【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
今年も有明に熱い夏がやって来た。
いつものガイア連合としての企業出店は、今年からグループ合併の手続きが進んだ事も有り、ガイアグループ娯楽部門としての物販と、食料部門でのケータリングの二カ所に分かれて参加する事となった。
まあガイア連合としての参加規模が大きくなったと言っても、出店側に回りたい有志は去年以上の人数になっている事もあって、基本的に半日か長くても一日交替での参加と言う形だったり。
そんな訳で、アル社長やオタ社長に⑨ニキなどのいつもの面子も、それぞれの仕事で忙しい中、少しだけでもとスケジュールを調整して参加していたが、それも初日の午前中が終わった所でタイムアップとなって転移で送り届けた後、今度は琴音さんや千代さん――最近蟲姫ネキと呼ばれる様になった――を連れて戻り、参加者側として祭典を楽しむ事に。
なお、ハム子ネキに関しては掲示板なら兎も角、普段はコテハンより名前呼びの方が良いとの事で、名前で呼び合う感じになった。
「おおぉ、コミケって何気に初参加なんだけど、熱気が凄いね!」
「今日は快晴らしいので、熱中症にも注意が必要な状況ですけどね。耐暑効果付きのハーブティーをこの瓢箪に用意してますから、適宜飲んで下さいね」
「さあ、まずは同人誌の確保からよ!」
琴音さんと私は特にコレと言った目的が無い事も有り、千代さんの熱意に押されて会場内を彷徨い歩き、その途中で目に付いた物を購入して回った後、ガイアグループのケータリング出店場所に食料と席を確保して腰を落ち着ける。
「ぬぅ、流石に目を付けてた全部を確保って訳にはいかなかったわね……」
「いやいや、千代ちゃん恐ろしく手慣れてなかった?」
「何かするすると人混みを抜けていきましたよね。手に入らなかった物はそもそも部数が少なすぎたみたいですし」
「コミケで効率的なルートを決めておくのは基本だからね。それより流石に汗かいたわね」
「あー確かにベトベトだよね。何か瑞樹は汗かいてないどころか、すんごい爽やかそうにしてるけど……」
「耐暑用に水の羽衣を羽織ってますし、亀仙人から教わった【耐性変更*1】スキルを私に合わせてカスタマイズした【五行相克*2】スキルで火炎耐性を上げてますから」
「うわっずるい!と言うか、その羽衣って購買部の商品リストに載ってたっけ?」
「羽衣って確かスケベ部関連の商品だったはずだし、購買部じゃなくてスケベ部に直接行かないと買えないのよね。正直明確なアダルトグッズ以外は購買でも買えるようにして欲しいかな」
「近いうちにガイア連合内の産物を全部登録可能にするらしいですよ。連合内だけで完結するなら一般的な規制は何とでもなりますからね。流石にR18系は別枠に分けるぐらいしますけど」
「へぇ~そうなんだ。ちなみに瑞樹が今着てる羽衣っていくらぐらいするの?」
「弱点属性無しの水と火の二属性耐性付きですから、マッカ払いなら黒札割引込みで二万前後でしょうか。現金だけで買うなら割引込みでも七桁は掛かりますね」
「え、そんなにするの?高くない?」
「羽織るだけで二属性耐性か一属性無効出来るし、魔法防御も高いから、むしろ安いと言われてるらしいわよ?まあココでそんな話続けるのもあれだし、食べましょ」
そう言ってホットドッグへかぶりつく千代さんにつられる様に食べ始め、話題も霊能関係から獲得した戦利品等へと移っていく。
「それにしても夏コミだけ有って、海とかプールを題材にしたのが多いですね。あえてエアコンの壊れた室内でのあれこれなんてのもありますけど」
「キャンプ物とかのブームは未だ来てないし、夏なら海!ってのが定番だしね~。と言うか、瑞樹のそれって成人指定のじゃない?なんか普通に売って貰ってたけど、私と同い年だよね?」
「瑞樹ちゃんって傍目だと落ち着いた大人の女性みたいな雰囲気あるからねぇ、身長が伸び始めてからより顕著になったし?まあ、連合内だと趣味に走った言動のイメージが強くて、そんな感じは消し飛んでるけど」
