【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
乾いた風が吹く、カラカラと小石が瓦礫の山を転がり落ちる音が、嫌にはっきりと意識に届き、頭上の月が薄暗い世界に暗い影を作り出す。
地獄とはまた違う、死後の世界としても空虚に過ぎるだろう、それは〝終わった世界〟。
〝死後〟も〝来世〟も〝最後の審判〟も望まない、完全なる終わりを願った人々の想念が、
塔の形を構成していた通路は既に無く、壁と天井の残骸が瓦礫としてそこかしこに転がり、月明かりが形作る瓦礫の影は、原始的な恐怖を表す様な暗黒を湛えている。
「えーと、移動した距離的にそろそろかな?」
「そろそろですね、準備しましょうか」
「では周辺の掃除と簡易結界からですね」
そんな静寂の世界を壊すように声が響き、掲げられた松明が煌々と光を放ち闇夜を照らし出す。
灯りを消し去ろうとでも言うように、静かに途切れる事無く襲い来るシャドウを撃退しながら結界を張り、その中央に台座と一束の松明を設置し、手持ちサイズの松明から火が移されて篝火となると、設置するサイズだけあって、手持ちのそれより力強く大きな灯火が周囲を照らし出し、群がっていたシャドウも灯りに押される様に退いていき、安息の地が作り出される。
「それにしても、原始的な恐怖には原始的な対抗手段ってのはお約束ですが、当事者になると思い付かない物ですね」
「だよね~、ゲームとかだと最初に探したりするけど、下手に上位手段があると候補から無意識に排除しちゃうし、ある意味盲点を突かれた感じ」
「瑞樹さんが試作品を作って、効果を確認してから量産の準備をして、態勢が整ってからの三週間で十階も攻略が進みましたよね。それまでは三ヶ月ほど掛けてようやく十階だったのに……」
高度な技術で作られた原始的な道具という、物理的な面で見ると無駄に洗練された無駄のない無駄な技術も、霊的な側面で見れば概念の積み重ねによる特化になり、誤解のしようが無い程単純な用途で有る程、認識が力を持つシャドウ異界では大きな効果を得る。
その原点に立ち返って研究した結果が、人が生存圏を広げる為に掲げた〝松明〟であり、生存圏を守る為の〝篝火〟。
掲げる松明は死の世界を切り開く導きとなり、住処を守る為の篝火は安全地帯を作り、それら灯火により照らし出される事で、未知は既知へと塗り替えられる。
具体的には、松明を掲げる事で進むべき道――次の階段の位置が大まかにわかり、篝火を設置する事で、設置済みの範囲では内部構造が変化するのを防げる様になり、構造変化による階段位置の移動にもある程度対処可能になった訳で、この方法を使える様になった二百三十階から先は、それまでの進行速度が何だったのかと思うぐらい順調に進めていた。
「こうして瓦礫だらけの荒野を見ると、篝火は後回しでさっさと進みたくなるよね~」
「気持ちはわかりますけど、それ琴音ちゃんが続けようって決めましたよね?」
「まあね。今も止めようかと考えると嫌な予感がするから、手間でも続けるけど、面倒なのは面倒だし」
「私達の中で一番運命力が高いのは琴音ですから、そう感じるなら続けるべきでしょうね。私の【天眼通】は性質上、見える範囲が狭くなりがちですし、もうしばらく進めば予感の理由もわかってくるんじゃないですかね」
「よっし、それじゃもう少し進もうか、残り時間的に後一カ所分は行けるでしょ」
松明を掲げて篝火の範囲から出れば、直ぐさま音も無く襲いかかってくるシャドウを返り討ちにし、また灯火に導かれて
異界のギミックで制限された霊感の知覚範囲を基準として、篝火による安全圏が感知範囲の端になるまで進めば、次ぎの篝火を設置する事を繰り返し、もはや階層毎の面積がどれほどかもわからない、具現化された死の闇夜をただひたすらに歩み続ける。
そんな陰鬱とした一時間の探索が終われば、今日もまた平日である以上、学生の二人には学校生活があるわけで、四年間ほぼ毎日のようにタルタロスを攻略し続けた結果、超越者の領域へと踏み込んでいようと、学生は学生なのが一般社会というもの。
表の人付き合いも多い二人には表の生活も大事にして貰いつつ、裏の方は私が主に担当する形で月日は流れて、今年もあと少しとなった十一月。
日本神の解放作戦がだいぶ進んで、封印された異界も片手で数えられる程度になり、そろそろ大詰めと言った頃合いな事もあって、ガイア連合全体としては年内に区切りを付けたいと言うところ。
まあ修行場異界の下層以降へ行ける修羅勢にとっては、地獄の蓋の監視と対処がメインなため、よほど作戦で躓きでもしなければ物資を回す程度なので、関心の度合いとしては、魔界側へ行けるレベルになるためにはどうすれば良いか、と言う話の方が大きな話題になってたりもするけど、それについては純粋に霊格を上げて、権能の概念強度を高めるのが一番な気がする話。
