【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
打撃音と言うには静かに、しかし拳の触れた場所から弾け飛ぶと言う騒々しさでもって、シャドウが吹き飛んでいく。
一歩を【縮地】して踏み込み、一打一打を確かめる様に、【崩拳*1】を丁寧に叩き込む。
敵の表面では無く内側へと打撃を透す様に、火炎耐性を持つシャドウには拳に火炎を纏わせて、氷結耐性持ちには氷結を纏わせて、本来なら通りの鈍くなる属性を霊力操作により、敵の耐性をすり抜ける様に打ち込んでいく。
繰り返される一撃の結果は次第に吹き飛ぶ距離が短くなり、ついには拳の触れた場所をそのままに、威力のみが内に浸透し弾け飛ぶ。
それはいくつもの武術に置いて奥義とされる、敵の守を貫き内側を破壊する一撃であり、物理的な技術としてなら、亀仙人と共に修行する中で会得していた技。
そんな只人の域を超えるための切っ掛けが足りなかった技に、つい先日大量に手に入ったイシュタルのフォルマを混ぜ合わせ、同一視されるイナンナの力を引き出すことで、【貫く闘気】のスキルカードを作成出来ないか試した結果として、カードを作れなかった代わりに辛うじて得た、耐性貫通の概念知識を組み合わせ、新たなスキルとして創り出す事に成功する。
「亀仙人との修行も含め研究してましたけど、ようやく【浸透勁*2】が形になりましたね。【貫く闘気】のスキルカード作成は出来ませんでしたけど、耐性貫通の概念を拾えたのは十分な収穫でした」
「流石にイナンナと同一視されるとは言っても、イシュタルからは無理があったのだな。それで、【浸透勁】のスキルカード作成は可能なのか?」
「スキルとして構築出来てますから、カード化するのは可能ですね。今日の影時間が終わったら久遠に追加しましょうか、湯乃葉も要ります?鍛錬次第で魔法も対象に出来そうですし、状態異常耐性を貫通する事も可能になると思いますよ?」
「んー、近接は苦手なんだけど、魔法や状態異常にも応用効くなら、試して見ようかしら?」
いつもの様に影時間の間引きへ来た序でに、適正レベル帯でやると面倒な技術の実践や実験をしている内に、今日も時間が終わる。
影時間へ侵入できる時間が終わり、いつもの様に現実世界へはじき出されると、下の階でレベル上げをしていた琴音さんやアイギス、綴さんの三人が疲労度合いの差こそ有れ、一様に疲れた表情で座り込んでいた。
「三人ともお疲れ様です。いつもの様に疲れ切ってる感じはしますが、その様子だと今回はターミナルまで行けたみたいですね。綴さんは先に体力回復が必要ですか、これ飲んで下さいな」
「肯定であります。最後は多少の無理をしたことを踏まえ、しばらくは十階のターミナル前後での、間引きが得策かと考えるであります」
「ふぅ……、五階までは簡単だったんだけどねぇ。五階から十階の踏破に一ヶ月以上掛かるとは思わなかったよね。いや、マジでシャドウ多過ぎだって」
しゃべる元気も無さそうな綴さんには、体力回復を促進させる配合で作ったクリスタルコーラの牛乳割り*3を渡し、今日の成果を確認していくと、一時間掛けて五階から十階のターミナルまでは何とか到達出来た様で、エントランスに戻ったところで影時間が終了してはじき出されたらしい。
「飲み物、ありがとうございます。それにしても異界ってこんなに大変何ですね、葦原荘のダンジョンも強い敵が多くて大変ですけど……。あ、そうだ瑞樹さん、後でレベルとかの確認して貰って良いですか?今日の最後に無理した時、何か掴めた様な気がするので」
「ええ、構いませんよ。それと、タルタロスは確認されてる中で最難関レベルの異界ですから、基準にしたら駄目ですよ?葦原荘のはタルタロス探索を前提にした、鍛錬用の難易度にしてますし」
「やっぱりそうだったんだ、質か数のどっちかなら良く聞くけど、両方揃ってるのは珍しいし、異界の維持が難しくなるって聞いてたから、ちょっと疑問もあったんだよね」
「琴音ちゃんが最初首をかしげてたのって、そう言う事だったんだ。もっと書庫で調べるかな……」