「そろそろ成人女性の平均身長ぐらいまで伸びてきましたし、態々言わなければ成人してるかどうか何て分からないですからね。琴音さんも身長は高い方ですし、多少言動に気を配れば成人ぐらいには見えると思いますよ?」
「それって言動が子供っぽいって言ってない?と言うか実際に12歳の子供なんだから、子供らしく見えても問題無いでしょ」
「12歳かぁ……」
「千代さんどうしました?」
「いや、私来年には18になるんだけどさ、現時点で身長どころかスタイルも二人に負けそうなのが、ねぇ……」
何というか千代さんが微妙に声を掛けづらい気配を漂わせる横で、琴音さんと視線を交わしてどちらが声を掛けるか確認し、私の方から話掛ける事に。
「身長やスタイルに悩んでるなら【魂魄精練法】の習得目指してみます?私達的には能力の成長値が増える効果の方が注目されてますけど、実際の所は精神や肉体が許容できる最大限まで練り上げる技法ですから、身体スペックの向上に合わせて身長や体格を望んだ方向に成長させる事も可能ですよ」
「「え、マジ!?」」
「何故琴音さんまで反応してるのか謎ですけど、事実ですよ。魂魄を錬磨する訳ですから、人体構造情報にも多少なりと影響しますし、影響の方向性を自身にとって理想の姿へ近付ける様にするだけですね」
「掲示板で見かけた時は能力値の上がり方が少し増えるぐらいと思ってたけど、実は理想の体型に近付ける事が出来るって方が重宝されるんじゃないの?それ」
「うぬぅ、これは私も【魂魄精錬法】を修行するべき?いやでも、私の霊質はペルソナに特化してるから通常の霊能とは相性が悪いし……」
「ちなみに魂を持つ存在なら最低限の習得は出来るはずなので、ペルソナ適正の方が高くても可能性はあるかと思いますし、修行するなら指導しますよ?」
「私はお願いしようかな、夏休みもだいぶ減ってるから何処まで身に付くか分からないけど、一人でも進められるぐらいまでいければ地元に戻った後も続けられるし」
「それなら私も修行しよっかな、ここのところ修行場異界に籠もりすぎってショタおじに怒られたし……」
千代さんが先程の気配とは打って変わって、やる気に満ちた決意の気配を漲らせて見つめてくる一方、ちょっとばつの悪そうな苦笑いを浮かべる琴音さんは、そう言えば今日夏コミに来た理由の一つが修行場異界への入場制限を受けたって話しだったっけ。
覚醒してからは修行場異界をゲームの周回じみたペースで潜っていた様で、レベルも既に10まで上がってるみたいだし、レベル上げ以外の修行時間を取る意味でも丁度良い感じだろうか。
「では二人とも夏休み期間の事も有りますし、明日から早速指導を始めましょうか」
「「お願いします!」」
まあとは言っても今日のところは夏コミを楽しむのが優先と言う事で、未だ見ぬお宝を探して練り歩いたり、レイヤー会場を見に行ったら今日の私の服装――チャイナ服に羽衣装備――をコスプレと勘違いされてカメコが寄ってくる何てアクシデントもあったりしたけど、何だかんだ楽しい一日を過ごす事が出来たと思う。
翌日は早速山梨支部の訓練場に集合し、基礎部分から指導を開始する。
「まずは【魂魄精練法】習得までの段階を軽く説明しましょうか」
千代さんと琴音さんへの指導が基本では有るけど、普段から訓練場を利用している人達の中で興味のある人も参加可能な感じで、訓練場の一角に用意されてるホワイトボードに説明を書いていく。
技術習得までの流れとしては、基礎である霊力操作で内丹術を行い、練り上げた霊力を
習得の壁としては、基礎である霊力操作を普段から意識していない場合、内丹術を行使するまでの段階が一つ目で、内丹術により霊力を練り上げる工程が二つ目だけど、この二つは練気の呼吸法を覚える事でもある程度代用可能として、練り上げた霊力を魂魄全体に循環させ、人体構造情報などの魂魄に関する認識と理解を得る段階が、三つ目であり一番の壁と言ったところ。
後は霊力の精練と循環を睡眠中でも維持出来る様にしたり、人体構造情報への干渉などの成長方向を誘導する部分なども相応に難しい点だけど、ここら辺は技術習得した後の運用時に関係する部分だから分けるべきかな。