「ま、連合の仕事関連は一区切り付きましたし、今日の実験に移るとしましょうか」
木分身の一部は今も事務仕事をしたり、増産活動に協力したりしているけど、思考能力をさく割合はたいしたことなく、解放作戦関連の準備期間に入った事もあって、修行場異界深層の後方支援もお休みと言う事で、研究方面へリソースを振り分ける余裕が出来た内に色々進めようと言うところ。
今回行うのは超機人建造のために進めていた、操作方法関連システムの最終決定と構築周り。
実験機で採用したのは、思考操作とスイッチなどを使ったモーションパターンによる操作だけど、この方式は未覚醒者や15以下のような低レベル帯なら兎も角、達人の域に入って行くと、操縦者の思考速度や動作が機械の処理速度を超え始めるため、私が戦闘で使用する事を考えると、足枷になるだけと言うのが判明している。
そんな訳で次ぎに考えたのがマスタースレーブ方式で、創作関連で分かり易いのはGガンのモビルトレースシステムだろうか。
Gガンのようにタイツスーツが必要だったりはしないけど、操縦者の動きをそのまま機体に反映させられるため、反射的な動作も可能な上、思考操作による内部機構を稼働させれば、銃火器を内蔵するタイプの機体だとしても十全に操作できると思う。
もう一つ思い付いたのが、終クロや境ホラに登場する巨大人型兵器である〝武神〟の操作方法で、搭乗者を情報として機体と合一させ、機体を自身の体躯として動かす方式で、システム名称を付けるなら人機合一方式と言ったところだろうか。
こっちの場合は、術者の意識を式神に憑依させて遠隔操作する術式に近い方法で、情報接続加工*1とも通じる点が多く、上手くシステムが組めるなら装備的な能力の加算も可能になるんじゃないかと思う。
まあ情報接続加工を簡易に行えるなら、マスタースレーブ方式の方でも機体を装備として能力加算出来る訳だし、両方とも研究して形にしてきた訳だけども。
「私の権能的には人機合一方式と相性が良いんですよね、概念的に自分の体として扱いますから、反応速度なども肉体と同じに出来ますし、【ディア】系統での回復も可能になります。その代わり〝人〟としての弱点も追加されるので、首を撥ねたり頭部を破壊されたりするだけで機能停止の上、搭乗者が死亡する事になりますが」
「それで、今回はモビルトレースシステムの実験に俺を呼んだと言う訳か」
「ドモンニキなら元ネタ的にも、打って付けかと思いましたからね。こちらは稼働中コックピット内を簡易異界にして、機体の大きさを搭乗者と同じ比率にした外界映像を内部に投影し、搭乗者は機体になったつもりで動かせる様にする感じです」
「なったつもりと言う事は、痛みなどは感じないのか?」
「発想元はモビルトレースシステムですし、ダメージフィードバックやクラッシュエミュレートは付けてますね。機体がダメージを受ければ、搭乗者もダメージを受ける呪術的な繋がりを作る事で、反応速度なども人機合一方式と変わらない操作性になってます。流石に【ディア】などで回復は出来ないので、四肢欠損になった場合は、装甲護符で骨格などを構築して凌ぐ事になるため、スペックを維持するにはその分霊力が消費されるようになる点は、注意が必要ですね」
「類感呪術とマスタースレーブを合わせる事で、モビルトレースシステムが出来たと言う事か。ちなみにフィードバック有りなら、頭部や心臓付近――コックピットを破壊された場合はどうなる?」
「あ、確かにマスタースレーブだとフィードバックさせないですし、名称はモビルトレースの方が分かり易いですね。で、頭部やコックピット破壊についてですが、元々類感呪術でフィードバック受けてますので、呪殺耐性でもあれば即死ダメージ受けても搭乗者が死亡する事は無いです。破魔や呪殺などの即死効果は機体側で受けるため無効化されますし、コックピット部分を破壊されると簡易異界の維持も出来なくなって、機能停止しますが」
「なるほど、コックピットが最重要な事は変わらないか、後は実際に動かしながら確認していこう」
質疑応答が粗方終わった所で、今回は骨格や結晶筋肉も素材を用意して建造した実験機に、ドモンニキが乗り込み実機テストが開始される。
起動直後の動きこそ多少ぎこちなさがあったものの、【流派東方不敗】を再現してのけただけの事はあり、直ぐに動作の修正が行われてスムーズに動き出し、用意したテスト項目も順調に進んで行く。
「今のところデータは良い感じですね。実際の操作感はどうです?」