「私の場合は調べたりってより、コミュの賜物って感じだけど、その辺は黒札と金札で対応変える人も居るから、難しいとこだよね~」
「代わりに、黒札は黒札の基準で考えがちなので、大多数の認識とズレてる場合も多いですから、一概にどっちが良いとも言えないんですよね。まあ日本の霊能組織の認識が多数派かというと、それも微妙なところですけど……」
「その辺は、全国巡りしてる両親との連絡でもありましたね。瑞樹さんに聞かされたこと、両親も半信半疑だったみたいですけど、聞いた中でも酷い事例と似た場面に遭遇したらしくて、まだ恵まれてる方だったのかと驚いてました」
そんな風にしばらく話している内に体力も多少回復した様で、葦原荘へ戻った後は温泉で汗を流しながら軽く反省会をして、遅くならない内に就寝、起きたら寝てる間に分身でまとめて置いた報告書――出現したシャドウの内容や討伐数、入手したフォルマなど――を、ガイア連合に売却する事に決めた素材と一緒に持って行き、それぞれ提出したら影時間の日常業務は終了。
山梨第一支部側の分身式神を再配置し直して巌戸台支部に戻った後は、学校へ行く琴音さんや綴さんを見送ったり、他に葦原荘を定宿としてる黒札と話したりしながら、趣味の時間に何をするか考える。
「今日は……、夏の祭典関連進めますかね。あ、夏と言えば、今年は星霊神社で夏祭り*4する事になりましたし、お祭り用のも何か考えますかね」
「おろ、探求ネキは今年も夏の祭典は出品側?企業として関わる人数増えたから、手を出し難くなったとか言ってなかったっけ?」
「祭典の方は以前も作った陰陽寮の日常ファンディスクの、第二期バージョンですね。ミニゲームの術に臨場感を出すために、霊的な効果も微かに発生させる様にコード組んでますから、資料だけ渡して外注って訳にもいかないんですよね。何故か、ファンディスク経由で覚醒した黒札とかも居ますし……」
「そういや二期目始まってたな、今回のメインはタオとルーンだっけか」
「開幕からメシアンっぽい連中が出てきて吹いたけどな。直後の日常との落差が酷かった、いろんな意味で」
「陰陽寮の日常自体、啓蒙と警鐘を副目的にした作品ですからねぇ」
「んで、夏の祭典がファンディスク第二弾ってのは分かったけど、夏祭りって?」
「俺らの人数も増えたってのと、ある程度余裕も出来てきたって事で、慰労だとか諸々込めて夏祭りの開催を予定してるってのが、先週ぐらいから年間予定に追加されてるぞ」
「え、マジ?」
今日は休みなのか、駄弁っていた二人の内片方がスマホを取り出し、連合のお知らせ見に行ってるけど、どうせ雑談なんだし気にせず続ける事にする。
「ガイアグループとしても規模が大きくなりましたからね。各地の支部も出来ましたし、一種のオフ会とでも思えば良いんじゃないです?」
「ほーん、それで何か考えるって事は、探求ネキも出店とかするん?」
「技術部とか農業部とかの生産系はこぞって出店の申請してますから、私が入る余裕有るかわからないですけどね。出すとしたら農業か畜産と合同で食材関係になるでしょうし、思い付いたのと近い物出すグループに混ざるのも手ですが」
「お、それじゃまたトリコ食材の再現か!屋台向きの食材ってなると何があるかね」
「やっぱり私と言ったらそれなイメージなんですね。まあ今は〝牛豚鳥*5〟が一応形になって、畜産部での繁殖を試してる途中ですけど、私の手をある程度離れてますから、他を研究するのも良いんですが……」
「お知らせの最新情報に、牛豚鳥の繁殖実験に成功したって出てるな。更新されたの一時間前だが」
「おう、タイムリーだな」
何というか乾いた笑いが出てくる様なタイミングで情報が出てきた訳だけど、確認したら夏祭りまでに時間加速使って増産する予定との事。
餌に関しては黒草や穀物の木もあるから何とかなるだろうけど、種類としてはまんまキメラな訳だし、急速な繁殖で悪魔化が促進されたりしないか、と言う点の確認はして置いた方が良いかな?
