【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
気力的に週一ぐらいは目指したい……。
拠点探しに投げたボトルは流れに流れ、どうやら公海上の無主地と呼ばれる無人島に流れ着いたみたいで、拠点作成が誰の物でも無い土地の開拓という大仕事に変化したけど、これはこれで楽しいから時間を掛けて進めていこうと思う。
そんな島開拓と山梨支部での修行や研究開発を繰り返していたある日のこと、スケベ部関連の道具開発していたら常連客なくそみそニキ*1から興味深い話が聞けた。
「恐山の長老以外にも終戦前から生き残ってる霊能者っていたんですね……」
「俺も婆様から名前は聞いてたが、存命だと知ったときは流石に驚いたな*2。後タオ系の術を色々使えるのと言動から、最近は亀仙人*3と呼ばれてるらしいぞ」
くそみそニキによると、タオ以外にも日本古来からの術を多数収めており、大正時代から生き残っている歴戦の霊能者で、本人が言うには十四代目葛葉ライドウとも友人だったらしい。
この世界にもDB有りますし、今世だとモデルになった人物なんて可能性も有りますかね?まあその辺の憶測はどうでも良い話ですか。
「タオに造詣の深い人物ですか、可能なら教えを請いたいところですねぇ」
「探求ネキならそう言うだろうと思って、この間会った時に聞いてみたら歓迎すると言ってたな。道場の場所と連絡先を書いといたから、時間のある時にでも行ってみると良い」
どうやらガイア連合発足以前に霊能者として活動していた頃からの知り合いだそうで、地方依頼の後偶然出会って飲みに行った際、序でに聞いてくれたらしい。
「ありがとうございます。それなら紹介料ってわけじゃ無いですけど、効果再現に成功した仙豆要ります?未覚醒でも使用可能ですよ」
「欠損回復が出来ない以外は悪くないな、リジェネは使える場面も多い。そんじゃありがたく頂くとして、探求ネキが作ってるそいつは?」
「卵殻形成式生理用品で卵の種と名付けました。月の物って霊的素材としても色々使えますから、回収し易くする目的ですね」
「つまりそう言う用途でも?」
「試用した美波さんには絶賛されましたね」
「ふむ……種類毎に箱で買おう」
「毎度あり~」
そんな話があった数日後、無事に約束を取り付けた亀仙人の道場は表向き中国拳法を教えている様で、程々の大きさの木造建築が町中に溶け込む様に建っていた。
平日の日中だけど賑やかな道場の音を横に通された応接室でお茶を飲みつつ待っていると、確かに亀仙人の印象を受ける老人が入ってくる。
「待たせてすまんの」
「いえお気になさらず、初めまして七倉瑞樹と言います。こっちは私の式神で書類上は保護者となる久遠です」
「よろしくお願いする」
「うむ、儂はまあ亀仙人とでも呼んどくれ、最近はそれで通しておるからの。それにしても、阿部の奴が紹介したいと言うた時はどんなのが来るかと思うたが、こんな別嬪さん達だとはのう」
「ははは、まあとりあえずお近づきの印に、と言う事でこちらを」
手土産は必要だろうと言う事で、一般に出しても問題無い部類としての果物詰め合わせとガイア酒造*4で作られた霊酒〝蓬莱山〟*5を久遠が机に載せる。
「気を遣わせてしまった様じゃな」
「阿部さんからどの様な話がされてるか分かりませんが、教えを請いに来た身ですから」
「ふむ?瑞樹ちゃん程の実力者に儂程度が教えられる事なんぞ対して無いと思うが……」
「レベル……と言うか霊格は確かに高くなりましたけど、それは異界で悪魔と戦って得た強さと言うだけで、経験という意味では知識も技術もまだまだですよ。今回阿部さんが仲介してくれたのも、私がタオ系統をメインに修行しているからって事ですし」
訝しげな問いに答えた内容は本心であり事実でもあって、それこそゲーム的な直接戦闘能力のみを考えるなら、修行場異界で悪魔との戦いを繰り返しながら対応力を磨く方が早く強くなれるのは確かな話。