「ダメージフィードバックがあるのは良いんだが、標的を攻撃した時の感触が軽いな。他は思ったよりも違和感が少ないぐらいだが」
「フィードバックするとは言っても、生身そのままでの攻撃では無く、グローブなりを付けてる様な物ですからね。機体の装甲が受ける衝撃が小さければ返ってくる感触も小さくなりますよ。〝機操術式*2〟の方はどうです?」
「力や速のステータスが上がっている様な感じはするな。俺のステータスに機体の強度が加算されたと言うなら、攻撃した時の感触が軽いのも当然か。なら今のところ問題は無いだろう、次のテストに移るぞ」
「観測の準備も大丈夫です。始めて下さい」
テスト項目途中での確認なども挟みながら実験は進んでいき、スキルや権能の発動も問題無く、満足いくだけのデータを得られたと思う。
人機合一方式の実験については、私がテストして十分なデータが集まったし、以前の実験機で得られたデータと合わせて、本番の機体建造にそろそろ取りかかれそうと言ったところ。
後、テストパイロットして貰ったドモンニキへの報酬については、通常通りのマッカ払いか装備なりの作成受付としていたんだけど、テスト結果を踏まえてゴッドガンダム建造を依頼される事になった。
まあ駆動関係は実験機と同じ様に
ちなみに、ドモンニキが結晶筋肉を使う設計で良しとした理由は、モビルトレースシステムを使用して格闘するとなると、人体を模した伸縮機構の方が親和性が高いと言う事で、厳密な機体再現より実戦力装備としての向上を優先した形との事。
それからしばらくは、報酬用と自分用の機体建造に取りかかる事になり、途中で解放作戦が挟まって支援に行く事になったりした訳だけど。
「折角出現した巨人系悪魔と言う事で、完成したばかりのゴッドガンダムを投入したわけですが、思ったより装甲護符での軽減が効いてますね。結晶筋肉へのダメージが少ないなら、長時間戦闘も十分行けそうですし、良い実戦データが取れそうです」
「すげぇ楽しそうに殴り合いしてんな。つかこれどうなってんだ?」
「実戦データ記録用に、【天眼通】による視界をタブレットに投影して録画してる感じですね。槍ニキもロボに興味あります?」
「遊びで試すぐらいなら良いが、巨人殺しならサイズ差あっても今のままが楽しいからな。専用機作るほどじゃねぇさ、ロボ使いたいならリアルACで十分だ」
「その辺の話も良く聞きますよね。ああそれなら、ブーストニキにも話を通して、リアルACの操作方法にモビルトレースシステムを追加してみますかね?」
「そりゃ良いな。追加出来たら連絡頼んだ、遊びに行くからよ」
そう言って補給を終えた槍ニキが異界奥へと戻っていった後、巨人との殴り合いに勝利したドモンニキが、そのまま奥へと向かって行くのを視界だけで追いかけつつ、遠隔でのデータ採取を続ける。
傍目から見える外見は多少の汚れこそあるけど、装甲護符の修復もあって外から見える損傷は無く、細かく解析しても結晶筋肉や骨格に至るレベルの損傷は発生していない様子。
ちなみに、機体に乗って異界を移動すると考えた際、式神達と足並みが揃わない事から、ドモンニキの提案で式神達も一緒にコックピットへ搭乗する形になり、操縦者用の認証キーと必要になるか不明な万一の盗難対策を作る事になったけど、仮に量産機を求められたりした時には有用になるから良しという事で。
後は、ある意味復座型みたいな感じで、操縦に関係しない補助も搭乗出来る様にした事で、落とされると不味いヒーラーを、守りながら戦い易い状況になったのは良い感じなんだけど、代わりにデバフや遠距離攻撃での牽制が出来なくなったため、今回の実戦データを踏まえての改善点とする予定。
「相乗りして補助するなら、それ用の経路を作っておけば良いですし、手間はそこまで掛からないですかね。それはそれとして、私以外の分も超機人作る必要がありそうですね……」
モビルトレースシステムの利点が新しく増えたのは良いとして、移動速度や連携の難しさを考えると、ある程度スケールを合わせる必要がある訳で。
更に言うなら、タルタロスの二百四十階を越えてからは、フィールドが迷路から荒野に変化した関係なのか、階層が一つ進む毎に出現するシャドウが次第に大きくなってきており、今まで大型シャドウと呼んでいた個体以上に大きなシャドウも、大量に出現するのを確認している事もあって、その内十メートルや二十メートル規模のシャドウが出てこないとは言い切れない感じもする話。
「ロボ関係の研究を続けた方が良い気がしてたのは事実ですが、要望聞いて建造して扱いに慣れてとなると、どれだけ時間が掛かりますかね?いっそのことその間に第二子――綴との子作りが出来ないか、占って見るのも有りですかねぇ……」