「――と、大体こんな感じですね。千代さんも琴音さんも覚醒してから余り間もないですし、霊力操作については呼吸法と合わせて鍛えて行きましょうか」
「つまり今日はその呼吸法を覚えるのが目標って事?」
「正確には呼吸法を通じて霊力操作を覚えるのが目標ですけど、まずは呼吸法からって所は間違いじゃないですね」
そんな訳で練気の呼吸法の手順から指導し、霊力の動きを確認しながら間違いを修正していくと、二人ともレベル10を超えている事も有って、程なく形になる所まで練気の呼吸法が安定してくる。
「良い感じですね、呼吸法を続けたまま聞いて下さい。今呼吸の動作により、霊力が丹田辺りに集まって精練されていくのを感じられると思います。まずはその霊力が精練されるまでの流れから霊力操作の感覚と、精練する際の動きを理解していきましょう」
二人の呼吸と霊力の動きを観察しつつ、便乗して鍛錬している他の人達にも軽く指導をしていると、参加はしていないけど話を聞いていた人から疑問が飛んでくる。
「探求ネキ、ちょい疑問!その練気の呼吸法って、仙人関係で良く出てくる〝調息〟ってやつと何か違うん?」
「似たようなものではありますね。調息はそもそも、タオの術式を扱いやすい状態に身心を整えるための呼吸法ですから、他の似た技法も含めて術式に特化させる部分を削り、汎用的に使える内容を組み合わせて成立させた技法になりますね」
「へぇ~、そんな違いがあるんだな」
そんな感じで時折投げ込まれる疑問にも返答しつつ、指導する感じで初日の修行が終わる。
二回目以降は千代さんと琴音さんの予定や習得の進み具合から決める事になり解散、大体数日置きに集まって修行したり、式神やら装備などの相談を受けたり、私が最近行ってる実験について意見を聞いたりして気が付けばそろそろ八月も終わろうかという頃、ちょっとした事件が発生した。
「試作品の耐久テストとは言え、レベル一桁前半をレベル15近くの階層に連れてくのは流石に駄目でしょう……」
「いや、その……一桁の階層だとソロでも瞬殺出来るからテストにもならなかったし、多少苦戦する程度の場所で全体攻撃重ねられて墜ちるとは思わなかったし……」
もの凄くばつの悪い顔に加えてしょげ返ってる琴音さんの様子からも分かる様に、事件の原因というか発端は、琴音さんの専用式神の試作品としてロボットボディが一応の完成を見た事。
本命である影時間内での動作確認をする前に、通常の異界でまともに動くかの確認がまず必要だろうって話になり、琴音さんが式神と契約して各種動作テストを行った後、最後のテスト内容として修行場異界へ向かう事になったわけだけど、その日居た技術者は戦闘向きじゃなかったらしく、アイギス(仮)と琴音さんの二人だけで異界に入ったらしい。
それでもって琴音さんは、普段からゲームで周回するみたいに修行場異界を探索しており、ペルソナ使いの特性*3を活用した近接高速戦闘での先制撃破スタイルが既に染み付いてしまってる様で、つい普段通りに探索してしまった結果、先制撃破が通じなくなる限界近くまで進んでしまったのと、運悪く全体攻撃が重ねられてしまった事で、修復も出来ないレベルで破壊されてしまったと言うのが詳細な経緯。
不運な結果では有るけど、不注意の結果でも有るため、再度修行場異界への入場制限を掛けられたのは仕方のない事と諦めて貰うしかないかな。
「覚醒してからレベル15ぐらいまでは痛みとかの戦闘に関する問題がなければ、どんどんレベルが上がって強くなってるのが分かる辺りだから、ちょっとの無理を押してしまうのは分かるんですけどねぇ。なまじ修行場異界の貸し出しにある神主謹製の一反木綿式神が、防御型として優秀なのも考え物ですかね……」
今回の琴音さんが式神の状態を余り考慮せず突っ込んでしまった原因の一つとして、借りていた一反木綿式神が雑に扱っても大丈夫な程に頑丈だった事も有るんじゃないかと思う。
正直な話、盾にするってだけなら一反木綿式神だけでレベル30ぐらいまでは普通に問題無い程のスペックな訳で、奇襲や致命的な攻撃をカバーしてくれる自動追尾の盾があると考えれば、琴音さんの近距離戦闘適正の高さも相まって、高速移動による先制撃破スタイルになってしまうのも、まあ分からないでも無い話。
