【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
人間の文明・社会が滅んでもまた日は昇る。
魔界地球となっても――いや、ある意味では物理現象より認識や思念、概念が強く影響する魔界だからこそ、生き残った人々が思い描くままに、一年の終わりと始まりもまた、ごく自然に、当たり前の物として廻ってくる。
蓬莱島で開催した、例年とは少し以上に形式が変化した冬の祭典は、企画段階での懸念とは裏腹に各地から多くの人達が集まった事により、大盛況の内に無事閉幕となった。
そうしてお祭自体が無事に終わったのは良いとして、各地から人が集まったのなら、今度は各地へと戻る事になる訳で、迫る年末年始に向けて各地へと戻っていく参加者の輸送に、飛空艇がひっきりなしに飛び交う事になる。
まあ一部の個人や少人数での参加者については、ターミナルなどでの転移で戻ってたりもするけど、大人数で参加してたり大量の物資を運ぶ所はターミナルだと転移コストが掛かり過ぎるし、そもそもターミナルが無いシェルターなどから来てる人もいて、そう言う人達を空輸するのも、祭りを企画して呼び込んだ側の責任と言う物。
そんな訳で、島民達が運用する飛空艇に、他支部で開発された航空戦艦や、個人で購入したり開発したと思われる航空手段が混ざったりすると言う、来年以降の風物詩となりそうな光景が広がってたりしたけど、それが落ち着く頃には日付も進み12月31日大晦日。
終末が訪れようとも一年の締めくくりはやって来るし、去年とは色々と変化していても、いつもと変わらない事柄なんてのは普通にある物で……。
特に年末ともなれば、各地域各家庭で色々と行事や仕来りなんかが有ったりする話。
「去年は島民が来たばかりで、町の形も出来てませんでしたから個人毎で終わらせましたけど、今年は一応島の主として厄落としぐらいはって事で、今後も色々と使えそうですし、家から山頂の霊泉側まで繋げた儀式場を造りました」
「年末の厄落としって言えば、
「普通なら祀ってる祭神に対して、神楽なんかを奉納したりするんですが――」
「ウチに祭神とか居ませんから祝詞を捧げるとかは省きますし、穢れを祓うのは私が霊泉を触媒に術で行いますから、個人の穢れを形代に写して流すとかもしませんしねぇ」
「非時市が発展して島民が増えたら、師匠を祀る儀式とかに変化するんじゃねぇか?」
「年に数度だけこの舞台で披露できるとなると、島民に取っての誉れになりそうですわね」
「仰々しいのとか面倒なだけなんですけどねぇ……」
本来なら大仕事な年末の大掃除は、不要な物は先日までの祭典で開いていたフリマで処分済み、埃や汚れなどは浄化の術で毎日掃除している関係で、そもそも残ってないため省略。
そして正月と言えば年神を迎えて、五穀豊穣や家族の健康や幸福をもたらして貰う為にもてなす訳だけど、蓬莱島は基本的に悪魔の侵入を排除しているし、私自身神の力を頼るってのは余り好きでは無いところ。
まあ私自身は神の加護なんて願い下げとは言え、綴や子供達に弟子達まで私の考えを押しつける訳にはいかないし、私も日本人として、八百万の神々を尊重する感覚ぐらいは残っている。
それに電子戦向けに専用レベルの式神として瑠璃を造った際、非時市に天照大神を主祭神とした神社も建立してる訳で、節度を守って来訪するなら許可する事にしている。
この辺は、八百万の神々の元締めをしている天照大神にも話を通し、許可証の発行権限を渡す代わりに、来訪した神々がやらかしたら天照大神にペナルティが行く様に契約も結んでいるため、年神が蓬莱島に来訪するのも問題は無い感じ。
そんな訳で、非時市に在る扶桑神社では冬の祭典時に餅つき大会をして、神社や各家庭で飾る鏡餅を作ったりしてたし、門前町になってる通りでは、門松や注連飾りを造って販売している店も在ったりする。
私の家でも、綴を始めとした家族のために門松や注連飾りは用意したし、鏡餅に関しても折角なので、新しい餅米の品種を創って餅つきして、巨大な鏡餅をこさえたりもした。
ちなみに創った餅米はこんな感じの作物になっていて、いつもの様に農業部や購買部に登録してある。
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・餅米〝てるかがみ〟
