【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「あ゛あ゛ぁ……新年早々酷い目にあった……」
「キノは反応が可愛いですから、皆構いたくなるんですよ。でも、ちゃんと今日の相手は私だけにしましたでしょう?」
「その代わりに、瑞樹ちゃんを筆頭に搾られたけどね!」
「そう言う割りには結構ノリノリだったと思いますが?」
「うっ……」
咲き乱れた後の片付けをして、色々と身綺麗にした後にやって来たのは家の東端にある一室。
障子戸と縁側の雨戸を開け放てば、室内からでも夜空を見渡せる、見晴らしの良い部屋で初日の出をゆっくりと待つ。
座椅子やクッションなどにもたれかかり、各々寛いだ感じで待っている中、私は甘える様に拗ねた表情で膝に顔を埋めるキノの頭を撫で、膝に掛かる心地よい重さを楽しんでいた。
ちなみに、冬で夜明け前の山頂に家があるだけに、雨戸や障子戸を開け放った室内の温度は普通に氷点下になっているため、体感温度を少し寒い程度まで緩和する様に、色々と細工をしてたりする。
「ほらほら、キノちゃんは何時までも拗ねてないで、コーヒーでも飲む?」
「……はぁ、貰うよ。それにしても、冬の山頂なのになんかちょっと寒いぐらいで、凍える程じゃないのって結界かなにか?」
「その手の結界を張る護符は其処にありますけど、障子戸や雨戸を閉めるのが発動条件なので、今寒さを緩和してるのは別の方法ですね。今度書くサプリに載せる予定ですが、この
キノに見せるように、技術部のデータベースに載せている懐炉石の情報を表示する。
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アギストーンなどの派生アイテムの一種で、【アギ】の攻撃性能を除いて付与する事により、所持するだけで一定時間体温を上げるアイテム。
上昇する温度はアイテムの品質により変化し、複数個同時に所持する事で上昇温度を加算する事が出来る。
なお、体温上昇効果は基本的に所持者のみだが、発動状態の懐炉石を複数配置する事で、懐炉石で囲んだ範囲の気温を温める事も可能。
【標準品質】
効果時間:8時間
上昇温度:5℃
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名前通り懐へ入れるだけである程度の耐寒能力を得られる様な消費アイテムで、今回みたいにある程度の肌寒さも欲しい様なシチュエーションで手軽に使えるのが良いところ。
まあ品質が悪いと効果時間が極端に短くなったり、上昇温度が20とか30とかになったりするため、購入する時の品質チェックは重要になりますが……。
ちなみに、懐炉石自体の作成難易度はかなり低く、覚醒したてでも作り方を見れば品質は兎も角制作可能だし、類似品に温度を下げる冷涼石も有ったりする。
「そんな便利アイテム……何時の間に?」
「終末後に掲示板を見て思い付いて、ですかね。ほらガイアグループ製以外の電化製品って殆ど動かなくなりましたし、エアコン関連の話題から連想した感じですね」
「11月の終わり頃だっけ? 職人志望の新人向けに講座開いてたよね」
「キノの所も含めて、各支部から基本的な生産技術の教導を依頼されましたからね。地球が魔界に落ちた影響で覚醒した人も多くて、低レベルでも作れて需要の多いアイテムはいくら有っても困りませんし」
11月1日に起きた終末の到来により地球が魔界の一部となった事で、2ヶ月程経過した現在も、対応に追われている支部やシェルターなんてのはいくらでもある訳で、そんな中で取り急ぎ取り掛かる事になったのが、終末後に各支部で保護する事になった人達のうち、少なからず居た覚醒者達の戦力化。
まあ、戦力化とは言っても直接的な武力だけでは無く、覚醒者でないと出来ない仕事全般の話で、特に不足しがちな生産系統の確保が急務になっていた。
と言うのも、終末を乗り越えられた時点で大なり小なりの差は有っても、どのシェルターも戦う術は持ち合わせていて、効率や効果的かなどの点を横に置けば、武力の育成自体は可能な話。