「う~、でもどうしよう。式神の方はデータの復旧だけでも何とかなったって話だから、影時間内部での可動テスト用に次のも用意してくれるって言ってたけど、予定外の制作費が掛けるからって式神費用の私の負担分も増えたし、なのに八月いっぱいまで修行場異界は禁止にされちゃったから、マッカや素材を集める方法も無いし……」
「夏休み終わったら異界探索も一苦労ですよね。繋ぎとして一反木綿式神を借りるとしても琴音さんの地元に丁度良い異界があるかも分からないですし……あれ?レベル10を超えるぐらい修行場異界に行ってたなら、それなりにマッカも素材も獲得出来てませんか?式神は上を見ると際限無いですけど、後からでもスペックアップ出来ますから、とりあえずの作成ならそんなに掛かりませんし」
「えっと……、それは、その……」
ふと思い当たった事があって琴音さんに確認してみると、露骨に目を逸らして口篭もった事から詳しく事情を聞いてみたところ、大きな稼ぎを得た事で気分が大きくなった人によくある浪費癖みたいなものが発症してる様で、同じ性能の色違い装備なんかを購入した事で金欠気味になってるらしい。
覚醒したての〝俺ら〟にありがちな、戦闘方面の万能感による暴走からの一乙してトラウマ化は、戦闘センスやペルソナ使いメンタルのおかげで発生しなかった代わりに、報酬方面の大金を得た事による暴走を思いっきり起こしていたと言う話。
「過ぎた事は仕方ないとして、浪費癖は気を付けないと今後困る事になりますよ?」
「むぅ……、分かっててもこう、衝動的に欲しくなっちゃう事あるでしょ?まあ、今回の事もあるし気を付けるけどさ~」
「さて、小言ばかり言うのも何ですからちょっとした提案ですけど、気分転換に海水浴でも行きませんか?」
「へ?」
そんな訳で色々準備をして翌日、所変わって海――正確には大異界〝宗像大内海〟の厳島神社側の海岸へとやって来た。
今日は元々、⑨ニキやイカネキの要望で準備が進められていた、漁場や養殖場を異界内に構築するための魚介類を放流する予定日で、その序でに懇親会みたいな感じで昼食も込みで海水浴を楽しもうか、と言う話で琴音さん以外にも何人か声を掛けていたりする。
「心置きなく遊ぶためにも漁場の構築を済ませてしまいましょうか」
「既に水着な辺り遊びたい気分がダダ漏れゲソね」
「そう言うイカネキも水着じゃないですか、でもまあ仕事を先に終わらせるのは賛成です。私の方も待たせていますから」
同意も得られたので、今回の魚介類持ち運び様に用意した壺中天地から捕獲した分を取り出し、海へと放流。
まずは宗像大内海の食物連鎖を成立させ、手を加えなくても自然増殖する環境を構築するために、放流した魚介類をまとめて異界の構成情報に組み込んでいく。
異界内と言う事で流石に地球上の天然そのままとは行かないけど、出来る限りマグネタイトの影響を受けない感じに調節して海流を作り、基礎が出来たところで砂浜付近を除いた海中の時間を加速し、様子見の段階まで移行する。
「これで普通の魚介類については放置しても大丈夫なはずですね。異界内のマグネタイトに余裕も有りますし、とりあえず一年ずつ加速して繁殖状況を確認しましょうか」
「ふむ、異界内の時間加速術式をこうしてるんですね」
「と言うか、この端末ってどうなってるゲソ?今放流された魚介類の現在数とか分布状況が表示されてるゲソ」
「ああ、それは術式をプログラム化する研究の成果の一つですね。異界管理用端末として異界内の情報確認と、問題箇所を修繕するための方法を表示出来る様にしてます」
「そう言えば、程々の性能の式神コアを制作出来る端末も出来たんでしたっけ?呉支部の備品として購入は出来ます?」
「⑨ニキは降霊部分の微調整が苦手*4でしたっけ、支部の備品としての購入は問題無いですから、事務方で手続きして貰えれば設置しに行きますよ」
「なら早めに手続きしておきますね、思ったより呉支部の規模が大きくなりそうで、人手が足りなくなりそう*5なんですよね……」