いやまあ、異界の中じゃないと存在出来ない時点で魔界生物カテゴリーに入ってるから、悪魔化したところで大差無いとは思うけど。
「それなら、何か新しく研究するとして、何が良いですかね?」
「屋台らしい物ってなると、タコ焼き?」
「焼きそばも良いな」
「その二つだと、新種のタコを創り出す感じになりますね。焼きそばの具材だと既に候補がいくつか有りますし」
「あ、そっか、完成品じゃなくて素材の方も考えないといかんか」
「つっても屋台で素材そのままってなると、もろこし焼きとか?」
「林檎飴も素材そのままと言えるんじゃね?焼きもろこしって言えばトリコに骨つきコーンって有ったな」
「確か原作だと、トウモロコシ畑で十年に一度、一本だけ実る幻のトウモロコシとかって話でしたっけ、何故骨が出来るのかは、グルメ細胞の謎として適当に合わせれば良いですし、特に問題無く出来そうですね」
「トリコでモロコシだと、BBコーンも行けたりするのか?俺もだが食べてみたいって奴多いと思うが」
「確かに、あのポップコーンとか食べてみたいよな」
「んー、挑戦してみるのも面白そうですね。骨つきコーンと合わせて研究してみますよ。上手く行けば夏祭りの出店に出すって事で」
新しい研究テーマが決まったところで、朝のティータイムも終わらせて早速研究に取りかかる。
まずはトウモロコシの品種毎に種を集めるところからで、スイート種やフリント種にポップ種など、現在栽培されている種を集められるだけ集めて回り、骨つきコーンとBBコーンの用途に合わせて仕分けしていく。
まあ種を集めるだけでも数日はかかったりするため、その間は他の研究を進めたり鍛錬したりと、いつも通り過ごした訳だけど、今回の研究で先に手を付けるのは骨つきコーン。
見た目的に芯の部分が骨っぽくなってるだけで、大きさはほぼ同じで良いし、十年分の栄養を凝縮させる部分は、宝玉ピスタチオや仙豆などの方法を応用可能だしってな訳で、早速色々組み合わせた種を持って農業部の
「あら~?実験場で探求ネキを見るのは珍しいわね」
「お久しぶりです穣子ネキ、夏祭り用の出店考えてた時に、焼きもろこしの話からトリコ食材の再現出来ないかって話になった感じですね」
「そうなの、なら今回は新しいトウモロコシが増えるのね。まあ探求ネキの特殊農産物は基本魔界植物だから、環境が整えば基本放置でも良いのは楽だけどね」
そう言って笑顔を浮かべるのは昨年覚醒して、今年から大地農林*6に就職という形でガイア連合農業部に所属することになった穣子ネキこと
カタリナネキと同じように豊穣系の固有スキルを使える事から、財界ニキネキとの契約関連で離れる事も多い、カタリナネキの代わりとしても期待されている新人で、主に増産予定の作物を担当しているらしい。
雑談はそこそこに、骨つきコーンの種として創り出した種子をいくつかの条件に分けて植えていき、成長促進させて結実させていく。
「うん、想定通り良い感じの骨つきコーン*7が出来ましたね。生でも旨味と風味が濃厚で、ポタージュでも飲んでるみたいです。穣子ネキも食べてみます?」
「では失礼して……、ん~!!」
穣子ネキがもぎりたての骨つきコーンにかぶりついた直後、貪る様に止まること無く一本を食べ尽くし、最後に口一杯頬張ったコーンを名残惜しそうに呑み込むと、至福の吐息を溢す。
実験場に出入りする農業部員がそんな穣子ネキと私の姿を見れば状況を察する物で、ある意味恒例行事となってきている新作のお裾分けをしつつ、今度はあえて市販の醤油とバターを使った焼きもろこしを作っていく。
「くぁ~!旨い!!やっぱ、グルメ漫画の食材だからって概念でも影響してんのかね?普通に品種改良しているモロコシだとこうは行かんよなぁ……」
「分類的には魔界植物の範疇になるって事は、少なからず概念的な影響も有るって事でしょうね。畑作って栽培出来る事から、特殊農産物の枠にはなってますが、焼くことによる香ばしさは一段と旨味を引き立てますね。夏祭りまでにBBコーンが上手く行ったら、焼きもろこし用のタレやポップコーン用の味付けも研究しておきますかねぇ」
