【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「さて、一時的な物ですし、幅と高さに余裕を持たせるとして……よし、装符展開!」
作る物の構造イメージを注いだ数十枚もの装甲護符を投げ放つと、目標地点に突き刺さった直後、急速に装甲という名の床と壁、それから梁に屋根が展開され、物の数秒で巨大な倉庫が出現する。
展開し終わった装甲護符による倉庫の出来を確認した後、展開維持のためのマグネタイト供給用に五行器を設置して接続すれば、実験のための簡易倉庫は完成となる。
「簡易倉庫は問題無し、なら次は本題の実験に取りかかりましょうか」
からりと晴れた空の下、地理的な関係で夏目前と言った気温の中、ちょっと大掛かりな実験を始めようとしている現状は、ガイア連合山梨支部的には四月から続いた、自衛隊関連の協力体制構築が順調に回るようになり、技術部や製造部に事務方など、方々に余裕が出来るように六月の事。
今月の満月の日に再度復活した【刈り取る者】をしばき倒して、ボス枠予想が確定したりもあったけど、それも含めて日々の探索と鍛練に研究と充実した日常を過ごしていたある日、色々と使用する素材の候補が決まり、本格的な設計や仕様を決定する前に、リアルACでシミュレートしている演算結果と、実際に動かした時の差異を調べて置こうと言う事で、各種計測用に設計した試作機を作り、稼働実験を行うと言うのが今回の目的。
そんな訳で実験場所として建てた簡易倉庫内に、超機人の動力炉として多少バージョンアップした五行器と、中枢であるコックピットブロックを取り出し、まずは二つを接続して動力炉を稼働させ、制御機器が起動可能状態となったらコックピットに乗り込む。
次ぎに、コックピットに電力とマグネタイトが回る事で、座席横に設置した収納箱が稼働するため、機体構築に必要な分の装甲護符を投入したら、今度は座席の逆側にあるスロットの蓋を開き、機体各部を構成する素材サンプルをまとめたカートリッジを挿入し、機体の構築を開始させる。
ちなみにこの装甲護符に関しては、以前は素材の情報入力速度の問題で先に素材情報だけ入力して、構成箇所の情報を後入れして展開する方式にしていたけど、構築したい素材のサンプルを用意して、実物から情報を転写する方式を開発した事により、装甲護符用の呪符を用意するだけで、自在に構築する事が可能になっていたりする。
機体構築開始に合わせて、コックピットブロック自体に施してある重力制御術式にマグネタイトが供給され、構築予定の機体設計に合わせた位置まで上昇した後、機体各部と使用素材の情報リンクが正常に行われている事を確認し、展開を開始する。
「展開実行から大体五秒と言ったところですか、実戦での機体損傷から復帰する事を考えると、まずまずですかね?まあ機体の構築と外部情報入手、並びにモニタへの出力は今のところ問題無し。なら次は、重力制御無しでもまともに立てるかどうか、ですね」
構築された頭部のメインカメラから送られてくる情報により、簡易倉庫内の様子がコックピットモニタへ映し出され、装甲護符が設計図通りに展開されていることをモニタの表示で確認したところで、構築のために地面へ触れない程度に浮かせていた重力制御を停止させ、機体を地面に下ろす。
この辺はリアルACのサーバで姿勢制御システムに力を入れた影響もあってか、重力制御を停止した途端に倒れる何て事にはならず、確りと直立する事が出来た。
「最低限30メートル級の機体を直立させる程度は可能っと、一歩踏み出してもアラートは無しで、観た感じでも問題は見受けられないですし、後は順にテストをしていきましょうか」
機体各部から送られてくる情報を確認し、シミュレータで計測した数値の八割程度の性能が、想定通りに出ている事を確認し次のテスト項目へと移る。
この
更に言えば、実物であれば建造する際に各種術式を施したりする事も可能だが、装甲護符で構築する際に術式まで再現しようとすると、機械の処理能力や五行器の出力が足りなくなる訳で、元ネタの強念者みたいな、レベルの高い霊能力者が霊力操作で補助出来るなら、装甲護符で機体全てを構築したとしても、フルスペックを発揮可能と言ったところだろうか。