いくら事務仕事が得意と言っても限度はあるのだろう、ちょっと疲れ気味な気配で呟く⑨ニキは歳不相応な哀愁を感じさせる。
「オタ社長とかのリアルロボット系と言うか、式神化させないロボットを研究する人達が集まって来てますし、⑨ニキ配下のナインズ*6でしたっけ?あの辺の魔術結社の装備関係もあって、西洋系好きの一部も活動拠点を呉に移してますよねぇ」
「支部長は大変でゲソねぇ。私は一平連合員で良かったゲソ」
「他人事みたいに言ってますけど、イカネキは宗像支部の支部長に決定してますから、宗像大社側と連携して大内海の管理も含めてこれから忙しくなりますよ?」
「何ででゲソッ!?そこは福岡支部の規模拡張で良いじゃなイカ?!」
「福岡支部は半島側と長崎側の動向監視に県内の案件対処、九州全域の中継点としても仕事が山積みですし、大異界の管理と宗像三女神の対応を考えるなら、それ専門の支部を用意するのは不思議ではないでしょう。元々
「ゲ、ゲソォ……」
何というか、逃がすものかと言う圧を感じさせる⑨ニキの笑顔を向けられてイカネキがしおれているけど、私も一応とは言え巌戸台支部を預かる事になるわけだし、多少の面倒ぐらいは請け負って貰おう。
異界管理用端末みたいに、手間を減らすためのサポート道具とかも用意してますし、何とかなるでしょう。
「まあ代表者がイカネキってだけで、実務は他の人に振り分けるのも可能ですから、相沢姉妹とか信頼できる相手に相談したらどうです?」
「ううぅ、そうするゲソ。兎も角、しばらく様子見なら遊ぶゲソ!」
悩みを先送りにした感じに声を張り上げ、先に遊ぶ準備をしていた参加者の元へイカネキが走って行く。
砂浜の一角には着替え場所も兼ねた海の家が建てられており、その周辺にはパラソルやビーチチェアを設置して寛いだりビーチボールを膨らませたりしているみんなの姿もあった。
「責任取りたくないと言うか、面倒な立場を嫌がる辺り、らしいと言えばらしい話ですね」
「それじゃ、私達も行きましょうか、⑨ニキちょっと視界が飛びますよ【縮地*7】」
「へ?――っと、転移……とは微妙に違いますか。縮地と言ってましたし、地脈経由の転移じゃなくて空間の接続に干渉する感じですか?」
「私の場合は空間の接続と言うより認識ですかね。踏み出した一歩の届く距離を自己認識の及ぶ範囲と定義して、概念的な力の行使として成立させた感じです」
「何か探求ネキがとんでもない事言い出したな、オイ」
「と言うか転移するなら先に言うゲソ!態々走ってきた私の立場が無いゲソ!」
「とんでもは否定しようが無いけど、瑞樹ちゃんの【縮地】は霊質由来の固有スキルじゃないのよね」
「霊質的な相性がいい人なら、レベル20も有れば習得出来るスキルですからね。私のは通常の技術として理論構築した物ですし、霊質的な相性は良くも悪くも無い感じだったので、形になったのは最近ですが」
海の家の前に【縮地】で移動してきた所で、今回の集まりに呼んだ一人である銀時ニキのツッコミが飛んできたり、広島出身って事で、里帰り序でに参加した美波さんからフォローなのか微妙なコメントが出てきたりしたけど、それぞれ水着だったりラフな格好で思い思いに寛いでる様子。
まあ
そして金札*10組が呉は⑨ニキ配下のナインズからホーネットさん、ノーバディさん、ヒルダさん、宗像大社氏子衆の相沢千鶴さんと栄子さんの姉妹、香川は大赦から銀時ニキの弟子の友奈さんに私の妾と言うか現地妻みたいな智さん、誾さん、霊子さんと娘の
そんな事情は兎も角、しばらくは異界管理用端末をちょこちょこ確認するぐらいになって余裕が出来たため、一応は声を掛けたホスト役として各人の状況を確認して回っていると、私の事について話しているグループを見つける。
「探求ネキと直接絡んだ事は殆ど無かったけど、思った以上にデタラメね」
「あ、初期ぐらいから居るほむらネキから見てもそうなんだ」
「あら、瑞樹ちゃんは最初に会った時からアグレッシブだったわよ?まあ一緒に色々調べたり学んだりした事の大部分が、自己改造して生やすためってのは流石に驚いたけどね」
「え?自己改造??」