「あれ?探求ネキの新作って、焼きもろこし用のこれだけじゃなかったの?」
「骨つきコーンは比較的簡単に出来そうだったので、先に試しに来た感じですね。原作的にもBBコーンを再現するとなると、森一つ分ぐらいの面積が必要になりますし……。穣子ネキはそろそろ現実に戻ってきて下さいな」
「はっ?!余りの美味しさに、延々と食べ続けてしまいました。話には聞いてたけど、言葉を失うほどに美味しいなんてのもホントにあるのね~」
「とりあえず骨つきコーンの栽培に適した環境や方法の目処は付きましたし、いつもの様に種やデータは置いて行きますので、栽培して食堂に卸すなり製造部に回すなりは運営陣と相談して下さい」
骨つきコーンの残りは集まった農業部員に渡して、一番上手く行った栽培方法の種を確保して実験場を後にする。
新品種を作った際の手続きや情報のアップロードを終わらせ、代わりに新しく報告の上がってる農業部の成果を閲覧したり、改良された作物や種子などを購入して巌戸台支部へ戻ると、丁度鍛錬へ行くところだったのか、戦闘用装備に身を固めた綴さんが出迎えてくれた。
「あ、瑞樹さんお帰りなさい。何と言うか、支部長室に分身が常に居るので、ちょっと違和感も有りますけど」
「ただいまです。綴さんはこれからダンジョンですか?」
「ええ、タルタロスの十一階から先が上手く進めないもので、琴音ちゃんやアイギスさんの足を引っ張らない様、自力を上げようかと」
「レベルも順調に上がってますから焦る必要は無いと思いますが、思うに攻撃力より継戦能力の方で不足を感じてるのでは無いですか?」
「その通りですけど、どうしてそれを?」
「この間【アナライズ】で確認しましたからね。綴さんのレベルとか、スキルとして定着している能力から、不足を感じてるとしたらと考えた感じですね。まあ兎も角、壁にぶつかったのなら、手伝いするのは師匠の役目ですね」
以前に確認した時点でレベルは13まで上がっており、タルタロス十五階までに出てくるシャドウなら通用するレベルにはなっていて、打撃系と斬撃系のスキルに、火炎のみだけど単体と範囲魔法があって、割合で威力上昇する【火炎ブースタ】のパッシブも習得していると言う状況から、必然的に足りないと感じるなら持久力、次点で索敵力が挙がると言ったところ。
まあ、とりあえず角や小部屋にはほぼ確実にシャドウが居る何てタルタロスの現状的に、索敵が必要と感じる可能性は低いとも思っていたけどね。
兎も角、そう言う事ならと綴さんの師匠として稽古を付けることにして、葦原荘の中庭異界の一角に用意してある鍛練場へと移動する。
「さて継戦能力の向上ですが、一番簡単な方法はアイテムを大量に用意して都度使用する事ですけど、費用が掛かる上に戦闘中に使い難い場合も多く、使用するアイテムによってはお腹いっぱいになってしまう危険もあるので、得策とも言い辛いんですよね」
「この間の十階まで到達した時は、正にその状態でした。十階の到達優先で攻撃系や回復系のアイテムを用意して、琴音ちゃんと私でアイテムを多用しながら進みましたけど、九階辺りで服用しすぎで動きが鈍くなって、何とかターミナルに着いた直後は動くのも辛かったです」
「まあそう言う意味では自力を上げて、少ない手数で敵を倒せる様にするのは間違いじゃないんですが、その方法は通用しない状況も多いので、私としては回復力の向上を重視しています。と言うわけで、この本を渡しておきますね」
今回綴さんに渡したのは、私の基礎にもなった【小周天】に関する記述もしている〝建体飽食技典〟で、表層的には美容と健康な肉体を作るための本だけど、実質的なところは、長時間の戦闘にも耐えられる肉体を作り上げる技法でもある。
綴さんはレベル10を超えてるし、指導を始めた当初に許可を取って調べて分かった事だけど、血筋的に夜魔系統とは言え悪魔の血が入ってるだけあって、レベル30以上に行けるぐらいの素質があるのは分かってるため、【食没】や【魂魄精錬法】の習得も可能になるだろうって想定もしている。