とは言えそもそもの話、装甲護符は名前通り機体の装甲部分を覆い、機体内部へのダメージを防ぐための物で、骨格や結晶筋肉などまで構築する機能は、戦闘中に喪失した場合の保険として用意した仕組み。
得られた情報からは想定通り、装甲護符による全体構築<実物を使用した機体構築、となる数値結果を確認出来ているため、専用機を建造する際には、装甲以外の各部は普通に資材を使って建造する予定で良さそう。
各種数値を確認しながら、事前に組んでおいたテスト項目に沿って歩いたり、しゃがんだりと言った簡易倉庫内で可能な動きを試して、問題無く動く事を確認したら倉庫から外へと歩かせる。
操作としては軽快に、傍からは重厚な音を響かせながら歩みを進め、固められた倉庫の床では無く、踏み固められてもいない柔らかな地面に一歩踏み出したところで、ガクンと沈み込む落差にバランスを崩し倒れ込む。
「おっと、地面の柔らかさと機体重量を見落としてましたか」
これが操縦桿やペダルなどの手動とモーションパターンによる操作なら、そのまま地面に叩き付けられたところなのだろうけど、この実験機に載せてるのは思考制御に類するシステムであり、操縦者に相応の心得があれば、不意の転倒でも受け身を取るぐらいは出来たりする訳で。
咄嗟に受け身を取った事で地面がえぐれたように押しつぶされた事以外は、被害も最小限に抑える事が出来たようで、モニターに表示される各部の損耗具合を確認しても、稼働に支障は無いようで一安心と言ったところ。
とは言え問題点が無かった訳では無く、操作方法上ある程度は仕方ないけども、私の認識や動作感覚と実際の動作開始までのズレが大きく、咄嗟の場合に致命的な動作エラーを起こす可能性が思い浮かんでくる。
例えて言うなら、横ステップで回避してから反撃するつもりが、思考速度に機体動作が追いつかず、横飛びしながら武器を振ってしまい、バランスを崩して倒れ込む何て状況が起こりえる話。
今回採用している思考制御による操作については、術者の感覚を遠隔操作する人形などの依り代に憑依させ、偵察などに使用する術式を応用して、機体を搭乗者の肉体と同じ様に操作できるようにしつつ、モーションパターン呼び出しによる機体動作も可能な方式。
操作方法の関係から、人体には不可能な動作を機械側で実行している訳だけど、その機体構造と人体構造の差異から操作にズレが生じたり、意識の集中によるフロー状態やスポーツで言われるゾーンなど、思考速度が上昇する事による動作エラーは覚醒の有無問わず起こり得るもので、そう言った場合に対応出来ないのは問題とするべきところだろう。
この辺の問題が明確になった点で見ても、実際に実験機を作って動かした意味はあったと言うところ。
その後も、予定していたテスト項目を試し、最初の目的だったリアルACとの差異に関する情報に加え、いくつもの問題点を確認出来た実験は終了。
実験機の動作により荒れた土地を、【マグナ】や【豊穣の祈り】で元に近い状態まで戻したら、簡易倉庫も撤去して工房に戻り、早速得られたデータを元に問題の改善に取りかかる。
こうして実際に差異を測ったところ、機体の強度や動作などについては、概ねシミュレート通りの計測結果が得られた訳だけど、大きな違いとしてはやはり周辺環境関連だろうか。
ある意味当然の事だけど、シミュレートに使ったリアルACの電脳異界は、物理法則の再現はしていても基本的にゲーム世界として構築されている訳で、地面や空気抵抗などまで100%再現されている訳でも無いと言う事だろう。
まあそもそもの話として、現実の物理学も物理法則を全て解明出来ている訳でも無ければ、あくまでも地球上において確認されている現象を解き明かしているだけで、宇宙空間や別の惑星上であれば、そこでしか確認出来ない現象があるかもしれない訳で。