「まどかさんの困惑も良くわかります。私も一年ぶりに会った時、いきなり両性具有になって生やしたとか言われてどんな顔すればいいか分からなかったし……」
「瑞樹って普通に女の子じゃなかったの?!」
「前世男で今世女のTS状態から、現在両性具有に変わった感じですよ」
「ひゃっ!?」
どうやら私の性別について知らなかったらしいまどかさんや琴音さんに説明していたようで、ちょっとしたイタズラ心で隠密して背後に回り、囁くように声を掛けると流石に驚かせすぎたのか、椅子から転げ落ちそうになった所を抱き留める。
「おっと、すみません。大丈夫です?」
「び、吃驚したぁ、いつの間に後ろ居たの?全く気付かなかったんだけど」
「性別の話をしてる辺りですかね。隠密の方は最近【小周天】から【大周天*11】にスキルが変化して、気配同化技術が向上したおかげです。某運命のアサシン先生が扱う〝圏境〟の端緒が見えてきましたね」
「それは良いんだけど、いつまで抱えられてるの、私」
「琴音さんが良ければ何時までもと言いたいですが、流石にそういうわけにはいかないですね」
抱き留めていた琴音さんの水着――赤と橙二色のタンクトップビキニ――が乱れてないか確認してから立たせると、お詫びも兼ねて自家製ジャムを使ったクッキーを取り出す。
「後、騒がせたお詫びも兼ねて昼食前なので軽めですがクッキーをどうぞ」
「とりあえず心臓に悪いから、気配誤魔化して近付くのは今後禁止ね!っと、それにしても、ボトムをホットパンツにしてたのって、ファッションってだけじゃ無かったんだね」
「ふふ、興味があるなら今度一緒にお風呂でも入ります?」
「へぅ!?いや、その……」
「その気になったらいつでも言って下さいね。まあその辺わかり難くするため、ホットパンツにしたのもありますよ。大半知ってる事実ですけど、視覚的な物は別でしょうから」
琴音さんの思わず動いただろう視線をからかいつつ半ば本気で誘ってみるけど、やり過ぎるのもあれだし、普段絡みの少ないメンバーもいるため、程々で切り上げ話に戻る。
「ほ、ほむらちゃん、探求ネキってアレで本当に12歳なの?何か雰囲気が凄く艶っぽいんだけど……」
「間違い無く12歳よ。元々探求者呼びの始まりが性の探求者だし、ミナミィネキとスケベ部の幹部してたり、子供が既に三人居たりするぐらいには奔放な面もあるから、気を付けましょうね」
「あ、大赦の所の……。うん、そうだね、気を付けるよ」
「いやいや、見境無く手を出したりしないですよ。大赦の件は、向こうがやらかした事に対するペナルティも込みで技術試験に協力して貰った訳ですし、似たような暴走をされない様に子作りした経緯ですから」
「瑞樹って私と同じ12歳だよね??何か立て続けに新事実が押し寄せてきて混乱しそうなんだけど!?」
私の性別に関しても知らなかったみたいだし、流石に琴音さんの許容量をオーバーした様子。
とりあえず机に突っ伏してる琴音さんはそっとしておく事にして、二三話した後追加の飲み物を用意してから別のグループへ移動する事に。
水辺で思いっきり遊んでいる⑨ニキの関係者やイカネキ達のグループは楽しそうだし、邪魔するのも悪いのでそのままにするとして、海の家の中で傍目には実務者会議みたいになってるちひろさんを筆頭とするグループへと足を向ける。
「傍目には実務者会議っぽい感じでしたけど、娘達の世話をしてくれてたんですね」
「瑞樹さんお疲れ様、普段はこう言う機会って無いですからね。まあ業務関係の話も軽くはしてますけど」
ちひろさんや千鶴さんにホーネットさんも加えた六人で娘達の世話をしていた様で、既に生後半年も過ぎて動き回る様になったと言う事も有って、智さんたち三人だけだとちょっと大変みたいだし有り難い話。
娘達を一人ずつ抱き上げたりしばらく遊んでおとなしくさせた後、誾さんと霊子さんに任せて少し話をすることにする。
「異界管理用端末はこっちに持ってきてたんですね、今の状況は……。ふむ、二年ぐらいの加速でもかなり増えてますね」
「なんか増えすぎな気もするんですけど、その辺は大丈夫かしら?」
