【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
温泉でキノと子作りの約束を交わし、途中から混ざりに来た琴音や
湯上がりには何か飲みたくなるからと、談話スペースには飲み物などを入れた保存箱を設置してあるんだけど、どうやらキノは、私が飲んでいた瓶入りのミルクが恵利香の母乳と言う事に驚いた様で、ごく普通に母乳の事について話をしてる私達に、困惑した表情と視線を向けてくる。
まあ社会通念的には、こうして話してる事の方が普通は顔をしかめられる物だろうけど、そう言った〝常識〟なんてのは、コミュニティ毎に異なる物。
赤子の居る家庭なら母乳の話が出るのは当然の事だし、母親の体調によっては母乳の出が悪くなったりして、赤子の食事に直接関わるため、味の変化などは普通に気を付ける必要が有ったりする話。
また、覚醒により母乳が出る様になった
一緒くたにするのは多少の語弊があるけど、言ってしまえば酪農家が取れすぎた牛乳をどうするかと話してる様な物でも有り、母乳だからと性的なイメージで認識するのも一方的な見方と言える。
などとキノへ丁寧に説明し、そのついでに家族用に購入してる瓶入りの〝搾りたてエフィミルク〟*1を渡すと、納得してくれた様で美味しそうに飲み始める。
「な、なるほど……」
「まあそれはそれとして、恵利香の母乳には興奮しますし、閨では直接吸わせて貰ったりもしますが」
「ボクの納得を返してくれないかなっ?! 確かに美味しかったけどさ!」
「美味しかったと言って貰えるのは嬉しいですね~」
「恵利香さんのミルクって何か優しい味がするんだよねぇ。単純な味ってだけなら牛豚鳥やミルクジラとかのミルクも十分美味しいんだけどさ」
「その辺はミルクに含まれるマグネタイトの影響でしょうね。牛豚鳥やミルクジラはストレスの有無ぐらいで、搾乳時に特別な感情を込めたりとかしませんから」
「ああそっか、霊的味覚の差異ってこう言うところにも出るんだね~」
「私も瑞樹さんに教えて貰うまで、霊的な味覚による感情の味、なんて考えた事も無かったですし、驚きですよね。販売するなら標準品質が必要って言われて、搾乳中の霊力や感情のコントロール訓練をする事になりましたし……」
「星大祭の時みたいに店売りするとなると、込められてるMAGの違いが雑味と受け取られる可能性も有りますからね。基準となる味を決めて、味をブレさせないのも食料販売には重要ですよ」
「ボクとしては美味しければそれで良い、って感じだったから気にした事無かったけど、そんなに変わる物なの?」
「この手の話は実際に経験するのが1番ですし、風呂上がりのデザート代わりにちょっと作りましょうか」
と言う訳で、疑問符を浮かべるキノに体験して貰うため、込められているマグネタイトの異なる3つのエフィミルクを取り出し、それ以外は材料も製作工程も同一にしたミルクアイスを作る。
ちなみに取り出したエフィミルクは、1つがガイア連合内で販売している標準品質の物、もう1つが乳母をして貰ってた時同様の愛情を込めて搾って貰っている家族用の物、最後に閨の中で私が手搾りした愛情一杯な私用の物の3種類になっている。
完成したミルクアイスを、わかり易い様に色の違う皿にそれぞれ盛り付けると、見た目には皿の色以外に違いが無い様に見えるアイスが出来上がる。
「さて、製作工程も見てたから分かると思いますが、青の皿が標準品質の物、黄色が家で使っている物、緑が私用の物を使用した以外は、素材の量も工程も同一に整えたミルクアイスになってます。さっき家族用のを飲んでましたし、黄色の物から青、緑と順に食べてみて下さい」
「うん、試食するのは良いんだけどさ、その前に瑞樹ちゃん用のミルクって何?!」
「一食即解! 食べれば分かりますよ」
「むぅ……、黄色のは――うん、とても美味しい。甘さが優しいって言うか、冷たいのに食べてる内に心が温かくなる様な感じがする。じゃあ次は標準の青色の皿――ん? 黄色のと同じ様にとても美味しいミルクアイスなんだけど……、何かちょっと物足りない感じ? 最後に瑞樹ちゃん用って言ってた緑のだね――うっわ、すっっごい甘い……! 何か胸焼けしそうなんだけど??!」
「あはは、まあそうなるよね~」
キノがミルクアイスを食べ比べして、目を白黒させてる様子を見て笑ってる琴音はと言うと、家族用のエフィミルクで作った分の余りを食べており、恵利香は標準品質の方を食べていて、私用の物に手を伸ばす様子は無い。
「これ、青色の皿のを食べた時に物足りないって感じたのは、込められた愛情の差なんだろうと思うけど、緑のって砂糖とか追加してないよね? これも込められてる感情やMAGの違い?」