新年の鏡餅を作る目的で生み出された餅米であり、その関係で神饌としての性能が高い品種になっている。
加工して作り出された餅や団子などは、神格を持つ存在にとっては特に味のレベルを一段向上させ、強力な活力を与える程。
なお、素材の霊格の高さに反して、未覚醒者が食する事も可能な美味しい餅米となっており、上手くつきあげた餅は鏡の如き艶めきと光沢を持つ。
――――――――――
後、てるかがみで作った物と他の餅米で作った物を比較すると、回復量が最低でも3倍以上、素材の組み合わせによっては10倍近く変わる事が判明してたりする。
私も本霊が【エンキ/エア】って神格だからか、てるかがみを使った物の方が美味しく感じるし、回復効果も上昇するって事で、今後常備するのはてるかがみの方になりそう。
「お節とかお屠蘇の準備も終わったし、後は大祓の儀が終わったら年越しまでゆったりかな?」
「日本の年末年始って色々やるんだなぁ……」
「そうかな? マリッサの方――アメリカはどんな感じ?」
「私ん所だと、大晦日に家族や友人で集まってパーティーして、新年を祝うぐらいだな。元日ぐらいは流石に休日だが、翌日の2日には普通に仕事や学校が始まるしな」
色々と準備が終わった頃には大晦日も昼を過ぎて、後は儀式参加者の到着と開始時間を待つばかりとなった隙間時間。
私と琴音に綴、最初の弟子組の4人に、半年遅れで弟子になった麻帆良堂の6人、合計で13人の大所帯でテーブルを囲んでいると、ダイオラマ魔法球を使って陰日のキャンペーンをしてた時の事が思い越されるのは、ガイアニのネット配信で、その時のキャンペーンを下地にした陰日第五期が絶賛配信中だからだろうか。
まあそんな隙間時間が出来れば、いつものティータイムって事で雑談とお茶で時間を埋めていると、話題は自然と目前に迫った年末年始に関係する事になる物で、マリッサ(アメリカ)にペリーヌ(フランス)、マルガやマルゴット(ドイツ)と各国の過ごし方を聞くと、国が違えば文化も風習も変わるって事が良く分かる。
ちなみに今回のお茶は蓬莱島産の煎茶を淹れたため、お茶請けは漆黒米を製粉した上新粉で作った煎餅を数種類に、てるかがみを製粉した餅粉を使用した大福を数種類などと、和菓子系でまとめてみた。
「三が日も無いんだ!?」
「フランスの方でも三が日の風習は在りませんわね。クリスマスから大晦日まではお祭気分が続いて、大晦日の夜に盛大に祝宴をするのはマリッサの方と同じで、元日はゆっくりと静に過ごすのが一般的ですわ。1月の伝統行事としてなら、6日の
「ドイツだと、一般的には新年祝いに花火や爆竹を鳴らしたりするわね」
「後は幸運の象徴と信じられてる物を贈り合うとかかな~。ナイちゃん達魔女的な大晦日の行事だと、来年の運勢を占うブライギーセンだね」
「スプーンに小さな鉛を載せて蝋燭などで溶かし、冷たい水の中に一気に注いで、冷えて固まった鉛の形から来年の運勢などを見る占いですね。年に一度、大晦日にのみ行う儀式と考えれば、適性の有る覚醒者なら的中率はそこそこでしょう」
「それ、固まった鉛の解釈を間違えなければ、って話だよね?」
「そうね。大枠での出来事は見通せても、細かい部分を読み間違えるってのは多いわよ」
「実際、里にメシア教の手が迫ってたのはブライギーセンの結果から分かってたけど、何時来るのかとか、相手の規模や力の差なんてのまでは読み解けなかったから、壊滅に近い被害受けて日本へ渡ってくる事になったんだしね~」
「占いで何でも分かるなら、終末なんて事になったりもしないよね……」
この中では1番一般人に近い感性を持つ亜子から、深々と溜息を吐きながら溢れた言葉が室内に響く。
それは現代に生きていた人々が、終末を生き残った人達が抱える嘆きと諦念をも感じさせる。
「まあ占いで分かったからこそ覆せなくなる、なんて事も有るからねぇ。今はレベルが上がってきてる訳だし、占いする時は気を付けた方が良いかもね」
「占ったから覆せない? どう言う事?」
「あー……円達はそっち方面の座学は未だだったか。まあ占術の適性が高かったり、趣味で占いしてるとかじゃないと知らんよな」