「端末見た限り大丈夫みたいですよ千鶴さん、ココとか食物連鎖が働いて増減してますし」
「んー、思ったより流入するマグネタイトの消費が少ないですね。今は時間加速しているので良いですけど、普通の魚介類用に自然環境を維持しても対して使いませんし、やはり異界特有の産物も用意するべきですかね」
「それは霊草の栽培とかですか?」
「瑞樹さんなら海藻系を作ってても驚きませんが、今度は何を創り出しました?」
「実は思い付いて色々実験した結果、【植物改変】スキルが【生物改変*12】スキルに変化して、植物以外も新種を作り出せるようになったんですよね。思えば錬金術のキメラとか生物の特徴を合成する技術や発想ってよく有りますし」
そんな訳で取り出したのは、お馴染みとなったトリコ食材再現シリーズからホネナシサンマ*13とミルクホタテ*14、蛇の体表から出汁を取ると言うのは受け入れられるか分からなかったので、コンブスネークを参考にあご出汁で有名なトビウオと組み合わせた
それぞれ生け簀に入れた状態だけど、ミルクホタテと昆布魚については出汁取り用に乾燥させた物も取り出し、それぞれの情報を異界管理用端末に追加しておく。
「えっと、瑞樹さん?これらは何です?」
「わぁ、ついに植物以外の再現シリーズも可能になったんですね!」
「軟体動物みたいな動きをしている秋刀魚は〝ホネナシサンマ〟で、ホタテ貝は生乳の様な味わいの〝ミルクホタテ〟、鰭が昆布になってるトビウオが〝昆布魚〟ですね。今のところキメラ的な生き物同士の特徴を組み合わせるのは実験段階ですが、もう少しでフグ鯨も出来そうな感じなんですが、今回は間に合いませんでしたね。まあ最終的な目標はリーガルマンモスですから、先は長いですけど」
何というか、困惑顔の智さん達金札組とワクワクとした笑顔を浮かべるちひろさんの対比に、ガイア連合の内と外の落差を感じるよね。
「これらを異界で増やすので?」
「味は保証しますよ。ミルクホタテや昆布魚はそのままでも出汁取り用に干しても良いですし、とりあえず昼食はこれらも使った物にする予定ですので、異界内に投入するかはその後にでも決めましょうか」
そろそろ時間も良い頃合いと言う事もあり、湯乃葉に声を掛けに行って貰う間に、久遠を助手にして昼食の用意に取りかかる。
参加人数が人数なため、基本はそれぞれ好きに焼いて食べるグリル形式と言う事でコンロをいくつか配置し、下拵えして置いたホネナシサンマやベーコンの葉、ウインナースなどの焼くだけでも美味しい食材各種に、飲み物もアルコールとノンアルのジュースをそれぞれ数種類並べていく。
粗方準備が終わり人が集まって来た辺りで適当に昼食会を開始し、焼く以外の料理の準備に取りかかったところで、珍しく甘味以外を持った状態の銀時ニキと友奈さんがやってくる。
「探求ネキ、マジでホネナシサンマかよ!これでビール無しとか酷くね?!」
「師匠ってそんなにお酒飲みましたっけ?」
「いやまあ一応ってだけだな、有れば嬉しい程度だけどよ。昼から飲んでも問題無い懇親会だしな」
「ビールは手持ちに無いですが、グルートエール*16ならありますよ?お酒置き場に出しておきましょうか」
「エールって飲んだ事無いからちょっと試して見るか。つーか神酒が雑にならんでるのも何だろうな、俺らは多少慣れたが呉と宗像の方は見た瞬間に固まってたぞ」
「ガイア酒造の方で霊酒の販売はしてますし、最近は神酒手前ぐらいの品質も出来てますから、そこまで驚く事じゃ無いと思うんですけどね……」
「いやいやいや!神酒どころか霊酒だって実在するか分からないレベルだった代物ですよ?!ガイアポイントで購入出来るだけでも驚愕なんですけど?!」
地方組織の事情を考えると友奈さんの叫びは分からないでも無いけど、そんな状態である方が問題なのでスルーしてお酒置き場にグルートエールを追加、その後は作り置きしていた出汁を寸胴鍋に取りだしてラーメンの仕上げに移る。
一方で、久遠に任せていたミルクホタテの海鮮塩焼きそばは完成した様で、琴音さんを筆頭にして匂いに釣られた人達が列を成していた。
「うわっ、この焼きそばすんごい美味しい!」
「魚介の風味が確りしていて良い味してるゲソ!」
