しておくけど、直近でしておく事ってそれぐらいだしなぁ」
「見事にダレてますね琴音ちゃん。気力が湧かないなら子供達と遊んでくるのはどうですか?」
「! そうじゃん、何だかんだ忙しくて余り構えてなかったし、しばらくは瑞琴達と過ごすかな。んじゃ行ってくる~」
「はいはい行ってらっしゃい。綴は行かなくて良いんですか?」
「私は
「そう言えばそうですね。琴音が満足するまでは独り占めさせておきましょうか」
ぐでーっと垂れた様子から、一転して元気よく走り去って行く琴音を見送り、綴と笑い合う。
窓の外に視線を向けると、暖かな陽射しが照らす蓬莱島の町並み、私の家が有る蓬莱山の麓に広がる非時市の様子が見て取れる。
暦上は11月になってしばらく経ち、四季を再現している仙境内では時折、寒風が吹いて季節の変わり目を感じる様になってきたこの頃、島民を受け入れてから二度目の冬を迎えようとしていた。
「ふむ……来月からは雪も降り始めますし、終末前後で避難してきた人達には今冬だけでも支援した方が良さそうですね」
「? ああ、避難してきた人達は未覚醒者が多いんでしたか。蓬莱島内は四季がはっきりしてる分、冬は雪国みたいに冷えて積もりますし、覚醒者じゃないと厳しいですよね」
「覚醒修業的にも、覚醒している事が前提の環境は必要ですからねぇ」
見下ろす町並みの先、非時市の住宅街の一画では、一足先に移住してきた二代の家族や道場関係者を始めとした、未覚醒者達が覚醒修業に精を出している姿が見える。
掲示板などから漏れ聞こえてくる各地の支部やシェルターだと、未覚醒者の現状不理解に端を発する各種トラブルが絶えないみたいだけど、蓬莱島ではそう言ったオカルト関連を理解した人達しか受け入れていないため、覚醒の有無による差異は有っても、意識の差による問題は殆ど無いと言える。
まあ、何事も完璧になんてのは無理な話で、各種ギルドからいくつかトラブルレポートも上がってきているけど、基本的な知識不足と認識のズレによるすれ違いが原因だったりするため、問題視する程の事態にはなっていないし、このぐらいでは不満を挙げる程の事でも無いですね。
終末前には生まれ育った地元だからと、終末を乗り越える為に頑張ってた黒札達が、終末後に未覚醒の一般人が騒ぎ立てた事で、ノイローゼになりかけてる様子がいくつかの掲示板に書き込まれてるレスから見て取れますし……。
「それにしても、こうして終末後になってみると、ウチに移住する人に試験と契約を課したのは正解でしたね。巌戸台支部でも変なのが来ましたし、他の支部だと穏健派を名乗るメシア教徒なんて潜在的スパイ工作員もいますし」
「ガイア連合の一般掲示板でも話題になってますね。東京周辺はクーデター宣言から日を追う毎に状況が変化して、その影響で未覚醒者でもある程度事態の変化を感じられてましたけど、他の地方はいきなり魔界に落ちた感じですし、認識が追いつかないのも当然ではありますが……」
「これもある意味で冬の時代ですかねぇ。蓬莱島の様に管理されてる異界なら兎も角、結界を張ってあるだけだとその周辺には普通に悪魔が湧きますし、今後は一部地域以外だと覚醒しているか、が人権の条件になったりもしそうですね」
「掲示板上だと既にその兆候がありますね。概ね悪魔と戦う事もオカルト系物資の製造にも携われてないのに、要求だけする未覚醒者への不満から来る愚痴ですけど、話題になる頻度は上がってますし」
綴の言葉に、私の方でもDDS――ガイア連合のデジタル技術部が管理するオカルト界隈向けインターネットから、一般会員などが利用する掲示板を開き、約束の日前後の書き込みをざっと見て行く。
それと同時に、電子関連を任せている瑠璃からもまとめたデータを送って貰い、覚醒者や未覚醒者の意識変化を調べてみると、オカルト関係は地球が魔界化する事態に動揺してる様子はあるものの、半終末で海外から避難してきた人達の事も有って、動揺程度で収まっているとも取れるところ。
一方で未覚醒者が主に利用するSNSや一部掲示板だと、クーデター宣言から帝都の大崩壊に伴う情報錯綜に始まり、愉快犯による偽情報の流布や詐欺、或いは便乗した悪魔による物と思われる思考誘導など、阿鼻叫喚の事態になっているのが良く分かる。
「非常時に他人の不幸を見て嗤ってる愉快犯には適当に【悪因悪果の呪い】*2を投げておくとして、悪魔による物と思われる書き込みは……まあ今更ですし、知り合いが引っ掛かった訳でも無いなら放置ですね。問題なのは、メシア教の過激派と思われる書き込みですか」
「蓬莱島は瑞樹さんが対策してますから、思想汚染が進んだ場合は強制退去されますけど、黒札の方が個人で運営しているシェルターほど危険ですね……」
「契約の関係で基本的に
「SNSや掲示板の加熱具合を考えると、生存圏を率先して壊す様な愚行まではしない、なんて楽観視も出来ませんよね」