最も、現状は短期間に戦闘で成長した事もあって、集合的無意識から力を引き出すペルソナ方面の成長が主になってしまっているみたいだけど。
「それでこの、呼吸法、ですか……」
「基礎鍛練用に渡していた本の呼吸法は霊力の循環を促して、霊力操作の感覚を掴むための物でしたからね。綴さんも一応操作可能にはなっていましたけど、スキルを発動する際の霊力を、効率化出来る程の練度にはなっていませんでしたし、霊力を操作して練り上げる技術は能力の底上げにも繋がりますからね。さ、打ち込みの手が緩んでますよ?」
「っ!せいっ!」
最初に基本的な説明と実践を行わせ、ある程度形になってきたところからは、綴さんに実戦で使っている装備を、私は木刀を使用しての打ち込みをしながら、霊力の操作と練り上げる感覚を覚えさせていく。
元々の出自もあってか、理論と意味を説明して理解してくれると、厳しい鍛練でも真面目に取り組んでくれるおかげで、何日かそうやって鍛練の時間を繰り返す内に【小周天】の習得に成功して一区切りがつき、序でに打ち合い続けた影響か【硬気功】も習得したのは嬉しい誤算と言ったところだろうか。
そんな風に少しは師匠らしい事をしている一方で、ライフワークと化してる新しい食材の研究開発も佳境を迎え、想定される規模の大きさから事前申請した上で、数日掛けて実験した成果が結実する時が来る。
「うーむ、思った以上にジャングルになりましたね。物としては凄く巨大なトウモロコシなんですが……」
「追加で結界を構築してもギリギリな辺り、悪魔化していない事を信じたくないレベルね」
「一応鑑定用の道具で調べましたけど、魔界植物の一種としか出ないわねぇ」
時間の加速だけで無く、生育環境の調整や環境内での循環の形成、更には養分となる肥料の追加など、今までにもましてあれこれと試行錯誤した末に、ようやく成熟まで漕ぎ着けることに成功し、大きさにして70m近いBBコーン*8を何とか収穫してきたところである。
事前に申請して農業部に告知もした影響か、普段忙しいカタリナネキも休みを取って試食会に参加しており、ここの所一緒に頭を悩ませていた穣子ネキや他の部員達と一緒に、物理的に圧力を感じるレベルのBBコーンを見上げている。
「さて、外観の記録も終わりましたし、皮を剥いた状態も確認しましたから、そろそろ実を軸から外しますよ」
「お、おう……、それは良いんだが、こんなデカい奴からどうやって取り外すんだ?トリコみたいに釘パンチするとか言わないよな?」
「物として似た様な殴り方をする事は出来ますけど一応違いますよ。ある意味似た様な事かも知れませんけどね。久遠!」
「了解した。【硬気功】【軽気功】〝崩天撃*9〟」
私の合図に合わせて事前に説明していた通りに、久遠がBBコーンの軸へ強烈な一撃を叩き込み、軸に浸透させた衝撃で実を軸から弾き剥がしていく。
軸から実が剥がれた事により、響き渡る衝撃音と共に横倒しの円柱状から形が崩れ、一カ所だけ剥いていた皮の部分からコーンが溢れ出してくる。
「いやいやいや、やってること釘パンチよりどう考えても非常識だろ!!」
「すげー音したな……。高レベルって怖いわぁ」
「久遠お疲れ様、上手いこと軸から剥がせたみたいだし、BBコーンを回収して早速乾燥させましょうか」
「そうね、何時までも惚けてるわけにはいかないわ。さあ早く実食したいなら、それぞれ出来る事をしなさい!」
カタリナネキの号令で蹴飛ばされた様に農業部員も動き出し、一粒がバスケットボールほどの大きさにもなるBBコーンを穀物乾燥機*10へと投入し、乾燥させ終わった物をまとめて収納バッグに入れていく。
BBコーンの大きさが大きさだけに、一本からでも大量に収穫できたコーンを一部は粉にしつつ、原作通りに創れてるかの確認用に作っておいた特大の鍋を取り出す。
物としてはどこぞの芋煮会で使われる様な巨大鍋に、一粒だけBBコーンと植物油を入れた後、【アギ】を使って火力を調節しながら加熱して行くと、強烈な破裂音を上げてポップコーンが噴き上がる。