とは言えそれで何処までも強くなれるのは、戦闘系の逸話や権能を持つ悪魔が起源な人の話で、私の霊的起源からすると、本質的に生産者や技術者であって戦う者としての適正は特に無いため、単純な
だからこそ、武術などの戦闘
「悪魔と直接戦えると言うだけで十分な気もするがのう。じゃが、そう言うことなら確かに儂でも教えられる事もあるかも知れんな。それに後進の育成は儂の生き甲斐でもあるからの」
「では?」
「うむ、儂の知識と経験が何処まで役に立つかは分からんが、儂の知りうる限りを伝えよう。まあ儂も瑞樹ちゃんから学べるところは学ばせて貰うつもりじゃがの」
「それで構いません。よろしくお願いしますね」
それからは、予定の合う日に道場へ訪れては亀仙人から色々な知識と技術を教わり、こちらも【魂魄精錬法】や【霊質強化術】と言った技術を教える修行の日々。
特に驚いたのは体内の気を操作する事により、自身の耐性を変化させる【耐性変更】と言う技術で、亀仙人は小細工と言っていたけど、対峙した悪魔に合わせて耐性を変えられる有用性は計り知れないよね。
他にも打撃に合わせて状態異常を付与させるオカルト拳法など、所謂ギミック系ボスへの対抗手段やギミック作成と言った細かくても重要な技術が多数有って、やはり年の功と言うのは凄い。
そうして学んだ知識や技術を本にまとめたり、亀仙人とも協力して初心者用の各種技術書を作ったりとしていたある日の事、アル社長から一つのメールが届く。
「昨年末の祭典でも意外と人気ありましたけど、もう二期目の話が進んでるんですね……」
「この世界だからってのと、ある程度有名な伝承と絡めて地方の人気も得られたのが大きいかもな」
メールの内容は去年放送されたオカルトアニメ、陰陽寮の日常の第二期放送が決まったって事で、アル社長から第二期制作用の資料として頼まれた技術書(ショタおじ確認済み)を持ってきた所、丁度休憩時間って事で仕事場の一角にお菓子が広げられ、見た目的には軽い女子会みたいな事に。
「後、去年の夏に先行販売したファンディスクも売れてるよ。評判も良いし」
「DVDも順調に売れてるってのも有りますよね。オカルト啓蒙用アニメですし、それなりでも人気あるなら、熱が冷めない内にってのも分かりますし」
「現実味のあるオカルトって言うのも、思春期には刺さりましたかねぇ。あ、葛餅食べます?甘葛茶もありますよ」
「探求ネキのそれって、未覚醒者が食べて良い奴なの?」
そう言って私の出した甘葛から作った葛餅に疑いの視線を向けるのは、現在ガイア連合内で最も緩い修行をしているとも言われるゆかりネキ*6。
修行僧の普段の修行にも耐えられないとのことで、ショタおじに覚醒修行としてギリギリ成り立つレベルの緩修行を考案させた、ある意味で猛者と話題になった人。
ちなみに、ゆかりネキもTS組ではあるけど性自認としては比較的女性側らしく、女性扱いされること自体の忌避感などは余り無いとの事、今日はバイトで来ていたらしい。
「大丈夫にする加工はしてるので問題無いですよ、代わりに霊薬の摂取による覚醒の可能性はかなり低くなりますけど」
手早くお茶も入れてお菓子に舌鼓を打ちつつ、近況についての話などをしていると、話の流れがアニメ関連へ変わり、そのまま持ってきた資料の内容に立ち戻る。
「アニメの話に戻って思い出したんだけどさ、今回追加される術系統ってタオとルーンだっけ?」
「制作会議の方ではそう言う話になったみたいですね。頼まれた資料も本編用の初級技術書と、制作陣用の技術書の二つを用意しました」
「へぇ、ルーンってこうなってるんだ。それにしても良くこれだけの知識有ったね」
「西洋系の知識は大体、槍ニキの式神のバゼットさん経由ですね。ルーン以外にも魔女術やドルイド魔術なんかも学んでますが」
「ああ、技術部所属のエレナ先生みたいな指導可能な式神なんですね。制作会議で西洋系出したいって話になって、書庫にはあまり資料無いしどうするのか謎でしたけど」