今回の実験結果は、シミュレートによる時間や資材の削減が出来た事と、シミュレートでは詰め切れない部分が、必ず存在すると確認出来たのが、一番大きな成果と言えるだろうか。
「機体の強度計算や出力計算などはシミュレート通りと言える範囲ですし、基本的な構造設計は今まで通りシミュレートするとして、操作系統や周辺環境の影響については現実で確認するようにするべきでしょうね」
特に地面に関しては、歩き回るだけで凹んだりえぐれたりしてしまうため、可能性が有るかは不明だけど、都市部で使用する事は確実に無理だし、そうで無くても地面の状況によっては足を取られる可能性もある事から、何かしら対策を立てたいところ。
とは言っても、最悪は重力制御を常に稼働させるだけでも機体重量の問題は解決する話で、他に見つかった細々とした問題についても、全てを科学的に解決しないといけない縛りも無いため、効率などを考えつつ追々解決していけば良い話。
それからしばらくは、実験結果も含めた改善や新しく考案した機能のテストなどを続けながら、他の研究や仕事に鍛練などを行ういつもの日常を送っていたところ、娘達へ会いに行く序でに香川支部へ顔を出した際に、銀時ニキから折り入って相談があると声を掛けられる。
「瀬戸大橋の霊的な補強ですか?」
「おうよ、支部長クラスに回された終末予想あるだろ?現状の最有力が、ICBMを切っ掛けにした魔界落ち、更に言やぁそんとき土地やら道やらが今のままとは考えられんって話だしな。香川だけでもある程度回せるが、他との繋がりが絶たれるのは困るって事で、万一崩れでもしたら再建出来るかもわからん橋を今のうちに強化しときてぇってとこだな」
「それは確かにそうですね。なら私からは資材の融通と補強工事の術式指導辺りしておきましょうか、施行や後の整備を考えると大赦で行える様にしておくべきでしょうし」
「そいつぁ助かるな。資金の方はスーパーうどんマウンテンのおかげでそれなりだが、他でも工事だなんだで目標ラインの物は中々量をそろえられねぇからな。今んとこの計画だと、オカルト素材を混ぜた鋼材や塗料と交換する感じで、資材購入費の予算がこれぐらいってとこだ」
「なるほど、費用は試算されてる購買部の卸売り価格ベースで良いとして、終末対策用なら費用対効果が許容可能な範囲で、出来る限り強化しておきたいですし、私の持ち出しと言う事にして補強素材の質も上げましょうか。私が個人的に支援する理由もあるわけですし」
「理由?ああそう言や、お前さんの娘も居れば嫁の両親も住んでる訳だからな。他支部の連中から贔屓とか言われても言い返せるか。最も、言い出した奴がボコられて終わるだろうが」
まあ私の持ち出しで補強素材のグレードを上げるのは、将来的に整備費用が上がる事にもなる訳だけど、出来る限り強化した上でも終末到来で落ちたのなら諦めも付く話。
最悪なのは、此処で費用をケチって橋が落ちた場合で、そもそも物が無くてどうしようも無いのなら兎も角、後の維持費を減らすために質を落とした結果となると、争いの種から殺し合いにまで発展する可能性を否定出来ない事。
前世でも疑心暗鬼から暴動が起き、SNSなどで流れた虚偽情報に踊らされて私刑が行われた殺人事件の記憶もあるぐらい、集団心理というのは恐ろしいモノで、今世では更にメシア教や悪魔による洗脳や誘導など、方法は枚挙に暇が無い程あるため、用心できる所や気付いた所は積極的に対策していると言うのも、今回持ち出しを決めた経緯の一つ。
最も、現地妻みたいに関係が続いている大赦の三人や娘達に綴の両親が住んでいる事も、手を貸す理由の前提としてあるのは事実だけど、ガイア連合山梨支部全体やガイアグループとして、必要な事業だから手助けしていると言うのも間違いの無い話。
「それで無くても四国と本州を繋ぐ経路の一つですからね。終末後の物理的な移動経路の確保という意味でも、手助けはしたでしょうね。他の支部もそう言った、ガイア連合全体として必要な理由を提示して、交渉してくれれば良いんですが……」
「事務方にも顔出してりゃその辺やっぱあるんかねぇ、俺ゃその辺わかんねぇからメガネに丸投げだがな!」