占いってのは一種の観測で有り、量子力学の思考実験である〝シュレディンガーの猫〟の様に、観測するまではどうなっているか不明なのが未来と言う物で、その不確定状態を先に観測する事により、他の可能性に至る流れを断ち切ると言う側面を持つ。
まあ占ったのが霊格や適性の低い術者なら、見える未来も曖昧でいくらでも変化する余裕があったりするけど、霊格や適性が高い術者だと未来を明確に観測してしまうため、覆す事が出来ない〝未来確定の呪い〟となってしまう場合も有る。
黒札だと、占術のみで言えばショタおじすら越えるくそみそニキが正にコレで、占った結果はよほどの運命力の持ち主でも無ければ覆せない程に、強固な呪いとも言える未来予知になるため、普段から占う時は解釈の余地がある断片的な観測に留めるなど、色々と工夫をしているとは聞いた事が有る。
そう言った問題があるからこそ、私が普段から行う占術は未来の観測では無く、現在と過去の情報から未来を予測する方式にしているし、陰日でも未来予測方式の占い術式を掲載してる訳ですが。
「――っと、本格的に話すと時間が掛かりすぎるのでざっくりとした内容になりますが、未来を知ると言う事には、相応のリスクが有る訳ですね」
「何と言うか、占いのイメージその物から認識を改めないといけない気がするよね……」
「瑞樹の説明を聞いて感覚的にイメージが掴めないって事なら、占術や未来視の適性は高く無いって訳だし、難しく考えなくて良いと思うよ。陰日のサプリにも掲載してる未来予測方式の占術なら、レベルが高くなっても未来を固定は出来ないから安全だし」
「術の事はそれで良いけど、それはそれとして座学に力を入れるべきよね。来年の抱負にでもしようかしら」
「ガッちゃんのそれ良いかも、終末になって空輸とかの仕事が新しく増えたけど、非時市の変化なんてそれぐらいで余裕は一杯有るもんね」
「そう言われると、高校卒業せずに大学入学した様な気分になってくるんだけど?」
「好きな時に好きなだけ学べて、学んだ事を実践する場も有るとか、大学よりも充実してるわよ」
「確かに、
「二代は極端な話だけど、ウチのお父さんも月光館学園の大学部で教鞭取ってた時より働きやすいとは言ってたかな。講義を聴きに来るのは意欲の有る人達ばかりみたいだし」
「大学生って言ったら、単位のためだけに講義に出るとかってイメージあるよね。そこんとこ大学生だった綴さん的にはどう?」
「
「小中高の区分は基礎学力関連で単位設定してますけど、卒業する時は死んだ時ぐらいな感じで、
色々と話している内に隙間時間も消化して、予定している大祓の儀の開始時刻が迫って来たので、念のため儀式場の最終確認を行った後、到着した参加者との挨拶へと向かう。
具体的な参加者の内訳としては、香川支部を拠点にしていて、現状でもそこそこ以上に忙しい中参加してくれた綴の両親、非時市の職人ギルドで幹部職に就いてるペリーヌの両親、裕奈の両親である黒札の銀鈴ネキに
それから終末時に避難させた美砂、円、桜子、亜子の両親達に、蓬莱島内に魔女の里を用意した関係で、
まあ流石に二代の所の槍術道場門下生とかまで範囲を広げると、外部開放した当初から移住してきた島民達と要らぬ軋轢が起きたりしそうなため、今回は弟子の両親や兄弟姉妹の範疇まで、と参加条件を絞った訳だけども。
続いて、本来は色々と忙しいはずだけど、その色々を放り投げて冬の祭典へ遊びに来ていたキノを筆頭に、キノちゃん愛し隊の同志達*2、キノが半終末時期にドイツまで旅した結果、連れ帰って来る事になったフォトネキ*3やトゥルーデネキ*4と言った北神奈川支部組。
最後に私個人の友人枠として声を掛けたところ、参加してくれたのがエフィネキとカズマニキに、ネコカオスニキとネコ覚ネキ、それから渋谷隠れ家での攻略レイド解散後は基本山梨で生活して、渡した転移陣で
なお、美波さんやちひろさんは星霊神社関連の年末年始で忙しいため断念、槍ニキやドモンニキなどは星祭組で騒ぐ予定とのため木分身を送り込んだし、イカネキは宗像支部と呉支部に跨がって構築している大異界〝宗像大内海〟*5関連の祭事があるため、そもそもこっちへの参加可否以前の話。
そんな感じで集まった参加者との挨拶だけど、蓬莱島組は普段からそこそこ会う機会もあるため、軽く顔を合わせて挨拶して終わり、北神奈川支部組も同志達はスレでよく話してるのと一人一人話すには人数が多いため、出迎えの挨拶をしたら先に儀式場の方へ向かって貰い、友人組+αの方は前日から泊まってたのも有って先に会場入りしている。