「タオのこれも妙に詳しいんだが、書庫って神道や陰陽道、修験道系が殆どじゃなかったっけか?」
「滅んでた地方霊能組織とかから回収出来た情報も有るので、最近は意外と種類も増えてますよ。ただまあタオ系については、造詣の深い人物と知り合う機会があった結果ですね」
「そうなんだ、どんな人?」
そんな向井さんの質問に亀仙人と知り合った経緯などを話していると、紹介者の部分で微妙な表情をされた辺りは然もあらんと言った感じだけど、戦前のしかも大正時代から生き抜いた歴戦の霊能者という事には流石に驚かれる。
「まとめた資料的に作中で使える範囲の初級は兎も角、制作陣用の方はまだ納得出来るレベルじゃ無いんですよね。修行期間がまだ短いのも有りますけど、長年積み重ねられた功夫は深さが違いますね」
「俺に取っちゃこの初級でも十分詳しく思えるんだがな。その辺覚醒すりゃ見え方も変わるんかねぇ……」
「一応初級と言ってますけど、レベル的には10以下で習得可能な範囲にしてますから、正直なところ現在の地方霊能組織だと初級の内容も全て習得は難しいですかね」
「掲示板で現地民呼びされるだけの理由はあるって事よね」
「余り大きな声で言えないけどね、第二期だと地方霊能組織関連の話もやるんだっけ?」
「北欧からの留学生が魔女狩りから逃れてきた霊能一族の生き残りって事にして、一期の主人公達の後輩をメインにストーリー組む予定でしたよね。たしか」
「それに合わせてメシアンの所業も描写する感じだな、後輩が戦後の異能者刈りで一族を粗方殺されて、何とか血を繋ぐ事は出来ても知識の継承までは出来なかった感じにするんだったか。一応文句が飛んでこねぇ様に、天使の皮を被った悪魔ってのを強調する予定だが……」
五河さんが懸念している様に、第二期では戦後の日本でメシア教によって行われた根切りを魔女狩りとして表現するのと、一神教から外れた異端の邪教と言う形にして、ペ天使の言いなりになってる一神教徒の振りをした悪魔信仰者と言う描写を行う予定との事。
ただまあ、描写する内容的にメシア教から何かしら干渉される可能性が有るのは確かだけど、何か言ってきたなら悪魔崇拝者なのかと言い返せば良いんじゃないかとも思う。
「文句を言ってきたら悪行を認める様なストーリーになる予定みたいですし、その辺の懸念は大丈夫じゃないです?」
「ま、それもそうか。っと、そろそろ休憩も終わりだな」
何だかんだ話している内に時間も結構経っていた様で、ささっと片付けたら仕事に戻る皆に一声掛けて部屋を出ると、社員寮の自室に戻って久遠達と合流したら、そこから更に新しく拠点として開拓してる島へと【トラポート】する。
拠点の島は調べた所5ヘクタール程の広さが有る火山島で、渡り鳥の通り道にもなっていないのか植物も禄に生えていない殺風景だったけど、多少時間を掛けて島全体と周辺海域まで覆う結界を敷設したためだいぶ緑化が進んできた。
「ようやく木造平屋建てが有っても違和感の少ない風景になってきましたね」
「山の上にあると言う違和感は無くならないと思うが、まあその程度は些細な事か」
「島の内部まで術を仕込んだから定着するまで時間掛かったけど、とりあえず下地は出来た感じかしら?」
「そうですね。結界敷設に合わせての整地と治水も終わりましたし、地脈との接続にも問題無いですから、そろそろ工房等の設備に取りかかりますか」
今完成している設備としては、島の中央にある休火山のカルデラに噴火抑制を兼ねた火山の概念を利用した霊泉、霊泉のお湯を引いた住居、後は霊泉のお湯を島中に巡らせる水路と言ったところ。
結界の方は源泉に沈めた要石と霊泉の効力が及ぶ範囲を境界として区切り、島を中心とした球形範囲を簡易異界として構築、規模が大きい事から内部のマグネタイトが十分な量で循環するまで多少時間は掛かったけど、それもようやく終わったため、次の設備設置へ移る。