「黒札として正しい姿とも思いますよ?結局の所、大部分が前世から続く一般人メンタルですし、前世か今世での環境でも無ければ、経営者なり政治的な判断が出来たりはしないでしょう。そのために汎用スキルで【政治】とか【経営】とか組織運営に必要なスキルまで作られてる訳ですし」
「そんなもんかねぇ。つーか、そう言う探求ネキは式神任せにはしてないように思うんだが?」
「私の場合、巌戸台支部と言ってもタルタロス攻略用拠点の側面が強いですし、組織と言うより集合住宅の管理人みたいな物で、管理には九十九式自動人形も使ってますからね。都内で万全の回復を見込める拠点という部分だけが重要で、依頼周りの斡旋とかは他支部がやってますし、そもそも組織運営や自治運営とか、技術だけで片付かない方面は苦手なんですよね」
「俺もメガネと地元組織に大赦があるから何とかなってるだけだがねぇ。っと、組織で思い出したが、新潟の方って大きな地元組織や支部って無いのか?」
「新潟ですか?派出所はあっても支部と言える規模のはまだ無かったと思いますね。地元組織に関しては……確か鑑定ニキ*1が命蓮寺という組織と伝手があるみたいですが、戦前から続くちょっと訳ありの組織らしく、大きな組織と言える感じでも無いみたいで、私が知っているのはそれぐらいですね。それにしても四国と北陸では些か離れてると思いますけど、組織の話で思い出すってことは何かありました?」
「いやな、ちょっと前に地元の専スレで田舎ニキ*2のコテハンになったとかって言う、新潟出身の新人から、霊能組織を取り込む方法とか相談されたんだが……」
「大赦の場合は元々限界でしたから取り込んだと言うか、積極的に傘下に入ってきた感じですからねぇ」
「それもあんだが、話を聞いたらそもそも地元に霊能組織らしい連中を見かけた事無いってんで、一から作る方が良いんじゃねぇかって話したんだけどよ。流石に人材や資金面などに苦労してるみたいだからなぁ……、新潟県内に大きな組織でもあれば情報渡すぐらいはできるかってな」
組織運営だとか資金面の話だとかが切っ掛けになったのか、銀時ニキから唐突に振られた話題に返答しつつ経緯を聞いてみると、持ち込まれた相談自体は一から組織を作るって方向になり、実績のあるマキマネキ*3を紹介したとの事。
ただまあ新人だけあって、資金面が潤沢な訳では無く、地元に伝手も人材も無い状況って事で、ちょっとした情報でもあればと言った感じの思い付きで聞いてみたらしい。
「メシア教のせいで、オカルト界隈の人材不足は深刻ですからね。人手不足は仕方ないとして、金策なら新潟ですし、糸魚川市周辺の異界を上手く使えば、翡翠の採掘とか出来たりしませんかね?」
「翡翠っつーと、宝石のあれか?」
「英語ではジェイドと呼ばれるそれですね。確かあの辺は、縄文時代に翡翠を利用する文化が生まれてたとかで、世界最古の翡翠文化らしいですし、オカルト的にも使い道の多い素材ですから」
翡翠に関しては他にも、中華の歴史において特に珍重された事から、宝石を意味する総称〝玉〟の代名詞として使われていたりするけど、中華において翡翠は元々
そもそも軟玉と硬玉は見た目が似ているからどちらも翡翠と呼ばれているだけで、組成的には関係無い鉱石なんだけど、中華において古代から神聖な鳥とされるカワセミから名前を取って翡翠玉と呼ばれるようになり、軟玉と同等の神聖な石とされる様になったらしい。
謂われについては曖昧な部分も憶測を含めた話にもなるけど、現在ではまとめて
「ほー、んなもんがあんのか、にしても縄文なぁ……アレか?勾玉って奴だったりするのか?」
「勾玉の素材として使われた例もありますね。それも含めて大半は儀式道具の素材だったり、御守りなどの装飾品に使われた物で、支配層の権力を象徴する宝物の一つですから、素材としても加工した物でも高く売れる物になると思いますね」
「まあ金策のネタになるなら情報だけでも送ってみるか、どうするかは新潟を拠点にする連中が決めるだろ」
「っと、思ったより話し込んでましたね。私はそろそろ大赦の方へ向かいます」