「それでボク達がラストだから、出迎えつつ案内するって感じなんだ」
「ですね。まあそうは言っても直ぐ其処なので時間も掛かりませんが」
「探求ネキ、少し前に聞いたんだが、蓬莱島にもドイツから避難してきた魔女が居るのか?」
「
「私としては蓬莱島なんて大きな島が北神奈川支部の上空に在って、支部の人達驚いたりしてないかな? って所ですけど……」
「フォトネキには説明してませんでしたっけ、蓬莱島は特定条件を満たす人以外は視認出来ない結界が有りますから大丈夫ですよ」
「特定の条件、ですか?」
「基本的には、飛行船などの空路で出入りする為の割り符を所持している事ですね。特殊条件として、覚醒者未覚醒者問わず、学徒証の取得条件を満たしている人物で、周辺環境の影響でガイア連合のターミナルにアクセス出来ない場合なんてのも有りますが」
「ちょっと待って、割り符の方は聞いた事有るけど、後者の方は初めて聞いたんだけど?」
「それはそうでしょう。終末後に生き残った人達の中から、学ぶ意欲が有っても環境の所為で学べない人をスカウトする為の仕掛けで、稼働させてから一ヶ月も経過してませんし」
「探求ネキも色々と考えて行動しているのだな……」
「島民達の町は出来始めた所ですが、内に籠もるといずれ澱みますからね。外から新しい風を入れるための仕組みは早めに動かして、どうとでもなる間に問題点を洗い出して置くってだけですよ。さて、参加者は全員揃いましたし、時間も丁度ですから大祓の儀を始めますね」
キノ達を連れて儀式場に入る頃には、丁度良く予定時刻を向かえたため、キノ達と別れて山頂の霊泉側、一段高く設えた壇上へと向かう。
「それでは今年一年の厄落としと、来年の無病息災を祈念して――」
時刻は15時と季節柄太陽が傾き始める頃、蓬莱島の所有者であり儀式の祭主として壇上に立ち、儀式用に浄化や禊の概念を込めて酒造した神酒〝
『乾杯!!』
まあ仰々しく儀式と銘打ってはいるけど、実体としては忘年会みたいな物で、参加者も身内枠の弟子とその家族ぐらいと数は多くない――予定だったんだけど、実際の参加者は北神奈川支部組が追加された事で予定の倍以上。
これに関しては、恋人の一人として声はかけていたけど、忙しいだろうからと半ば以上諦めていた所に、サプライズ気味でもキノが参加出来るようになり、キノが参加するならと同志達などの北神奈川支部から来られる面子を呼んだ結果のため、人数が多くなった事自体はトントン処かプラスなので問題無し。
人数的には中小企業の忘年会ぐらいの規模にはなってるけど、儀式と言う名の宴会の内容としては、浄化や禊の効果を持たせた飲み物や料理を食べ、笑って騒いで今年の厄を落とし、日が落ちたら最後に年越し蕎麦を食べて解散と言う、使ってる食材などが高レベルな霊能素材って部分を除けば、終末前なら各家庭で見られる大晦日の光景をちょっと派手にした程度の事。
一応儀式のメイン部分としては、こうした宴会によりハレの気を創り出し、穢れを祓うハレの気に私の霊力を加えて山頂の霊泉――仙境の境界線を構築する結界の要である、霊水の噴出点にハレの気を溶け込ませる事で、仙境内の穢れを一気に祓い流す、と言うのが元々予定していた術の概要。
なんだけど、元々の術は蓬莱島内の厄落としだけで完結する物で、キノが参加出来る様にしてくれたお礼も兼ねて、北神奈川支部の管轄内も同時に厄落としする事にしたため、術式に少し手を加える。
と言っても霊水を媒介に使う事に違いはないし、ハレの気を創り出すための宴会自体にも変更は無い。
変更点は蓬莱島内の穢れを洗い流した後、蓬莱島内を循環する水の流れに還す部分を島の外へ放出する様にして、放出した霊水変化させて雪を降らせると言う所。
ハレの気が籠もった霊的な雪でもって、穢れを雪ぎ祓うと言う意味を持たせ、北神奈川支部周辺に雪を降らせて穢れを祓う感じになる。
「さて、術式の方は起動しましたし、今年最後の宴会ですから盛大に楽しみましょうかね」
一口含むと、雪の冷たさの様にアルコールの風味が口一杯に広がり、直後雪解けの如くスッとアルコール分が溶け、最後には清涼な水を飲んだ様な爽やかな後味を感じる一品。