【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
カズフサニキとの意見擦り合わせからしばらく、実際に作成しながらも思い付いた内容の検討や意見交換をしつつ、天空の農園を作る作業が行われていた。
農園となる土台については、雲型式神に入れた【浮足玉の脚】スキルによる浮遊効果と、フロートパネル*1による電力消費での高度調整機能を組み合わせる事で、電力や霊力の消費を抑えながらの土台構築に成功。
初期案の想定より式神の霊力負担を抑えられる事が分かった事から、栽培する植物に合わせて、環境を変えた土台も幾つか作ろうと言う話になり、元々は一体の雲型式神で農園を構築する予定だったところを、同型の式神を複数連結させ、群体としての性質を持たせる事に。
最終的に、下は高度二千メートル付近、上は高度二万メートル付近と距離の離れた雲上農園となり、式神を基盤としてカズフサニキが仙境を構築する事で、【クラウドゴン】と名付けられる事になった〝浮遊型拠点防衛大型式神〟が完成した、
「いやー、長かった様で、あっという間だったような、楽しい時間でしたね」
「こちらとしても実に有意義な時間だったとも、品種改良や作物関連の技術は我々に無かった物だしね」
「スーパーで見かけるような一般的な野菜は一通り揃ったし、最上部でトリコ食材も栽培可能になったから、今日の結果次第だけど、一部は購買部を通して売りに出しても良いかもね」
「俺は仙境として構築するのに、かなり苦労したんだが……?」
「何、それも経験という物だろうさ、実際カズフサニキのレベルも上がったんだろう?」
「カズフサニキの霊格をタオ系統で表すと、だいたい道士から仙人へ至る途上ってところですし、仙境と定義した異界の作成が、修行となって霊格を上げたんでしょうね」
「ま、苦労話は兎も角、防衛機能については想定通りの動作が確認出来たし、後は収穫して作物に問題が無ければ、計画完了ってとこだね」
終末後にはシェルター上空に常駐させる予定の最下層を見て回り、防衛設備などの稼働状況が問題無い事を確認したところで、割り符による転移で一つ上の階層へと移動する。
ここからは農園として、作物ごとの適した環境を用意した栽培区画になり、下の階層ほど一般流通している作物の品種改良品が多く、上に行くほど霊草や魔界植物にトリコ食材系と、周辺のマグネタイト濃度も増やして異界の性質が強くなっていく。
ちなみに、場所が雲の上という点を除けば、やっている事は水耕栽培と似たようなもので、作物の成長に必要な各種栄養素を、マグネタイトから生成して雲の中に循環させており、植物は雲の中に根を張って水分や栄養を吸収すると言う形。
最も、人が乗って歩く事も可能と言う〝大地の概念〟が付与された雲のため、根菜類も畑で栽培するのと同じ様に栽培可能な点は、水耕栽培との大きな違いだろう。
「ふむ、見た感じは十分熟している感じだが……」
「一つ食べてみましたけど、大ぶりでも実が確りと詰まっていて、良い味です。十分に成功していると言えますね」
「ミネラルミミズ*2を入れた区画と、入れてない区画での生育比較データも確認したが、生育速度や各栄養素の保有量が五割近く違うのは凄いな」
「それに関してはまあ、予想通りだね。驚くほどの影響なのはその通りだけど」
「植物の生育に適した水へ浄化する能力と、適した土壌を作る能力が上手く働いたみたいですね。特に【クラウドゴン】は大地の概念を付与したとは言っても、水分の塊である雲ですし、相乗効果も大きい様です」
「ほう、それは良い結果だな。霊的な影響の少ない一般作物でこれだけの影響なら、上の方はもっと期待出来そうだ」