一方で物を造るとなると、まずどうやって造るかの知識が必要で、製法を知っていたとして次ぎに必要なのは正しく造る技術や設備が有るかどうか、そしてそれらがクリア出来てるとしても、そもそも造る為の素材自体があるかどうかの話になってくる。
最悪肉体一つでも戦える可能性の有る戦闘職と比べ、生産職は前提となる物が大きく異なる上に、本人の努力だけではどうにもならない部分も多い。
そんな訳で、ガイア連合系シェルターへの支援として
「ああそう言えば、何か技術研修に向かう申請書類を見た気が……あれ? でも、ウチならあいつらが居るから、技術者の育成ぐらい出来る様な?」
「それについてヤプールニキとイデニキ*1に聞いたところ、ド素人に一から教えてられる程の余裕は無いって言ってましたね。後、北神奈川支部に覚醒者を体系立てて教える教育機関も無いから、まずは学校を創って教える人を育ててからとか」
「あー……学校新設の要望も来てたっけ、ボクも必要だと思ったから許可は出してたけど、間に合ってなかった感じかぁ」
「まあ、教育機関まで手を伸ばせてるのなんて、真面な名家が残っていて地元に強権を振るえた支部やシェルターぐらいじゃない? 田舎ニキを代表に東北方面の支部とか、沖縄に……一応香川支部もかな? 銀時ニキはその辺無頓着だろうけど、大赦の影響力は強いし瑞樹の3人娘も居るし、ね?」
「
キノの北神奈川支部の様に必要分の生産能力は問題無いが、後進の育成までは手が回らないと言う所もそこそこ有り、その辺向けの指導員育成コースなんかも学びの園には有ったりする。
まあ指導員育成というか、教師を目指してる人達向けのカリキュラムなだけだけど、魔界となった地球では覚醒者の数が今まで以上に増えるのが想定される訳で、覚醒者を相手に教えられる人材はいくら居ても足りない話。
ちなみに香川の大赦と協力して、初歩的な部分からの教育方法を模索していたのは、流石に魔界落ちするまでは想定してないとしても、終末自体を乗り切る戦力と、終末後を生きる為に必要だろうと予想しての事。
今では学びの園でのカリキュラムにも取り入れたり、終末後の各支部への支援としての初心者教育や、指導員の育成にも流用出来た訳で、正しく備えあれば憂いなしと言ったところか。
「そう言えば、瑞樹ちゃんって他にも3人子供居たんだっけ、蓬莱島で一緒に生活してないから殆ど会った事無いけど」
「3人は大赦の後継ぎとしての立場がありますからね。幼くても年末年始にやる事は多いので、こっちには呼びませんでした」
「呼ばなかっただけで、瑞樹の木分身は向こうで手伝ってるけどねぇ♪」
「そりゃ棲む場所が違うとしても娘は娘ですから、家族として年末年始を一緒に過ごしますよ。まあ立場の事も有って、向こうには父親だとは話してませんが」
「ああ、銀時ニキが支部長だしね香川支部。銀時ニキよりレベルの高い瑞樹ちゃんが親だと周知されると、子供達を担ぎ上げる連中が出てこないとは言えないよねぇ」
「地域をまとめ上げる為には大赦が強い力を持ってる必要が有りますが、ガイア連合山梨支部としては銀時ニキが香川支部のトップですから、少なくとも銀時ニキが支部長を続ける間に継承問題などのゴタゴタは出したくないですからね」
「魔界化した関係で、ターミナルとか転移でも使えないと支部間の移動も大変だし、支部毎に一つの国みたいになってるから、継承問題は真面目に考えないといけないもんねぇ」
キノとは反対側からもたれかかりながら、揶揄ってくる琴音に軽く言葉を返す。
ちなみに琴音も3人とは面識あるし、何なら連絡先も交換していて一緒に遊んだりもしてたりするぐらいには仲も良いんだけど、こうして話題に出す時に若干拗ねてる感じが含まれているのは、私と琴音が出会った時には既に娘達が生まれていたからですかね? 産ませた側とは言え、子持ちって事にかなり驚かれた記憶がありますし……。
まあ、私が琴音の第一子を産んだのに対して、私の第一子が琴音じゃ無い事にちょっとした嫉妬を感じてるだけ、との事ですから、一種の甘え行動みたいな物でしょう。
「ま、子供達の将来はその時に子供達自身で決めるでしょ。それより、次のサプリには懐炉石とかの日用品系も多いっぽいけど、セキュリティ的に大丈夫? 特に諜報関係に特化した忍者関連を載せるんでしょ?」
