【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
動画流出事件から端を発した、自衛隊の機密情報がハッキングされた事実の発覚と、犯人討伐が行われてから数日。
事件自体は終息したものの、そこから連鎖して見つかった情報をどうするか、と言う問題が新たに浮上していた。
と言うのも、表社会で対処出来る様な犯罪の証拠は、警察内部にいる黒札や金札を通して動けば良い話だけど、オカルト関係かつ計画段階でしかない情報や、既に出来上がって各紛争地域で使用されている〝天使召喚プログラム〟など、知ったところでどう対処すれば良いのかとの話である。
特にこの召喚プログラムに関しては、メガテンシリーズに登場するトンデモツール〝悪魔召喚プログラム〟と本質的に同じ物であり、一般人すら容易にデビルサマナーへ出来てしまう厄ネタな訳で、一般社会に流出でもしたら目も当てられない事態になるのは、想像に難くない。
そう言った諸々の事情もあって、サイバーセキュリティ関連の見直しを行いつつも、まずはプログラムの解析をしなければ話も始まらないって事で、山梨第二支部――世間的にはガイアグループの城下町とも呼ばれている地区の、情報産業関連の会社が入ってるビルに部署を構える〝デジタル技術部*1〟で、調査していた訳だけど……。
「これ、海外の紛争地域で大量に天使が出現した理由の一つって事ですよね。地脈の汚染で喚び易くしたのも事実でしょうけど、それ以上にこのプログラムでの簡易化も合わせてと考えれば、報告に上がってた質と量のどちらにも納得がいきます」
「いやはや、まったく見事なもんだね、これを作った奴ってのは、君もそう思うだろ?スティーブ」
「まったくですネー、資料を見ると〝ナイア神父〟と言う人物が色々パッチを追加してるデスね」
「プログラムで召喚儀式を実行するってのは面白い。今すぐにでも改造したいけど、先にセキュリティ強化と言われると拒否も出来んね」
「セキュリティ強化が終わっても、好き勝手な改造は禁止だぜ?特に君は単純に戦闘力が足りないからね」
「ぬぐぅ……」
「まあ改造以前に、天使しか召喚出来ない欠陥品から、他の悪魔も召喚可能なプログラムにするところからですよね。上手く使えば強制アップデートさせて、メシア教の戦力を落とせますし」
「デモニカ用のアプリも使える様にしまショウ。メシアンならプログラムを一般人に使わせて、天使を大量召喚させる可能性も高いデスからネー」
ちなみにこのデジタル技術部に関しては、発足当初から考えると黒札以外の人員が大幅に増えた事で、第二支部の地区内へ部屋を移すことになった代わりに、天才と呼ぶに相応しい程の技術者が幾人も所属する事になり、今では私の技術程度だと余り戦力にならない魔境めいていたりする。
そんな環境とは言え、これでも一応組織立ち上げ当初から各種システム開発にも関わってきただけあって、部署内の人員とは顔見知りであり、厄ネタを拾ってきた当事者と言う事もあって、話し合いに参加している。
まあ多少の意見を言ったりするのは良いんだけど、それより気になるのはこうして顔を付き合わせていると、【超越者】に至ったからこそ感じる様になった違和感が、黒札のはずな安心院さんからしたり、スティーブの方も厳重という程ではないけど、何か細工している様な気配が感じ取れる事だろう。
安心院さんについては、ショタおじから掲示板の管理を主にしている黒札として紹介され、デジタル技術部としてシステム開発したりした仲ではあるが、技術部にいる契約悪魔の【ベルフェゴール*2】が接する際の反応から、下手したらルシファー辺りを霊的起源に持つのでは?と思っていた訳だけど、多分これはデビルシフターどころか、高位分霊なりを式神ボディに突っ込んでるタイプだろう。
ショタおじの技術で行われて管理されている以上、危惧したところで意味が無いし、これに関してはそう言う物として見なかった事にしているが、そこに来ての〝スティーブ〟である。