「ですねぇ……」
この時の懸念がそう遠くない未来で現実のものとなり、ガイア連合関係者の間で〝マーベルヒトモドキ〟などと揶揄される厄介者達が誕生し、各地の支部や個人シェルターを長く悩ませる問題の一つとなる――のだけど、帝都の隔離空間内にある巌戸台支部だと、マーベルヒトモドキになりそうな連中は既に追い出して処理した後ですし、空に浮かぶ蓬莱島にまでは流石に来れないでしょうから、私の管理下においては問題にはならないですかね。
問題になり得るとしたら、私の娘達と綴の両親が暮らしている香川支部の方だけど、あっちはあっちで所属している黒札の数も多いですし、現地組織の大赦は必要ならバッサリと切り捨てられる覚悟完了勢ですから、多少の問題程度で収まるでしょう。
「ま、暗い話はここまでにして、一周年の秋祭りは良い感じに盛況でしたし、次のお祭でも考えますか」
「瑞樹さんも結構お祭好きですよね」
「終末後も自由に気ままに生きる為に、今まで色々と準備をし続けてきた訳ですからね。終末を乗り越えた事で忙しく動き回るのは終わり、終末後の今は必要な分の仕事以外は趣味の時間ですよ」
「終末前から趣味の時間を削ってる様子は無かった様に思うんですけど……?」
「大量の分身を使って何とか趣味の時間を確保していただけですよ。今は木分身も最低限しか出してませんし」
「そこで分身を全て消したとは言わないのが瑞樹さんですよね」
「別にワーカーホリックって訳じゃ無いんですが……」
「趣味と言いながら今も工房の方で研究してる分身は居ますよね? 後ガイアニ関連やガイア連合の方で動いてる分身とか、蓬莱島でも桃園や牧場の世話をしてる分身とか居ますし、こうして話してる間も【呪霊錠】とかでの鍛練はしてますよね?」
何と言うか〝知ってた〟って感じに、呆れを含んだジト目で見つめてくる綴に反論するものの、ポンポンと列挙される事実に目を逸らす。
一応弁明すると、ガイアニというかガイアグループの娯楽部門関連については、山梨に避難させた苗木君の家族とかの、私が依頼して帝都から脱出させた人達のフォローに動いてる感じだし、ガイア連合での各種作業は諸々の手続きをするついでに、終末関連でてんてこ舞いな事務方の助っ人をしている状況。
蓬莱島でやってる事は、研究含めて個人的な趣味の範疇なので仕事って訳では無いし、鍛錬を欠かさないのはこの世界で生きていくなら当然の事。
まあ本来なら順に片付けていくか、人を雇うなりして分担する所を分身使って行ってる訳だし、面と向かって突っ込まれたら反論の余地はほぼ無いんだけども。
「鍛練と家の事は仕事では無いですし……大崩壊時に救出した人達のフォローは依頼した側として当然の事ですから……」
「そう言った所で人を雇ったりでお金を使わないから、物資も資金も貯まる一方なんじゃないんですか? 特に物作り関係は独りで何でも終わらせますし」
「購入で済ませられる資材などは積極的に購入してますけど、基本的に自分で取りに行って自作する方が早いですからねぇ。面白そうな研究してる人に出資したりとかもしてますけど、出し過ぎても良くないですから、結局使うより増える方が早いんですよね……」
割と以前から傾向は有ったけど、黄金魔花月を創り出したのがトドメになり、倉庫内に貯まる魔貨量が酷い事になっている現状。
その結果として魔貨を圧縮したグルメコインなんて物を造ったりもする様になった訳だけど、それ以前にもっとお金を使うようにしろと言われたら、反論も出来ないところ。
とは言え円を大量に貯め込んでる訳でも無いため、終末前の表経済に影響などは無かったし、オカルト界隈だと別段魔貨を溜め込んでいても経済が回らなくなる訳では無いため、致命的って話では無いのも今まで放置する感じになった理由だけども。
「瑞樹さんは全て自給自足してますが、普通は装備のメンテナンスや更新、生活費なんかでも相応に使うんですけどね」
「私も初期の頃は、手の回らない部分を仲間達から購入して済ませたりしてましたけど、レベルが上がるにつれて購入で済ませる事自体が難しくなりましたし、物作りに向かない仲間達に生産組への依頼順番を譲ったり、作成依頼をされる側になったりしてましたからねぇ」
「その結果が大概の物を自作する所為で、いくつもの倉庫を埋め尽くす資材と魔貨と製作物の山って訳ですね」
「終末の日前後で開放して、備蓄をそこそこは消費する想定だったんですが……、渋谷隠れ家では一年近く生活してた関係で、持ち帰った異界を含めて逆に増えましたね」
「収納場所……は専用の異界を造ってますから大丈夫でしょうけど、その内何をしまったのか忘れそうですね」