「そこはアレ、イチャラブ見せつけられて砂糖吐きそうって表現するでしょ。そんな感じで特定個人に向けた強い愛情のMAGって、当人以外には甘ったるく感じたりするんだよね」
「私には程好く甘味が増して、愛しさが溢れてくるんですけどね。家族用の慈愛の感情が込められた物なら、感じ方の幅が広いので其処まで問題になったりはしないんですけど、黒札の中には本霊の関係か感情の感じ方が異なる人とかも居ますし、特別な感情を込めていない標準的な味ってのも重要なんですよね」
「特定の感情を食べる悪魔も居ますし、アウトサイダーやデビルシフターの人にも、込められてる感情による好き嫌いが出てくる事があるみたいですからねぇ」
そんな感じで軽く話してる間に、食べ比べの為の少量だった事も有って、ミルクアイスも全部食べ終わり、時計を確認すると、現在時刻的には新年に変わるまで未だそこそこと言った感じ。
周囲に目を向けると、どうやら時間帯的に風呂を済ませた面々が多い様で、飲み物を取りに来たりで自然と談話スペースへ集まって来ているのが見て取れる。
そうなれば当然の様に、私がアイスを作って皆で食べてたのも気付く訳で――
「何か美味しそうな物食べてる気配!」
「既に食べ終わってるっぽいけど、調理器具が残ってるって事はまだチャンスはあるはず!」
「そうですね、まあ新年までもう少し時間も有りますし、皆集まって来ましたから、ちょっと手間を掛けたアイスでも作りましょうか」
丁度風呂上がりな様子で、浴衣の裾をはためかせて向かってきたのは裕奈と美砂の2人。
その後ろからは、一緒に風呂に入ってた様子の綴や二代に円達もやって来ており、何だかんだといつもの弟子組も勢揃いしそうな感じ。
で、そんな感じに集まるのなら、折角調理器具も出しているからって事で、少し凝ったアイスを作って配る事に。
「お、どんなの作る感じ?」
「マラシュ・ドンドゥルマを作ろうかと」
「ドンドルマ?」
「モンハンに登場する町では無く、現地の言葉でアイス全般を指す名称のドンドゥルマですね。日本ではトルコ風アイスで有名になった、餅の様な粘り気の有る溶けにくいアイスの事です」
「ああ、アレか! トルコだとドンドゥルマって言うんだ」
なお、トルコ風アイスは日本人の味覚に合わせてアレンジした物で、本場のドンドゥルマとは似て非なる物だけど、今世でも2001年にトルコ風アイスが発売されてブームになっているため、どんな物かと言うイメージは伝わった様子。
何を作るか軽く説明したところで、早速ドンドゥルマ作りに取り掛かる。
まずは、ドンドゥルマに欠かせないサレップと呼ばれる粉を倉庫から取り出し、計量して鍋に入れたら、ガイア連合畜産部から購入した山羊のミルクと砂糖を加え、一度沸騰させた後弱火でかき混ぜていく。
ちなみにサレップと言うのは、トルコの一部地域に自生するラン科の植物、オルキス・マスクラの塊茎を粉末にした物の事で、人工栽培技術が確立されていないため、生産量自体が少ない代物だったりする。
そのため今使ってるサレップは、半終末後のトルコに【神足通】で転移して、自生しているオルキス・マスクラを数株ほど採取し、生育環境を整えた異界内で増やしつつ、霊草化したオルキス・マスクラの塊茎から精製した物になる。
なお、日本人向けにアレンジされたトルコ風アイスだと、大和芋やサツマイモなどの澱粉を使うとの事。
時間を加速させて、本来は1時間ぐらいかき混ぜて煮詰める工程を10秒程に短縮し、鍋の中がヨーグルト状の固さまで煮詰まったら、冷やし固めて練り上げる作業に移る。
ここで空気を含ませる様にして繰り返し伸ばす事により、餅の様な粘りが生まれ、気温が高くても溶けて垂れるのを防げる様になると言う話。
冷えて固まった物を鍋から取り出したら、時間加速に
「――よっと、後は切り分けて器に盛り付けて、トルコアイスのマラシュ・ドンドゥルマ完成です。他の味もこれから作っていきますね」
「パフォーマンスってだけじゃ無いんだろうけど、アイスがみょーんと伸びるのは面白いよねぇ」
「あ、餅と同じ様に喉に詰まらせる可能性が有りますから、各自飲み物はちゃんと用意して下さいね。一応白湯はここに用意してますが」
「りょうか~い! んじゃ早速頂きます!」
作ってる間に集まって来た皆にも配り終わった所で、次は使うミルクを変えたりチョコや宝玉ピスタチオなどを混ぜた物、本場トルコのユニークなフレーバーである唐辛子系スパイスを混ぜ込んだ物など、同時並行で十数種類程のドンドゥルマを作っていく。