こっちもこっちでショタおじ紹介の金札として、デジタル技術部に所属する事になった経緯だけど、そもそも外部と知り合う可能性が殆ど無いショタおじの紹介という時点で、厄ネタ級の訳ありなのは確定しているため、姿や印象などを誤魔化す細工についても、気にしないのがここに所属する黒札の共通認識だったりする。
「召喚プログラムに本腰入れるためにも、情報を抜かれない環境作りが大事ですが、何処から手を付けましょうか」
「通常のハッキング対策なら表の部署で十分だろう。僕らは【電霊】の対策を重点的にするべきだろうさ」
「資料にあった〝サイバー空間に特化した聖霊〟とか言う奴ね。霊的な防御の弱い自衛隊が防げないのは当然か、回線経由の侵入を防ぐ結界プログラムはどうだった?」
「無駄では無いデスが、元は呪詛や普通の悪魔対策でしたからネー。電子戦特化の【電霊】相手は無理でショウ」
「なら最低限、防衛用の【電霊】と稼働環境を用意するところからかな?こっちは僕と探求ネキが担当しよう。ソフト方面は二人の方が良いだろうしな」
「そうねー、【電霊】動かすハードはあたしらじゃ時間掛かるし」
「では早速取りかかりまショウ」
方針がざっくりと決まれば、話もそこそこにさっさと担当区分の作業へ入って行く辺り、部内屈指の天才だけあって理解も仕事も早い。
安心院さんが用意するらしい【電霊】については、ガイア連合全体に関わるだけに、後でショタおじに見せて契約関連の確認もして貰うとして、私の方は迎撃用の電脳異界構築に取りかかる。
流石にガイアグループ全体なんて範囲を守るのは、どだい無理な話のため、物としては山梨の第一と第二支部に集まる情報を守るファイアウォールであり、【電霊】を含めた悪魔を対処するためのサンドボックスも兼ねる空間として、外部通信との間に挟み込む形。
最悪の場合、電脳異界ごと滅する事も念頭に、異界構築の基盤となるメインサーバを作成し、基盤をコピーして電脳異界を展開するサーバを複数用意したら、私の担当分は終了となる。
ここの所修行場異界深層に行くことが多かったこともあり、手持ちの素材でほぼ足りたのもあって数日ほどで完成し、安心院さんの方もショタおじからOK出たと言う事で、後は表側のセキュリティともかみ合わせるソフト方面の仕事。
ただまあソフト方面のセキュリティ強化は延々とアップデートしていく物だし、実のところ電脳異界の基盤となるメインサーバが出来た時点で、基礎となるシステム自体も完成しており、使い捨ても込みのサーバを複数用意している頃には、既に召喚プログラムの調査と研究に取りかかっていたと言うのだから、一点突破した才能というのは恐ろしい。
そんな訳で私の出る幕など無く、悪魔召喚プログラムが一応使える形になったみたいだけど、今の情勢下で黒札などへ普及させると、メシア教を刺激しかねないと言う事で、カウンターなどの有効に使える場面でも来るかするまで秘匿する事になり、基本的にはCOMP*3やデモニカで使用出来るアプリの開発などをしていく予定との事。
組織としてどうするかと言うところまで決まったのなら、厄ネタを見つけてきた身としての後始末は十分だろうと言うことで、日中の行動を共同開発から個人研究の方へ戻す事に。
それから数日、いつもの様に松明片手にタルタロス内の闇夜の荒野を進み、設置した篝火が感知範囲の端に来たら次の篝火を設置すると言う、攻略なのか作業なのかわからなくなってきた事を繰り返す。
変化と言えば階層が進む毎に大きさを増していたシャドウが、そろそろ二十メートル近い巨大サイズも出現する様になってきたのと、廃墟の荒野となった関係なのか、次の階層への穴はあるのにそこまで昇る階段が無い、と言う地味に面倒な状態となっていた事辺りだろうか。
「よっし、次ぎ階層の下に到着!ついに二百五十階だね~」
「壁が崩れていて真っ直ぐ進めるから早くなるかと思えば、単純に広大なのと階層移動の穴が移動するので、変わらない所か普通に掛かる時間が増えましたからね……」