一般的な作物を育てている区画を抜け、次は霊草やハーブなどの霊薬とかを作る際にも使用する作物の区画。
こっちもミネラルミミズを入れている区画と入れていない区画のデータを比較したところ、最低でも倍、物によっては三倍以上効能に差が出るぐらい大きな影響が出ていた。
とは言え、そもそもとして雲上農園と言う立地の影響も少なからず出ているようで、ミネラルミミズを入れていない区画の作物であっても、地上の簡易異界で栽培する物よりは出来が良かったりする。
流石に専用の環境を整えた異界に比べれば、ミネラルミミズ入りの区画でも一段か二段下がるけど、ある程度で揃えた環境に複数種類を栽培して、厳選して栽培した物に一歩か二歩劣る程度になるなら、十分過ぎる話。
ミネラルミミズの成果を確認して、果樹を植えた区画も確り根付いて結実まで行けた事を確認した後、余録というかネタと実験を詰め込んで、カズフサニキの技量の限界に挑戦した最上層こと、ベジタブルスカイ再現階層へ移動する事に。
「おぉ!正に漫画の世界だな!作物の生育が進んだおかげでかなりマシになったが、やはりまだ結界無しだと長時間滞在出来る環境では無いか」
「最初は割り符で展開する結界と合わせて、何とか活動可能なレベルにするのが限界だったからな。正直な話、高度二万メートルとか、普通ならオゾンや紫外線とか色々あって、人体に危険な物のオンパレードだしなぁ……」
「だからそんな環境でも問題無い、トリコ食材とかの幻想系植物しか栽培してないんだけどね。元ネタ通り作物の数と質が向上するにつれて、気圧などの問題も改善して行ってるし、カズフサニキの技量が上がれば、割り符の結界無しでも活動可能な環境に出来るんだし、そこは追々頑張って貰うって事で。それより、現状まだ危険なはずの環境で、探求ネキが結界も無しに平然としてるのか、謎なんだけど?」
「ああそれは、権能による生存環境の定義を行ってるからですね。私の場合は【神足通】の権能に寄るものですから、実のところ、カズフサニキなら私と同様に結界無しでも活動可能になれますよ?」
「えっ?!」
「ふむ?カズフサニキの普段の様子からは、そのような感じはしないのだが、【浮足玉の脚】と転移系スキルをまとめた行動制限解除系のスキルと言う訳では無いのかな?」
「ああ、名称的に移動や行動関係なイメージは確かにありますよね。私も以前はそんな認識でしたし、登仙術技書*3でも【天耳通】とかを習得していく過程でわかる事なので、取っ掛かりとして移動関連の記述しかしてないですからね」
「つまり〝神足〟と有るけど、文字通りの移動に関する足ってだけじゃ無いのか」
「神通力と言った場合、聞き取る力の【天耳通】、読み取る力の【他心通】、過去を知る力の【宿命通】、未来を知る力の【天眼通】の四つに、【神足通】を合わせて〝超人的な能力〟としていますが、実のところ、先の四つに含まれない超人的な能力をひっくるめて【神足通】と呼んでいるんですよね」
『はぁ??』
三人が困惑した様な表情をしているが、〝沙門果経〟と言う仏僧が修行の果てに得られるものについて、釈迦が説いている経典にも同様の記述が有り、【神足通】に関する記述の部分では、〝一から多に、多から一となれる〟〝姿を現したり、隠したりできる〟〝塀や、城壁や、山を通り抜けられる〟〝鳥のように空を飛び歩ける〟〝月や太陽をさわったりなでたりできる〟〝梵天の世界にも到達できる〟と言った様々な
つまり、分身したり透明になったり、物質を透過したり空を飛んで空中を歩いたり、果ては宇宙空間で月に降り立つ事も太陽に触れる事も、更には上位世界へ移動する事も可能な力が【神足通】と言う事になる訳で、神通力をイメージする際の、所謂〝何でも出来る力〟に相当する概念が含まれるのも【神足通】だったりする。