出来上がったドンドゥルマは、それぞれ好きに取り分け出来る様にして、トッピング用のチョコチップやシリアルフレークなども並べたセルフスタイルにし、私は追加で作る方に専念する。
「うわぁ、この唐辛子入りって何か不思議な感じ! 甘くて濃厚なミルクの風味なのに、後からピリッと香り豊かなスパイスの刺激が広がる!」
「バニラやミルクそのままも良いけど、チョコフレーバーも良いね。普段のアイスと違うもちもち感が癖になりそう」
「む、確かにこの粘りは、餅の様に詰まらせる危険が有るで御座るな」
突発的に始まったアイスパーティーだけど、色々作って配ってとしていれば、いくら時間加速して作っていてもそれなりに時間は掛かるもので、気が付けばそろそろ今年も後わずか。
マラシュ・ドンドゥルマ以外にも、皆が満足するぐらいに色々とアイスやパフェなどを作り、最後に自分用のアイスを作ったら、調理器具などを綺麗にしてお開きとする。
「お疲れ~、新年目前までアレコレやってるとか、動き過ぎじゃない?」
「料理するのも趣味の範囲ですし、特に負担にはなってないんですけどね」
「今までを考えればこの程度、って感じなのは分かるんだけどねぇ。ま、今年はいつもの御来光登山マラソンは行かないし、初日の出はココから拝むだけだからゆっくりしよ」
「島毎浮かせた関係で、家の在る標高は軽く四千を超えてますから、富士山の山頂よりも見晴らしが良いですからねぇ」
調理するために片付けていた椅子などを戻して一息吐き、自分用と言う事で専用エフィミルクを使い、チーズなどを加えてチーズケーキっぽく味を調えたマラシュ・ドンドゥルマに齧り付く。
もちっとした粘りのある食感から、濃厚なチーズと芳醇なミルクの香りが口一杯に広がり、舌の上でチーズとミルクの甘さと風味が踊るのを楽しんでいると、先程まで他のグループに混ざっていた琴音が労いの言葉を掛けてくる。
さっきまでは結構な量のアイスを次から次へと持って行っていたけど、今は湯気が立ち上るコーヒーを持ってくつろぎモードな感じなのは、流石にアイスを食べ過ぎて身体が冷えて、温かい飲み物が欲しくなったって事だろう。
「御来光登山マラソンも皆で集まって騒げてたから楽しかったけど、一般人に迷惑を掛けないためって事で星霊神社からのルートを使ってるから、黒札限定なのがちょっと残念なんだよね~」
「魔界地球になった影響で富士山も丸ごと異界化しましたし、今なら一般人は居ないって事で、一般登山道側のルートを使うのも考えましたが……」
「富士山異界自体がまだ安定して無いんだっけか。星霊神社から山頂までのルートは終末前から使ってるから、異界化の影響は殆ど無かったし、今も未覚醒の黒札向け修行で使ってるんだけどねぇ」
「まあ富士山からの御来光は来年以降ですね。出来るなら子供達も参加可能になってから行きたい所ですし」
「皆覚醒してるし、式神なりに載せれば今でも行けそうだけどね――っとと、そろそろか」
そう言う琴音の視線の先、壁に掛けてある時計を見ると、午前零時まで後10秒ほどである事を示しており、周囲では新年のカウントダウンも始まって、今年が終わると言うのを改めて強く感じる。
『――2! 1!』
「あけおめ~っ!」「Happy New Year!」「Bonne Annee!」「Frohes neues Jahr!」
皆で声を揃えてのカウントダウンから、バラバラな新年の挨拶が響き渡り、微妙に締まらない新年の始まりに笑いが溢れる。
「普段から日本語での意思疎通が基本だから忘れがちですけど、こう言う場面だと母国語が出て来ますよねぇ」
「まぁこう言う緩い感じが私達らしくていいでしょ。それより、明けましておめでとう。今年も1年色々有るだろうけどよろしくね!」
「はい、明けましておめでとう御座います。色々と琴音が巻き込まれるのはもう慣れましたが、フォロー出来る様に連絡手段だけはなんとか確保して下さいね?」
「わかってるって、それじゃ皆と軽く挨拶したら解散かな?」
「解散も何も、お風呂上がりに自然と集まる感じになっただけですけどね。例年はこの後登山マラソンの準備でしたが、今年は家で初日の出を拝む訳ですし、日の出の時間までは2日目の恒例だった姫始めでもしてましょうかね? キノも元旦から忙しくなりますし」
「お、いいね! じゃあ挨拶ついでに参加者の確認もしてこうか」
新年の挨拶や余韻もそこそこに、新年らしく姫始めと銘打ってはいるけど、その実いつも通りな百合の園を咲かせる事にして、それ用に色々と設備や結界などを整備している部屋――通称〝花園〟に、希望者のみで再度集合。
それから夜明け前まで夜の華が咲き乱れた訳だけど、一つ言える事は、やはりキノは可愛かった、と言う事で。