「琴音ちゃんが言ったように篝火の設置を続けたおかげで、日ごとの移動範囲を狭められてなかったら、もっと掛かっていたかもしれませんね」
「それじゃ階段設置して、次ぎ階層の確認したら今日は終わりかな?」
「ですね。残り時間もそこまで無いですし、設置を急ぎましょうか」
「基部の篝火設置は終わったであります」
「パーツの組み立てを始めるとするか、湯乃葉は次の篝火を準備してくれ」
「わかってるわ、順次設置していくから、こっちは気にせず組み立てて頂戴な」
ちなみに、この次ぎ階層への穴がある高さは、階層に施されている霊感の制限範囲よりも高い位置にあるため、松明による導きが無ければ見つける事も出来なかった気がする話で、派手さは無くても対策が無ければどうしようも無いギミックが登場する辺り、ようやく最奥付近と言ったところか。
階段が無くなった事が判明した後、穴の場所まで繋げるために用意した篝火付き螺旋階段*4を設置し、二百五十階に繋がる穴を囲む様に篝火を灯して、階層の穴が移動しないようにしたところで一息入れる。
この次の階層に続く穴を篝火で囲む作業については、最初二百四十階で階段を設置して進んだ後、次の日に二百四十一階へ転移出来なかった事から行っている物で、どうやら篝火を経由することで転移の経路が構築されているらしく、毎日の内部構造変化で穴の位置が変更されてしまうと、篝火の範囲外に移動するため、転移不可になる事が判明した結果の話。
「次は二百五十階で節目になりますし、ちょっと用心して私の木分身を先行させますかね」
「便利だよね~分身系、木分身はちょっと無理そうだけど【影分身の術】は何とかなったし、おかげで遊びに行く時間もだいぶ増えたし」
「私は相性が悪いのか、【分身式神】を一体作るぐらいが限界で、分身を複数作ったり【影分身の術】などは、どうにも出来る感じがしないですね。その分なのか、瑞樹さんに指導して貰って【神足通】は可能になりましたけど」
「綴が神通力の一端に届いたのは、魂魄の鍛練が上手く作用した結果でしょうけどね。それより次の階層はだいぶ厄介ですよ」
「移動して直ぐわかるレベルでって事か、私達が移動しても大丈夫な感じ?」
「【甲縛式O.S.】で概念的に守った状態で短時間ならってところでしょうね。どの道影時間が終わるまで間もないですし、実際に体感した方が早いでしょう。何せ空気も地面も存在しない空間ですし」
「空気も地面も、ですか……」
先行させた木分身を通して感じ取れた二百五十階の様子は、【ニュクス】を象徴しているのだろう月が彼方に浮かぶ、宇宙空間のような場所で、階層を繋ぐ穴から出る直前までは普通に感じていた重力も消失する始末。
更には穴から数メートル離れただけで、穴を知覚出来なくなるほど霊感の制限が強くなっている上に、月の存在は認識出来るにもかかわらず、月明かりは存在しないようで、肉眼では自身の手ですら視認不可能な空間となっていた。
「『あ、こりゃ駄目だね。準備も条件も足りてない感じがする』」
「『木分身を使い穴から離れたところで、ちょっと強引に探索術式を通してみましたが、普通に三十メートル級のシャドウが引っかかりましたね』」
「『念話の仕方を習ってなければ会話すらまともに出来ない所ですね。琴音ちゃんが言うように、しばらくは準備や条件探しに当てる感じでしょうか?』」
「『準備の方は瑞樹が必要になりそうだからって言って、作ってたアレが丁度良いんじゃない?条件の方は手探りだけど』」
「『最近の階層でもシャドウが大型化と言うか、巨大化していたので使える場面が来そうに思ってましたけど、宇宙空間での使用が考慮に入るとは思いませんでしたね。とりあえず呼吸関連も追加して、実際に宇宙まで行って実験してくるところからですね』」
「『それなら残り時間で少しでも調べて、今日の探索は終わりですね』」
とりあえず手持ちで可能な調査を残り時間いっぱいまで行い、本日のタルタロス攻略は終了。