まあ設備と言っても、こうして拠点を用意する理由の一つでも有った壺中天地の工房内に居ると連絡が付かないと言う問題は、日本から遠く離れているこの島に居ても同じな訳で、その解決策として考えた道具の実験な訳だけと。
ちなみに、最初は衛星通信なりでも使えば良いかと思ったんだけど、いずれ来る終末のことを考えると、何時まで衛星が使えるか不明な事もあって、別の方法を考えて見たのが今回試す道具である〝呪術式情報伝達装置*7〟。
これはまあ、名前に〝呪術〟と有る様に、類似したもの同士は互いに影響し合うと言う類似の法則に則った〝類感呪術〟と、一度接触したもの或いは元々一つであったもの同士は、離れた場所に在っても相互に作用すると言う〝感染呪術〟から、一枚の銅板を均等に二分して、片方に流れた信号がもう片方にも同じく流れる様に、術を組み込んだ物。
「一応星霊神社の中と外で起動した際は繋がりましたけど、拠点の結界が完全に機能し始めた後も使えるかが重要な点なんですよね……っと、問題無く繋がりましたね」
「携帯の方も圏外から通信可能に変わったみたいだな」
「通信関係は問題無さそうね~。そうなると、当面の予定だと工房関係と畜産かしら?」
「工房は私が建造するとして、牛乳と卵は自給できる様にしたいですし、増やしたり何だりを考えると、先に畜舎と囲い作って運び込みますかね」
ネットの接続と電波の中継が正常に行えている事を確認して作業を終えると、家を出て牧畜を行う準備の方へ向かう。
「場所は東側辺りに簡易異界を作成して空間拡張、餌を考えると牧草になる植物も一緒に用意しますかね」
鶏の必要な餌はそうでも無いけど、牛は大量に必要になる事を考えるとそれ用の牧草地が有った方が良いだろうし、それなら序でに色々と効果の高い品種を作るのが後々楽になりそう。
と言う事で【植物改変】を使い、牧草から連想されたいつもの再現シリーズから黒草*8、飼料として穀物も必要かと考えたところから、イネ科の植物をいくつかと序でに小豆にまで手を出している間に、久遠と湯乃葉に頼んでいた買い付け交渉も終わった様で、一週間程掛けて牧畜用の簡易異界が一先ず完成した。
「これで後は、烏骨鶏の無精卵を転移対象に登録すれば良いですね。牛乳の方は商売する訳でも無いですから、仔牛が生まれた時の余剰分を絞って、時間停止を付与した水瓢箪にでも保存しましょう」
「産み落とされた無精卵を対象に、回収場所へ転移させる予定だったな」
「卵の回収や牛乳の方は良いとして~、南側に出来てる林は何かしら?植物関係で購入してたのはイネ科の穀物だったと思うんだけど」
「【植物改変】が何処まで可能か実験した結果誕生した〝穀物の木*9〟ですね。品種毎に結界張って花粉が他と混ざらない様にはしてますが」
穀物の木は、収穫量というか生産性を考えると、種まきと収穫を毎回行うより結実まで多少掛かっても樹木の方がやり易いと思い、あれこれと概念やら在り方やらを弄り回し、異界植物として柑橘類の果肉みたいに表皮を除いた種子が実る様にした物。
種類としては糯種の
「また結構な数を作ったのだな、穀物なら普通に壺中天地で低級式神にでも任せるかと思ったが」
「藁とかの利用を考えると、普通に栽培した方が良いんだろうけど、畜産に使う量を生産すると処理に困りそうな量になりそうだし、私達の食料にも出来る種子部分だけ増やす感じにね」
「まあ畜舎や飼料の準備が出来てるなら、運び込む手配してくるわね~」
「お願いしますね。それじゃあ向こうの準備が終わるまでは工房の建造でもしてますか」
湯乃葉が軽やかな足取りで家に戻るのを横に、家の隣に造成した平地へと足を向ける。
こうして少しずつと言うには大規模だけど、着実に拠点の開拓が進んでいく。
手入れせずとも自然と増える繁殖力が有り、草食動物が好んで食べる牧草としても有用。
吸収したマグネタイトを循環増幅して栄養に変化させる能力を持つため、周囲のマグネタイトが十分に有る環境なら毎月収穫することも可能で、柑橘類の様な粒状の果肉として穀物の種子が実る。