【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
「いらっしゃい、今はショタおじの式神も居ない警戒中なので、そこの認識票に霊力を登録して、片割れはそっちの参加者ボードに掛けてから行って下さいな」
ここは修行場異界の奥底、一般的な黒札が殆ど知らない修羅の巷、下層の最奥にある
ショタおじが〝魔界へ繋がった穴〟と言う概念自体を異界の中へ封じ、幾重にも結界と封印を重ね掛けする事で、魔界から無尽蔵に悪魔が溢れることを防いだ、人類守護の最前線*1。
深層探索許可証を持つ者が結界に踏み込み、最初に訪れる場所の直ぐ側に建てた四阿で、深層にやって来た修羅に現在の状況を軽く説明する。
と言ってもそんなに話す内容があるわけでも無く、事故防止兼蘇生用の認識票だけは壊されない様注意して、悪魔を片っ端からしばき倒すと言うだけの事。
「補給品はいつもの様に、注文も正規料金で受けてますので、入り用な時はどうぞ」
「あいよ、助かるんだが、これに慣れると解放作戦後は、補給で戻るのも面倒になりそうだな」
そう言って意気揚々と慎重に、戦いの気配がする方へ向かう修羅を見送ると、姿を消して結界を抜けようとする悪魔に、三味線の旋律に乗せた攻撃を叩き込む作業へと戻る。
基本的に人が殆どやってこない場所に四阿を構えて、木分身を配置することになってから三ヶ月ほどは経過しただろうか。
日本各地で封印されている神々を解放する作戦に、黒札も含めたガイア連合の大半が全国を飛び回っている中、余所でショタおじ以外だと対処不可能な、万が一の事態が発生した場合に備えて、普段はショタおじが行っている深層での間引き作業を、深層まで到達出来た修羅勢総出で行っていると言う状況*2。
幸い、今のところショタおじ案件は発生しておらず、浅層から上層の新人や式神遠征組、中層の能力などで解放作戦と折り合いが悪い新人修羅勢の間引きにより、修行場異界全体のマグネタイト濃度低下もあって、深層に現れる悪魔のレベルが90前後と、人数の少なさの割りに抑えられている訳だけど……。
「おっと、この情報は万が一の事態も起きそうですね。『えー、業務連絡、業務連絡。北陸地方にて、キクリヒメが封印されている異界〝黄泉比良坂〟の解放作戦*3が開始されました。異界の性質的に万が一の場合も考えられます。多少の余裕を持って警戒して下さい』」
普段の深層であれば、下層との境はショタおじの分身なり式神なりが守っており、深層探索許可証を得た修羅勢が個人判断で好きに戦いに向かうと言うもの。
現在態々こうして四阿を建て、私の木分身を常駐させる何てことをしているのは、神通力の権能による木分身を通じた量子通信により、異界などの隔たりを無視した情報リンクが可能だからと言う訳で、実のところ情報伝達が難しい深層での連絡役と、補給所維持の二つが主な理由だったりする。
特にショタおじが星霊神社を離れた場合、魔界から現世へ向かおうとする悪魔が、ワンチャンスに掛けて押し寄せてくるため、ショタおじが余所へ出張する可能性が有るタイミングの情報と、その際に持ちこたえられるだけの物資は最重要になると言う話。
まあ、深層にまで到達している修羅勢の殆どが、武神や闘神などの単体性能が高い手合いで、戦術指揮なら辛うじて可能でも、兵站管理などの後方支援は無理な連中の方が多いのも、私が一括して後方支援を担当することになった経緯な訳だけど……。