「狙って創ったのは事実ですけど、ここまで来ると百人分のポップコーンといっても誇張にならないですね」
「結界張ってなければ、鍋の外まで飛んでたわね~。後これ、味付けするのも大変よねぇ」
「最初ですから無難に塩バターで味付けしましょうか、こういうとき【
噴き上がるポップコーンという光景に、参加者が呆然としている間に味付けまで終わらせて、一つ一つが掌大ほどあるポップコーンを籠に盛ってそれぞれに配り、早速頂きますの合唱をして実食する。
「おお、無意識に飲み込んでしまった。原作のトリコが言ったみたいに、無限に食えそうだ!」
「くっ、旨すぎる!味わいたいのに飲み込んでしまう!!」
「流石はトリコのオードブルだけあるな、普段余り食わないのにすんごく腹減ってくる……」
「皆の言う様に、これはある意味危険ね。サクサク食べられて、満足感もあるのに食欲が増進されるから止まらなくなるわ」
「しかも一粒からこれだけの量が出来るとなると、コスパはかなり高くなりそうねぇ」
「基本な塩バターも良いですけど、おやつ感覚ならメープルとかも良いかもですね。さて、BBコーンミールで焼いたトルティーヤも出来ましたよ」
BBポップコーンを試食する傍ら、分身式神を出して準備させていたトルティーヤに齧り付くと、ポップコーンにした時とは異なり、ずっしりとした力強い旨味が押し寄せてくる。
一粒で百人分の量になった事を考えるとある意味当然と言える話だが、コーンミールとして使用するなら、一人前の分量でもエネルギー的には十人前とかになる訳で、味見程度の一口大に切り分けた分量でも、十分に胃を満たせるほどの満足感は、主食とするには悩ましい話でもあるだろう。
「私やデビルシフター、後は暴食系の人達なら主食にしても良いですけど、普通に食べるならコーンブレッド辺りに少量混ぜるとかじゃないと難しそうですね」
「とても美味しいし、いくらでも食べたいけど……、一口で胃が限界ね。正直BBポップコーン食べてなければ動けないレベルで満腹になってるわね」
「こんなに美味しいのに、一口しか食べられないってのは、ある意味拷問よねぇ……。二口目食べたら、確実に容量超えてリバースしそう」
「とりあえず、一般俺らはBBポップコーンで満足しておけって事だな!」
夏祭りの出店に出す物を何にするか、と言う話から色々と手間は掛かることになったけど、良い作物が二種類も増えた事だし、結果は上々と言った感じだろうか。
「さて、次は何を研究しましょうかね……」
こうしてガイア連合では趣味人の思い付きや悪ノリで、日々様々なモノが生み出されては何かの騒動の種になったりして行く。
それもまた、私達の日常と言う物なのだろう。
ちなみに、後日デビルシフターや暴食系俺ら用にBBコーンフレークが発売され、一部チャレンジャーが一匙チャレンジなどと言って挑戦しては、撃沈していく配信ネタが出来たらしい。
積み重ねた功夫により、小~特大まで威力が変化する基本にして奥義である打撃技。
また、威力の上昇度合いに応じて、他の物理属性攻撃の威力に補正が掛かる独自設定スキル。
積み重ねた功夫に応じて、複数回攻撃や全体、魔法など貫通可能な攻撃方法を増やす事が可能。
生のまま食べても、凝縮された濃厚な旨味を十分に堪能でき、軽く火を通すことで香ばしさが増して、ジューシーな甘みが溢れだす。
強力な火力で煎って弾けさせたポップコーンは、一粒で百人前程にもなり、圧倒的な香ばしさとコクを持ち、一口食べれば食べるのを止められなくなるほどの食欲増進効果に優れる。
四月に入ってハム子ネキが月光館学園中等部に入学、本格的にタルタロス攻略を始めて行きますが、それはそれとして日常回でした。
序でのオリキャラ紹介
・穣子ネキ
東方の秋姉妹で秋穣子と似た容姿で農業部に所属している農大卒業生。式神は秋静葉。
実家の手伝いをするか農業系企業に就職するか考えている中で、ガイアグループ傘下の企業説明会へ行った際、黒札であることが判明し、覚醒修行後は表向きガイアグループ企業の大地農林へ就職したことにして、ガイア連合農業部所属として品種改良や増産に携わる。