宇宙のように真空の空間との認識が強いからか、当然の様に今まで使っていた松明や篝火は使えなくなっており、知覚可能範囲の狭さもあってシャドウからの奇襲を防ぐどころか、戦闘自体も一苦労と言う有様で、本格的な攻略再開には、かなりの時間が掛かりそうな気配がしている。
その代わり、ほぼ確実に【ニュクス】の直近まで到達したとも言える訳で、終末案件になりかねないシャドウ異界の一つを、攻略する目処が立ったとも言えるのは朗報だろう。
影時間が終わって二百五十階の事を含めた報告書も書き終わり、一眠りした後は休日と言うことで朝からゆったりと家族団らんの時間。
まだ一歳とは言え覚醒しているだけあってやんちゃな瑞琴に構い倒しながら、話し合うのはタルタロス攻略に関して、これからどうしていくかと言う内容。
「宇宙空間みたいな場所でシャドウも巨体サイズばかりだし、瑞樹の作ってる超機人を一人一体分用意するために、素材集めが基本かな?」
「素材の方は合金樹で大部分賄えますし、解放作戦中に集まった分もありますから、どんな機体にしたいかの要望確認と、仮組みした設計データをリアルACに送ってのシミュレートや操作練習ですね」
「要望……ですか?」
「私が自分用に作ってるのは術の増幅をメインとして、【甲縛式O.S.】の楽器構築も加えた攻撃や支援、接近された場合の格闘戦も可能な機体として設計してますし、運用方針や操縦者の適正でも、人機合一方式とモビルトレースシステムのどちらが良いか変わりますからね」
「生命維持と戦力増幅を兼ねるって訳だね。確かに悩ましい話だし、ある程度動かしてみないとわからない事もあるか。じゃあしばらくはそっちをメインにして、タルタロスは間引き程度かな~」
「終末がいつ来ることになるかわかりませんけど、超機人の設計や建造に操縦訓練を考えると、半年はかかりそうですね……」
「ガイア連合の誇る占い師達に聞いてみた感じでは、来年に終末が到来する未来は見えてないらしいので、時間的な余裕はまだあると思いますよ?まあ半年後辺りにちょっと大きめの問題が見えたらしいので警戒は必要ですが」
「ふ~ん、なるほど時間はあるんだ……」
「琴音ちゃん?」
「ちなみに、私自身でも占って大丈夫だろうとは見てましたけど、より確度の高い占いもして貰ったのは、第二子を妊娠する余裕が有るかの判断材料にするためですね」
「瑞樹さん?!」
「いやほら瑞琴が生まれた時、綴さんも羨ましそうにしてたし、時間的な余裕があればって言ってたしね?来年三月で大学も卒業だし、今からならタイミング的にギリギリ何とかなるかなって」
「あれ、私が綴の子を妊娠すると言う話では?」
「私も綴さんとの間の子が欲しいな~って、タルタロスの攻略はしばらく準備期間になるし、私と瑞樹の木分身がいれば間引きだけなら何とかなるでしょ?」
「あの、もしかして瑞樹さんが妊娠中に話してた家族計画ですか?あれは終末を乗り越えた後の話だったのでは?」
「元々期間的な余裕が出来ればとの話でしたし、今なら【木遁・木分身の術】を開発したおかげで、分身でもペルソナ能力が使える上に影時間も入れますからね。琴音や綴は学生としての日常があるので、終末を乗り越えてからのつもりでしたけど……」
「ほらさ、私と瑞樹の間には瑞琴がいるでしょ?で、今回綴さんと瑞樹の間にってなると、私も綴さんとの間に繋がりが欲しくなってさ、今なら時期的に目立たずに済むかなとも思ってね。まあ私の思い付きだし、綴さんの気持ちもあるから聞くだけでもとね。どうかな?」
「…………はぁ、驚きはしましたけど嫌では無いですよ。瑞樹さんが瑞琴ちゃんを出産した時から、いずれ私も、とは思っていましたし」
「やった~!」
そんな感じで当面の方針も決まり、諸々の準備に長く時間が掛かるだろうとの予想もあって、かねてから機会を窺っていた、第二子出産に向けた準備も同時に進めようかと思っていたら、綴の第一子出産も並行することになったりと予想外もあったけど、私個人としてのやることは対して変わらない。
まずは私用の超機人完成と合わせて、宇宙空間での稼働実験からかな……。