「検索やソート、フィルタ機能は付けてますから、思い出せなくても探せるのでその辺は大丈夫ですよ。っと、何か色々と話が脱線しましたね。ともあれ次の祭りをどうするか、に話を戻しますけど、冬の祭りとなると――」
「冬だとやっぱりクリs「年末のコミケですね!」ええぇ……?」
綴が言いかけたイベントを遮って冬の祭典を候補に挙げると、困惑げな声を溢しながら何とも言い難い表情で視線を向けてくる。
「いや、メシア教がやらかした結果だとは言え、それでも一神教系列と主張してる連中によって終末が到来した直後に、一神教系のイベントはどうかと思いますよ? 日本だと完全に形骸化した商業と恋人達のイベントですが」
「それを言われると確かに……でも、それなら前に山梨第二支部で行ってた冬至の祭りでも良いのでは?」
「そっちも考えましたけど、冬の祭典の方は東京が隔離された事でいつもの会場が使えなくて、今年処か今後の開催自体が怪しくなってますし、それなら
そもそも施設名称を東京ビッグサイトに肖ってギガサイトにしたのも、終末に突入したらビッグサイトでの祭典が不可能になるだろうと予想しての話。
終末直後で何処もコミケの開催地をする余裕なんて無いだろうし、ここで既成事実を作ってしまえば、今後も夏と冬の祭典を行う会場としての立場は盤石になるでしょう。
ただ、懸念点も一つある訳だけども――
「まあ瑞樹さんが冬のコミケをギガサイトで開催するのは良いですけど、人集まるんですか? 蓬莱島自体、渡航者に制限掛けてる影響で、人の往き来は多く無いですよね?」
「渡航者に関しては、祭典の開催期間に限定しての入島パスを用意するのでなんとでもなりますが、終末に突入した直後の年末に、コミケに参加出来る余裕があるかと言うと……まあ無いでしょうねぇ」
魔界地球となった終末後世界での当然の話として、各地の支部やシェルターでは生きるか死ぬかの瀬戸際な場所も多く、娯楽は大事だとしてもそのために蓬莱島までやってこられる余裕があるかと言うと、大多数にはそんな物無い訳で……。
移動に関しては、終末後を見据えて量産して置いた飛空艇でクリア出来たとしても、次は祭典としての形になるだけのサークルが参加出来るかって問題も出てくる話。
「なので、同人誌即売会を一応の主体にしつつ、全体としては大規模フリーマーケット的な感じでお祭にしようかと考えてるところですね」
「フリマ……ですか。不足する物資の購入とかが出来るなら、参加者は確かに増えるかもですね」
「私の所で溢れかえってる物資をある程度安く放出するつもりですし、支部やシェルターの中でも余裕のある所なら、産出品などの余剰分を売って、知名度を上げたり今後の販路を構築したりも出来るでしょうから、終末直後の混乱期を乗り越える一助にしたいところですね」
メインの目的は夏と冬の祭典を遺失させないためだけど、それと同時に、終末突入で維持が大変になってるガイア連合系シェルターへの支援の側面もある。
とは言えガイア連合系なら、ターミナル経由などで支援物資を送ったりしているため、最低限は何とかなっているはずだけど、逆に言えば最低限以上の余裕があるかどうかは、各シェルターの努力次第と言う事。
黒札が積極的に関与しているシェルターだと、通常の支援以外にも黒札向けの支援や黒札自身が稼いできた分が加算されるため、小規模なシェルターなら十分以上に余裕を持って生活可能と思う所。
まあ黒札自身のレベルや能力によってブレ幅は大きいし、運命力が関与するレベルで不運が襲ったり下手を打ったりしなければ、の但し書きは付くけれども。
「よし、草案としてはこんな所ですね。後は政務ギルドの方に投げて、非時市の市長になった彼の初仕事として頑張って貰う事にしましょう」
「確か
「行動力と人心掌握能力が有りますから、大きな仕事を熟して実績が出来れば、市長としてより動きやすくなるでしょう」
蓬莱島で行う冬の祭典――コミックマーケットを主題にはしつつ、一般向けには終末後の生活向上を目的とした、オカルト関連の道具や装備などを扱うフリーマーケットとして、12月の半ばぐらいから1週間前後の祭りとして開催する予定を立てたら、今は市庁舎も兼任する事になった政務ギルドへと草案を送る。
まあ提案したとは言え、島内での準備関係は林水市長と島民達に全て任せる訳だし、島民達が相談した上で実施見送りとする可能性もある。
その場合は仕方無いので、蓬莱島内に転移のみで往き来可能なイベント用の異界を用意して、希望者をピックアップして開催する感じになるだろうけど、蓬莱島に移住してきた島民達の気質を考えるに、この辺は要らない心配かな?
「島民の人達ってお祭好きが多いですし、瑞樹さんが出資するなら全力で乗っかって来そうですよね」
「それならそれで良いんですけどね。終末なんて出来れば来て欲しくないバッドイベントが終わったんですから、これからは面白おかしく、楽しく生きていきたいですからね」