「あいよ。にしてもお前さんも豆だねぇ」
「家族に関して割り切れないってだけですよ、後悔はしないですけどね。それより銀時ニキは友奈さんとの関係をどうするか、決めておいた方が良いですよ?高校卒業していれば結婚しようと世間的には特に言われませんし、式神が男性型のメガネですから、一部界隈でネタにされてるみたいですし、ナマモノネキ*4とか」
「まぁたナマモノネキか!そっち系出回ってるなら後で抗議しとかねぇとな……。てかナマモノネキ関連なら、探求ネキの方がネタにされてるだろ、よく許してんな」
「アニメの師匠役でもネタにされてましたし、私自身なら別にと言ったところですかねぇ。私以外も題材にした上で、相手側の了承取ってないなら制裁しに行ってますが」
「ホント性癖関連だと頓着しねぇな、おい。とりあえずこっちからの要件終わったし、確認しねぇといかん事出来たし話は終わりだ」
「ええ、ではまた」
別の意味で鬼気迫る気配を放ちながら端末に向かう銀時ニキに一言返し、支部長室を後にしつつふと思い出したのは、先の会話の最後辺りで話題に出た翡翠の事、前世でヒスイ輝石が日本の国石として選定されたのは2016年の事で、それまではアメリカの鉱物学者が執筆した本で決めたから、との理由で水晶が国石と認識されていたはず。
日本国民の意思で、日本を象徴する宝石として翡翠が選ばれたとしたら、霊的な効果が更に上がったりするだろうか?と疑問が浮かんだ事もあり、運営陣経由で政界ニキネキや財界ニキネキに協力して貰えれば、国民の意識変化による霊的な影響を調べることも可能だろうと言う事で、企画の草案を考えながら大赦の社へと足を運ぶ。
月に何度か分身式神を派遣して居る上に、月に一回は本体で通うのを五年も続けていれば社を歩くのも慣れた物で、すれ違う大赦職員と挨拶を交わしながら居住区画内の一軒家へ向かうと、元気に遊ぶ子供達の声が聞こえてくる。
「あ、瑞樹さん!」「え?」「ホントだ~」
「こんにちは燈ちゃん、希ちゃん、縁ちゃん。お母さん達は居ます?」
「は、はい!瑞樹さん、中へどうぞ!」
呼び鈴を鳴らす前に敷地の庭で遊んでる三人の娘達が私に気付いた様で、予め今日行く事は伝わっていたらしく、いつもの様に中へと案内される。
ちなみに、娘達が父でも母でもなく〝さん〟付けで私を呼んでいるのは、香川支部長より霊格の高い連合員の子供が大赦のトップとなると、将来的に事情をよく知らない連中が担ぎ上げて不和の種になりかねないと言う懸念から、公然の秘密ではあるけど、もう少し成長して分別を付けられる様になるまでは娘達自身にも秘密にしているため、娘達的にはよく遊びに来る、母親達が敬う偉い人ぐらいの印象の様子。
その母親達に関しては、大赦のトップである智に私との関係から戦闘部門のトップになった誾や生産部門のトップになった霊子と、関係の始まりはアレな部分も有ったけど、以降は折に触れての交流もしていれば、娘達が大きくなってきてからは訪れる頻度が増えた事も有って、良好な関係を築けているのではないかと思う。
「いらっしゃいませ、瑞樹さん」
「こんにちは、今回は葛饅頭を持ってきましたよ~」
「おー、何かぷるぷるしてる」
「これも甘くて美味しいのかな?」
「瑞樹さんが持ってきてくれた物ですし、多分?」
「三人とも、外で遊んで戻ってきたなら手を洗ってきなさい、洗って戻ってきたら食べましょう」
『はーい!』
出迎えてくれたのは、普段は祭神ククノチの異界で巫女として作物の生産管理をしている霊子で、比較的融通が利く立場と言う事も有って、私が遊びに来る時は大体彼女が出迎えてくれる事が多い。
ここの所のいつもの流れで、持ってきた葛饅頭を取り出し、娘達が手を洗いに行っている間に準備を進めていく。
今日持ってきたのは昔に創り出し、香川の管理異界でも栽培している
最も、大赦の次世代として、組織を率いていけるトップになることを求められている娘達の覚醒が、急務であるのは事実ではあるけど、それ以上に今の情勢として未覚醒である事の危険を考え、まずは護身できるぐらいには力を持たせたいと言う思惑の方が強い。