「セキュリティ関連は襲撃と防御のイタチごっこですからね。サプリに載せてる情報程度なら、対策してない方が問題なレベルですよ。それにサプリで情報発信する事に文句を言ってる連中も居ますけど、載せてる内容は基礎的な部分が多いですし、サプリの内容を元にした技術や術式なら対策も逆にし易いですから、敢えて情報を流す事も防衛対策の一種ですね」
「そう言う難しい話はわかんないけど、日用品系のアイテムが増えるのはロールする側としても楽しそうだよね。うーん、裕奈ちゃん達に誘われたキャンペーン、ボクも参加するかな……」
「支部長としてのスケジュール以外にも何か有りそうな感じだけど、予定とか有ったりするの?」
「琴音ちゃんに面と向かって言うのはちょっとアレなんだけど、ほら今ボクって瑞樹ちゃんと妊活してるでしょ?」
「うんうん、キノちゃんも含めて私達の家族が増えるって事だよね」
「何か反応が予想と違うんだけど……? はぁ、まあ祝福してくれてるなら少しは気持ちが楽だしいいか。で、ボクの子供って事は北神奈川支部の後継者になる訳だけど、キャンペーンが長引いて異界内で出産とかになったら、支部の一般人とかがボクの子供と理解しない可能性もあるかな、って思ってね」
「あー……なるほど、つまりは妊娠してお腹が大きくなっていく過程を周囲に見せて、後継者を産んだと理解させたい訳か」
「それならキャンペーン参加中は、受精卵の成長を一時的に止めておく封印術を掛けておきましょうか。妊娠中でも戦場へ出ないといけない場合に、悪魔などの影響を受けない様にする封印術で、星霊神社の図書館にあるショタおじの一族が残した術式ですから、効果と安全性は折り紙付きですよ」
「うーん、この何でも有り感……」
どうやら異界内で時間加速して妊娠から出産まで終わらせた場合、北神奈川支部の一般人――特にキノとの関わりが少ない人達の間で、生まれた子供が正統な後継者と認識されない可能性を懸念している様子。
まあ実際、キノの懸念自体は杞憂と笑える物では無く、私達黒札の間でも異界内で時間加速して、短期間で妊娠出産を終えてきた場合、実子より養子と認識される事の方が多い。
私も初産の時は、時間加速した異界などを使わず星霊神社で過ごしてましたし、十月十日を過ごせる余裕が無い理由でも無ければ、普通に妊娠期間を過ごす方が良い話。
なので、キノの不安を解消出来る術――胎内の状態を一時的に封印する事で、悪魔などのあらゆる干渉を防ぐ術の事を教えておく。
この術なら封印中は胎内の時間も停止するため、TRPGのキャンペーンセッションに参加して数ヶ月経過しても、妊娠期間が経過する事は無いし、術の構造的に封印の方向性を弄れば、胎内の時間停止だけを解除して、悪魔などからの干渉を防ぐ結界として機能させる事も可能なため、妊娠期間中の心配事を一つ解決する事も出来る。
「妊娠期間の問題が無いなら参加するかな。でも参加人数ってどうなるんだろ?」
「ふふふ、それについてはもう決まってるよん!」
「お、美砂と裕奈? キャンペーンする予定出て一晩しか経ってないんだけど?」
「新年の挨拶ついでに興味有りそうな人に聞いてみたら、あっという間に参加希望が集まったんだよねぇ。本決まりじゃないけど、いっそ五期組を先輩NPC枠にして、六期組は全員新規でクランを組むのが良いんじゃないかなってね」
「ふむふむ、やはり忍者や侍辺りの和風系ジョブは人気が高いですね。おや、ジョーカーニキからも参加希望が来てますか」
「私は元からサブマス兼先輩NPC枠で参加予定だったから、皆がそれで良いなら構わないかな~」
「参加者同士で納得してるなら、私も大丈夫ですね」
「オケオケ、それじゃ新規だけで六期組を集める方向で連絡回すね」
こっちの話が聞こえたのか、キャンペーンセッションの参加者に関して任せていた美砂と、一緒に居たらしい裕奈が話に混ざりキノの疑問に答える。
どうやら既に軽く参加希望を募ってみた様で、予定していた人数以上に希望が集まったらしく、元々はPC側予定だった麻帆良堂の6人もNPC側に回る事にして、新規だけで予定人数を埋める事にした様子。