後序でに、元々悪魔自体は自身の持つリソースを消費して、異界なりを作って現世に干渉する事が可能ではあるんだけど、ショタおじに封印されているとは言え、一度は魔界と直通した穴がある分だけ、修行場異界を経由出来ればリソースの消費を抑えられるらしく、封印を掻い潜って現世へ脱獄RTAするのが、一部悪魔の中でブームにもなっていると言うのが、悪魔用掲示板にも目を通しているらしい、元管狐で現在仙狐となった湯乃葉からの情報。
正直傍迷惑でしか無いけど、悪魔なんてそう言うものなので不満は直接ぶつける事にして、認識票経由で業務連絡の念話を飛ばし終えると、補給用物資の確認に取りかかる。
「ここの所の消費量で考えれば十分ですが、ちょっと嫌な感じがしますし、念のため三倍ぐらい用意しておきましょうか」
「ほう、探求ネキも祭りの予感をしておるようじゃな、となると早めに補給に来ておいて幸いじゃの」
「おやグラ爺*4が連絡後一番ですか、珍しいですね」
「なに、丁度補給に戻ってきていただけじゃよ。祭りになるならいつものに加えて継続系を多めに持って行くとしようか」
「そっちでも予感を感じるなら、可能性は更に高そうですねぇ……。ちょっと継続回復と領域補助に広範囲系アイテムも増やしておきますか」
サクサクと補給を済ませ、激闘の予感に心を躍らせるグラ爺が奥へと戻っていくと、それからしばらくは順次修羅勢が戻ってきては、それぞれの方法で感じ取った祭りの予感を口にして、普段より多く補給して戦場へ戻る流れが繰り返される。
結局時間停止の収納バッグに入れている事もあり、普段の十倍以上を備蓄することにして数時間ほど経過した頃、深層内の気配が切り替わった事を感じ取る。
「『緊急業務連絡!既に感じ取っていると思いますが、ショタおじ案件が発生しました。異界〝黄泉比良坂〟の封印並びに、現地で対処していた黒札が【キクリヒメ】と契約する事になったため、契約関係の確認に多少時間が掛かる可能性があります。長時間戦闘を前提に行動して下さい。以上連絡終わり』っと、一応陣地構築でもしておきますかねぇ……」
地上で得た情報も合わせ、現在深層に居る全員へ念話で連絡を入れている間も、深層の奥地から激化していく戦闘の気配が、加速的に強まっていくのが感じられる。
ショタおじが星霊神社を離れた事を契機として、予想通り大量の悪魔が凸って来た事で、深層のマグネタイト濃度も急速に高まる事になり、刻一刻と変化を始めるフィールドを見て、最終防衛ラインとしての戦舞台構築を始める。
まずは下層との境目に装甲護符を用いた防壁を作り、維持用の動力炉と補修用の装甲護符入れをセットにして接続し負担を軽減、続いて防壁前の空間に四阿を移して回復促進の結界を展開して回復ポイントを構築。
最低限の準備が出来たところで、認識票の影響範囲に無い悪魔迎撃用の罠を思い付く端から仕掛けていると、三十分ほど経った頃だろうか、感知可能範囲に戦場が雪崩れ込んで来たのを感じ取る。
「認識票見た限り、今のところ悪魔に魂を持って行かれる事故は起きてない様ですが、あの乱戦模様では何時事故るかわかりませんね。とりあえずここからフォロー出来るだけはしておきましょうか〝甲縛式O.S.別天翠呪*5〟」
私のペルソナ【世界 タカミムスビ*6】を三味線にO.S.し、霊力操作での演奏を可能にした複数の楽器と合わせ、一人大合奏の状態を作ると、前線が押される原因となってる強めの悪魔に牽制の一撃を叩き込む。
幾つかの戦闘に支援して、押し込まれる勢いを削いだとは言え、感知した範囲だけでも最低レベル90の軍勢を押し返せる程では無く、ジリジリと遅延戦闘を繰り返している状況ではあるのだが、タイミングを図った訳ではないけど、丁度良く追加戦力が深層に到着する。