そんな親の思惑は兎も角、持参した葛饅頭も喜んでくれた様で、エネルギー補給して元気一杯の娘達と目一杯遊びながらの修行をして、おねむになった娘達を寝かし付けてた辺りで夕食の仕度をすることに。
「今週はカレーでも作りましょうか、あの子達も覚醒の兆候が見えてきましたし、スパイスの配合を工夫すれば至れるかもしれません」
「もう、ですか?瑞樹さんが教えてくれた
「食事による覚醒促進自体で考えるなら、それでも十分早いですけどね。ククノチ神の影響範囲だけ有って、霊力の籠もった植物を食べる事と相性が良いみたいですし、あの子達については素質も有りますが、私と触れ合う事自体が魂魄を鍛える要因にもなってるからですね」
「覚醒を促す一番の方法は、覚醒しなければいけない状況だと本能が感じ取る状況を作る事、でしたっけ?」
「受け売りの言葉ですけどね。能力の強弱はあっても覚醒の可能性自体は有りますし、最低限でも覚醒出来ていれば、御札作りや専用紙の作成も出来て他が助かりますからね」
「現状の私達では研究などと言う前に、基礎の理解と鍛練が急務なレベルですけども……」
手早く下拵えを済ませて、娘達用にスパイスの配合と味付けを整え、カレーを煮込みながら話題は大赦の覚醒者事情へ。
正直なところ実力としては他地方の底辺と同じく枯渇していて、現状でも簡単な霊障の対処ぐらいは兎も角、悪魔が出現するレベルだと、智や誾に友奈さん達学生組のような一部しか対応出来ないのが現状で、ククノチの管理異界から収穫した小麦や
とは言え偶発的に覚醒したわけでも無い一般人を、オカルト界隈に引きずり込むわけにもいかない話で、それならどうするかと言ったところで議題に挙がったのが、樹木の神であるククノチを祭神として祀っている点。
樹木は太古の昔から様々な物に使われているけど、日本人的に〝オカルト〟をイメージした場合、複数の候補を挙げれば必ず出てくるのが、神道や陰陽道などで使用される御札であり、御札を作る原料の樹木を司る神を祀っている事は、大赦にとって大きな利点となった。
樹木神の加護を受けた霊木から作った和紙は、作り手の能力の低さを補って余り有る程の効力を持ち、御札用の和紙製造という収入源にして、防衛力強化の要として大赦の主要産業になっている。
まあ御札用の和紙製造は正直どの地方でもやっている事では有るけど、御札に関してはどれだけあっても余る様な物でも無ければ情勢でも無い訳で。
現在の大赦では、覚醒したらまず和紙を作る技術を徹底的に仕込まれて、その上で現場に出るなら、御札を自作しながら諸々に対処出来る様技術を身につけ、生産に残るならより多く安定した品質を作れる様に、技術を磨くのが大体の流れになっている。
そんな大赦所属の覚醒者事情の話や、生産技術関連の質問に答えながら料理は進み、後は夕食前に最後の仕上げをする段階まで終わった所で一休憩。
折良く起き出してきた娘達としばらく遊んで、日が暮れ始めた頃に帰宅した智と誾を娘達と一緒にお風呂へ向かわせて、その間に夕食の仕上げをしていく。
「さ、今日は瑞樹さんと一緒に作ったカレーですよ~」
「トッピングも色々用意しましたから、好きに盛り付けて食べて下さいね」
『やったー!』
「何と言うか、何時にも増して多く無いですか?」
「食は体の基本ですし、食べきれないなら明日以降に回すのではないかと、流石に」
「細かいことは食べながらで良いでしょう。子供達も待ちかねてるみたいですし、頂きますしましょうか」
頂きますの唱和に合わせて夕食が始まり、作り過ぎではないかと言われたトッピングに用意した食材も、各々好きなだけ取った残りが私の中へ消えていった頃、満腹になるまで食べきった娘達の気配が大きく変化するのを感じ取る。
食後の満足感も相まってか、ごろりと横になった途端に寝息を立て始めた娘達は母親に任せて食事の後片付けを終わらせて、落ち着いて話の出来る状況を作ってから、改めて覚醒したばかりの娘達を調べていく。
「可能性程度でしたけど、上手い具合に最後の一押しになれたみたいですね」