現在の参加希望者にこちらから誘った人を含め、TRPG自体が初心者な人もそこそこ居るみたいですし、無理に演じなくて良い感じにして回しましょうかね。
「なんか大変な事になりそうな気がしてくるんだけど……?」
「まあまあ、TRPGだからと言って必ずしもキャラを演じなくても良いんだしさ、演じるのが苦手ならキノちゃんそのままでキャラを動かせば良いよ」
「データの管理については陰日TRPG用のアプリが有りますし、当日は新サプリのデータも入れて渡しますから、しばらくすれば慣れるでしょう。――っと、そろそろ日の出の時間ですね」
それぞれ寛いで、楽しく話している間に時間は過ぎ、部屋から眺める夜空は段々と朝焼けに変わり、眩く煌めく太陽が水平線から顔を出す。
初日の出だからと言って、儀式でもしてなければ何かしら特別な力を得られる訳では無いけれども、こうして集まって御来光を拝む事自体に、確かな充足を感じ取る。
「うーん、家に居ながらこの大パノラマを堪能できるって、凄い贅沢」
「それならこの後朝風呂に入って、お酒でも飲みながらお節を食べましょうか。その後は黒札組で新年の挨拶回りに行かないとですけどね」
「う゛、贅沢してダラダラしたいけど、新年の挨拶は疎かに出来ないよねぇ……」
「ボクもそろそろ仕事モードに切り替えないと……か」
「お勤めご苦労様でーす」
「瑞樹さんの分身は家に居るからお勤めに行ってる感も薄いけど、琴音はまあ……ガンバ!」
「裕奈は今夜集中的に鳴かせてあげるから覚悟しといてね♪」
「横暴だー!」
朝日に照らされる中、いつもと変わらない喧噪に自然と笑顔が浮かぶのを自覚する。
「ふむ……、前々から考えていましたけど、最大の問題だった終末の日も無事に乗り越えましたし、春頃には事態も有る程度落ち着くでしょうから、春祭りも兼ねて先延ばしにしていた結婚披露宴でもしましょうかね」
「何か唐突に話題が変わった感じがするけど、結婚披露宴?」
聞き返してくる琴音に一つ頷き、考えていた事を話す。
「既に子供達も居て実質家族な状況の私達ですけど、形式的な区切りは私達の認識的にも大事ですからね。いずれタイミングをみてとは思ってましたので、一年の計は元旦にありって事で予定を立ててみた感じです」
「今のタイミングでそれを言うって事は、もしかしてもボクも対象に入ってたりする……?」
「もしかしなくても、キノも一緒に披露宴を挙げるメンバーですよ♪ 私との子を産んでくれて、私もキノとの子を産むのですからね」
「瑞樹さんは両性だけど見た目女性だし、女性だけの結婚披露宴とか、色々おかしいと思うのは私が未熟だからかな……」
「私も裕奈と同じ感想だけど、披露宴の条件が子供を産む関係になってるかって事だったら、私らも当事者になる可能性があったり……?」
「裕奈や美砂も希望するなら花嫁としての参加で構いませんよ? と言うか、花園に参加してるメンバーは自然受精に任せてるだけで、妊娠したら産む事を了承していますから、全員が花嫁対象ですね。昨夜のキノみたいに、確定で妊娠したいなら言ってくれれば術を施しますし」
甘えモードから切り替わろうとしていたキノの表情が呆けた物に変わり、その横では裕奈と美砂が自身の置かれた状況に気付いた様で、若干引きつったような笑顔を浮かべる。
「なるほどねぇ。私も賛成かな! でも瑞樹の事だし、普通にウェディングとか神前式とかにはしないんだよね?」
「この界隈だとその手の誓いを利用される危険性がありますからね。祭神なんかも居ませんし、身内を集めて春祭りに合わせて披露宴する感じにしようかと思ってます。まあ服装ぐらいはウェディングドレスとかを用意するのも有りですけどね」
「よーし! それじゃ皆に合う衣装考えて用意しないとね!」
軽い説明でも色々と察してくれたのか、琴音がノリノリで賛成した事で春祭りに合わせての披露宴が決定し、早速どんな衣装が良いか聞きに動き出すのを横目に、改めて水平線から昇る朝日に視線を向ける。
「新しい時代の始まりに相応しい、そんなお祭にしないとですね……。まあそれよりもまずは、元日の挨拶に向かいましょうか」