「同等レベルの悪魔との大乱闘が、楽しくて仕方ないと言った感じがしますねぇ……」
「ちっとばかり遅れたが、祭りには間に合ったな」
「お疲れ様ですセツニキ、私は地上の方で言った通りここでタワーディフェンスしてますので」
「あいよ、暴れたい連中連れて特攻野郎してくるぜ!」
私達黒札の誰よりショタおじに近い位置で、ガイア連合山梨支部の為に色々と動いているだけあって、ショタおじ案件発生に伴う作業で祭り参加が遅れていたセツニキも参戦し、更に悪魔達の侵攻速度が落ちた間に、技術実験も兼ねたトラップなども追加で設置しつつ、時折前線を抜けてくる悪魔や、いつも通り隠密しながらすり抜けようとする悪魔を、トラップと演奏に載せた攻撃で擂り潰していく。
わかりやすい弱点のある悪魔は弱点を突けるトラップへ誘導し、条件が特殊で面倒な悪魔は有利不利が発生しない方面から打ち倒し、使い終わったトラップにはまた別のトラップを仕掛けたり、あえて同じトラップを仕掛けたりと、ここまで来る悪魔が少ないため出来ていた細かな陣地構築も、そろそろ掛ける手間に比べて成果が微妙になってくる程度には、前線が押し込まれてくる。
「おっし、探求ネキの陣地まで到達したぞ!消耗品足りない奴は補給して来い!」
『了解!』
「お、良いトラップみっけ!よし、お前今からボールな!」
「よっしゃぁ!
「「超!エキサイティン!」」
修羅勢の一人が放った【言霊の権能】により、一時的に在り方を変えられた悪魔を、すかさず駆け寄った別の修羅がボレーシュートして、設置していたトラップに叩き込んで強制起動させると、仕掛けに使った万能自爆弾がボール(悪魔)を生け贄に、周囲の悪魔を巻き込んで盛大に弾け飛ぶ。
その直後には、生き残った悪魔へ追撃する者や、同様にトラップを利用する者、補給所が近くなった事で全力戦闘を解禁する者達など、何と言うか、防衛陣地まで押し込まれた途端の行動を見る限り、余力を持って前線を下げて来ただけのような感じもしてくる。
ここまでの戦況でなお、悪魔に魂を持って行かれる事故が起きてない辺り、まだ祭りと呼んで遊んでられる程度に余裕がある証拠だろう。
「毎度は厳しくても、偶になら何とか対処出来そうな感じが有る辺り、私達もかなり成長してきた感じですね」
「いや~、俺らなら週一ぐらいでも行けるんじゃねぇか?アイテムはばかすか消費してるけどな」
「継戦能力高めの槍ニキも補給ですか、消費分以上に稼げるとしても、このレベルで十分な効果量のアイテム量産する面子が少ないんですけどねぇ。皆ある程度自作してるとは言っても、この規模で消費する分を賄える程には作ってないでしょう?」
「そりゃ
「今ぐらいの消費量で無理なく半日戦える様なら、週一でも大丈夫とは思いますけどね。私もショタおじが日帰り旅行ぐらいは出来る様にしてあげたいですし」
槍ニキの他にも、補給で戻ってきた修羅勢と軽く所感を交わしつつ、陣地構築したトラップ地帯を主戦場にして、全力で暴れては補給と回復に戻ってくるサイクルが続く事しばらく。
木分身を幾つか追加して、設置の手間が少ないトラップの補充や敵へのデバフゾーンを構築したり、〝森羅律奏〟で遠距離狙撃して援護したりと、私の方でも直接間接問わず大量の悪魔を屠ったわけだけど、一向に数が減る気配は無く、ガチからネタまで大量に仕掛けた種々様々なトラップも、次第に数を減らして行って、再度少しずつ前線が押し込まれる様になって来る。