「今回のカレーレシピって
「燈達との遊びで行っていた事も修行として取り込めば、更に効率が上がるかと思いますが」
「縁達と作った家庭菜園も、確か修行の一環で霊草を育ててますよね~」
「基本はガイア連合でも新人黒札向けにやってる修行を、香川でも可能な方法にアレンジしただけですし、カレーのと言うか、スパイスの配合は私のオリジナルなのでレシピを使うのは問題ないですよ。元々ククノチ神の異界で栽培している香辛料を使って、ククノチ神と親和性のある人の覚醒を促す目的の物ですから」
浄化の術式で歯磨きもせずに寝てしまった娘達のケアをして、布団に寝かせ付けてる智達の横で、娘達の霊質的な方向性などを調べている間に挙がった話題は、まあ当然の事ながら覚醒までの経緯や期間について。
メシア教によって断絶された大赦にあった過去の修行法自体は、以前に復活させて程々に効果を発揮する様になってはいるものの、元々は幼少期から十年単位で修行を重ねて覚醒に至るような物で、人手不足を直ぐさま解消出来る様な物では無く、何とか効率良く覚醒させられないか試行錯誤している現状的に、私との間の子供であると言う資質の高さを加味しても、短期間で覚醒に至った経緯から吸収できる技術がないか気になるのは無理もない話。
「覚醒修行に関してはまた後で書にまとめるとして、まずはこの子達のレベル上限についてからですね」
「確か、ガイア連合の基準換算で、少なくとも30は超える見込みでしたよね?」
私の一言で改めて背筋を伸ばし、母親であると同時に、地方を守護してきた霊能組織の人間として、三人の気配が切り替わる。
なお、レベルの限界などに関しては、神通力を体得した事により【アナライズ】が神通力と統合された結果、覚醒者相手なら時間を掛ければ、ある程度レベル上限や能力の傾向と言った物が分かるようになり、未覚醒者でも
娘達のレベルに関しては、私のような黒札の子供と言うだけでも、十分な才能を持って生まれるとはショタおじに聞いていたのと、実際に神通力でも確認していたのもあって、霊質などの心配はしてないものの、得意不得意や性格との相性なども有るため、ある程度才能の傾向を調べて、今後の教育などの方針に役立てたいと言ったところ。
調べて分かったところだと娘達のレベル限界は50以上、超人の域から先まで進めるだけの器はある感じ。
才能の傾向としては、希が弓術を中心とした遠距離系と神降ろし関係の降霊術系統、得意属性は水や氷結と、状態異常やステータス低下などのデバフ系。
燈が剣術や体術などの近距離から中距離の武術系統、得意属性が電撃や火炎にバフ系統。
縁が霊薬や札などの生産関係と結界系統に、得意属性が地変で植物関連と回復系統に適正があると言った具合。
「それぞれ適正のある技術や属性を書いておきましたから、遊びに織り交ぜるなり本格的に修行を始めるなりする時の参考にして下さい」
「はい、この子達と話し合いながら進めていこうと思います」
終末が近付いているという気配もあって、普段から余り目を掛ける事が出来ない娘達の、最低限の備えとして目標にしていた覚醒が無事に終わり、ほっと一息吐く。
香川支部自体はトップの銀時ニキがまともな上、地元霊能組織である大赦も他組織と比べて善良と言うこともあって、香川に所属する黒札もまともな部類が多く、問題はそこまでないだろうとは思うんだけど、父親側とは言え親の視点になると、目の届かないところに居て自衛する力が無いと言うのが、思いのほか不安になるのだと痛感した物で、現地の妻である智達を信頼しているかどうかではなく、理屈ではないこの感情が親の心配性と言った物なのだろう。
「流石に親バカになったりはしないと思いたいですが、心配しすぎるのも鬱陶しがられるでしょうし、何とか抑制というか制御出来る様にしないといけませんね……」
どれだけレベルが上がろうと、知らないことや気付けていなかった事は色々とある物だと、そんな当たり前を再確認しつつ大赦を後にして巌戸台支部へ戻れば、またいつもの日常、タルタロスの探索が始まる。