「海鮮だけかと思ったけど、牛肉の風味も微かにあるわね。牛肉自体は入ってないみたいだけど……」
「それは大トロ大豆の大豆油を使ってるからですね。霜降り牛の様な脂の風味が良いアクセントになりました――っと、ミルクホタテの干し貝柱と昆布魚の煮干しや焼き干しを使ったラーメンも出来ましたからどうぞ、塩と醤油の二種類ありますよ」
塩の方は、ミルクホタテの干し貝柱や昆布魚の出汁をブレンドした、魚介を味わう感じの基本的な味。
醤油の方は、魚介出汁に大トロ大豆醤油*17や仙豆醤油*18などをブレンドした醤油だれを追加した感じで、仙豆醤油の効果的に風味付け程度の量しか使ってないけど、これだけで満腹になってしまわないかがちょっと心配なところ。
トッピングの方は、マグロチャーシュー*19や煮卵*20、メンマ*21に刻みネギ*22と種類は少ないけど、店を開く訳でも無いしこんな物かな。
「これは……、出汁の旨味が凄いですね。醤油の方は満腹感が強くて余り食べられそうに無いですけど」
「⑨ニキも醤油の方は殆ど食べられないとなると、風味付け程度でも仙豆醤油を使うのは厳しいですか。味は良いんですけどねぇ」
「仙豆醤油は兎も角、塩も醤油も出汁の風味が良いですね。宗像大内海でミルクホタテと昆布魚を漁獲出来る様になると、ガイア連合としても助かりますね。瑞樹さんは個人にしては量産する方ですけど、連合全体で使う可能性や購買に回す事も考えると、産業として安定した供給源は複数確保しておきたいです」
「なら内海に放流して増やしますか、呉支部としても食堂で使える食材が充実するのは良い事です」
「私も賛成ゲソ!美味い食材はいくらあっても困らないゲソよ」
一心不乱に食べ続けてる金札組も頷きを返してくれた事も有あって、満場一致で宗像大内海の特産品へ追加することに決まり、異界環境構築に組み込んで今日の予定としては一通り終了。
その後は水面歩行を試したり、フロートパネルを改良して作ったグライディングボード*23で水上レースをしたり、時間加速を止めた後に遠泳勝負をしたりと、童心に還って遊び倒し、夕日が沈む頃には参加者それぞれを送り届けて懇親会も終了となった。
「今日は海遊び出来て楽しかったですけど、琴音さんの気分転換になれてたら良いんですが……」
三十路過ぎまで生きてた前世の記憶に海で遊んだ覚えなんて無く、今世でも外で遊んだ経験が殆どない事も有って、ホスト役として今日は上手く出来たのか、不安を感じつつも一日は終わり、また新しい日常へ続いていく。
一つ前に発動した属性の相生関係に在る属性に対して習得している全ての属性系自動発動スキルの効果が適用される。
移動距離やスキル発動時の隙などは術者の技量により変化するが、移動距離は基本的に視界範囲か術者が物理的に歩いて移動できる範囲。
大気中のMAGを取り込み自身の霊力と混ぜ合わせ、霊体を活性化させる事で霊力や体力の回復効率を向上させている独自設定スキル。
普通の秋刀魚よりも脂のりが良く、炭火で焼いた物を頭から丸かじりして食べるとビールが欲しくてたまらなくなるらしい。
また、貝柱を長時間煮込むことでよい出汁が取れるため、干し貝柱としての需要も高い。
乾燥させることでより旨味成分が凝縮された出汁が取れるため、基本的に出汁を取るための食材として利用されるが、刺身などそのままでも美味しく食べられる。
地上または海面から最大3m程まで浮き、マグネタイト・バッテリー内蔵型の場合は原付バイク程度の速度を出す事が可能で、移動方向や高さ、速度などは板の傾きにより調整する方式。
海に遊びに行った経験も無い陰の者に、夏の海とか無理が過ぎた……。
あ、拙作のメインヒロインはハム子ネキです。
後、『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』様にて〝仙豆醤油〟の名称を見かけたので、拙作世界線では、〝仙豆〟の効果から、ブランド名として仙豆醤油の名称を使っており、仙豆から醸造した原液の使用割合やブレンドした他の醤油によって、値段や味わいが異なるものとしています。