「んー、ちょっとじり貧な感じがありますし、盤面をリセットしてその間に回復して貰うのが良さそうですかねぇ。『えー全体連絡、全体連絡。一度陣地を綺麗にしますので、今のうちに回復へ戻るか、何とか凌いで下さい。以上』それではちょっと時間稼ぎでもしますか〝特攻TSUBAME*7〟」
『げぇ!?TSUBAME!』
念話で全体連絡している間に取り出した霊薬香に火を付け、吸い込んだ一つ分の煙に霊力を混ぜ込みつつ、髪の毛を一本手に取り【ガル】で数十の欠片に切り分けたら、霊力を込めた煙を吹き付け燕型簡易式神を構築し、戦線の全体へ行き渡るように式神を飛翔させると、そこかしこから悲鳴と共に全力で退避する気配が感じ取れる。
前線で戦っていた全員が、一斉に後退した事で生じた空隙へ滑り込む様に、式神が目標地点へ到達したところで内部にアイテムが転送され、全能力低下効果付きの特大威力万能属性爆弾と化した式神が、自身を生け贄に戦場全体を吹き飛ばす。
「あっはっは、見ろ悪魔がゴミのようだ!」
「インドラの矢にするなら、万能属性より核熱属性の方が良かったですかね?」
『いや、それは……』
「ちなみに、今のに使った費用は購買部の販売価格換算で、十万マッカ程になります。正しく銭投げですね。全部自作してるので費用対効果はマシですが」
「そもそもゴミのようだの台詞は、床を消して空から落としたシーンだけどな」
「それじゃ前線に人も居なくなりましたし、大技行きましょうか。霊力よ廻れ【太極螺旋*8】!うねり呑み込め〝大海嘯〟!」
自身を真なる球と見立て、陰陽の循環を持って霊力を瞬間的に増幅し、現在の私が霊力操作可能な限界範囲、仮に地脈から引っ張ってきた場合なら
〝
「さて、仕上げに第二ステージを作りましょうか。〝木遁秘術・樹界降誕*9〟!」
大海嘯で押し流した範囲の水と土を使う事で、元ネタ再現の大樹海を作り出し、悪魔の侵攻を阻むフィールドを出現させる。
「ふぅ、一気に限界量まで増幅すると制御が疲れますね」
「これだけの範囲を作り替えて疲れるで済ませるとか、広域型ってやっぱおかしいわ」
「そう言う単体型は同格以上の一点突破が出来るでしょう。こんなの向き不向き程度ですし、大技使っても押し返しただけで、倒せた訳じゃ無いですからね」
「ま、休憩して補給する時間も取れたんだから、こっからは俺らの役割だわな」
「よっしゃ、行くべ行くべ」
休憩の霊薬(茶や酒など)を片手に、大海嘯や樹界降誕を見て盛り上がっていた修羅勢も、術が終わったのを見るや樹海へ突入し悪魔狩りを再開する。
こうして強引に戦場をこちらの有利に作り替えながら、押し返しては押し込まれることを繰り返し、最終的には出張案件を終わらせて戻ってきたショタおじが、一切合切を燃やし尽くして祭りも終了と相成った。
消耗したアイテム類を考えると頭の痛い話ではあるけど、その分今回の祭りで超越者の領域へ踏み込めた修羅勢も多く、確保出来たドロップ品を考えれば、全体としてはプラス収支と言ったところではあるのだけど……。
「脱獄RTAする様な悪魔のドロップが回復アイテムの素材になる訳無いんですよねぇ」
「だよね。と言う事で、霊薬素材関係の増産よろしくね、探求ネキ」
とのショタおじの要請により、解放作戦に区切りが付くまでの間、植物関係の素材増産も担当する事になるのだった。
三味線を軸に古今様々な楽器を構築し、スピーカーで増幅する形式。生命活性、創造構築の範囲と出力を向上し、遠距離で発動する事象の効果を増幅する。
目標へ到達した際には、予め指定しておいた自爆弾シリーズと神酒〝隠之月〟の小瓶を式神内部へ転移させ、生け贄としての術式と合わせて、効果範囲内に【ランダマイザ】+特大威力の自爆攻撃を行う。