ちなみに、沙門果経では解脱に至った事を知る【
「――と、まあそんな訳で、【神足通】の概念について理解が進み権能レベルまで至れば、成層圏どころか宇宙空間でも、行動に支障は出なくなりますね。今の私をゲーム的に表現するなら、必中と貫通の効果を持つ攻撃以外全て無効と言う状態ですし」
「何そのクソゲー」
「ちなみに修行場異界下層以降に行ける面子だと、全員何かしらの方法で、攻撃に貫通概念を付与出来ますし、必中系の攻撃も普通に出来ますから、一対一だと負ける場合の方が多い程度ですが」
「ハハハ、修羅勢の修羅勢たる所以を感じるが、そんな修羅の話は置いておこう。何より今は、最上層の生育状況を確認に来ている訳だからね」
「おっと、そうでした。説明が長くなってしまった上に、脱線したのは申し訳ない」
と言う事で最上層の確認へと意識を戻し、まず向かったのは極端な温度変化をさせている区画。
この区画が作られた理由としては、そもそも高度的に元々の気温からして氷点下を下回っている事も有り、仙境として異界化させても〝高度二万メートルの環境〟と言う概念の影響は大きい訳で、カズフサニキにその環境を術式でどうにか出来る程の技量がまだ無かったのが事の発端。
カズフサニキの仙境と言う事で、構築の主導はカズフサニキが行わなければいけないと言う事も有り、それならどうするかとKSJの三人が意見を出し合った結果、概念的な影響を集約させた被害担当区画を作り、それ以外の区画に及ぼす影響を軽減する、所謂ダメージコントロール的な発想により作成されたのが、極限環境区画と言う話。
仙境の構築に助力するのは憚られる話だったけど、構築出来た後の活用についてなら話は別と言う事で、極寒の環境を利用した作物で丁度よさそうな物として、〝漆黒米*4〟を植えてみたけど、どうやら成功している様子。
まあ、ベジタブルスカイの再現と考えると、ベジタブルスカイとは関係ない作物を植えるのはどうか、とも思う話ではあるけど、原作も結構雑多に生えてた上、別段生育する植物について明言もしてなかった気がするから、場所の有効活用と言う事で、気にしない事にしたんだけども。
「甘味の強さは好みが分かれそうですが、何ならお菓子の材料にするでも良いですし、主食の自給的にも保険に出来そうですね」
「懸念を挙げるとするなら色じゃない?俺らは元ネタも知ってるし、興味本位でも一度口にするぐらいはするだろうから、話題に出せば普通に売れもするだろうけど」
「いやいや大丈夫だろ、古代米の一種に黒米って色の黒い米も普通にあるしな」
「古代米って言っても、一般的な栽培品種以外の、昔から存在する米をひっくるめての名称ですけどね」
「ふむ、しかしメガテンで霊力のある米と言うと、施餓鬼米を思い出すね。今だとヒノエ米……いや、確か新潟の田舎ニキ辺りが米処として力を入れてたか?*5」
「田舎ニキが【キクリヒメ】と契約結んだとかで、稲作への梃入れもしてたはずですね。そう言えば、勝手に契約結んだからって事で、異界【黄泉比良坂】の監視員にされてましたが、序でに終末後の環境想定で稲作もしてるみたいですよ」
「異界【黄泉比良坂】で?」
「ええ、〝黄泉戸喫〟の可能性は直ぐに指摘されて、捨てるのも勿体ないって事で、呪殺効果の〝ノロイ米*6〟に出来ないか研究しているらしいですね。物が物だけに誤飲しないよう忌避剤で黒く塗ってるとか」
「それって、漆黒米とノロイ米が混同されると面倒な事になったりしないか?将来的な供給量と、何処まで販路が拡大するかにもよるだろうが……」
「どんな物であれ、詐欺を働く奴はいるものだし、気にしすぎても仕方ないとは思うのだがね。とは言え、気付いた問題に対処しないのは、技術者の名が廃ると言う物だろう」
「オーケー、その意見には俺も賛成するとも。で、具体的にはどうやって防ぐか、だな」
まあ色の黒い米で言うなら、先にカズフサニキが言ったように黒米が普通に流通しているし、忌避剤を塗った米と混同するのは、態と因縁を付けようとする連中か、或いは口車に乗せられた人達ぐらいだろうけど、いちいち対処しないといけない状況は面倒だし、何より漆黒米を出した事で田舎ニキの方に面倒が向くのは、流石に憚られる話。
そんな訳で、物を態と誤認させて問題にしようとする連中の行動を、どう先回りして潰すかと言う事なのだけど。
「そもそも、元から黒い漆黒米と、塗料で黒く塗ったノロイ米って、見間違う可能性が有る程似てたりするのか?」
「そこは塗料の種類じゃないかね?実物が無いから正確なところは不明だが、つや出しの物だと、似てる可能性が無いとは言い切れないだろう」
「あ、ノロイ米の試作品は持ってますよ。農業部や技術部の方に、解析と助言の依頼で回ってきてましたから」
「探求ネキって、ホント色んなとこに手を出してるよね。話が早くて助かるけどさ」
「まあ一部で、ジェネリックショタおじ枠と呼ばれてるだけあるって事だな。それで、漆黒米とノロイ米を見比べて見る訳だが、霊力を感じられるなら一目瞭然な気がするんだが?」
「ジェネリックショタおじと言える程、ショタおじに近付けてる気がしないんですけどねぇ。まあどう呼ばれているかは置いとくとして、性質の方向が全然違いますから、混同させようとしても直ぐにわかると思いますが、未覚醒だと判断材料が見た目だけですし、誤認する可能性を排除は出来ない感じですね」
「検査機器やパッケージも考えはするが、詐欺しようとする連中が手間暇掛けるかどうかは置いといて、移し替えたりで誤魔化せる方法だと心許ないな。やはり漆黒米自体に、何かしら区別可能な特徴を持たせるべきだろう」
「見た目……は漆黒米として変えようが無いとなると、分かり易いのは匂いかな?」
「香りの付いた米?それって売れるのか?」
「そう言えば〝香り米〟と言う品種がありますね。明治以前の日本では普通に栽培されてましたけど、収穫量が少ないって事で明治中期頃から淘汰されていきましたが、元々は神饌米として祭礼用とかに使われてた物で、近年だと宮城や鳥取、高知などで古代米として価値が見直され、栽培量が増えてるみたいですよ」
「ああ確か、インドなどでは高級米として流通しているんだったか。ふむ、漆黒米自体に特有の香りを持たせる、と言うのは有りだろう。それはそれとして、MAGバッテリー経由で起動出来る検査アプリと、未開封かわかるパッケージの開発もしておくべきだろうが」
「では、今回栽培した分は全部回収して、香り米としての性質も付与した漆黒米が新しく出来たら、本格的に栽培していくと言う事で、分身出して収穫しときますね」
「おかしいな、ざっと見回して終わりの予定だったはずなのに……」
「何、思い付きと発見で脱線するのはいつも通りだろう。今回はまだ必要な対処が見つかったと言うだけな分、マシさ」
ふと我に返った様なカズフサニキの呟きを風に流し、ベジタブルスカイ再現区画の確認は、まだまだ続く――。
体の99%が水分で構成され、食事をとらずに水だけ飲んで生活しており、ミネラルミミズの飲んだ水はどんなに汚れていても体内で浄化することが可能。
本種の生息する畑は良質な水分が豊富となるため土壌を再生させるありがたい存在であり、「小さな畑の主」という別名を持つ。
極寒地域のマグネタイトを吸収し、栄養に変換して溜め込む性質が有るため、周囲のマグネタイト濃度が高い程成長が早く、氷結属性が強いほど栄養豊富に育つうるち米の品種。
生でもよし、焼いてもよし、煮てもよしの超絶品の食材で、普通の米よりも糖度が高く、焼くとパラパラ、炊くとモチモチする。